第3話お茶会
「キリカ様、今日は貴族の子息、令嬢が集まるお茶会がありますので準備をしましょう。ラファエル様もいらっしゃいますから綺麗にしますよ!」
私がキリカ・フローズンになって二日目の朝、侍女のエミリアからそう告げられた。
今日はフローズン家と付き合いのある貴族の子供達を招いて、交流目的のお茶会が開かれるんだけど、ラファエル王子?
もちろんキリカの記憶も引き継いでるからラファエル王子は知ってるよ。
プリデスの攻略対象でもあり、後にキリカの婚約者になるこの国の第一王子だよね?
いつの時点で婚約者になるのかはわからないけど、今はキリカが一方的に追いかけていて、ラファエルが迷惑そうにしている記憶が私の中のキリカの記憶にある。
ゲームでは登場した時からキリカの婚約者として出てきたからわからなかったけど、子供の頃はキリカから猛烈アタックしてたのかぁ。
で、そのラファエルがうちにくると?
やだっ! 会いたくない!
だってラファエルとの婚約破棄がきっかけでキリカのいじめがエスカレートして、最終的に死ぬ運命に繋がるのよ!
会いたい訳がないじゃない!
「なんだか嫌そうですねキリカ様。大好きなラファエル様がいらっしゃるのですよ?」
「そうね。なんで私ラファエル様に入れ込んでいたのかしら? もう熱が冷めたわ。もっと私に相応しい人がいると思うのよね」
嫌そうな顔をしていたらエミリアに突っ込まれた。
昨日から私がキリカになったことで、エミリアに遠慮がなくなってきたわね。
私が怒らないとでも思ってるのかしら?
正解よ!
そんなことでいちいち怒る訳ないじゃない。
勘がいいわねエミリア、やるじゃないの。
で、なぜ私がすまし顔で熱が冷めたわとか言ってるかというと、今のうちに婚約しないような下地を作っておきたいからだ。
ラファエル様になんて興味ないわー、もっと私に相応しい人がいるわーって態度を取っておけば、自然とラファエルの婚約者候補から外れていくんじゃないかな。
キリカとラファエルは同い年で、王国の大貴族の娘であるキリカは婚約者候補の上位にいると思うのよね。
猛烈アタックしていたキリカだけど、放っておいても婚約していたんじゃないかしら?
ゲームでは実際に婚約してたし間違いないでしょう。
だから私はその逆を行く。
将来死なない為に、ラファエルと婚約しないようにする作戦よ。
「はい! 準備できましたよキリカ様! とってもお綺麗です」
「ありがとうエミリア」
考え事をしている間にエミリアが私の身支度を整えてくれた。
いつの間にか髪を編み込んで綺麗な服に着替えていたわ。
さすがはエミリアといったところかしら。
自分で言うのもあれだけど……美幼女だわ。
って、こんなに可愛くしたらラファエルに気に入られてしまうじゃない!
……まあいいわ。
可愛くなるのはいいことだもの。
オシャレは楽しいし、しょうがないよね。
準備ができたところでエミリアと会場に向かう。
フローズン家の庭園に作られた会場には、すでに貴族の子供達が集まっていた。
広い庭園に立食形式で軽食やお菓子、お茶が用意されていて、みんなそれぞれにパーティーを楽しんでいる。
今日はラファエルだけがくるのではなく、貴族同士の交流目的のお茶会だ。
王侯貴族は子供時代から付き合いがあるから結束が固いのよね。
「キリカ様、本日は素晴らしいお茶会にお招きくださりありがとうございます」
「ごきげんよう。今日は存分に楽しんでください」
私達が会場入りすると、すでにやってきていた参加貴族の子供達が挨拶にやってきた。
今日も有力者との縁を作る為に、腹黒貴族どもが子供を引き連れてやってきたわね。
まったく、貴族同士の付き合いってめんどくさいわ。
「ごきげんようキリカ様。そのドレスとてもお似合いです。美しいキリカ様をより輝かせていますわ」
「ありがとうございます。お気に入りのドレスなので、誉めていただいて嬉しいです」
今度は幼女の集団に囲まれたよ。
なんかこの子達見覚えあると思ったら、プリデスでキリカの取り巻きやってた子達じゃない?
こんな昔から太鼓叩いていたのか。
フローズン家の娘と仲良くなれって、親に命令でもされてるのかな?
でも、私は取り巻きじゃなくて友達が欲しい。
そう思った私は挨拶もそこそこに立ち去ろうとするが、取り巻きに回り込まれた。
キリカは逃げられなかったってか!
はっはっはっ! 舐めてもらっちゃ困るのだよ!
私は華麗なステップで躱すと、取り巻き達を置き去りにして足早に立ち去った。
後ろから「お待ちになってキリカ様〜!」と聞こえてくるが「ごめなさい、急いでいますの」と返しておいた。
ごめん取り巻きのみんな、私は損得関係なく付き合える友達が欲しいの!
