第25話スカウト

 ヴィクトリアの話は生徒会への勧誘だった。

 ゲームのキリカは生徒会には所属してなかったんだけど、あの性格じゃあ生徒会が悪の組織になっちゃうから誘われなかったのかな?


 最近常々思うけど、私の知ってるプリデスの世界とは登場人物が同じでも展開が変わってきている。

 どのルートでも起こるような大きなイベントは発生するけど、ゲームと同じ結果にはなっていない。


 まぁ、私とエルカちゃんが友達になってるくらいだから、ゲームと同じ展開にはならないよね。

 そもそもゲームと現実じゃみんなの性格が全然違うんだから当然か。

 これから先は私にも何が起こるかわからない。

 不安もあるけど楽しみの方が勝っている。

 だって先がわかる人生なんてつまらないじゃない。

 せっかくオタクの夢、異世界転生できたんだから楽しまなきゃでしょ。


「それでどうかな? 生徒会に入ってくれる? もちろんすぐに答えられないなら、持ち帰って検討してくれてもいいのよ」


 考え事をしていると、ヴィクトリアは早く答えを聞きたいのかグイグイ押してくる。

 イケイケのヴィクトリアに若干引き気味なっていると、まずいと思ったのか検討してもいいと引いてきた。

 押してダメなら引いてみろってか?

 さて、私はどうしようかな。


「皆の上に立つのは王族の務めか……わかった。生徒会に入ろう。アルベルト、お前はどうする?」

「ラファエルがやるなら僕もやるよ。サポート役は必要だろう?」

「ありがたい。お前がついてきてくれるなら百人力だ」

「なんだいラファエル、僕の力はたった百人分だって言うのかい?」

「はっはっはっ、そうだな。お前の力は千人にも万人にも勝るとも」


 何だこいつら? いきなりどうした?

 急に芝居じみた会話を始めたぞ。

 私が呆れた様子で二人を見ていると、


「お互いを信頼し合うイケメン男子達……いいわぁ。やがて二人に苦難が訪れようとも互いに手を取り合い乗り越えてゆくのね。あぁ……なんて素敵な友情なのかしら……。やがて友情だと思っていた感情を愛だと気づく時が……!?」


 ヴィクトリアがラファエルとアルベルトを見つめながらぶつぶつと呟き始めた。

 トロンとした目で実に嬉しそうに眺めている。

 ええっ!? ヴィクトリアってそっちの人だったの!?

 二人を見る目がちょっと怖いんですけど!


「あっ!? 違うわよキリカさん。私は美しい薔薇の蕾を愛でるのが好きなだけであって、決して混ざりたいとは思ってないから」


 私がジト目で見ているのに気づいたヴィクトリアは意味不明な言い訳を始めた。

 言いたいことはわかるよ。

 百合の間に入ろうとする男が万死に値するのと同じだよね?


 ヴィクトリアは自分の美学を持ってBLの道を進んでいるようだ。

 であれば外野が口を出すのは野暮という物だろう。

 大丈夫だよヴィクトリア、私はそういうことに理解ある方だから。


「そういうことだヴィクトリア、俺とアルベルトは生徒会に入るぞ。これからよろしく頼む」

「本当!? ありがとう! 王族が生徒会メンバーになってくれたら心強いわ」


 二人は生徒会に入るのか。

 う〜ん、私はどうしようかな。

 攻略対象のラファエルとアルベルトとは今のところ悪い関係じゃないけど、今後もそうとは限らない。


 でも、魔法学院の生徒会には憧れてたんだよなぁ。

 ゲームではエルカちゃんが生徒会にスカウトされて、色々な問題が起こるんだけど仲間と一緒に乗り越えていくんだよね。

 ん、まてよ。その主人公であるエルカちゃんがいないじゃん。

 代わりが私ってことなの?


「ヴィクトリア様、少し聞きたいことがあるのですが、生徒会にスカウトしているのは私達だけなのですか?」

「うん、今のところそうだよ。ガイアスには振られちゃったけど、今年の一年生では貴方達が一番の大物だもの。もしかして他に誰かいい子がいるの?」


 やっぱりエルカちゃんは誘われてなかったか、じゃあ私が推薦しちゃおっと。

 ゲームではエルカちゃんは生徒会メンバーだったし、一緒に活動したら楽しそうだ。


「私の友人でもあるのですが、エルカさんなどはどうでしょう? 人格的にも申し分ない方ですわ」

「ああ、あの聖女候補の子か……うん、面白い。彼女が生徒会に入れば、生徒達の平民に対しての意識も変わるかもしれない。今度話してみるわ」


 どうやらエルカちゃんはヴィクトリアのお眼鏡にかなったみたい。

 やっぱりヴィクトリアは貴族の選民意識を良くないと思ってるみたいだ。

 エルカちゃん入ってくれたらいいな。

 一緒に活動したいよ。


「キリカ、お前いつの間にエルカと仲良くなったんだ? エルカと話してるところなんて見たことないぞ」


 ラファエルが訝しげに突っ込んできた。

 ふんっ、ゲームでは運命の相手である貴方達がぼさっとしてるから、私がエルカちゃんの危機を救ったのよ。

 どうしよっかなー、教えてやろっかなー。


「先日エルカちゃんがクラスの方達に嫌がらせされていた所を助けて仲良くなりましたの」

「エルカちゃんて、もうそんなに仲良くなったのかよ」

「そうです。私達とても仲良しですの。知っていますかラファエル様? エルカちゃんはお菓子作りがとても得意で、お礼にと美味しいお菓子を持ってきてくれたのですよ」

「ふ〜ん、あいつお菓子作りが得意だったのか」


 何そのうっすい反応!?

 仲良し自慢した私がバカみたいじゃないさ!

 ってことは、まだラファエルはエルカちゃんに惚れてないってことか?

 アルベルトもあまり興味を持ってなさそうだし、やっぱりかなりゲームのシナリオから外れてきてるなぁ。

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