転生したら乙女ゲームの悪役令嬢だった ~原作ではどのルートでも死ぬ運命の令嬢はハッピーエンドを目指す~

ギッシー

第1話転生したら乙女ゲームの悪役令嬢だった

「痛あ!」


 頭に強烈な痛みが走り、私は蹲って頭をさする。

 辺りを見回すと高そうな調度品が設置された洋風の部屋だった。

 いった〜……てっ、えっ! 私家でゲームしてたはずなのに……どこよここ!

 う〜ん、確か私は家でプリンセスデスティニーをプレイしてたはずなんだけど……。

 ここは西洋館かしら? 何だか見たことがあるような……。


 私がプレイしていたプリンセスデスティニー(略してプリデス)とは、平民の主人公エルカが聖属性の魔力を見出されて王立魔法学院に入学し、七人のメインキャラ達と恋愛、冒険、バトルを繰り広げる恋愛シュミレーションRPGで、恋愛ゲームの要素とRPGの要素を合わせたゲーム性が受けて人気コンテンツとなった乙女ゲーム。


 私は攻略対象の男の子にはときめかなかったけど、主人公のエルカちゃんとストーリーは好きだった。

 それに、このゲームは主人公の選択によってストーリーや仲間が変わるフリーシナリオが売りで、RPGとしても良くできていたのよね。


 そうそう、プリデスをプレイしてたのよ! 

 攻略対象七人のうち六人までクリアしたから土日の連休で最後の一人、第一王子のラファエルを落としたのよね。

 それでエンディングを見て、エルカちゃん……尊い……しゅき……ってなったところまでは覚えてるんだけど、その後はどうしたんだっけ?


 私が記憶をたどり、自分が何をしていたか思い出そうとうんうん唸って考えごとをしていると、一部始終を見ていた侍女風の少女が声をかけてきた。


「大丈夫ですかキリカ様! お怪我はありませんか?」

「え、ええ。大丈夫よ。ところで、私はさっきまで何をしてたかしら? 何だか頭が痛いんだけど……」

「キリカ様は先程派手に転んで頭を打っていました。それで痛いのかと……」


 あーーー! 思い出した! 私は死んだんだ! そして、ゲームキャラに転生したんだ……。

 私は侍女の少女に言われて思い出した。

 ゲームをプレイしていたのが前世の記憶だったことを……。


 前世の名前は早乙女霧歌さおとめきりか十六歳。

 私立シスル女学園高等科に通う女子高生だった前世の記憶を頭を強く打ったことで思い出した。

 問題なのは今世の人物である。

 プリデスで主人公のエルカをいじめ抜く悪役令嬢、キリカ・フローズンだったのだ。


 プリデスではどのルートでもキリカは死ぬ。

 攻略対象と結ばれればエルカを殺そうとしたところを攻略対象に邪魔され返り討ちにあって死に、友達との友情エンドではエルカの友達に返り討ちにあって死ぬ。

 ラスボスとして登場し、主人公パーティーに倒されて死ぬルートなんてものまである。


 もっとも、全ては高慢ちきでプライドだけは高く、公爵家の令嬢という立場を使い悪さばかりするキリカ・フローズンが悪いんだけどね。


 因みに攻略対象の一人である第一王子のラファエル・イノベイアはキリカの婚約者なんだけど、どのルートでも婚約破棄され、それがきっかけで自暴自棄になりエルカを殺そうとして逆に殺されるのだ。


 ようするにゲームの世界系異世界転生ってことね!

 完全に理解した!

 オタクなら必ず一度は夢を見るのが異世界転生よ!

 ふおーー! オタク魂が燃えてきたわ!


 でも、異世界転生は楽しそうだけど、よりによってキリカ・フローズンかぁ。

 前世の私と同じ名前だから嫌いなキャラではなかったけど、学園卒業までには大抵死ぬのよね……。

 見た目は可愛いんだけどなぁ。

 キリッとしたつり目に高めの身長の美人なのよね。


 性格は悪いが見た目と家柄だけは良い。

 それが主人公エルカのライバルキャラ、キリカ・フローズンである。

 転んで頭を打ったことで前世の記憶とキリカの記憶、二つの記憶を持つことになったけど、主人格は前世の私になったようだ。


 今のキリカは十歳だったわね。

 そもそも転生したってことはエンディングの途中で死んだのかしら?

