第5話模擬戦
「これよりキリカお嬢様と騎士アルフレッドの模擬戦を始める。見ることも稽古だ。皆は見学して己の糧とするように!」
「おい、アルフレッドの相手は公爵様のとこのお嬢様だろ? まだ子供じゃないか」
「はははっ、若手のホープと言われるアルフレッドが子守りとはな」
オルテガさんが宣言するとぼそぼそとヤジが聞こえてくる。
あーあー、今悪口言った人達は三流ね。
見た目で侮るなんて愚の骨頂よ。
アルフレッドさんを見なさい。
一切油断のない真剣な表情をしてるわ。
さすが若手のホープ、三流騎士とは一味違うわね。
「はぁ、しょうがない奴らだ。言ってわからん奴には見せるしかないな。両者準備はいいか? ……始めいっ!」
そうそう、口で言ってわからん奴には見せるのが一番。
オルテガさんの号令で模擬戦が始まった。
アルフレッドさんが大型の木剣を中段に構えて私を見据える。
隙のない構え……やっぱり強いねアルフレッドさん。
アルフレッドさんの足に力が入る。
それを見た私がサイドステップで横に飛ぶと、さっきまで私がいた場所を木剣が走り抜けた。
剣を躱すと同時に振りかぶっていた私が上段から木剣を振り下ろす。
アルフレッドさんは振った木剣を地面に当てた反動を利用して跳ね上げ私の剣を受けた。
そのまま鍔迫り合いの形になる。
やるね! でも、崩れた体勢で受けきれるかな?
「なっ……!」
私が身体強化の出力を上げて剣を押し込むと、下から受けたアルフレッドさんは押し込まれて膝をついた。
「おい……あのアルフレッドが押されてるぞ」
「マジかよ……何者だあのお嬢様……!?」
はっはっはっ! 見たか私の力を!
キリカに転生してからいろいろ魔法を試してみたけど、身体強化は得意なのだ!
それに加えて、前世の私は武術に力を入れている変わった学校に通っていた戦えるオタク!
武器術だって習っているのさ!
ゲームのキリカはルートによってはラスボスまで上り詰める女ぞ!
子供と思って舐めてもらっては困るのだよ!
「くっ……舐めるなあっ!」
アルフレッドさんは剣の角度を変えて私の剣をそらし脱出した。
思いっきり体重を乗せて押し込んでいた私は、力の方向をずらされたことで体勢を崩したたらを踏む。
隙をさらした私の背後からアルフレッドさんが素早く打ち込んできた。
あれれっ、舐めてたのは私だったってオチ?
どうするどうする!? こうなったら、とうっ!
「うひゃあああっ!」
前のめりにバランスを崩してアルフレッドさんの剣を躱せない私は勢いのまま前に飛んで避け、回転して受け身を取りすぐに身構える。
するとアルフレッドさんは嬉しそうに笑っていた。
何? 変な声出たから笑われた!?
「あのタイミングの剣を避けるなんて信じられません。恐ろしいお嬢様だ」
「そうですか? ありがとうございます。誉め言葉として受け取っておきますわ」
平静を装って答えたけど、危なかったぁぁぁ!
さすが毎日訓練を積んでる騎士の中でも団長に期待されてるだけあって強い。
鍔迫り合いで押し倒して降参させるつもりだったのに当てが外れたわ。
二人の距離が開き、お互い剣を構えて睨み合う。
ファーストアタックは互角ってところかしら?
お互い初対戦同士、手の内を知られる前に勝つのがベストだったけど失敗かぁ。
ファーストコンタクトで倒せなかったことで、ここからは地力の勝負になるわね。
そうなると体格で劣る私が不利か?
魔力は私の方が強いと思うけど、戦いにおいて体重差は大きいからね。
長引かせると不利なら、早いけど勝負に出ますか。
「あのお嬢様の構えはなんだ?」
「素人の我流にしては堂に入った構えだが……」
私は体をやや半身にし、剣先は相手の左目に向かせ、刀身を少し右に傾け刃を内側に向ける。
天然理心流平晴眼の構えだ。
天然理心流とは新選組の近藤勇、土方歳三、沖田総司などの使い手によって有名になった古流剣術である。
平晴眼は大の新選組好きである私が誰に習ったわけでもなく、独学で天然理心流を研究した奥の手だ。
私の構えを見ると、相対するアルフレッドさんの表情が引き締まった。
「……初めて見る構えですね。狙いはわかりませんが、このまま見合っていても始まりません。行きますよ!」
アルフレッドさんが出るのに合わせて私も前に出る。
面を狙ってきたアルフレッドさんの攻撃を軸足を支点に身体を開いて躱しつつ突きを放つ。
攻撃を外しつつ放った突きだったが、アルフレッドさんはとっさに頭を傾けつつ体を捻り、私の突きを躱した。
マジか!? これも躱しちゃうの!
でも、平晴眼からの突きは二段構えよ!
平晴眼がなぜ刃を傾けてるかわかる?
普通の突きは強力だけど、躱されたら隙を晒す捨て身技。
だけど、平晴眼の構えは刃を傾けることで、躱されたらそのまま斬撃に繋げることができるのよ!
思考加速の魔法で説明を終えた私がアルフレッドさんの首を薙ぐのと、空ぶった剣を強引に引き上げたアルフレッドさんが私の胴を打つのは同時だった。
体重の軽い私は胴を打たれた衝撃で吹き飛ばされるが、身体強化魔法は体の強度も上げるので、ダメージはあるが立てないほどではない。
「そこまでっ! この模擬戦は引き分けとする!」
オルテガさんが模擬戦の終了を宣言した。
くっそー、引き分けかぁ。
相打ち覚悟の平晴眼だったからある意味成功かもしれないけど、突きからの横薙ぎがもっとスムーズに連絡できたら勝てたのになぁ。
「あのお嬢様アルフレッドと引き分けやがった!」
「マジかよ、アルフレッドはうちでもトップクラスの実力者だぞ……」
あらら、観戦してた皆さんが驚いてらっしゃる。
まぁ、実力も示せたみたいだしいっかぁ。
身体強化を使った初めての戦闘だったし、改善点も見えたしね。
風の魔法を加えたらもっと幅広い戦い方もできそうだし、収穫があったわ。
私が戦いの反省をしていると、オルテガさんが項垂れているアルフレッドさんの所に行き話をしていた。
「アルフレッド、わかるか? 実践ならお前の負けだぞ。お嬢様の剣はお前の首を斬り落としていたが、お前の剣はお嬢様が半歩踏み込んだことで剣の根本に当たった。力で体重の軽いお嬢様を吹き飛ばしはしたが、真剣でも致命傷にはならなかっただろう」
「はい……団長が私の顔を立てて引き分けにしてくれたことはわかっています。ですが、それもすぐに意味のないことになるでしょう。あのお嬢様はすぐに私などが手の届かない頂に達しますよ」
「そうかもしれんな。守るべき相手が自分よりも強いっていうのは、騎士として少し複雑ではあるがな」
「はははっ、そうですね」
なんか二人して楽しそうに笑い合ってる。
うん、私の勝ちだって本当はわかってたよ。
でも、オルテガさんが言ってたように、突然やってきた私が期待されてる騎士にごねて勝っちゃうのも気が引ける。
勝敗はお互いがわかっていればいいのだ。
今度ははっきりと私が勝ってみせるからね。
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