第42話エピローグ
私とオーロラが魔法学院に到着すると、去年と同じようにクラス分けが張り出された掲示板の前に人が集まっていた。
懐かしいな、あれから一年の時が経ったのか。
今年はどんなクラスになって、どんな事がおこるのか楽しみだ。
「それではお姉様、私は自分のクラスを見てきますので」
「うん、下級貴族や平民をいじめちゃダメだよ」
「わかってますわ! ……まったく、お姉様は私を何だと思っていますの」
オーロラはそう言って、一年生のクラス分けが張り出された掲示板に歩いて行った。
う〜ん、正義感の強い良い意味でのガキ大将だと思ってるよ。
自分の意見を押し付けるだけのわがままガキ大将じゃなくて、人に愛される真のガキ大将だ。
その証拠に掲示板の前でオーロラは沢山の友達に囲まれ楽しそうに談笑している。
さすがガキ大将オーロラ、一個下世代のリーダー的存在のようだ。
さーて、私も二年生のクラス分けを見に行こうっと。
二年生の掲示板も去年と同じで人が多すぎて近づけないわね。
今年もやるか。
私が目に魔力を集中させると遠くの物も良く見えるようになるのだ。
「はぁ……今年一年この下級貴族と同じクラスなんて気が滅入りますわ」
「それはこっちのセリフよ。貴方みたいな性根の腐った女と同じクラスだなんて嫌気が差します」
「何ですって!」
「何よ! やる気!」
何か喧嘩してる生徒がいると思ったらローズとグレープじゃないか。
相変わらず犬猿の仲だけど、身分の低いグレープが吹っ切れたみたいで、前みたいに一方的ないじめじゃなくなったし、放っておいても大丈夫そうだ。
ドーベル事変で大喧嘩した影響か、上級貴族と下級貴族の間に一方的ないじめはなくなった。
相変わらず仲は悪いから喧嘩は絶えないけど、一方的ないじめに比べれば健全なんじゃないかな。
もし親に言い付けるような事になったら私が間に入ればいいのだから。
絶賛喧嘩中の二人は放っておいて私のクラスはっと、えー何々、おお!
今年はマリー、ディアナ、サラ、シオリ、エルカちゃん、みんな一緒のクラスだ!
うん、実は知ってた。
ドーベル事変を解決した褒美にクラス分けも頼んでおいたんだ。
もちろんみんなには内緒。
たとえ卑怯と言われようが、私は学院生活を楽しむ為に全力を尽くすのだ。
「ごきげんようキリちゃん。もう掲示板は見ましたか? 今年はみんな一緒ですよ」
「去年は私とエルカさんだけ別のクラスでしたから嬉しいですわ」
「これで今年からは二人でキリカちゃんのクラスに出向かなくても良くなったね」
離れた所から掲示板を見ていると、私を見つけたみんなが集まってきた。
みんなが揃って一緒のクラスになれたのは私のおかげなのよ。
私を崇め奉りなさい。
「……なぜキリカ様がドヤ顔をしておりますの?」
「もしかしてキリちゃん、何かやりましたか?」
「伯爵位を得たキリカ様の権力を持ってすれば、あり得ない話ではないですね」
「キリカちゃんなら裏で何か手を打ってそう……」
「いえ別に、ただ皆さんと同じクラスになれたのが嬉しくて笑ってしまっただけですの」
そう、私は言わない。
自分の手柄をひけらかすのもちょっとダサいしね。
たとえディアナ、マリー、サラ、エルカちゃんの四人に「本当に〜?」みたいな顔でジト目で見られても別にいいんだ。
褒美を貰っただけでやましいことをした訳じゃないんだし、言わなくても良いことはわざわざ言わないのだ。
みんなの平和の為に裏で暗躍する美少女なんて、実にかっこいいじゃないか。
私がマリー達の疑いの目に余裕の笑みで答えていると、シオリが恍惚の表情を浮かべてこちらを眺めているのに気がついた。
「今年一年皆様の尊い姿を見続けたら私……死んでしまうかもしれません……」
貴方は本当にぶれないねシオリさん……。
でも、前世で尊死した疑いのある私にはわかる。
その好きなものに対する真摯な姿勢は、オタクとして尊敬に値するわ。
でも涎は拭こうか、綺麗な顔が台無しだよ。
「あら、キリカさんじゃないごきげんよう。今日から二年生ね」
シオリの蕩け顔を見ていると私に声がかかる。
振り向くとキチッとした格好の元生徒会長、ヴィクトリアが誰かを引き連れてこっちに歩いてくるところだった。
一緒にいるのは誰だろ?
