第41話ドーベル事変その後
「朝ですよお姉様! いい加減起きてくださいまし!」
実家の自室で気持ち良く眠っていると、突然掛け布団をバサッとはぎ取られた。
安眠を邪魔する輩は誰だと下手人の顔を確認する。
私と同じ艶のある薄紫色の髪に磁器のように白い肌、気の強そうなつり目がチャームポイントの美少女がそこにいた。
なんだオーロラじゃん。
最近益々私に似てきた愛すべき私の妹だ。
「私にはエミリアがいるのだから、何も貴方が起こしにこなくてもいいのよ。毎朝大変でしょう?」
「あら、エミリアはずっとお姉様と一緒に過ごしていたのですから、お姉様を起こす権利くらいは私に譲ってくれましたわ」
「そう、エミリアが了承しているなら構わないわ」
エミリアの許可を得ているならいいかと私も了承すると、オーロラは「そ・れ・に」と、もったいぶって、
「今日は私の魔法学院入学の日ですのよ。学院まで一緒に行くのですから早く準備なさってくださいまし」
「そうですよキリカ様。今日はオーロラ様の晴れ舞台なのですからお急ぎください」
部屋の入口で待機していたエミリアにも急かされちゃった。
そういえば今日はオーロラの入学式だったわね。
そう、あのドーベル事変から時は過ぎ、私は二年生に進級しオーロラは今日魔法学院に入学するのだ。
あの戦いのその後を少し語ると、ドーベル事変は放っておけば王国を揺るがす大事件だっただけに、その後の後始末も大変だった。
ドーベル達ケルベロスによってばら撒かれた麻薬の回収や使用者の治療、人身売買で攫われた人達の捜索や保護など、事件後の後始末は多岐にわたった。
中でも魅了されて敵側についちゃったガイアスとシリュウさんが責任感じちゃって「腹を切って詫びるしかない」とか言って暴れるから止めるのに苦労したよ。
国王も今回は相手が悪かったと罪を問わなかったんだから、そこまでしなくていいのに。
ドーベルの魅了の脅威を国王に説明して二人の減刑をお願いしたりと大変だったんだから。
優秀な武人を二人も死なせるなんてもったいないし、あの二人には生きて罪を償わせる方が王国の益になるっていう話をしたら国王もわかってくれた。
いくら武士の血が流れてそうな二人でも、腹切りまで真似しなくていいんだよ。
まあ、ラファエルとアルベルトみたいに開き直ってケロッとしてるのよりはよっぽど良いけどね。
そんな感じでドーベル事変後の後始末を私達も手伝ってたから大変だったんだ。
でも、この事件を解決した褒美は凄かったよ。
私を王家に取り込もうとする国王が、ラファエルかガイアスとの婚姻を進めてきたのを丁重に断って伯爵位を貰った。
公爵令嬢の私が何で下位の爵位を貰ったかっていうと、それは自由に生きるためだ。
実家に縛られたままじゃ望まぬ婚姻とかさせられちゃうからね。
国王に頼んで領地を持たない、私個人の身分としての伯爵位を貰ったんだ。
別に実家に不満がある訳じゃないけど、一生を添い遂げるパートナーなんだから結婚相手は自分で選びたいよ。
まあ、恋愛結婚の方が政略結婚や見合い結婚より必ずしも幸せになれるとは限らないんだけどね。
私の前世の世界じゃ、恋愛結婚の方が明らかに離婚率が高いってデータがあるくらいだもの。
政略結婚なんて横暴だ。自分の相手は自分で決める。
ってのは物語の王道だけど、自分で選んだ相手と幸せな結婚生活が送れるとは限らないんだから、世の中わからんもんだよね。
「もう、お姉様ったらまた自分の世界に入っちゃて。ほら、早く行かないと遅刻してしまいますわ」
準備を終えた私がオーロラに手を引かれて屋敷の外に出ると両親が見送りにきていた。
私の時もそうだったし、子供に愛情を注ぐ良い親だよね。
その愛情を少しでも平民に与えてくれたらもっと良いと思うんだけどな。
「いよいよ魔法学院に入学だな。しっかりと学んでくるのだぞ」
「オーロラさん、学院は社交会の縮図でもあります。将来を見据えて交友関係を広げてきてください。平民にも、……まあ、多少は優秀な者もいますから、視野を広げることも大事ですよ」
えっ!
パパン、ママン、急にどうしたの?
何か変な物でも食べたのか?
貴族特有の選民意識の持ち主だった両親を訝しげに見ていると、父はばつが悪そうに話し出した。
「そんな目で見ないでくれキリカ。エルカさんを見て私達も考えを改めたのだ」
「ほほほ、そうですね。エルカさんはキリカさんが友人にと選んだだけあり、とても良いお嬢さんでしたわ」
ドーベル事変後、両親にエルカちゃんを紹介したことがあったけど、二人の意識を変えるほど好感触だったのか。
実の両親とはいえ、貴族は腹の中を隠すのが上手いから私にはわからなかったよ。
驚く私にエミリアが「良かったですねキリカ様」と、耳元で囁いた。
もちろんエミリアにもエルカちゃんを紹介済みで、コミュ力の高いエミリアはすぐに仲良くなった。
察しのいいエミリアは、私が平民を下に見ている両親とエルカちゃんの関係を気にしているのを知ってたんだろう。
この国の他の貴族の意識も、私の両親みたいに少しずつでも変えていけたらいいな。
「キリカ様、オーロラ様。行ってらっしゃいませ」
こうして、私を幼い頃から支えてくれたエミリアと、選民意識が少しだけ薄れた両親に見送られ、私はオーロラと一緒に魔法学院に向かうのだった。
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