第22話友情のスフレチーズケーキ
エルカちゃんを取り囲んでいた女子達は、私達に見つかって動揺はしている。
でもこの子達、動揺はしてても軽口叩けるくらいには余裕があるみたいだな。
「キリカ様は何か勘違いをされているようですが、私達はエルカさんに学院の注意事項を教えていただけですわ」
「そうです。私達はエルカさんに教えていただけなのです。平民は知らない貴族のマナーがありますもの」
そうか、しらばっくれるのか。
素直に認めればまだ救いようがあったのに、私を騙そうとするなら容赦はしない。
私が抑えていた気を少し解放して鋭く睨みつけると、エルカちゃんを囲んでいた女子達は「ひぃぃっ!?」と短く悲鳴をあげて腰を抜かした。
ふっ安心しろ、峰睨みだ。
失禁しない程度に手加減してやったぞ。
あれ? なんか地面に水溜りができてる?
うん、彼女の為にも見なかったことにしてあげよう。
人前で失禁したなんて噂が広まったら、私なら舌を噛んで自殺するかもしれないもの。
「私は何も見ていません。立ち去りなさい」
「は……はいー! 失礼いたしましたー!」
立ち去るように促すと、彼女達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
「あの様なもの達を逃してしまってよろしいのですかキリカ様?」
「そうですね。彼女達はあれでも貴族令嬢、下手に断罪して親の恨みを買えば、国を割った内乱に発展するかもしれません。軽くお灸を据える程度がいい落としどころではないかしら」
「さすがキリちゃんです。見事な采配ですわ」
「そこまで考えていたとは、さすがはキリカ様です」
私の考えを述べるとサラとマリーが褒めてくれた。
あまり大事になると後が大変だしね。
さて、エルカちゃんは大丈夫かな?
落ち込んでいたりしないか気になって見てみると、エルカちゃんはぽかーんと口を開けて、感心したような目で私を見つめていた。
エルカちゃん口閉じて! 涎が垂れちゃうよ!
「見るに耐えなかったので口出ししてしまいましたが、大丈夫ですかエルカさん?」
「は……はいっ! どうもありがとうございました。あまりに鮮やかな手並みだったので見惚れてしまいました」
「そう、貴族にはあんな輩も多いですがまともな者もいますので、どうか気を悪くしないでください。私はキリカ・フローズンと申します。また絡まれたり困ったことがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね」
長台詞の後、私は会心の笑顔でニコッと笑う。
美少女のピンチに颯爽と現れズバッと問題を解決、これはかっこよく決まったわ!
エルカちゃんは赤く染まった頬に血を当て、惚けた表情で私を見つめていた。
やりーっ! これは好感度アップやろ!
「……キリちゃんのスケコマシ……」
「キリカ様には女衒の才がありそうですね」
あれ、エルカちゃんの好感度は上がったっぽいけど、マリーとサラからは白い目で見られてるぞ。
げせぬ。
私はただエルカちゃんにいいかっこしたかっただけなんだよ!
これがエルカちゃんとの初コンタクトなんだから、少しくらいかっこつけたっていいじゃんかよー!
でも、これでエルカちゃんのいじめがなくなってくれればいいんだけど……。
この国の貴族の悪い面ばっかり見てきたエルカちゃんに、私は貴族も捨てたもんじゃないなって思ってもらいたいし、学院生活を楽しんでほしいから。
後日の放課後、学院のサロンでみんなとお茶を飲んでいると、エルカちゃんが声をかけてきた。
「キリカ様、先日は本当にありがとうございました。お礼にお菓子を作ってきましたので、皆さんで召し上がってください」
「ありがとう、エルカさんのお菓子は一度食べてみたかったから嬉しいわ」
「あれ、私がお菓子作りが趣味だって知っていたのですか? 学院で話したことないと思ったけどなぁ……」
やばっ、そうだった!
私はエルカちゃんのことをゲームで知ってるけど、みんなは知らないだった!
なんとか言い訳しないと怪しい預言者みたいになっちゃうよ!
「そういった話を風の噂で聞いた気がしますの。ほら、エルカさんは未来の聖女候補として有名ですから」
「私もエルカさんがお菓子作りが得意だと聞いたことがありますわ」
「キリカ様もマリー様も私の知らない情報を知っているとは……やりますね」
「私は同じクラスなのに知らなかったわ」
適当な言い訳をしたのにマリーは聞いたことがあるそうだ。
マリーは意外と情報通だね。
元祖情報通のサラが得意分野で後れを取って悔しそうにしてるけどしょうがないと思うよ。
同じクラスのディアナが知らないくらいだもの。
「せっかくですから早速いただきませんか? ちょうどお茶菓子が欲しいと思っていましたし」
オリエンテーリング後に一緒に行動することが増えたシオリが早く食べようと促す。
意外と食いしん坊なのかな?
でも早く食べるのには同意だ。
エルカちゃんの手作りお菓子、たーのーしーみー!!
エルカちゃんに貰った袋を開けると、黄金色に輝く円形のケーキが現れた。
「これは……スフレチーズケーキですか?」
「はい、お口に会えばいいのですが」
さっそくナイフで切り分けパクリといただきます。
こ、これは……!? う~ま~い~ぞ~~~!!
なにこれっ!? なにこれっ!? しゅわふわー!!
口に入れた瞬間シュワって溶けたよ!
溶けた後に甘くて濃厚なチーズの味が広がってお口が幸せ、まさに幸せの味。
みんなの反応はどうかと見てみると、顔が蕩けてアホみたいな顔になっていた。
こ……これはある意味とんでもなく危険なケーキだわ。
「美味しいわエルカちゃん! 最高よ! パクパクよ!!」
「えへへっ、喜んで貰えてよかったです」
あっ、しまった!? 感情が昂ってエルカちゃんって呼んじゃったよ。
馴れ馴れしかったかな?
「ごめんなさい。ちゃん付けなんて馴れ馴れしかったですね。エルカさんが親しみやすい方なのでつい……」
「いえ、嬉しいです。キリカ様の呼びたいようにお呼びください」
えっ、いいの? じゃあ遠慮なくエルカちゃんって呼んじゃうよ?
「そうですの? では、これからはエルカちゃんって呼ばせていただくわ。私のことも好きに呼んでくれてかまわないわ。エルカちゃんとは仲良くしていきたいから」
「本当ですか? じゃあ、キリカちゃんって呼ばせていただきますね」
えへへへっ、なんだかエルカちゃんと一気に距離が縮まった気がするよ。
周りの視線が痛いけど私は気にしない。
マリー、ディアナ、淑女がそんな怖い顔をしてはいけませんよ。
サラはその痛い女を見るような目をやめなさい。
シオリは……うっとり蕩けた顔してる!?
「美しいものを見せてもらいました……。やはり女の子は女の子同士で恋愛するのが正しい姿ですね。はぁ……尊い……」
なに言ってんだこの子は!?
おーい、シオリさーん、帰ってこーい。
その後しばらく、シオリが自分の世界から帰ってくることはなかった。
あんたそんなキャラだったんかい!
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