第17話王立魔法学院

 ついにゲーム本編が始まる王立魔法学院入学の日がやってきた。

 名前は魔法学院だが、学院では魔法だけではなく勉強や戦闘も教えている。

 プリデスの世界で強さは非常に重要な要素だし、頭が悪ければ良いように利用されるか、騙されて死ぬだけだからだ。

 貴族社会に出て行く前の学舎、それが魔法学院であった。


 ここから先が私の知るゲームの世界、プリンセスデスティニーだ。

 もちろん今までだってプリデスの世界だったけど、やっぱり主人公不在じゃ前夜祭みたいなものだもん。

 エルカちゃんが登場する今日からが本番だ。

 私が気を引き締めて出かける準備をしていると、オーロラがやってきて喚き出した。


「お姉様だけ学院に通うなんてずるいですわ! ずるいずるいずるいですわー!」

「オーロラも魔力を持ってるんだから来年通えるじゃない。一年の辛抱よ。我慢なさい」

「来年じゃお姉様と同級生になれないじゃありませんか、私はお姉様と同じ教室で授業を受けたいのです!」

「貴方そんなに私が好きなの? 私と片時も離れたくないなんて、可愛いとこあるじゃない」

「なっ!? 勘違いしないでくださいまし! 私は別にお姉様が好きだなんて話はしていませんわ!」


 なんだこの典型的なツンデレ娘は?

 ゲームではクールビューティーだったのにどうしてこうなった?

 十四歳になったオーロラは見た目はすらっとしたつり目美人なんだけどなぁ。

 あっ、つり目だからツンデレなのか?

 つり目は代表的なツンデレ記号だしね。


「じゃあ私のことが嫌いなのかしら? 私はオーロラのことが好きですけれど」

「えっえっえっ! お姉様が私を好きだなんて……!? 嫌いだなんて言っていませんわぁ」


 オーロラは頬に手を当てて身体をくねくね不思議な踊りをしだした。

 私のMPが10上がった。

 面白可愛い妹に育ってくれて私は嬉しいよ。


「キリカ様、そろそろ出発のお時間です」

「もうそんな時間? じゃあ私は行くから、いい子にしてるのよオーロラ」

「子供扱いしないでくださいましー!」


 悔しがるオーロラに別れを告げて、私が呼びにきたエミリアと一緒に家を出ると、外でお父様とお母様が出迎えてくれた。


「いよいよ魔法学院に入学だな。しっかりと学んでくるのだぞ」

「キリカさん、学院は社交会の縮図でもあります。将来を見据えて交友関係を広げてきてください。くれぐれも平民などに大きな顔をさせてはいけませんよ」

「そうだぞキリカ。貴族は平民に舐められてはいかんぞ」

「……はい、お父様お母様」


 ああまたか、両親も選民意識が強い人達だからなぁ。

 私は一抹の不安を抱えながら馬車に乗り込み学院に向かった。




 魔法学院に到着すると、私はクラス表が張り出されている掲示板に向かった。

 学院は三学年、クラスは学年ごとにニクラスにわかれていて、年に一回学年が上がるごとにクラス分けがある。

 地球の学校と同じような感じだね。


 一年間同じ教室で過ごすからクラス分けは大事だ。

 公爵令嬢の私がいじめられることはないと思うけど、やっぱり友達と同じクラスで一緒に学びたいもの。

 掲示板に到着すると私と同じ新入生が集まって人だかりができていた。

 魔法学院に制服はないから、色とりどりの服装の生徒達がいた。


 目に魔力を集中させることで視力を強化できる私は、少し離れた所から自分のクラスを確認する。

 私達の学年は二クラスに分かれていた。

 え~と、私の名前はっと……あった! 一組だ。

 やった! マリーとサラも同じクラスだ!

 ディアナは二組かぁ、残念だな。

 げっ、ラファエルとアルベルトが別のクラスなのは良かったんだけど、ガイアスが同じクラスだ。

 死亡フラグのある攻略対象とはあんまり関わりたくないんだけどなぁ。


 エルカちゃんは二組で私とは別のクラスか、大丈夫かな?

 同じクラスなら守ってやれたんだけど、別のクラスまでは目が届かない。

 私がクラス表を眺めているとマリー達がやってきて挨拶を交わす。

 十五歳になった三人は成長し、美幼女から美少女に変化していた。

 マリーなんて昔から大きいとは思ってたけど、おっぱい大きすぎない?

 ディアナとサラはつつましやかだね。

 えっ、私はどうだって?

 レディにそんなこと聞くな! 普通よりちょっと大きいくらいだよ!


「クラス表は見ましたか? 私達同じクラスでしたよ!」

「くっ、私は別のクラスでした……」

「あらあらあら、ディアナ様は別のクラスでしたか? キリちゃんのことは私にお任せください」

「ううぅぅ! マリーさん、貴方という人わぁ!」

「まあまあディアナ様落ち着いてください。あっキリカ様、私も同じクラスですのでよろしくお願いいたします」

「サラまでそんなこと言いますのー!」


 みんな元気だなぁ。

 ディアナがかわいそうだから助け船を出してあげよう。


「ディアナさん、休み時間には遊びにきてください。歓迎しますから」

「キリカ様ー!」


 ディアナが泣きながら抱きついてきた。

 よしよし、ラファエルとアルベルトには会いたくないから私からはあまり行かないと思うけど遊びにきてね。

 ムードメーカーのディアナがいないと寂しいから大歓迎だよ。


 さて、エルカちゃんはきてるのかな?

 きょろきょろと辺りを見回して探してみると、いた! あれってそうだよね! エルカちゃんだよね?

 私の知ってるエルカちゃんとはちょっと違うけど確かにエルカちゃんだ。

 背中で切りそろえたブロンドの髪におっとりとしたたれ目に困り眉、守ってあげたくなるタイプの美少女がそこにいた。


 庇護欲って言うのかな? そういう気持ちが掻き立てられて、なんか体がむずむずしてきた。

 恐るべしエルカちゃん、圧倒的なヒロイン力だよ。

 平民だから他の生徒みたいに豪華な服装はしてないけど、なんだか輝いて見えるのは私の贔屓目なのかな?

 クラス表を確認して去っていくエルカちゃんから、私は目を離すことができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る