第23話エルカ

 私の名前はエルカ、平民だから姓はない。

 それが当たり前だと思っていたんだけど、十歳の時に受けた適正検査で聖属性の魔力があることがわかって世界が変わった。

 あの時は驚いたなぁ、水晶玉に触れたらお父さんの頭みたいにピカーって光出したんだもの。

 そしたら周りの大人達は大騒ぎ、私が未来の聖女様なんだってさ。


 歴代の聖女様は聖属性を持つ者がなるらしくて、現在は不在。

 先代聖女様がいたのは三十年も昔のことだからこんなに大騒ぎして喜んでるんだろうな。

 なんでみんなが嬉しそうにしてるかっていうと、聖属性の魔力を持つ聖女様は癒しの力を使えるから。


 聖属性以外の回復魔法は自然治癒力を少し高めるくらいなんだけど、聖女なら腕や足が欠損しても治せるらしいの。

 でも、治療費が高いからお金持ちしか依頼できないんだ。

 私としては困っている人達を治してあげたいけど、聖女は教会所属になるのでかってなことは許されない。

 一人治したら「なんであの人は治してくれたのに私はダメなの?」って文句を言う人が出てくるらしくて、教会はお金さえ払えば平等に治療することにしたみたい。

 治療費で教会は儲かり、税金で国も豊かになるからそれはそれで間違ってないんだと思う。


 聖女はそんな重要人物だから、ただの町娘だった私は十五歳まで教会で教育を受けて、その後魔法学院に入学することになった。

 そして学院卒業後は聖女として教会に仕えることになる。

 これは国からの命令で断ることはできない。


 でもいやいや行った訳じゃないよ。

 教会から貰ったお金で貧乏だった家は助かるし、無料で教育も受けられるんだもの。

 家族と別れるのは辛いけど年に一度は家に帰れるし、私が頑張って聖女になれれば家にいっぱい仕送りができて、家族が不自由なく暮らしていける。

 あまり外出はできないけど、教会からもらったお金で始めたお菓子作りは楽しいし、自由は少ないけどこんなに高待遇なんだから、文句を言ったらバチが当たるわ。




 月日は流れ、十五歳になった私は魔法学院に入学した。

 卒業後立派な聖女になる為に、この学院で三年間魔法を学ぶことになる。

 下町と教会の世界しか知らなかった私は、学院での生活にカルチャーショックを受けた。

 学院に通う生徒の殆どが貴族の子供だから、私みたいな平民とは常識から違うの。


 授業に関しては教会で勉強を頑張ったおかげで問題なかったけど、貴族のマナーを知らない私は勉強以外では失敗ばかり。

 初めは優しく教えてくれた子もいたんだけど、平民の私を面白がって第一王子のラファエル様に話しかけられるようになってから変わってしまった。

 クラスの女子から嫌われちゃったみたい。


 やれ平民の分際でラファエル様に馴れ馴れしいだの、未来の聖女だからって生意気だの言われるけど、卒業後教会に入る私には三年間の我慢だ。

 卒業したら会う機会もなくなる。


 でもこの人達、もしかしたら将来自分や大事な人が怪我をした時、私の所に大金積んで治してくださいってくるかもしれないのに、私にこんな仕打ちをして恨みを買うなんてバカだなぁ。

 治療を拒否されたらとか考えないのかな?

 そんなことを考えていたら多少は気が晴れた。




 新入生交流オリエンテーリングが終わった辺りから、私に対するいじめはさらに強くなっていった。

 今までは悪口を言われたり、後ろから物を投げられたりと間接的なものだったのが、私が一人でいる時に複数のクラスメイトに囲まれたのだ。


 面と向かって話された理由は、オリエンテーリングでラファエル様と私が仲良くしていたからだって。

 なんてバカバカしく幼稚な理由だろうか。

 ラファエル様が好きなら自分からアタックすればいいじゃないか。

 この国の貴族にはこんな人達しかいないのだろうか?


 だけど、私がクラスメイトに断罪されてどうしようもない状況だった時に助けてくれた方がいた。

 キリカ・フローズン様。

 教会から特に失礼のないように、注意するよう言われていた重要人物の中の一人だ。


 重要人物は三人いた。

 王族のラファエル様とガイアス様、そして公爵令嬢のキリカ様だった。

 この国の貴族にうんざりしていた私だけど、キリカ様は他の貴族とは違った。

 何が違うかといえば、一番はその戦闘能力だろう。


 初めは事を大きくするつもりがなさそうだったキリカ様だけど、クラスメイト達に反省の色が見られないと目の色を変えて睨みつけたのだ。

 その睨みは私に向けられたものじゃないのに身体が震え上がるほどだった。

 あっ、何人か失禁しちゃてるよ。

 無理もない、私も漏らしそうだもん。

 怖いんだけど、逆になんだか気持ちよくなってきちゃった。


 私が新しい扉を開きそうになっていると、クラスメイト達はキリカ様に促されて逃げていった。

 キリカ様のさっきまでの怖い顔とは打って変わった優しい微笑みに、私のハートがトゥンクと高鳴る音がしました。

 ああ……この国の貴族にも、こんなに素晴らしい方がいるんだ。

 貴族だからと偏見を持ってはいけないな。




 後日、私が手作りのスフレチーズケーキを持ってお礼にうかがうと、キリカ様は「美味しい……パクパクですわー!」と、とても美味しそうに食べてくれました。


 ケーキでテンションの上がったキリカ様が私をエルカちゃんと読んでくれて、私達はエルカちゃんキリカちゃんと呼び合うようになりました。

 憧れのキリカ様とこんなに仲良くなれるなんて夢みたいだな。

 この国の貴族にもいい人はいた。

 キリカちゃんの友人も凄くいい人達だし、辛かった学院生活も、これからは楽しく過ごせそうな予感がするよ。

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