第31話校舎裏の戦い

 私とエルカちゃんが校舎裏に辿り着くと、二つのグループにマリー、ディアナ、サラが立ち塞がり、手分けして押さえていた。

 なるほど、相手は一人二人じゃなくて複数人だったのか、それなら三人じゃ手に余るのも頷ける。


 それに、相手のレベルが結構高い。

 自身が傷つくのも恐れない、恐怖心がないかのような猛攻に三人が押されている。

 捨て身は実力差を覆すことがあるほど厄介だからなぁ。

 普通は自分の身が危ないからできないんだけど、目が血走っててあの子達の様子がおかしい。

 ってか、あの二つのグループって……?


「エルカちゃん、あの子達ってこの間のいじめグループと、いじめられてた下位貴族のグループじゃない?」

「うん、なんか様子がおかしく見えるけどそうだと思う」


 エルカちゃんも同じ意見ってことは、やっぱりあの時の子達だ。

 あの二つのグループが争ってるところをマリー達が止めてるみたいだし、やりすぎていじめてる相手から逆襲されたのかな?


「ちょっとお二人とも! 見てないで加勢してくださいまし!」

「そろそろ私達も限界ですー!」


 ちょっと考え事してたらディアナとマリーに怒られた。

 ごめんごめん、今加勢するから。


「貴方達、ここは学院よ。争いはやめなさい! そんなに戦いたいのなら私が相手になるわよ」


 マリー達にせかされ急いで駆けつけた私は、掌をバッと前に突き出し宣言した。

 よし、今のはかっこよく決まったぞ。

 キリカはこういうかっこいい系ムーブが実によく似合うな。


「キリカ様……!? ……ふんっ! 私達、もう貴方に怯えるのはやめましたの。キリカ様は以前私達に調子に乗るなとおっしゃいましたよね? その言葉、そっくりそのままお返しいたします。格上の家柄だからと、いつまでも調子に乗るの、おやめになったら?」


 はぁぁぁぁぁあああああっ!!

 おうおうおうっ! どうしたどうした!

 いじめグループのリーダーこと、クーヘン伯爵家のローズさんよ!

 喧嘩で頭に血が上って気まで大きくなったか?

 この間はあんなにビビってたのに、今日はやけに強気じゃないのさ。


「あーあー、キリちゃんにあんな口を利くなんて……」

「死んだわねあの子」

「自殺願望でもあるのでしょうか」


 マリーとディアナとサラが可哀想な者を見る目でローズを見て呟いた。

 はっ! いかんいかん、私まで頭に血が上っちゃったよ。

 ってかあんた達!

 私はそんな荒くれ者じゃないっての!

 でもありがとう。

 おかげで頭が冷えたわ。


「そそそそれはっ……いいいいったいっ……っどういうことかしらぁ……!?」

「キリカちゃん落ち着いて! めちゃめちゃ動揺してるよ!」


 あれ?

 頭が冷えたと思ったけど、怒りで上手く口が回らないぞ。

 怒りに震える私に、エルカちゃんが心配そうに声をかけてくれる。

 だが、私のちょっとおかしな問いかけに、ローズは鼻で笑いながら答えてきた。


「はっ、そんなこともわかりませんの? キリカ様は脳まで筋肉なのですかぁ? こんなおバカが長女では、フローズン公爵家も今代で終わりですわね。きゃははっ、かわいそ」


 プッチーンッ!

 さらに煽ってきたローズに、私の中の何かが切れた甲高い音が響いた。


「マジですかローズさん……命が惜しくないの……!?」

「……死んだわねあの子……」

「南無南無……」


 だからあんた達!

 私はそんな無法者じゃないっての!

 あれっ?

 マリーとディアナとサラのトリオにツッコミ入れたら少し冷静になれた。


 ……もしかして貴方達……私を冷静にさせる為に、あえてボケてたのか?

 だとしたらなんて高度な気遣いなんだ……って、いらんわそんな気遣い!

 普通に言ってよ!


「ちょっとキリカ様、私を無視しないでくださいます? それとも耳が遠いのかしら?」

「貴方こそ私を無視しないでください」


 またもや私を口撃してきたローズに、背後から口を挟む者がいた。

 あの子はマリー達が押さえてたもう一つのグループの、確かローズに巾着袋にされて嬲られてた子だよね?


「貴方いつの間にっ!」

「貴方が油断しすぎなんですよ!」


 ローズの背後に現れた巾着娘は、隙を突いていきなりローズを殴りつけた。

 顔面パンチを受けて倒れたローズは、すぐに立ち上がるが足取りがおぼつかない。

 結構ダメージがあるみたい。


「あらあら、あんなわざわざ声をかけてくれた優しい不意打ちをモロにくらうだなんて、修行が足りないのではなくて? 常在戦場のお嬢様にとって、危険察知は基本ですのよ」


 私がここぞとばかりに言い返すと、ローズは殴った巾着娘と私を交互に睨みつけてきた。


「えっ……お嬢様って常在戦場なのですか?」

「マリーさん、それはキリカ様だけですよ」

「脳筋ここに極まれりですね」


 あ・ん・た・た・ちーっ!

 まったく、どっちの味方だよ。

 今度あんた達には大量のマスタードを練り込んだお菓子をプレゼントしてあげるわ!


「大丈夫、キリカちゃんのそういうところ、私は好きだよ」


 マリー、ディアナ、サラの物言いにげんなりする私の肩を、エルカちゃんが優しく叩いて励ましてくれたくれた。

 おおっ!

 なんて心優しい子なんだろう。

 エルカちゃん、貴方はささくれだった私の心のオアシスだよ。

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