第15話オーロラを救え

 私とアルフレッドが会話をしている隙にオーロラは姿を消していた。

 さっきまでそこにいたのにどこへ行ったのオーロラ!?


「くそっ! 私がついていながらオーロラ様を見失ってしなうとは……」

「アルフレッド、貴方達をつけていた者達の気配があったわ。その者達の仕業じゃないかしら?」

「本当ですかキリカ様! くそっ! 気づかなかった……」


 アルフレッドは奴らの気配に気づいてなかったのか、じゃあ何か!? 私の方が尾行が下手だったってことか!?

 ふんだ! 相手は本職の盗賊だし! 私達は戦闘が本職なんだから、専門家に勝てないのはしょうがないじゃない!

 悔しいが今はオーロラを探すのが先だ。

 オーロラを攫ったと思われる賊の気配は……見つけたっ!

 私達から遠ざかるように移動している。


「アルフレッド、賊の気配を探知したわ。追うわよ!」

「さすがキリカ様だ! 了解しました!」


 気配を追って移動を開始すると、賊は町の中心から外れた郊外に向かって進んでいた。

 私達の住む王都は町の中心から離れるほどに治安が悪くなり、城壁外にはスラム街が広がっている。

 オーロラを攫ったのは王都で活動する盗賊の仕業か?


「このまま進むと治安の悪いスラム街に出ますね。賊はスラムの悪党でしょうか?」

「どうかしら? 相手は私やアルフレッドに気づかれずにオーロラを誘拐したのよ。手練れと見た方がいいわね」

「なるほど。ただのチンピラにそんなまねはできませんからね。慎重にいきましょう」


 慎重にか……確かにそうだけど、それでオーロラにもしものことがあったら私は一生後悔することになるわ。


「アルフレッド、ここにいる私達は戦闘に関してはフローズン公爵家でも指折りの実力者。その私達の目を盗んでオーロラを攫ったのよ。それはフローズン公爵家を敵に回したと同義。フローズン公爵家が人攫いごときに舐められる訳にはいかないのよ。ま、念の為に作戦は立てるけれどね」

「了解しましたキリカ様!」


 そう、フローズン公爵家を敵に回したらどうなるか思い知らせなければならないのだ。

 オーロラを攫ったことを絶対に後悔させてやる。

 私達が作戦を練りながら追跡していくと、賊がアジトらしき建物に入っていくのを確認した。

 王都の端にある大きい倉庫のような建物だ。


「ここが賊のアジトでしょうか?」

「恐らくね。じゃあアルフレッド、作戦通り行くわよ」

「了解しました」


 アルフレッドの返事を聞くと私は行動を開始した。

 若い女が攫われたら救出はスピード勝負だからね。

 傷物にされてからでは遅いのだ。


 オーロラ救出作戦はアルフレッドが囮として正面から突入し、その隙に私がオーロラを救出するという作戦だ。

 私がアジトの屋根に登り中を確認すると、拘束されたオーロラがいた。

 賊は……十人か、結構多いな。


「貴方達! 私が誰か知っていて誘拐しましたの? 私はフローズン家の二女オーロラ、こんなまねをしてただで済むと思っていまして!」


 まずいよオーロラ! そんな挑発するようなこと言ったら何されるかわかんないよ!


「やかましいガキだ。フローズン公爵家の二女は王都にはいねえんだよ。騙るなら別の人間にするべきだったな」


 賊の一人が短剣をオーロラの顔にペシペシと当てて脅しをかける。

 ほら言わんこっちゃない。

 刃物を突きつけられてちゃ迂闊に突入できないじゃないか。

 オーロラは最近帰ってきたばかりだから、王都にいないと思われてるんだな。


「暴力で脅せば大人しくなると思うだなんて、実にくだらなく低俗な発想です。フローズン公爵令嬢は、そんな脅しには屈しませんわ!」

「……ガキが、痛い目見なきゃわからねえようだな!」


 危ない!

 賊が短剣を振りかぶってオーロラを斬りつけようとしたのを見た私は、考えるよりも先に体が動いていた。


「よく言ったわオーロラ! 『風弾』!」

「ぐああっ」

「キリカお姉様……!?」


 私はアジトに突入すると『風弾』でオーロラを斬りつけようとした賊を弾き飛ばし、倒れた賊の頭を踏み潰した。

 血と脳漿が飛び散り、頭を踏み潰した嫌な感触が足に残る。

 うぎゃあああ気持ち悪い!

 踏み潰すのは今後控えよう。

 服も汚れちゃうしね。


 見直したわオーロラ。

 貴方のフローズン公爵令嬢としての矜持、貴方の誇りは……私の心に響いたわ!

 貴方をこんな所で死なせないし、辱めるようなことなんて絶対にさせない!


「ナイス突撃ですキリカ様!」


 私の突入に合わせてアルフレッドも正面から突入し賊を斬り伏せていく。

 やっぱり手練れとはいえ所詮盗賊、戦闘専門の騎士であるアルフレッドの敵じゃないわね。


「アルフレッド! 何人かは生かして捕らえなさい! 情報を吐かせるわ!」

「了解しました!」


 さっき初めて人を殺したのに、悪人を殺すことに何の躊躇もなかったな。

 今だってアルフレッドに殺してもいいって指示してるようなものだし、私もこの世界の住人になったってことかな?


「キリカ様、賊の討伐と捕縛完了しました」

「お疲れ様、さすがアルフレッドね」

「へへっ、盗賊如きに遅れは取りませんよ」


 私がオーロラの拘束を解いている間に、アルフレッドは賊を倒していた。

 やっぱり強いね。


「キリカお姉様……ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした……」

「貴方のせいじゃないわ。悪いのは全部盗賊よ」


 オーロラは攫われたことに気を落としているけど、攫った方が悪いに決まってる。

 それに私が後をつけていたせいでアルフレッドがオーロラから目を離したんだから、ある意味私のせいでもあるんだから。




 その後捕らえた賊から情報を聞き出した結果、王都に巣食う中堅犯罪組織の犯行だったことがわかった。

 どうやら本当にオーロラだと知らずに攫ったみたいだ。


 ようするに金持ちを狙ったお金目当ての誘拐だったみたい。

 後日フローズン家の騎士団が動いて中堅犯罪組織は壊滅した。

 奴らは敵に回しちゃいけない相手に手を出した訳だ。

 まったく迷惑な連中だよ。

 攫われたオーロラはというと……。


「キリカお姉様、町に視察に行きますがご一緒にいかがですか?」

「今日は用事があるから遠慮しておくわ」

「なっ! 私の誘いより優先する用事とは何ですの? 私もご一緒しますわ!」


 ツンな妹がデレた。

 仲良くなれたのはいいんだけど、どうしてこうなった?

 私は腕を絡ませて離れないオーロラを見て溜息を吐くのだった。

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