第30話抗争を止めろ

「大変よキリカさん! 校庭でまた乱闘が起こっているそうよ! 止めるのに手を貸してちょうだい!」

「えー! またですか? 最近多いですね」


 生徒会室に入ってきたヴィクトリアが私に助けを求めてきた。

 聞けば中級貴族と下級貴族のグループが校庭で争っているらしい。

 ここ数日、やたらとこの手の事件が発生している。

 下級貴族は弾圧からの革命だと、徒党を組んで自分達よりも上位の貴族を襲撃し、中級貴族も上級貴族を襲っているそうだ。


 ただ、理由もなく襲撃するのではなく、今まで不当な扱いを受けていた者達の不満が爆発したって感じなんだよね。

 そう考えればイキって威張り散らしてた連中の自業自得なんだけど、一つ問題がある。

 関係ない生徒や私達生徒会に迷惑をかけていることだ。

 学院内で暴れられたら私達が止めなきゃいけないじゃない!

 喧嘩するなとは言わないから、やるなら人知れず町の外でやってなさいよ!

 周りに被害が出るし、立場上止めなきゃいけない私達が迷惑なのよ!


 個人的にはお菓子でもつつきながら観戦してたいんだけど、生徒会の人間としては止めるのが仕事だからしょうがない、止めに行くか。

 そう自分を納得させた私は、乱闘騒ぎが起きている校庭に向かった。




「なんじゃおらー!」

「んだらああ!」

「わりゃああ!」

「だらああ! ごらああ!!」


 校庭にやってくると子爵から伯爵までの中位貴族のグループと、男爵から騎士爵までの下位貴族のグループに分かれて激しくやりあっていた。

 せいぜい睨み合い程度の小競り合いだと高を括ってたけど、考えが甘かったみたい。


 普段は「おほほ」なんて上品に笑っている貴族令嬢達が、髪やら服やらを引っ張りあって大声で罵り、取っ組み合いをしている。

 貴族は一般人と違ってある程度戦闘訓練を積んでいる為、戦いのレベルが結構高い。

 男子も混ざっての激しい戦いが繰り広げられていた。


「なんなのこれは……。学院でこんな抗争が起こるだなんて……」

「みんな元気ですねー。戦うことで、俺は確かにここに生きてるんだぜって、実感を感じてるんですかね? あっ! ほら、見てくださいヴィクトリア様! 教科書のような綺麗なワンツーパンチでKOしましたよ! やりますねあの生徒」

「もーっ! キリカさんったら何を楽しそうに観戦してるんですか! 被害が大きくなる前に止めますよ!」


 えー! 止めるの!?

 魔法学院のてっぺんを決める戦いに水を差すなんて、男のすることじゃないよ!

 あっ、そうでした。

 私達女でしたね。


 見たところ無理やりやらされてる感じじゃないし、自分の意思で戦ってるみたいだ。

 校庭なら関係ない生徒の迷惑にもならないし、止めるのは気が引けるんだけどね。

 生徒会役員だからしょうがない。

 私とヴィクトリアは抗争を止める為、校庭に乗り込んで行った。


「貴方達! 学院で抗争なんて何を考えているの! 今すぐ止めなさい!」

「うるせえ! 生徒会長だか何だか知らねえが、偉そうに命令してんじゃねえぞ!」

「これは上級貴族に対する私達下級貴族の聖戦なのです! 生徒会の皆さんに恨みはありませんが、もし止めようというのなら、私達の敵とみなしますよ!」


 ヴィクトリアが呼びかけるが、上級貴族からも下級貴族からも非難の声が上がった。

 うわぁ、みんな殺気立ってるなぁ。

 抗争中に関係ない私達が入ってきたら、そりゃあそうだよね。


 ヴィクトリアが涙目になりながら「……キリカさ〜ん……」と、縋るような目で見詰めてきた。

 うっ!

 なんて破壊力のある瞳なの!

 ヴィクトリアのことだから、私をその気にさせる演技だろうけど……そんな顔されたら断れないじゃん!

 所詮私は会長の掌で転がされるヒラ役員なのよ!

 ま、ヴィクトリアの為なら悪い気はしないんだけどね。

 まったく、人をその気にさせるのが上手いんだから。


「学院で暴れる貴方達が悪いんだから、痛くしないから恨まないでよ!」


 私は暴徒化した生徒達の前に歩み出ると、魔力を解放して広範囲に威圧を放つ。

 すると、私の放った威圧を受けた生徒達はバタバタと意識を失い倒れていった。

 威圧とは魔力が低く耐性のない者なら意識を刈り取れる雑魚戦向きの技だ。


 因みに威圧は魔法でも何でもない、唯の実力差からくる現象で、相手を傷つけることなく鎮圧できるから便利なのよね。

 暴徒化した生徒達を鎮圧して安全になると、ヴィクトリアがニマニマしながら近寄ってきた。


「さっすがキリカさん! あの人数を睨み倒しちゃうなんて、化物並みの強さね」

「いやー、そんなに褒められると照れますよー」

「……冗談だったのにこんなに喜ばれるとは……わかんない娘だわ……」


 さすがはヴィクトリア、わかってるわね。

 化物だなんて普通の令嬢なら暴言になるけど、戦士にとっては最上級の褒め言葉よ。

 私もついに化物と呼ばれるまでになったか、なんだか感慨深いものがあるわね。

 なぜかヴィクトリアがジト目で見詰めてくるけどなんでだ?


 ってか、この気を失った生徒達はどうしようか?

 怪我をしてる生徒もいるし、とりあえず学院の治療術師を呼んでこようかな。


「キリカちゃん、ヴィクトリア様! 校舎裏でも争っている生徒がいて、私達では止められません! マリー様、ディアナ様、サラ様が残って足止めをしていますがいつまで保つか……手助けをお願いします!」


 私が次の行動を考えていると、エルカちゃんが血相を変えて飛び込んできた。

 え〜、まだあるの?

 治安悪いな、いつから魔法学院はヤンキー漫画の学校になったのよ。

 しかし、三人がかりで止められないって、そんなに強い生徒がいたか?

 三人の武力は私やガイアスを除けば学年でもトップクラスだぞ。


「キリカさん、この場の処理は私に任せて校舎裏をお願いできるかしら? 残念だけど、私が行っても力になれなそうだし」

「わかりました。ヴィクトリア様、この場はお任せします。エルカちゃん、急いで行こう。案内をお願い!」

「任せて!」


 ヴィクトリアの申し出を受け、この場は任せるとしよう。

 相手も気になるし、とにかく行ってみるか。

 私はエルカちゃんと共に校舎裏に向かって走り出した。




◇◇◇




 校庭の騒動を学院の屋上から観察する美しい女がいた。

 ケルベロスの大幹部ドーベルである。

 彼女は離れた位置から計画の進行を窺っていた。


「あの子が噂のキリカさんね。あの人数を一瞬で沈黙させるなんて危険な子……。でも、一人でどこまで頑張れるかしら?」


 ドーベルはキリカ達を観察し、楽しそうに笑みを浮かべて独りごちた。

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