第12話雨降って地固まればいいな

 パーティーにやってきたマリーはシーシェルの柔らかい色合いをしたドレスを身に纏っていた。

 十歳にしては目地張りのある体型をしているマリーだが、決して太っているわけではない。

 ウエストをキュッと紐で縛っているウエストの細さが強調されていた。


 そんなパーティーの為にめかし込んできたマリーだったんだけど、やってきた私の周りの空気はマリーの悪口を言ったディアナを私が威圧したせいで冷え込んでいた。

 まるで南極のブリザードのように……。


「えっと……どうしたのでしょうか? 何かありましたか?」

「何でもないのよマリー、ちょっとディアナさん達と――」

「マリーゴールドさん! 貴方、キリカ様に対して失礼ではなくって!? 公爵家のキリカ様に伯爵家の貴方がそんな気やすく話しかけるなんてっ……身分をわきまえなさい!」


 私の説明を遮ってディアナが金切り声を上げた。

 えー、私はそんなの気にしてないのにー。

 そういう選民意識はよくないよー。

 仲良くやろうよー。


「ディアナさん違うのよ。マリーには私からキリちゃんと呼んでほしいとお願いしたのよ」

「キリカ様からお願いされたですって!?」

「そうですのよディアナ様。私とキリちゃんは仲良しですの」


 そう言うとマリーは私に体を寄せてディアナに笑いかけた。

 ちょっとマリー! 売り言葉に買い言葉! 挑発してどうすんのよ!?

 ほら、ディアナが呪い殺しそうな勢いで睨んでるじゃん!


 怖い怖い! 可憐な乙女がそんな顔しちゃだめだよー。

 ほら~目が血走って怒りで顔が真っ赤になってるじゃん。

 可愛い顔がゆでだこみたいになってるよ。


「お、落ち着いてくださいディアナさん。私はキリカ様と呼ばれるのも好きですの。だって様をつけるってことは私のことを敬ってくれてるってことでしょう?」

「もちろん私はキリカ様を尊敬しておりますわ。尊敬していればこそ、マリーゴールドさんだけ愛称で呼ぶなど……、私は納得できません!」


 う~ん、これはあれか? 私とマリーの仲に嫉妬してるってことか?

 なんだぁ、ディアナってゲームだとミニチュア版キリカって感じで性格悪そうな女に描かれてたけど可愛いとこあるじゃん。


 好きでいてくれる気持ちは嬉しいけど、だったらみんなで仲良くしてほしいな。

 これから一緒に魔法学院に通うんだからどうにかしなきゃ。


 でもどうしたらいいのかしら?

 こう言っちゃなんだけど、私はコミュ力に自信がないんだよな~……そうだ!


「困ったわ。私はマリーのこともディアナのことも好きだから、二人には仲良くしてほしいのだけれど……」


 ここで私はよよよとふらつき、心労で目眩がしたような演技をする。

 これぞ私の為に争うのは止めて作戦! これでどうだ!


「キリちゃんどうしたの!?」

「大丈夫ですかキリカ様!?」


 マリーとディアナがふらつく私の体を支えてくれたけど、二人が目を合わすと「「ふんっ」」と、お互いそっぽを向いてしまった。

 あ~ん、なんでよ~! 私の渾身の演技が不発ですと!


 もうどうしたらいいのかわからない私が困り果てていると、同じくどうしたらいいかわからずおろおろしているサラと目が合った。

 あっ仲間がいた。


 同士サラ、私を助けて! という思いを込めて目配せすると(私にはどうすることもできませ~ん!)という目を返された。

 おお、同士サラよ。私を見捨てるのか……。


「ちょっとマリーゴールドさん、キリカ様から離れなさいよ! 私の家の方が爵位が高いのよ」

「あら~ディアナ様、キリちゃんは人を身分で差別したりしませんのよ。そんなことも知らないのかしら~? 貴方こそ私のキリちゃんから離れてくださいまし!」


 ディアナとマリーが罵り合いながら二人で私の腕を引っ張り合う。

 おー、こんな場面本当にあるんだ。

 こんなの漫画かアニメでしか見たことないよ。

 てか、マリーってこんなこと言う子だっけ? キャラ変わってない?


「……いい加減にしてください! そんなに引っ張ったらキリカ様が怪我をしてしまいます! ディアナ様、マリーゴールド様、貴族の淑女として恥ずかしいですよ!」


 おおっ! 同士サラがプルプル震えながら一喝した!

 まあ私は鍛えてるから二人に引っ張られたくらいで怪我なんてしないけど、気持ちは凄く嬉しいよ。


 子爵令嬢のサラが、格上の貴族令嬢であるマリーとディアナに意見するのはとても勇気のいることなんだもの。

 そのサラに注意された二人は、自分達のおこないを恥じたようで私の腕を離した。


「申し訳ございませんキリカ様。恥ずかしいことをしてしまいました。サラもごめんなさい。目が覚めたわ」

「私もです。申し訳ございませんでした」

「私は大丈夫だから気にしないで、毎日鍛えてるんだから!」


 私がぐっと腕を曲げて上腕二頭筋を見せつけると「凄い……彫刻みたい……」「綺麗ですわ……」と、感嘆の声が上がった。

 えへへ、鍛えててよかった。


 サラが勇気を振り絞って発言してくれたおかげで、その後は食事にお茶にダンスにと、四人でサマーパーティーを楽しむことができた。

 マリーとディアナもいつの間にか仲良くなってるし、これが雨降って地固まるってやつ?


 遠くで私達を観察して笑っているラファエルは気にしないことにした。

 ちょっと気分悪いけど、私は何も見てないし気づいてないよー。

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