第37話キリカvsガイアス

 ガイアスとシリュウさんが抜剣し、私に向かってゆっくりと歩いてくる。

 二人とも虚な瞳をしているけど、どことなく悔しそうに見えるのは、私の気のせいかな?


「ガイアス、私はあんたのことをライバルだと思っていたけど、女の色香に惑わされるなんて、とんだ見込み違いだったようね。シリュウさん、貴方もよ。王の剣とも謳われる貴方が、何を簡単に魅了されちゃってんのよ。そんなんじゃ、今日貴方を倒して、王国最強の座は私がいただくわよ」


 二人は私の問いかけに言葉で答えることはなく、代わりに剣撃で答えてきた。

 そう、だったら武人として、私も全力をもって答えてあげるわ。


 私が子供時代よりも速度と威力を増したガイアスの剣をバックステップで躱すと、着地地点に先回りしたシリュウさんが攻撃してきた。


「『風弾』『風弾』『風弾』!」


 風魔法の連射で、攻撃してきたシリュウさんを牽制して距離を取る。

 私の風弾は全て、シリュウさんの剣に斬り裂かれた。


「ここは私に任せてください。みんなは手を出さないで」


 別に目立ちたい訳でも、手柄を独り占めしたい訳でもない。

 この二人の武力は危険なんだ。

 ごめん、みんなは私の援護をしたいだろうけど、仲間を庇う余裕がない。


「もちろんです! 援護なんてとんでもない、そんな戦いに下手に手を出せば、簡単に死んでしまいますもの」

「頑張ってキリカさん! 私達は応援に回るわ!」


 まったく、現金というか物分かりが良いというか……でも、これで戦いに集中できる。

 ガイアスとシリュウさんの二人と十メートル程離れて、私は打刀を抜き自然体に構えた。


「中段でも上段でも下段でもない、一見無防備にも見えるし、力が入っていない? でも、気迫は震えそうな程伝わってくる……キリカ様のあの構えは何?」

「あれは武術の基本にして奥義である脱力。でも、ここまでのものは初めて見ます。……まさに、完全な自然体」


 ディアナとマリーが私の構えに驚いている。

 王国剣術ではしっかりと構えを取るからディアナは自然体を知らないだろうし無理もない。

 マリーはなぜか日本の剣術に精通してるから、逆に驚いているみたいだな。

 そのマリーも、私の到達した領域の自然体は初めて見るみたいだ。

 期待に応えて私の剣の集大成、最高の技を見せてあげるよ!


「なっ!?」


 自然体から気配を悟られぬよう、初動を消した踏み込みからの斬撃でガイアスを斬りつける。

 肩口から袈裟斬りに斬られたガイアスの傷口から血飛沫が舞い、地面に倒れて動かなくなった。


 よっしゃ! 鎖骨と胸骨を断ち斬った!

 これだけ深傷を負えば動けないだろ。

 エルカちゃんの聖属性魔法なら瀕死からでも回復できる。

 後で回復してやるから、それまで生きてろよガイアス。


「……今のキリカさんの攻撃、確かに速かったけど、あのガイアスくんが避けられない程なの?」

「今のキリちゃんの斬撃は離れて見た分には、ただ踏み込んでの斬撃なのですが、筋力に頼らないことで予備動作を限りなく消しています。相対した相手から見た場合は、キリちゃんが瞬間移動でもしたかのように見えるはずです。キリちゃん、貴方の武がその領域にまで達しているだなんて……」


 ヴィクトリアの問いにマリーが饒舌に語る。

 いきなりどうしたマリー、解説者にでも転職したのか?

 「説明しよう!」とか言い出しそうな雰囲気だぞ。


「重い大太刀ではなく扱いやすい打刀を使ったのは、ガイアス様を殺さないように剣をコントロールする為ですね。さすがキリちゃんです」


 さすがなのは貴方よマリー、そこまでわかるだなんて解説者の鑑ね。

 後、私が大太刀持ってるなんて貴方に言ったかしら?

 大きすぎて腰に差せないから、布に包んで背中にかついでるのに。


 ん、何で布に包んでるのかって?

 いざって時まで隠しといて、ここぞって場面でお披露目したいからだよ!


「簡単にガイアス王子を倒すとは、やるわねキリカさん。では、最強が相手ならどうかしら? いきなさいシリュウ、王国最強と謳われる実力を見せてあげなさい」


 ガイアスが倒される姿を見てもドーベルは動じない。

 落ち着いた声音でシリュウに命令を下した。


 その通り、ガイアス戦は前座みたいなもの、この後に控えるシリュウ戦が本番なんだ。

 私は気合を入れ直してシリュウさんと対峙した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る