第8話マリーと遊ぼう

 マリーの来訪を告げられた私はエミリアと一緒にマリーの待つ部屋へと向かう。

 部屋に入るとマリーが笑顔で迎えてくれた。


 今日も縦ロールの巻髪が決まってるわ。

 女の子だってドリルに憧れをいだくものなのよ。

 えっ? そんな訳あるかって?

 私は好きだ!


「お久しぶりですキリカ様、お元気そうで何よりです。本日はお招きくださりありがとうございます」

「マリーも元気そうね。でも、何だかちょっとよそよそしくない?」


 お茶会の時は気さくに話してくれたのにどうしたのかな?

 距離を縮めたつもりだったけどまた開いちゃった?

 気になった私が聞くとマリーは難しい顔をして口を開いた。


「実はあの後、両親にキリカ様と仲良くなったことを話したんです。そうしたら大変喜んでくれたんですが、今後絶対に失礼がないようにと口酸っぱく言われてしまいましたの」


 マリーが悲しそうに話してくれた。

 まあね、親御さんの気持ちもわかるよ。

 フローズン家は王国きっての大貴族だし、子供が仲良くなれば親同士の縁もできる。

 反面不況を買った時のことを考えると怖いもんね。


 でも、私はマリーとは今後も仲良くしていきたいから、壁を作ってほしくはないなぁ。


「私達の関係に親は関係ないわ。私、マリーとは対等な関係でいたいの。だから、いつものように接してくれないかしら?」

「はい……はいっ! 私もキリカ様とは身分など関係なく仲良くしたいです!」

「ありがとうマリー。そう言ってくれると私も嬉しいわ」


 どうやらマリーも親の命令に納得いっていなかったらしく、すんなりと私の提案を受け入れてくれた。

 心なしかマリーも嬉しそうに見える。

 これなら今日頼もうと思ってたお願いも聞いてくれるかも。


「それと敬称はいらないわ。愛称でもいいわよ。例えば……キリちゃんとかどうかしら?」

「愛称っ!? キリちゃん!? ……わかりましたわ。……キリちゃん」


 マリーはにかみながらも私の提案を受け入れてくれた。

 話し方が敬語なのはマリーの個性なので全然いいと思う。


 本人が嫌がることをしたくはないし、私はマリーの意思を尊重したい。

 いいと思うよ敬語キャラ、私は好きだ。


 ちなみにキリちゃんは私の前世のあだ名なんだけど、気に入ってたからマリーに呼んでほしかったんだ。

 実際呼ばれてみるとさすがマリー、破壊力抜群ね。

 思わず顔が緩んじゃうわ。


 あれ、なんかそばに控えてるエミリアが「うわ~……」みたいな顔して若干引いてる?

 別にいいじゃないか!

 私はマリーにそう呼んでもらいたいのよ!


「今日はどうしようか? マリーはここでお茶にするのと庭園の散策に行くならどっちがいい?」

「そうですねぇ……フローズン家の庭園は美しいので興味がありますがお茶も捨てがたいですわ……。そういえば庭園にガゼボがありましたよね? そこでお茶にするのはどうでしょうか?」

