第6話ラファエル
フローズン公爵家の令嬢、キリカ・フローズンの様子がおかしい。
俺がそれに気づいたのはフローズン家のお茶会に出席した時だ。
以前のキリカは第一王子という俺の肩書きを狙っているのか、顔を合わせればくっついてきておべっかでご機嫌を取ろうとする打算的な女だった。
それが、お茶会で会ったキリカはあろうことか第一王子の俺に調子に乗るなと言ってきやがった。
だが、言われて気づいたのだが、第一王子の俺にとか思ってる時点で既に、奴の言うように調子に乗っていたんだろうな。
それに気づかせてくれたキリカに、思わず面白え女なんて言っちまった訳なんだが……あいつ、思いっきり嫌な顔してたな……。
俺としては誉めたつもりなんだが、そんなに変なセリフだったか?
褒め言葉だよな?
何、違うって?
俺にとっては誉め言葉だ。
とにかく、その後もあいつ、キリカ・フローズンを観察していたんだが、やっぱりおかしい。
まず一緒にいたのがブルボン伯爵家のマリーゴールドなのもおかしい。
俺達王侯貴族は子供の頃から将来を見越して派閥作りに勤しんでいるんだが、マリーゴールドはキリカの派閥に入っていなかったと思う。
新しい人脈の開拓と捉えることもできるが、俺の知る限りキリカはマリーゴールドを嫌っていたはずだ。
あのなんとも言えない天然さが不気味だと、俺に悪口を言っていたのを覚えている。
俺にはあのプライドが服着て歩いてるような女が自分の考えを曲げるとは到底思えないんだが……。
そのキリカが嫌いなはずのマリーゴールドと楽しそうに茶菓子を食べながらお茶を楽しんでいたんだぜ。
な、おかしいだろ?
他にもある。
会場に小さなトカゲが乱入してきた時だ。
居合わせた貴族の令嬢達がわざとらしい嬌声を上げる中、令嬢達にいいところを見せようと張り切って駆除しようと前に出た貴族の子供達を制してキリカは、
「あら、美味しいお茶とお菓子に誘われて迷い込んでしまったのね。殺してしまってはかわいそうです。私が外に逃がしてきますわ」
などと言って、手掴みで外に逃がしてやっていた。
キリカの侍女も警備もそこにいたのに手ずからだぞ。
以前あいつは虫や爬虫類を見かけるたびにキャーキャー甲高い声で嫌がっていたのに、あの時のあいつは手掴みだぞ。
まあ、以前のキリカが演技でキャーキャー言っていた可能性もあるが、俺には本気で嫌がっているように見えた。
以前は腹黒さを隠しきれていない感じだったが、お茶会で見たキリカにはそういった邪悪な部分が抜け落ちたように思えたんだ。
フローズン家のお茶会が終了した後も、俺はキリカのことが気になって観察を続けることにした。
密偵を使ってキリカの日常を調査させたんだが、報告によるとわがまま放題だったのが鳴りを潜め、使用人にも優しく接しているようだ。
特筆すべきことは最近のキリカが戦闘訓練に励んでいることだろう。
以前は戦闘訓練など一切やらない奴だったんだが、天から与えられた才能か、訓練していないにもかかわらずそれなりに強かった。
そんなキリカが真面目に戦闘訓練なんてするものだからにわかには信じられないが、今ではフローズン家の騎士よりも強いそうだ。
フローズン家の強者と互角の戦いをしたそうだが、訓練を積んでいけばいずれはフローズン家最強になるのではと言われている。
王国の力になってくれるのはありがたいが、ちょっと強すぎないか?
まだ俺達は十歳だぞ。
俺の弟のガイアスとどっちが強いのかちょっと興味があるな。
ちなみに第二王子のガイアスは腹違いで第二妃の子なんだが、俺と同い年の武芸にたける男で、将来は軍を従える将軍になるだろうと目されている男だ。
その弟にキリカの話をしたら興味を持ったらしく、今度手合わせしたいとか言っていたな。
俺もガイアスとキリカどっちが強いのか興味はあるが、今はいいだろう。
報告によると戦闘訓練以外に勉強も頑張っているようだ。
まあ、頑張っているというよりも、いきなりできるようになったといった方が適切だな。
キリカは戦闘と同じく勉強面も才能の塊で、やる気もないのに勉強ができる所謂天才なんだが、報告を聞く限りいきなり知識量が増えたように思える。
これはどういうことなんだろうな?
今はまだ情報が少なすぎる。
今後も継続して観察を続けていこう。
以前は才能ある有力貴族の令嬢ではあるが、第一王子の俺に気に入られようと媚びを売るだけの女だった。
そんな女に興味はなかったが、今のキリカは違う。
心を入れ替えたってレベルではなく、まるで人が変わったようじゃないか。
本当に面白え女だ。
おっと、またキリカに嫌な顔をされちまうな。
アルベルトにも相談したんだが、考えすぎだと笑われちまったよ。
それどころか惚れたか? なんてほざきやがる。
普段知者ぶってるくせに、肝心な時に頼りにならない。
まあとにかく、キリカ・フローズンは面白え女だよ。
今後も観察を続けていこうと思う。
見てて面白えからな。
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