第19話オリエンテーリング2
各グループは出発時間を十分ほどずらしながら出発した。
遠足みたいな平和的イベントだけど、一応順位を競っていて成績にプラスされるらしい。
私みたいに勤勉な貴族令嬢なら家で散々勉強してきてるから、成績はよっぽどさぼらないかぎり大丈夫だけど、そうでない生徒は気合を入れて参加していた。
ふっふっふっ、普段からの積み重ねが足りないのだよ。
しっかりやることやっておけば、こういう時に遊べるのだ。
キリギリスではいかんのだよ。
蟻でなくてはな。
「キリカ様は余裕がありそうですね」
若干の優越感を感じつつチェックポイントを目指して歩いていると、同じグループの子に話しかけられた。
この子は確か他国からきた留学生のシオリさんだったっけ?
ゲームとは違って、現実では知らない生徒が結構いるんだよね。
シオリって名前でわかると思うが、日本っぽい極東の島国からはるばるやってきたみたいで、これまた和服っぽい服を着た黒髪の美少女だ。
刀を持ってるところを見ると剣士なんだろうな。
実にべたべたな設定だけど、私はそういうの好きだよ。
「私は普段から身体を鍛えていますの。これくらいで疲れませんわ」
「他の方はへとへとですのにこんなに元気だなんて、さすがは噂に名高いキリカ様です」
気合を入れて参加した生徒も長いチェックポイントまでの道のりで疲れ果て、ぜーぜー息を切らしていた。
みんな軟弱だなぁ、貴族は戦争にも参加しなきゃならないんだから鍛えておかなきゃダメだよ。
マリーとサラまで疲れ果ててるじゃん。
後で体力作りを手伝ってあげようかな。
「まあ、皆さん軟弱ですこと。基礎体力が足りてませんわ。ですが、シオリさんも余裕がありそうですわね?」
「私は剣士ですから、留学してからも鍛錬を欠かしていません」
「素晴らしいですわシオリさん。貴方のような方が我が国に学びにくるなんて、この国の貴族令嬢として誇らしいです。ですが、剣士の貴方がなぜ魔法を学びにいらしたのですか?」
「国の推薦を受けたのもありますが、剣だけでは魔法師に距離を取られると不利ですから、遠距離でも戦える術を学びにきたのです」
「なるほど、シオリさんは勤勉な方ですのね」
剣士と魔法師の戦いでは戦闘開始時の距離で勝敗が分かれる。
近づかなければ攻撃できない剣士は遠距離では不利だし、魔法師は近距離で不利、シオリはそんな得手不得手を克服する為に魔法学院にやってきたと言うのだ。
素晴らしい向上心じゃないか、シオリは私と同じように魔法剣士を目指しているのだ。
私の場合は剣士と言うより戦士を目指してるから微妙に違うけど、近しい目標を持って努力している人なんだな。
目標に向かって努力している人って好感が持てるよね。
日本っぽい国も気になるし、シオリさんともっと仲良くなりたいな。
「キリちゃん、シオリさん、ペースが速すぎますわ!」
「誰もついていけないですよ!」
「あら、ごめんなさい。気をつけます」
シオリとお喋りしながら足早に歩いていると、後ろからマリーとサラの悲鳴のような声が聞こえてくる。
振り返ると私達はグループを随分引き離して先行していた。
ばてばての同級生を見て私とシオリは顔を合わせて苦笑し、全員で休憩を取ることにした。
「体力お化けのキリちゃんはともかく、それについていくなんてシオリさんは凄いですね」
「本当、鍛錬バカのキリカ様についていけるなんて信じられませんよ」
「なぁっ!? ちょっと二人とも、こんなに可憐な美少女に対して失礼ではなくて? 私はお化けでもバカでもありませんのよ! そうですよねシオリさん?」
「はははっ、そうですね……」
マリーとサラがおいて行かれた腹いせなのか、私に辛辣な言葉を浴びせてきた。
シオリに助けを求めたけど苦笑いされちゃったよ……。
しかしマリーはともかく、サラも遠慮がなくなってきたわね。
でも、人を貶して笑いを取るのは良くないんだよ。
私の持論だけどお笑いには三種類あると思うんだ。
一つ目は人を貶した笑い、二つ目は自分を貶した自虐、そして三つ目は誰も貶さず人を傷つけない笑い。
一つ目の人を貶す笑いは一番難易度が低いくて楽だから、これ系で笑いを取ろうとする人が多いんだよね。
だって人の不幸は蜜の味で飯が旨いんだもの。
それもあって私は三つ目の人を傷つけない笑いが一番難しいと思う。
貶す笑いの方がインパクトもあるし注目を集めやすいからね。
人を傷つけない笑いで爆発力のある笑いを作るって難しいと思うけど、やっぱり私は誰も不幸にならない笑い、人を傷つけない笑いが好きだな。
よし、伝わるかはわからないけど二人に私の思いを伝えてみよう。
「二人とも人を貶して笑いを取ろうとするのはダメですよ。親しき中にも礼儀ありなんですから」
「誰もお笑いの話なんてしていません!」
「私達はリーダーのキリカ様がメンバーを置き去りにしたことに怒っているんです!」
「ごめんなさいー!?」
ひー、怒られちゃった。
イライラに効く栄養は何だっけ? カルシウムとビタミンB12だったかな?
二人には今度牛乳と魚介類をご馳走してあげよう。
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