取り巻きから逃れて会場を観察していると、隅の方で我関せずと、お茶とお菓子を楽しんでいる令嬢が目に入った。
あれって、主人公のエルカちゃんの友達になる友人キャラ、ブルボン伯爵家の令嬢マリーゴールド、通称マリーじゃない。
幸せそうにお菓子を食べているわ。
わかる! お菓子って基本的に糖質と脂質しかないから体に良い物ではないけど、心に効く栄養があると思うのよね。
そういえば、私にプリデスを紹介してくれた親友がマリー推しだったなぁ。
私は死んじゃったけど、元気してるかな?
暦ちゃん! 貴方の代わりに私がマリーと仲良くなってみせるわ!
私は前世の親友である、
「ごきげんようマリーゴールド様。美味しそうですね。私もご一緒してもいいかしら?」
「キリカ様っ!? どうぞ、って、これはフローズン家主催のお茶会でした。私の言うことではありませんね。後、私のことはマリーでいいですわ。マリーゴールドは長いですから」
マリーはいけないいけないと小首を傾げて、テヘペロと舌を出して笑った。
あざとい! その仕草はあざといわマリー!
愛くるしい見た目と合わさって破壊力抜群じゃない!
思わず私のハートがトゥンクと音を立てて高鳴ってしまったじゃないか!
マリー……恐ろしい子……。
私とマリーが楽しくお喋りしていると会場からどよめきが起こった。
なにかしら? あー、ラファエルがきたのね。
一緒にいるのは確か宰相の息子のアルベルトだったかしら。
騒がしい場所を見ると、取り入ろうとする貴族の子供達に囲まれるラファエルとアルベルトがうざったそうに相手をしていた。
アルベルトも攻略対象なんだけど、眼鏡をかけた知的な男の子ね。
頭良さそー。
ラファエルは天使なのってくらいすっごい美形。
綺麗な金髪をなびかせてるわ。
これで白馬に乗ってたら完全に王子様じゃない。
あ、そういえば王子様だったわ。
ま、私は元高校生だし、今更十歳の子供にときめいたりしないけどね。
ショタは嫌いじゃないけど恋愛対象じゃないのだ。
でも、王族と宰相の子息ともなると、有力貴族家の私よりも大変そうね。
まあ、私はもうあまり関わりたくないから放っておくけど。
あれ、こっちにきた!?
「やあキリカ、マリー久しぶり。元気そうだね」
「お久しぶりですねラファエル様、アルベルト様。今日は楽しんでいってください」
「あれ? それだけ? いつもならラファエルにくっついて離れないのに」
「まあっアルベルト様ったら。私、もうそんなに幼くありませんのよ」
近づいてきたアルベルトが話しかけてきたから相手をしたけど、なんかラファエルは不機嫌そうね。
そんな仏頂面してるとせっかくのイケメンが台無しよ。
ていうか、仏頂面ってより訝しんでるような表情かな?
私が以前のキリカと違うって気づいたのかしら?
はははっ、まさかねー。
そもそも私はキリカと同化してるから本人に違いはないしー。
「お前、本当にキリカなのか? 随分雰囲気が違うようだが」
訝しんでいたラファエルが声をかけてきたけど、このショタ、口が悪いわね。
貴方にぞっこんだったキリカはもういないのよ!
「あらあらラファエル様、調子に乗るのも大概になさったらどうかしら? 私は貴方にお前なんて呼ばれる筋合いはなくってよ」
て、これじゃ悪役令嬢みたいじゃない!
あ、私、悪役令嬢に転生したんでした。
どうも昔から調子に乗って偉そうにしてる人間って嫌いなのよね。
よくやんちゃなんて可愛く表現してる人がいるけど、私からしたらたんなる迷惑で嫌な人だわ。
やんちゃなんて可愛く言えば許される訳じゃないのよ。
周りの迷惑を考えろって話。
あ、私に反論されてラファエルが呆然としてるわ。
第一王子だからって調子に乗ってるからよ!
あれ、なんかマリーとアルベルトが青い顔してる。
もしかして、王子に対して不敬であるぞ! 無礼討ちじゃ! とかあるの!?
調子に乗ってたのは私でしたってこと?
不安になってきた私だが、顔だけには余裕の笑みを貼り付けているとラファエルが口を開いた。
「ふんっ、面白え女」
こいつ! 漫画のテンプレみたいなセリフ言いやがった!
それってお前のこと気に入ったぜってことと同義じゃない!
やめてよー、私には心に誓った人はいないけど、生意気なショタは好きじゃないのよね。
あっ! 面白え女発言で満足したのか、行っちゃったよ。
で、なんか離れた所からこっちを観察してるし!
キモッ! ストーカーか!
その後お茶会が終わるまで、私はラファエルに観察されることになるのだった。
なんか私、厄介な奴に気に入られちゃったのかな?
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