「庭園のガゼボか、ナイスアイディアね。じゃあ行きましょうか。エミリア、準備をおねがい」

「かしこまりましたお嬢様」


 方針が決まり準備をお願いすると、仕事モードに入ったエミリアが恭しく返事をした。

 私と二人の時の少し砕けた態度と客前での対応の切り替えは、さすがによく教育されてるなぁと思う。


 大貴族の令嬢である私のお付きともなれば侍女の中でもエリートだもんなぁ。

 マリーに私のエミリアのかっこいいところを見てもらえて、私も鼻が高いわ。

 心なしかマリーもエミリアをうっとりした目で見てる気がする。

 でもいくらマリーでもエミリアは渡さないわよ。




 フローズン家の庭園に建てられたガゼボ(お茶会や休憩、日陰から景観を楽しむ目的で作られた屋根と柱だけの建築物)は大きめに作られている。


 中には椅子とテーブルが設置されて、お茶を飲みながら庭園を鑑賞できる癒しスポットなのよね。


 色とりどりの花が植えられた庭園からは、フローラルな香りがして気分が上がるわ。

 そんなフローズン家自慢の庭園にやってくると、マリーが感嘆を漏らした。


「ふわ〜、素敵な庭園ですね。綺麗な花がいっぱい。ガゼボもオシャレで素敵ですわ」

「花が好きだったら後で温室に行きましょうか。薔薇を中心にいろんな花があるから、マリーにも見てほしいな」

「それは素敵ですわ。ブルボン家には温室はありませんので、ぜひ見たいです。温室いいなぁ、帰ったらお父様におねだりしてみようかな? 私だったら色違いの薔薇を植えて、薔薇の温室にしようかしら?」


 マリーが頭の中で私が考えた最強の温室ごっこやってるよ。

 それ、私もよくやるやつー。

 わかるわ。妄想って楽しいもの。

 お金もかからず場所も取らないからお手軽よね。


 あっ、マリーは温室を買ってもらったらお金かかるわ。

 ま、ブルボン伯爵家は結構な有力貴族だから、温室の一つや二つどうってことないか。


 マリーとお喋りしているとエミリアがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

 シルバーの三段トレイに乗せられたお菓子の中から選んだのはショーソン・オ・ポム、所謂アップルパイだ。


 折りパイ生地でリンゴを包み、表面に模様をつけて焼いたフランスの菓子パンなので、正確には違うのかもしれないが、親戚みたいなものだろう。


 林檎のほのかな酸味が爽やかで美味しい!

 プリデスの世界はゲームのなんちゃってファンタジー世界だから、地球と同じ食べ物が登場するのよね。

 私は美味しければなんでもいいけど。


 マリーが選んだのはシャルロット・オ・フレーズか、女性の帽子に見立てたケーキね。

 苺がたっぷりで美味しそう……じゅる。

 おっといけない、よだれが!


「私、キリちゃんがこんなに話しやすい方だとは思いませんでしたわ」

「え〜何それ、マリーは私のことをどう思っていたのかしら?」

「そうですわねぇ、貴方ごとき下級貴族の娘が、この私に気安く話しかけないでくれるかしら? みたいなイメージでしたわ」

「うぅ、過去のことは忘れてちょうだい……胸が痛いわ」


 恥ずかしい! いくら私になる前のキリカの行動とはいえ黒歴史だわ!

 バリバリ選民意識を持ってた時代の記憶があるから胸が痛い。


 過去を変えることはできない。

 迷惑をかけた人達には今後償っていこう。


「失礼いたします。キリカお嬢様、ただいま急な来客がありまして、お嬢様に面会を求めております」


 私とマリーがエミリアの用意してくれたお茶とお菓子を楽しんでいると、使用人さんが来客を告げにやってきた。


「今日の私の予定は埋まっているわ。来客なら後日会うから予定を調整してちょうだい」

「いえ、それが……相手は第二王子のガイアス様なんです。王族をお待たせする訳には……」

「ガイアス様ですって!」


 ガイアスは第二王妃の子で、ラファエルの腹違いの弟。

 武に長けた男で将来は王国の大将軍になるのではと言われてるけど、ゲームで見たから私は知ってる。


 ガイアスは個人としては最強クラスの強さだけど、それはあくまで個人の強さ。

 本人は軍の指揮とかやりたくないと思ってるんだけど、その強さに憧れる騎士や平民がいっぱいいるカリスマ的存在になるのよね。

 性格は質実剛健、武士の鑑みたいな男で、もちろんゲームでは攻略対象だ。


「しょうがないわね。訪ねてきた理由はわからないけど会わない訳にもいかないか。ごめんなさいマリー、せっかくきてもらったのに」

「王子が訪ねてきたのですから止むを得ません。ガイアス様なら無茶なことはおっしゃられないと思いますし、面白そうですから私もついていきますわ」


 マリーの言うようにガイアスならおかしなことにはならないと思うけど、本当に何しにきたのかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る