第10話キリカvsガイアス

 弾き飛ばされた私を追撃してきたガイアスの剣戟を受けながら、私は自分の甘さを後悔していた。


 ガイアスって十歳だよね? なんでこんなに強いのよ!?

 いくら将来強くなるっていっても同年代のうちなら楽勝だと思ってたのに甘かったわ。


「うおおおおおっ!」


 裂帛の咆哮とともにガイアスの剣戟が激しさを増す。

 木剣に魔力を流して強度を上げてるから今のところ折られはしてないけど、ガイアスの剛剣に長くはもたないだろう。


 反撃しようにもガイアスの攻撃の回転が速い、よくて相打ちってところかしら?

 無理に反撃するのは危ない?

 なら、ここは一旦距離を取るか!


 ガイアスの剣を躱して、二撃目を放つまでの僅かな隙に私は前蹴りを放つ、ダメージを与える目的ではなく距離を取る為の前蹴り。

 ガイアスを踏み台にして後ろに飛んで距離を取り、ガイアスを後ろに後退させることもできる。

 二つの効果を持った回避技だ。


 お腹を踏み台にジャンプすると同時、置き土産に振るった剣がガイアスの頬を掠め血が流れる。


 ガイアスと距離を取った私は戦闘の仕切り直しに成功し、私達は睨み合う。

 ガイアスは手の甲で頬の血を拭うと、驚きながらも楽しそうに話しかけてきた。


「やるなキリカ。同年代で俺に血を流させる奴がいるとは思わなかったぞ」

「ガイアス様こそ、簡単に勝てると思っていたのに、なんでそんなに強いのですか?」


 おいおい、自分の血を見て笑ってるよ。

 怖い怖い、そうかもとは思ってたけど、やっぱり危ない奴だったか?


 しかしガイアスの奴、スマートな見た目と違って戦闘スタイルは猪突猛進な剛剣ね。

 正直パワーは私よりも上、だったら私は技で勝つ!


 私は体をやや半身にし、剣先は相手の左目に向かせ、刀身を少し右に傾け刃を内側に向ける。

 天然理心流、平晴眼の構えだ。


「あの構えは……でもそんなはずは……!?」


 マリーが私の構えに驚いてるけど、見たことでもあるのかな?

 まぁ、王国で似た構えがあっても不思議じゃないけど。


 ガイアスは特に反応なしか、私のことを調べてたみたいだし、調査済みってことかな?


「それが噂の平晴眼か? 危険な香りをひしひし感じるぞ」

「やはり調査済みですか? もしかしてガイアス様はストーカーなのですか?」

「なっ!? それは違う! 調査していたのは兄貴だ! 俺じゃない!」


 ストーカーはお前かラファエル!

 後で覚えとけよ。


「そうでしたか。まぁ私としてはどちらでも同じことですが、今はガイアス様を打ちのめすことで憂さを晴らすとしましょう」

「俺はよくないぞ、濡れ衣だ。この戦いの後で話し合おう」

「そうですね。まずは決着をつけましょう。弁解はその後で受けつけます」

「だから俺じゃないっての、ったく……」


 言い訳は後で聞いてやる。

 もっとも、私にやられて口もきけないほど怪我するかもしれないけどね。

 乙女の秘密を調べた罪、その身に叩き込んでやる!


 私はガイアスが攻撃に出る前に、自分から仕掛けた。

 私よりもパワーがあり、攻撃の回転も速いガイアスを相手に、後手に回るのは悔しいけど不利だ。


 だったら私から攻めていくしかないでしょ!

 でも私はよっぽどの格下でもないかぎり、正面から突っ込んだりはしない。


 小刻みにフェイントを織り交ぜながら突きを放つが、ガイアスに体さばきで躱される。

 ちっ! そう簡単にはいかないか、でも平晴眼からの突きは二段構えよ!


 突きを外した私が首を薙ぎにいくが、ガイアスはダッキングで躱してしまう。

 うっそー!? これも躱しちゃうの!

 薙ぎ払いを躱されて隙を見せた私に、ガイアスの剣が迫る。


 やばやばっ! どうするどうするっ!?

 思考加速で体感時間を長くした私が打開策を考えている間にもガイアスの剣は迫ってくる。

 だったらこれだー!


「なにっ!?」


 迫るガイアスの剣を私は薙ぎ払いの勢いを利用して回転して避け、その回転の遠心力も利用した斬撃を繰り出す。

 攻撃を躱され、その上反撃してきた私にガイアスは目を見張った。


 驚いてる驚いてる、正直私もびっくりしてる。

 まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。

 後はこの回転斬撃を決めるだけ、いっけー!


 私の放った渾身の回転斬撃はガイアスの剣によって防がれ、剣を合わせて鍔迫り合いになった。

 なんで! あんたさっき剣振って無防備になってたじゃん! 戻りが速いって!


「はっはー! 今のは危なかった! どうやら兄貴の話は本当だったようだ。キリカがここまで強いとは思わなかったぞ!」

「私は今の攻撃で決めるつもりだったんですけどね。しつこい男は嫌われますよガイアス様」

「そういうなよキリカ。こんな面白い戦いが早く終わったらもったいないだろう」


 鍔迫り合いをしながらガイアスは楽しそうに笑っていた。

 けっ! これだから戦闘バカは困る。

 テンション上がってキャラ変わってるじゃん。


 しかし強いなこいつ、これでも私はフローズン家では一番の強者だと自負してるんだけどな。

 今でこれなら成長したらどんだけ強いんだよ。


「こないならこちらからいくぞっ!」


 心の中で愚痴っていたらガイアスが仕掛けてきた。

 体格とパワーで勝るガイアスは、鍔迫り合いから押し込もうと力を込めた。

 前に出るタイミングで私が後ろに引くと、ガイアスは前のめりにバランスを崩す。


 そこで私は、合わせた剣を巧みに操りガイアスの体をコントロールする。

 バランスを崩して体の自由を失ったガイアスの顔に剣を突きつけた。


「そこまでっ!」


 勝負ありと判断したシリュウさんが試合終了を宣言した。


「……俺の負けだ。最後のは何だ? 前に出ようとしたら突然バランスが崩れたんだが」

「それは企業秘密です。教えたら私の優位がなくなってしまいますから」

「それは残念だ。だが、次は負けんぞ」

「ええ、また戦いましょう」


 ガイアスが爽やかに笑って語りかけてきた。

 顔は笑ってるけど口の端がちょっと引きつってるあたりに内心の悔しさが見て取れる。

 ぶつぶつと「この頬の傷は敗北を忘れぬ為に消さん」とか言ってるし!

 回復魔法で軽傷なら綺麗に消せるんだから消してよ!

 これは近いうちに再戦の申し込みがあるかも……。


 シリュウさんまで面白そうに私を見てるけど、貴方と戦ってもまだ勝てる気がしないからやらないからね!


 最後の技は古流剣術の続飯付そくいづけ

 剣を合わせた状態から相手をコントロールする技なんだけど、上手く決まったのはガイアスが初めて受けた技だからだろう。


 対策されたくないから内容は教えないよ。

 とはいえ一度見せた技だし、次も上手くいくかはわからない。


 あれ、マリーまで「あれはまさか続飯付?」とか言って難しい顔で考え込んでる!?

 えっ、知ってるの? まさかブルボン伯爵家の秘伝だったりするの?


 いろいろ不安はあるけど、現時点ではガイアスよりも私の方が強い。

 抜かされないように頑張らなくっちゃ。

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