第13話マリーゴールド
私がそれに気づいたのは十歳の頃だった。
何をきっかけにしてなのかはわからないけど、ここが生前やっていたゲームの世界だってことに気づいたのよ。
そのゲームとはプリンセスデスティニー(略してプリデス)、前世の私が一番はまっていたゲームだったの。
オタクだった私は(これってまさか異世界転生? ついに私の願いを叶えてくれたのね! よし! よし! よし! うっしゃあああ!! ありがとう神様! 感謝するわ!)と、心の中でのたうち回るほど喜び、普段はやらない神に感謝の祈りを捧げた。
だって私が一番好きなゲームで、しかも推しキャラのマリーゴールド・ブルボンにしてくれたのよ。
ここまでしてもらって感謝せずにいられますかって話よ!
ああでも、別の人に転生してマリーと友達になるってのもありだったなぁ……それは望みすぎかな。
マリーとしての記憶と前世の私の記憶がどっちもあるんだけど、主人格は前世の私、
私がマリーになるってことは本当のマリーはいなくなる。
それに気づいた時はかなり落ち込んだけど、だったら私がマリーの意思を引き継いでいこうと思ったの。
そうすればマリーは私の中で生き続けることができるから。
だって推しの人生を奪うなんてこと、私にはできないもの。
それから私の生活は一変した。
ブルボン伯爵家の貴族令嬢として勉強に習い事と忙しい日々を送っていた。
ゲームのストーリーでは普段何やってるかまでは描かないから、こんなに忙しいなんて知らなかったよ。
そんなある日、フローズン公爵家主催のお茶会に参加することになったの。
フローズン公爵家ってあのキリカの家でしょ?
キリカ・フローズンはプリデスで有名な悪役令嬢、マリーの親友で主人公のエルカちゃんを苛め抜く性格の悪い女。
え~、キリカには会いたくないな、エルカちゃんの敵ってことはいずれ私の敵になる訳だし気が重いよ。
そう思って参加したお茶会だったんだけど、そこで出会ったキリカは私の知ってるキリカ・フローズンとは別人みたいにいい子だったの。
話してるとなぜか前世の親友、
私が高校生の頃に死んじゃったんだけど、その後私は老衰で死ぬまで、キリちゃんを忘れることはなかった。
それぐらい大事な友達。
そういえばキリちゃんもプリデスが好きだったなぁ、まあ勧めたのは私なんだけどね。
キリカと話していると第一王子のラファエルと宰相の息子アルベルトがやってきた。
てっ、キリカがラファエルに啖呵切ってる!
本当にどうしたキリカ!
あんたラファエルに首ったけだったじゃん!
今回はラファエルの怒りを買わずにすんだけど、下手したら公爵家の令嬢とはいえただじゃすまなかったよ。
フローズン公爵家主催のお茶会でキリカと仲良くなって遊ぶ約束をした私は、後日フローズン公爵家を訪れた。
キリちゃんと呼んでほしいって言われて時はびっくりしたけど受け入れた。
親友の霧ちゃんを彷彿とさせるこのキリカになら、キリちゃんって呼んでもいいかなって思えたんだ。
私とキリちゃんが庭園でお茶とお菓子を楽しんでいたら、第二王子のガイアスが訪ねてきたのにも驚いた。
何用かと思ったらキリちゃんと戦いたいんだって。
確かにゲームのキリカはルートによってはラスボスになるほど強いから、いずれ王国最強クラスになるガイアスが目をつけるのも頷けるわね。
そして始まった二人の戦いは凄いものだった。
学生時代には武術をやっていたけど、卒業後にはやらなくなった私でもわかるほどに。
あれ? 今の技って、新選組オタクの霧ちゃんが得意にしてた平晴眼からの突きに似てる?
突きから横薙ぎに連携するのなんてそっくり!?
へー、この世界にも似た技があるのね。
試合はキリちゃんの勝利で終わったわ。
今日は王国各地から王都にある王城に王侯貴族の子供達を集めたサマーパーティーが開かれる。
やった! 久しぶりにキリちゃんに会えるぞ!
喜び勇んで会場入りしてキリちゃんを探すと、他の令嬢と挨拶しているところだった。
あれはゲームのキリカの取り巻き一号二号、ディアナとサラかな?
もしかしてあの子達の影響でキリカの性格が捻じ曲がった可能性もある? そんなこと私がさせないんだから!
悪の道に引き込ませないよう、牽制する為に話しかけたらディアナが突っかかってきた。
何この子? 私の方がキリちゃんと仲良しなんだから!
私とディアナがキリちゃんを巡って争っているとサラが一喝して場を収めた。
体をプルプル震わせるサラを見ると、勇気を振り絞って意見したのがわかる。
あれ? サラってこんな子だっけ? ゲームではキリカと一緒になって主人公をいじめる嫌な女だったんだけどな。
それにディアナだって、ただキリちゃんを好きな気持ちが暴走しちゃっただけに見える。
今まで出会ったみんなゲームとは人格が違うように思えるし、もしかしてディアナとサラもいい子達なのかな?
そんな私の予想は当たり、ディアナとはキリちゃんのことが好き同士、すぐに仲良くなった。
サラも正義感が強くていい子だ。
この世界に転生して最初は喜んだけどもちろん不安もあった。
でも、霧ちゃんの生まれ変わりのようなキリちゃんに出会えて、今のところ周りもいい人ばかりだし、私はなんて幸せ者なのだろうか。
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