第2話ゲームの世界で生きていく

適性検査かぁ。

 この検査で主人公のエルカちゃんに聖属性の魔力があることがわかって、将来の聖女だって期待されるのよね。


 そして、平民でありながら王立魔法学院への入学を許可され、そこからプリデスの本編が始まると。


 エルカの聖属性の魔力は非常に珍しい属性であり、発見されれば聖女として育てられる。


 王立魔法学院は本来であれば平民が入学できる学校ではないが、才能がある者は特別に許可される。


 それは魔力は基本的に貴族しか持たない力だからだ。

 魔力は遺伝する力であり、貴族は貴族同士で結婚することが普通である為そうなっていた。


 貴族達は競走馬のように魔力の強い者同士で子供を作り、より強い魔力を持つ者を生み出していた。

 所謂サラブレッドってやつね。


 だが、何事にも例外はあるもので、稀に平民でも魔力持ちが生まれる。

 そういった例外を漏らさない為に力を認められた者だけは平民でも学院への入学を許されているのよね。


 でも、平民のエルカちゃんは学院でいじめられるんだよなぁ。

 まあ、いじめの首謀者は私ことキリカなんだけど……。


 もちろん、今の私はいじめなんてダサいことしないよ!

 好きなキャラだし、会えるならむしろ仲良くなりたい!


 まだ見ぬエルカに思いを馳せている間に適性検査の準備が整い、呼びにきた侍女に連れられて、私は会場へと移動した。






 適性検査の会場には応接室が使われ、両親と神官が準備を整えて待っていた。

 私が入室すると神官の男性が口を開く。


「お待ちしておりましたキリカお嬢様、それでは適性検査を始めましょう。この水晶に触れてください」


 神官は用意した魔道具に触れるように促す。

 この魔道具に触れると、それぞれの属性に沿った色を発して内在する魔力属性を教えてくれるのだ。


 私が水晶玉に触れると緑色の光を放つ。

 これは私の魔力属性が風属性ということになる。


「おおおっ! 緑色です! キリカ様は風属性の魔力をお持ちですぞ!」

「やったなキリカ! さすが私の娘だ!」

「まあ、私の娘でもありますし」


 緑色に光る魔道具を見ると神官と両親は大仰に喜ぶが、それをよそに私は思考に耽っていた。


 やっぱり風属性かー、風魔法は攻撃、防御、移動にも使える汎用性の高い属性だったわね。


 キリカラスボスルートでは風魔法を駆使して主人公パーティーと戦うんだけど強かったもんな。


 確かゲームのキリカは運動も勉強も魔法もできるけど、努力しなくてもできちゃうせいでなまけちゃって、主人公のエルカちゃんに抜かれちゃうのよね。


 で、それが気に食わないキリカは努力すればいいのに、余計にエルカちゃんをいじめる方向に努力しちゃうんだよなぁ。


 改めて考えてみてもキリカって嫌な奴ー。

 ゲームのキリカは恋愛でも学校の成績でもエルカに負けて自暴自棄になってしまったが、元々は才能溢れる美少女だったのだ。

 だが、困ったことに性格が悪かった。


 わがまま放題のキリカに嫌気が差したラファエルが、優しいエルカに走るのも無理はないのかもしれない。


 でも、確かにキリカも悪かったけどラファエル王子のやったことって、要するに浮気だよね?

 よく考えるとラファエル王子も酷くない?


「良くやったぞキリカ! なんと優秀な娘なのだ!」


 私が思考に耽っていると父親のフローズン公爵が喜びのあまり頬ずりしてきた。

 ひぃ、痛い痛い!

 髭がジョリジョリして痛いよ!


「止めてくださいお父様! 髭が痛いです!」

「そんな……以前はあんなに喜んでいたではないか?」

「貴方、キリカさんが嫌がっておりますよ。キリカさんはもう十歳なのですから、そのぐらいにしてください」


 嫌がる私にお父様はショックを受けるが、それでも放そうとしない。

 それを見かねたお母様が溜息を吐きながら止めに入ってくれた。


「むっ、確かにな。すまないキリカ」


 ナイスだママンっ!