ヴィクトリアの後ろに隠れてて見えないな。
「ごきげんようヴィクトリア様。ヴィクトリア様は今日から教師一年生ですね」
「そうなのよ。みんなと学院生活を続けられて嬉しいわ。私は貴方達がどんな風に魔法学院を盛り立てて行くのか、楽しみにしてるんだから。よろしく頼むわよ、キリカ生徒会長」
そう、三年生だったヴィクトリアは卒業後、魔法学院の教師になったのだ。
ヴィクトリアなら親しみやすい良い教師になりそうだな。
そして、ヴィクトリアの言葉通り、私は新しい生徒会長になったのだ。
私は先輩達が生徒会長になった方が良いって言ったんだけど「キリカ様がいるのに私達が生徒会長なんてできません! もっと自分の立場を理解してください!」って、なぜか怒られながら私を生徒会長にと推してきた。
そこまで言われたら私も断れないよ。
てな訳で、私は少し前にヴィクトリアから生徒会長を引き継いだのだ。
みんなの期待に応えられるように頑張るつもりである。
「実はみんなに紹介したい人がいるの。ほら、いつまでも後ろに隠れてないで挨拶なさいな」
「もう、急かさなくても挨拶くらいしますわぁ。……皆さんごきげんよう。私のこと覚えてるかしらぁ?」
ヴィクトリアに促されて前に出てきたのはドーベル事変の首謀者、ドーベルだった。
あんた何でここにいるの!
捕まったんじゃなかったの?
「あれだけの事を仕出かしておいて何でここにって顔ねぇ。多額の賠償金と技術提供を条件に王国と司法取引したのよぉ。で、今日から魔法学院の教師になったって訳ぇ。以前のことは水に流して、これからよろしくねぇ」
司法取引? この世界にもそんなのあるの?
まあ、現代日本で作られたゲームが原作の世界だし、あってもおかしくはない、のかな?
「そういう訳でドーベルは私の同期で同僚なのよ。まあ、納得いかないのはわかるけど、彼女が優秀なのは確かだし、キリカさんにこらしめられて改心したそうよ。話してみると意外と気さくで楽しい人だし、私は許したわ。では、今度は授業で会いましょう」
そう言ってヴィクトリアとドーベルは去って行った。
去り際にドーベルが「この前はごめんねぇ」と言って、私の頬にキスして去って行った。
えっ! 何でキスしたし!
「大変です! キリちゃんの頬が腐ってしまいます!」
「早く拭かないと!」
マリーとディアナが私の頬をハンカチでゴシゴシ擦り出した。
もー、二人とも大袈裟だなぁ。
美女にキスされて腐る訳ないじゃーん。
「キリちゃ〜ん、何まんざらでもない顔してるんですかぁ?」
マリーの額に血管が浮き出し、ハンカチで頬を擦る力が増した。
ちょっとマリーさん?
それ私だから大丈夫だけど、普通の人ならかなり痛いと思うよ……。
私が友人達と楽しくお喋りしていると周囲が突然騒がしくなった。
ん、この展開には覚えがある。
奴らがきたか。
大勢の人集りを二つに割ってラファエル、アルベルト、ガイアスの三人が現れた。
あらら、いつもの二人に、今日は珍しくガイアスまで一緒だよ。
三人が掲示板に近づいてくると、私を見つけたラファエルがこっちにやってきて口を開いた。
「お前ら公衆の面前で堂々といちゃつくなよ。女同士で恥ずかしくないのか?」
はあ?