 まさか……尊死? それならオタクとしては本望よ。

 前世の私にいっぺんの悔いなし!

 きっと鼻血を使ったダイイングメッセージには尊死と書かれていたでしょうね。


 私は腕を組んでうんうんと満足して頷くが、本当の死因は寝不足と疲労による突然死だったりする。

 自分でもわかってるけど認めたくない!

 でも、プリデスの全エンディングを見終えてから転生した私に悔いはない。


 もちろん友達や家族と会えなくなるのは寂しいけど、キリカの記憶も同居した今、キリカ・フローズンの家族も本物の家族なのだ。

 どちらの家族も本物だが、全てがなくなったのではなく一方がなくなったので寂しさは半減していた。


「あの、キリカ様。本当に大丈夫ですか? やはり頭が痛いのでは?」


 転んで頭を打ったのに嬉しそうに頷く私を不審に思った侍女の少女が心配そうに伺ってきた。


「大丈夫よ。貴方は確かエミリアだったわね。ごめんね、心配かけて」

「キリカ様が私の名前を……しかも謝るなんて……こうしてはいられません!」


 唯我独尊わがまま娘だったキリカの変わりように、キリカ付き侍女の少女エミリアは、驚きに打ち震えた後、急いで部屋から出て行った。


 無理もないか、以前のキリカであれば痛い痛いと喚き散らして「私だけ痛いなんてずるいですわ。貴方も同じ目にあいなさい」と八つ当たりで殴られていただろうしね。

 酷い話であるが、それが元々のキリカ・フローズンなのである。

 ところが頭を打ったキリカは喚くどころか嬉しそうに笑い、謝罪の言葉までかけた。

 キリカが私になってることを知らないエミリアが動転するのもしょうがないか。


 エミリアがどこかに行っちゃったわね。どうしたのかしら?

 まあいいか、取りあえず現状を確認しましょう。

 私は部屋に設置された姿見で自分の姿をまじまじと見つめる。

 そこには美幼女幼い頃のキリカが映し出されていた。


 う~ん、やっぱり綺麗ねキリカ。

 艶のある薄紫色の髪に磁器のように白い肌、若いからぷにぷにね。

 ……美幼女だわ。

 十歳でこれなんだから、第一王子のラファエルが見た目に騙されるのも無理ないわね。


 ゲームでは幼い頃に出会ったラファエルがキリカの見た目に惚れて求婚し婚約者になるのだが、次第に我儘なキリカに辟易するようになってしまう。

 そんな時に出会ったのがプリデスの主人公エルカである。


 エルカの優しさに次第に心惹かれたラファエルは学園のダンスパーティーの夜、キリカに婚約破棄を告げる。

 それに逆上したキリカはエルカちゃんを殺そうと襲い掛かるんだけど、エルカちゃんを守ろうとしたラファエルに、逆に殺されるのよね。


 って、どんだけ我儘だったのよキリカは!

 王子も何も殺さなくても良くない?

 まあ、エルカちゃんの命狙ってたから自業自得なんだけどねぇ。

 はぁ……私も殺されるのかな……。


 自室で物思いに耽っていると大きな音を立ててドアが開かれた。


「キリカ! 頭を打ったというのは本当か? 医者を連れてきたぞ!」

「医者は大丈夫ですお父様。たいしたことはありませんので」


 おおう……キリカの親父さんじゃん!

 って、もう私の親父でもあるのか。

 父様はいい人なんだけどキリカには甘々だからなぁ。

 ちゃんと躾けなきゃだめだよ。

 じゃないと殺される未来が待ってるんだから……。


 やってきたのは医者を連れたキリカの父親、フローズン公爵だった。

 大げさに心配してくる父親に私はあまり甘やかさないでほしいと願う。

 あまりに甘やかすとゲームのキリカみたいなモンスターに育ってしまうので、程々でお願いしたいところだ。


「そうか? なら午後からの適性検査は受けれそうだな。我がフローズン家の為にもいい結果を期待しているぞ!」


 適性検査、それは年一回十歳になった者たちが神殿に集められ、自分に潜在する才能を鑑定する儀式である。

 もっともフローズン家ように高位の貴族ともなれば、検査用の魔道具を持った神官を招いて家で検査をする。

 今日は午後から神殿の神官を招き、適性検査をする予定だったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る