 ジョリジョリが痛キモくて危うく手が出るとこだったよ……。


 生前の早乙女霧歌が通っていたシスル女学園は明治に創立された学園で、もとは華族や武家の令嬢の為に作られた初等科から大学まで一貫の伝統あるお嬢様学校だった。

 武術と教育の融合をコンセプトにしている変な学校だ。


 そんな変わった学校に通っていた私、早乙女霧歌は要するに戦える系のオタクである。

 私は父親を殴って大変なことになる前に止めてくれた母に感謝するのだった。


 ふい~、危ない危ない。日本とは常識が違うんだから気をつけないと。

 以前のキリカの記憶もあるから、混乱しないように後で整理しなきゃね。

 こうして私の魔力属性が判明し、適性検査は終了するのだった。






 検査を終えた私は部屋に戻り侍女の入れてくれた紅茶を楽しんでいた。

 うんまっ!? さすが貴族! いい茶葉を使ってるわ! 異世界クオリティってこと?

 貴族令嬢がしょっちゅうお茶会を開くのも頷けるわね!

 さすがは公爵家といったところか、生前の私が飲んだことのないとても良い香りのする紅茶だった。


 霧歌時代からお茶好きだった私はフローズン家の紅茶の味に感銘を受ける。

 にこにこ笑顔でお茶を楽しんでいると、侍女のエミリアがティーポットを持って声をかけてきた。


「キリカ様、お茶のおかわりはいかがですか?」

「ありがとう、いただくわ」

「――そんなっ! キリカ様がお礼を言うだなんて……!?」

「どうしたのエミリア? 何かまずいことでも言ったかしら?」


 そばに待機していたエミリアは地に膝をつき驚愕している。

 なになに!? どうしちゃったのエミリア!?


「……あの~エミリアさん? どうかしたのかしら?」

「お……お嬢様が……侍女の私にお礼を……。フローズン家の令嬢として恥じない方に……ご立派になられて……」


 お礼を言っただけでこれって……キリカ・フローズン恐るべし……。

 跪き瞳から涙まで流す姿に私は若干引くが、エミリアの反応は仕方ないのかもしれない。


 以前のキリカであれば侍女にお礼など絶対に言わなかった。

 蝶よ花よと大事に甘やかされて育ったせいで、性根が腐ってしまったのだ。


 草木も水や栄養を上げ過ぎれば上手く育たないのと一緒である。

 性根の腐ってしまったキリカは侍女は自分に尽くして当然だと思っており、お礼を言うなど考えられないことだった。

 私の性根は腐ってないから、お礼くらい言うけどね。


 その日を境に「キリカお嬢様は頭を打って優しい性格になられた」と使用人の間で噂されることになるのだった。

 それだわ!


 いいじゃない優しいキリカお嬢様!

 私がのちに出会うはずのエルカちゃんをいじめなければ、バッドエンドを回避できるはずよ。


 ま、元々そんな気はないんだけれどね。

 だって私、エルカちゃん好きだもの。

 とっても頑張り屋でいい子なのよ。

 なんか私、頑張ってる人って応援したくなるのよね。


 もしもの時の為に戦闘能力も上げなくちゃ。

 いざという時に頼れるのは己の力だもの!


 ファンタジー世界では力があれば大抵のことは解決できるのよ。

 まさに、力こそパワーッ! 暴力は全てを解決するってやつね。


 ま、私は強いからって傲慢な人間は大嫌いだから、そこのところは弁えてる。

 私は絶対にバッドエンドになんてならないわ。

 ハッピーエンドをこの手で掴み取るのよ!


 こうして私のキリカ・フローズンとしての人生は始まったのだ。

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