第24話生徒会長

 エルカちゃん襲撃事件の後、私達とエルカちゃんは急速に仲良くなった。

 私達と一緒にいる時に嫌がらせをしてくるような者はいないだろうし、これでも私は公爵令嬢だ。

 私と仲良くしていれば、反エルカちゃん勢力への牽制になるだろう。


 そんな考えもあり、今日も放課後に学院のサロンに集まって、エルカちゃんの手作りお菓子をお茶請けに楽しい時間を過ごしていた。


「今日は昨日焼いたお菓子を持ってきました。もう少し寝かせても美味しいんですが、今食べても美味しいですよ」

「これは……シュトーレンね。香ばしいナッツの香りが食欲をそそるわ」


 シュトーレンとはドイツのパン菓子。

 クリスマスに食べられる定番のお菓子で、生地にはドライフルーツやナッツが練りこまれ、表面に砂糖がまぶされたお菓子だ。

 日本ではシュトーレンと発音するけど、正しくはシュトレンて呼ぶのが正解みたい。


 確か日持ちするお菓子で、寝かせるとドライフルーツが熟成してパンに風味が移ってより美味しくなるんだとか。

 私は食べたことないけど、ナッツが大好きだから凄く美味しそうだよ。

 シュトーレンは結構お高いはずなんだけど、エルカちゃん奮発したなぁ。


 では遠慮なく、パクッと一口、もぐもぐもぐ……こ、これは!? うーまーいーぞー!!

 ドライフルーツの爽やかさとナッツの香ばしさが一体となってお互いの味を高め合ってるよ!


「美味しい、美味しいよエルカちゃん!」

「本当に美味しいですわ」

「こんなに美味しいお菓子を作れるなんて、エルカさんは料理上手ですのね」

「えへへっ、ありがとう。そんなに褒められるとなんだか照れるなぁ」


 私達の賞賛の声にはにかむエルカちゃん。

 こういう仕草に庇護欲をそそられるんだよね。

 まさに守ってあげたくなるタイプだ。

 みんなで楽しく談笑していると、突然サロンの入り口が騒がしくなった。

 何かあったのかな?


「あれは生徒会長ですね」

「確か今年の生徒会長はヴィクトリア・モンブラン侯爵令嬢でしたね。何度かお会いしたことがありますわ」


 サラとディアナの言うように、やってきたのはヴィクトリア生徒会長だった。

 ヴィクトリアは二つ歳上の三年生。

 歳も家の格も近いヴィクトリアとは、私も幼い頃から交流があった。

 貴族特有の選民意識もなく、いい意味で貴族らしくない人格者で、とても人気がある。


 その分ゲームではキリカと敵対してたんだけど、私は仲良くさせてもらっている。

 サロンにやってきたヴィクトリアは、私達を見つけるとこちらにやってきた。


「ごきげんよう。キリカさん、少しいいかしら? お話ししたいことがあるの」

「ごきげんようヴィクトリア様。はい、大丈夫ですよ。皆さん、少し外しますね」

「それでは皆さん、少しキリカさんを借りるわね」


 話があるというヴィクトリアに連れられて、私がサロンを後にすると「キャーッ!」と、黄色い歓声が上がる。


「ヴィクトリア様がキリカ様を連れていかれましたわ!」

「お二人とも素敵……絵になりますわね〜!」

「お二人でどんなお話があるのかしら?」

「まさかキリカ様……歳上のお姉様との秘密の関係!? キャーッ! キマシタワー!」


 みんな私とヴィクトリアに興味津々みたいだけど、そんなに期待しないでよ。

 私達は普通に幼馴染で仲がいいだけなんだから。

 ってか、マリー達まで一緒になって騒いでるじゃん!?

 キマシタワーとか言ってるのはシオリか? まったく、変な勘違いしないでよね。


「ふふふっ、さすがキリカさん。人気者なのね」

「人気者はヴィクトリア様だと思いますよ」

「またまたぁ、キリカさんったら。私一人の時はこんなに歓声は上がらないわよ」


 そんなことないと思うけどなぁ。

 だってヴィクトリアってば、憧れのお姉様を体現したかのようなタイプだもの。

 少し青を帯びた艶のある長い黒髪は素敵だし、顔も性格もいいときたらモテないわけがない。

 もちろん私の周りにもファンは大勢いる。

 私自身ヴィクトリアの人気や家柄を笠に着ない性格には好感を持ってるしね。

 そんなヴィクトリアが私を連れ出して何の話があるのかと考えている間に目的地に到着した。


「ここは……生徒会室ですか?」

「そうよ。私の庭というか、オモチャ箱みたいな場所よ。さあ遠慮せずに入って入って」


 ヴィクトリアに促されて中に入ると、オモチャ箱と表現した割には質素な室内だった。

 でも、意外と質素な室内には少し不釣り合いな人達が揃ってるわね。

 中にいたのは第一王子ラファエルと宰相の子息アルベルトだった。


「これはラファエル様、アルベルト様ごきげんよう。お二人も呼ばれていたのですね」

「キリカもヴィクトリアによばれたか」

「これでガイアス以外の一年生の中心人物が揃ったようだね」

「ガイアスさんには振られちゃったわ。まったく、付き合いが悪いんだから」


 ヴィクトリアはぷくーと頬を膨らませて不満気な表情を見せるが、別に怒っている訳ではなさそうだ。


 ガイアスは付き合いが悪いというか、面倒事を嫌うタイプだからなぁ。

 興味がないことには関わってこなそうだ。

 一年生の大物を揃えてなんの用だ?


「それでヴィクトリア様、私たちはなぜここに呼ばれたのでしょうか?」

「そうね、本題に入りましょうか。今日三人にきてもらったのは生徒会に入ってほしかったからなのよ。やっぱり貴族って家柄だったりを気にして、身分の低い者の言うことなんて聞かないじゃない?だから毎年生徒会には高位の貴族の人に入ってもらっているの。どうかしら? やってみない?」


 ヴィクトリアの話とは、生徒会への勧誘だった。

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