第11話サマーパーティー

 マリーとガイアスの訪問から数日、私はガイアスとの戦闘から力の差がほとんどない、むしろ身体能力では負けていると感じて新しく魔法を戦闘に取り入れることにした。


 基本的にこの世界では剣は剣士、魔法は魔法師と役割分担されていて、魔法剣士って少ないのよね。

 剣士が使うのは身体強化魔法くらいで、攻撃魔法や補助魔法は魔法師の役目みたいな感じ。


 一人でいろいろやっちゃうと、どれも中途半端で大成しないって格言があるくらい。

 でも、せっかく使える引き出しがあるんだから使わないのは損だと思うんだ。


 もっともトップクラスの実力者となれば、どっちも使える魔法戦闘師がいるから目指すのはそこだね。


 今のところ実践で使えそうなのは球状に圧縮した風をぶつける『風弾』。

 切り裂く風を飛ばす『鎌鼬』。

 瞬間的に強力な風を起こす『突風』。


 この三つだ。

 難しいけど死亡フラグ回避の為に修行しなくちゃ。


 そんな勉強と修行の忙しい毎日を過ごしていたけど今日は別。

 王侯貴族の子供がメインのサマーパーティーが開かれるのだ。


 いつも開かれるのは大人が主役のパーティーで、子供は大人の添え物、アクセサリー扱いで退屈だからいつも理由をつけて不参加だった。

 でもこのサマーパーティーは子供が主役だからちょっと楽しみなんだよね。


「キリカ様のドレス、とても素敵です。涼やかな色合いが夏に合っていますね」

「うふふっ、ありがとうエミリア」


 えへへ、エミリアに褒められちゃった。

 この日の為に新しく作ったウォーターブルーのAラインのドレスは私もお気に入りなんだ。


 初めはわざわざ作らなくても持ってるドレスで十分だよって断ったんだけど、お母様にフローズン家の威信に関わると強引に作られたんだよね。

 結果、素敵なドレスができあがったからお母様には感謝してる。


 髪もエミリアに可愛くセットしてもらって今日の私はご機嫌だ。

 お母様が言うところのフローズン家の威信もこれで守られることだろう。




 会場に到着すると、王国各地から王都にある王城に王侯貴族の子供達が集まっていた。

 王宮内のイベントホールは豪華絢爛で、王国の威光を示している。


 料理はビュッフェスタイルの立食で、美味しそうなご馳走が並べられているが、料理にがっつくようなことをすればたちまち「あの家では普段ろくな料理がでないからパーティーでがっついていたのよ」とか「田舎貴族はパーティーで飢えた獣のようでしたわ」とか噂されてしまうので、みんな適量をとって食事をしている。


 王宮の一流シェフが作ってるのにもったいないけど、メインは社交だからしょうがないか。


 王国各地から集まってるだけに見たことない子も結構いるわね。

 あっ、知ってる人発見。

 目が合った二人組が近づいてきた。


「ごきげんようキリカ様。先日のお茶会には参加できず申し訳ございませんでした」

「これはディアナさんごきげんよう。お気になさらないでください。そちらの方は?」

「こちらは私の友人のサラです」

「お初にお目にかかりますキリカ様。サラ・ボイルストンと申します。噂に高いキリカ様にお会いできて光栄ですわ」

「ボイルストン家のサラさんでしたか。こちらこそお会いできて光栄ですわ」


 うん知ってた。

 ディアナ・コープランドとサラ・ボイルストンは、ゲームでキリカの取り巻き一号と二号だったからね。

 キリカと一緒になって主人公のエルカちゃんをいじめていた悪役令嬢友達だ。


 ディアナはコープランド辺境伯家の令嬢で、サラはボイルストン子爵家の令嬢。


 二人とも王都から離れた所に住んでるからこの前うちで開かれたお茶会には参加できなかったのよね。

 でも、見た感じ二人はいじめなんてするような悪い子に見えないんだよなぁ……。


 あっ! もしかして……キリカに影響されて二人は悪役令嬢になったとか……?

 どうやら私は大変な事実に気づいてしまったようです。

 悪者はキリカだけだったのです……。


 ふんだっ! でもキリカが一番悪いって言ったって、エルカちゃんをいじめていた事実は変わらないんだからね!

 二人には今後悪い子にならないよう、私の影響を受けて良い子になってもらうんだから!


「聞きましたよキリカ様、最近ブルボン家のマリーゴールドさんと仲がよろしいとか」

「そうですね。マリーとは仲良くさせてもらっているわ」

「マリー……!?」


 あれ? ディアナの様子がおかしいぞ。

 マリーの話をしたら顔色が変わった。


「……そうですか。ですが、マリーゴールドさんはあまりいい噂を聞きませんのでお気をつけください」

「それはマリーが悪い子だって言いたいのかしら?」

「――い、いえっ!? 決してそのような意味では……」


 マリーを悪く言われイラッときた私が威圧を込めて睨むと、ディアナは見るからに狼狽した。


 そうでしょうね。普通の貴族令嬢が殺気を込めた私の威圧に耐えられる訳がないもの。

 でも、私も目の前で友達を悪く言われて黙ってられないよ。


「ごきげんようキリちゃん。ここにいましたのね。探しましたわ。あら? 何か険悪な雰囲気を感じるのですが……」

「キリちゃんですって……!?」

「……ごきげんようマリー……」


 私を見つけたマリーがタイミング悪くやってきた。

 大規模なパーティーだから、そりゃあ王都に住んでるマリーもいるよね。


 ディアナが私の愛称を呼ぶマリーに目を見開いて下唇を噛みしめてるし、そんなに噛んだら唇嚙み切っちゃうよ。


 女の子同士のバトルとかやだー!

 仲良くやろうよー!

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