第35話突入

「ここが没落貴族のお屋敷ですか……なんだか荒れ放題で、お化けでも出てきそうな雰囲気ですね」

「ここは町外れな立地もあって、何年も前から買い手がつかずに放置されているらしいわ。その界隈じゃ有名なお化け屋敷だとか、敷地も広いし悪党のアジトにはぴったりね」


 屋敷を見たマリーの呟きにヴィクトリアが返答する。

 界隈で有名なお化け屋敷を知ってるなんて、ヴィクトリアはオカルトもイケる口なのかな。


「アンデッドが出るなら、聖女として私が祓わなくちゃ」

「エルカちゃん、意気込みは素晴らしいけどここにいるのはアンデッドじゃなくて悪党よ。エルカちゃんは後方で回復をお願い」

「そ、そうだね。ここはお化け屋敷の殻をかぶったケルベロスのアジトだったね」


 エルカちゃんがのんきなこと言ってるけど、本物の悪党が驚かすお化け屋敷とかあったら怖そう。

 案外人気アトラクションになったりして。

 そんなことを考えつつ、私達は正面から堂々と正門を通る。


 知らない人から見れば正面から行くなんてありえないとか言われるかもしれないけど、私達は魔法学院の精鋭中の精鋭だ。

 こちらの戦力が上なら小細工などいらぬ。

 力で捻じ伏せれば良いのだよ。

 その方が早いし効率的だ。


「なんだお前ら――ガハッ」


 私は正門の先に待ち構えていた警備兵を問答無用で殴り飛ばす。


「敵襲だ! 一人やられた! 人を集めるぞ!」


 不用意に近寄ってきた一人を殴り飛ばしたところを見た他の警備が、仲間を呼ぶ為に走り去って行った。


「仲間を呼ばれたけど、これで良かったのキリカさん?」

「ええ、大丈夫です。どうせ一人も逃がさないのだから、集まってもらった方が手間が省けます。ほら、餌に群がる虫みたいに悪党が集まってきましたよ」


 ヴィクトリアの心配通り、ケルベロスの連中が集まってきたけどこれでいい。

 そう、この場にいる悪党は一人も逃がさないのだから計画通りだ。


「でも、それじゃ大幹部のドーベルは逃げちゃうんじゃないの?」

「いえ、ドーベルは暗躍を得意としてるのに逃げるのが嫌いな女です。むしろこの場での決着を望むはずです」

「なんでキリカさんがそんなに詳しいのか謎だけど、そんなに自信満々だと説得力があるわね……」


 ヴィクトリアの疑問はもっともだけど、私は前世で何度もドーベルを見てきたから知ってるんだ。

 なんかマリーが「確かにドーベルなら逃げるなんてしないか……」とか言ってる。

 ブルボン伯爵家の情報収集力は凄いなぁ。

 フローズン家も見習わなくちゃ。


 私達が話している間にケルベロスの兵隊がうじゃうじゃと集まり、リーダーっぽい人が前に出てきた。


「警備がやられたっつーからどんな奴かと思ったら女かよ。お前ら、ここがどこだかわかってんのか?」

「おほほほっ、何しにきたかって、この格好を見てわからないのですか? それに、女だからと油断するなんて、ケルベロスって無能の集まりなのかしら?」

「なんだと貴様ら、やっちまえ野郎ども! 痛めつけた後はこの女ども好きにしてかまわんぞ!」


 私に言い返された兵隊リーダーはカチンときたのか、怒りの形相で部下に命令するが、


「女の敵!」

「下がれ下郎!」

「下衆が……」

「女の子は女の子と愛し合うべきなのです……。穢らわしい男など消えなさい!」


 私の大切な友達であるマリー、ディアナ、サラ、シオリの四人は叫ぶと同時に駆け出す。

 自分達を性の対象として見てくる薄汚い存在に怒りが爆発したみたいだ。


「なっ!? この女ども強えぞ!」

「お楽しみとか言ってる場合じゃねえ! 本気でかかれ!」


 今さら本気でやったところでもう遅い。

 すでに形勢はマリー達に傾いている。

 四人とも強いな、マリー、ディアナ、サラの三人は昨日は丸腰だったから苦戦してたけど、今日は完全武装で本領を発揮してる。

 まあ今回はイツメンの三人に、もっと強いシオリまで加わってるんだから、あの程度の相手に負けるはずがないんだよ。


 へー、マリーはトンファーを使うんだ。

 そういえば、マリーがトンファー使いだから前世の友達の暦ちゃんが真似してトンファーの練習してたんだった。


 ディアナが長剣でサラは投げナイフか、それぞれイメージ通りかな。

 シオリの様子はどうかな、って、強っ!

 ケルベロスの兵隊の首がポンポン飛んでってるよ!

 華麗に刀を振り回す美しい姿と、それによる結果のギャップが凄い……今日からシオリのことは心の中で首斬り姫と呼ぼう。


 四人はものの数分でケルベロスの兵隊を倒して見せた。


「おほほほっ、女を甘く見るから痛い目を見るのですよ」

「もうっ! キリちゃんは見てただけじゃないですか」


 おっといけない、自慢げに勝ち名乗りを上げたらマリーに怒られちゃった。




 私達は倒したケルベロスの兵隊を縛り上げて先に進む。

 広い庭園に入るとドーベルが仲間を引き連れ待ち構えていた。


「うふふっ、きたわねキリカさん、待っていたわ。貴方のお友達と一緒にね。もっとも、今は私のお友達でもあるわ」


 庭園で待ち構えていたドーベルと一緒にいたのは、今日学院にきていない生徒達だった。

 みんな虚ろな瞳をしてて、正気を失ってるように見える。

 これはあれか?

 ドーベルの魅了魔法か!


 って、ラファエルにアルベルト、ガイアスにシリュウさんまでいるじゃない!

 あんたらいつの間に魅了されたのよ!

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