今なんつったこの男?
ドーベル事変後からラファエルがさらに突っかかってくるようになったんだよなぁ。
あれか?
私にぶん殴られたことを根に持ってんのか?
あれは非常事態だからノーカンだろ!
それに、悪いのは魅了されたお前だ!
「いくらラファエル様といえど、それは聞き捨てなりません」
「マイノリティに理解を示さず排除しようだなんて、ラファエル様って意外と排他的な考えをお持ちなのですね」
「百合に挟まれようとする男には死を……凄惨なる死を!」
「う……なんだよお前ら、それ以上近づくんじゃねえ……クソッ! キリカ! 覚えてやがれ!」
ラファエルの暴言に私よりも先に仲間がキレた。
マリー、ディアナ、シオリの三人に詰め寄られたラファエルはジリジリと後ずさり、やがて踵を返して逃走した。
うわぁ……ダサい捨て台詞はいて逃げ出したよ。
何しにきたんだあいつ?
「待ちやがれですわあ!」
「前言を撤回しなさい!」
「男の子は男の子と、女の子は女の子と恋愛するべきなのです!」
必死に逃げるラファエルをマリー、ディアナ、シオリが追いかけ回す。
「バカだな兄貴、そいつは禁句だろ。……ところでキリカ、この間はお前に負けたが、それは魅了されて意識がなかったからだ。本当の俺はもっと強い。いつか決着をつけるぞ」
「……そうですか、まあお好きにどうぞ」
「何だよその素っ気ない返事は……まあいい、じゃあまたな」
そう言ってガイアスは去って行った。
だって決着も何も、あんた私に二連敗してるじゃん。
あんたに負けたことない私に向かって決着とか言っても呆れるだけだって。
まあ、挑んでくるなら受けて立つよ。
ちなみに一人になったアルベルトは、ラファエルを追うべきかガイアスについて行くか悩んでオロオロしていた。
しっかりしろ、あんたも原作では攻略対象だろ。
暫く待っているとラファエルを追いかけまわしていたマリーが肩で息をしながら戻ってきた。
「ぜー、ぜー、あの男、何という逃げ足の速さ……こうなれば仕方ありません。ディアナさん、シオリさん、後は頼みましたよ」
どうやら体力が尽きて戻ってきたようだ。
ふっ、マリーよ、修行が足りんぞ。
走り込みが足りんからスタミナがないのだよ。
サボればすぐにスタミナはなくなる。
継続することが大事なんよ。
「何でキリちゃんは勝ち誇った顔をしてますの? もー、行きますよ」
頬を膨らまして可愛く怒ったマリーが私の手を取り歩き出した。
「少女のものとは思えないほど鍛えられた、親友と同じ分厚い掌。私は大好きですよ」
「あっ、抜け駆けはダメですよマリーさん。私も!」
エルカちゃんが空いているもう片方の手を握り、サラは「お供します」と後ろに控え、私達は四人で校舎に向かい歩き出す。
今日も新学期早々騒がしい一日だ。
でも、悪役令嬢に転生した私がこんなに沢山の仲間に囲まれているなんて、人生わからんものだ。
公式ラスボスも倒したし、この先どうなるのか私には見当もつかない。
でも、何年も前からこの世界はゲームとは違うシナリオを描いているんだ。
そんなこと今更だよね。
ハッピーエンドを目指すと決めた私の人生も、この大好きな仲間達と一緒なら、きっとそこに至れるのだから。
転生したら乙女ゲームの悪役令嬢だった ~原作ではどのルートでも死ぬ運命の令嬢はハッピーエンドを目指す~ ギッシー @gissy
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