episode41 謁見

サリーに案内され城に入った。

立派な作りの廊下を皆で進むと中庭にも謎生物が見れた。穏やかな空間が続いていた。


しばらく行くと長い廊下の中央に大きな扉がある所に着いた。

扉の両脇に槍を持った衛兵が立っている。

何かソワソワしている様だった。


「こちらで王とお会いして頂きます… すみません、聖女の直子さんがいらしているので皆んな一目見たいと緊張しているんです」


そんなに期待されても大した事無いただの娘なんですが…


(あー、王様に会うのにもう少し良い格好が良かったかしらね?)


(主はそのままでも十分美しいですぞ!)


ケンちゃんがすかさず褒めてくれた。


(ご心配なら少しアレンジしますか?)


(アレンジ出来るの?)


(はい、主の魔力を利用すれば可能です)


さすがハクちゃん何でもありね。


(それじゃあもう少しドレスっぽい感じでお願い)


(わかりました)


「直子さん、どうしました?入ってもよろしいですか?」


「あ、ちょっとお色直しをさせて」


「お色直し?」


直子の体がキラキラと光って来た。

キラキラが来ていた服に吸い込まれて行くと元のデザインに袖やスカートが拡張されドレスのようになった。

白に金の刺繍が神龍を模して全体にキラキラとしている。


「わあ!綺麗ですね!」


「主とっても綺麗なの!」


「なかなかじゃねーか王女様と言ってもおかしく無いぜ」


「なんて濃い魔力にゃ!くらくらするにゃ〜」


大福は直子の膨大な魔力に当てられたらしくヨタヨタしている。


「さっすがハクちゃんよね〜これなら王様と会っても問題なさそう?」


「問題無いどころか王が霞んじゃいますよ!」


サリーも嬉しそうだ。


「では行きましょう!」


サリーは衛兵に合図を送る。


「サリー王女、ご入室!」


扉が少し開かれサリーが先に入る。


「ではお先に、すぐにお呼びします」


中に入ると扉はまた閉められた。


少し待っただろうか。衛兵がこちらに敬礼をした。

いよいよらしい。

衛兵は誇らしげに声だかに発声した。


「神の都より堅譲直子王女!混沌の聖女様!盾のお姉さん!ご入室!!」


随分色々な肩書きが付いたものだ、最後のは恥ずかしい…


ガコーン!


大きな扉が大きく開かれた。

中を見ると広い部屋に中央に広く立派な赤い絨毯が敷き詰められておりその両脇にこの国の貴族であろう人達が並んで立っている。

そしてその最奥に王座が鎮座し王と思われる人物が堂々と座っている。その横に王妃様が座っており反対側にサリーが立っていた。


(主、行きましょう)


唖然としていたらハクちゃんが声をかけてくれた。


(う、うん。お爺様の所も凄かったけどここも凄いわね。圧倒されちゃうわ)


「直子様、神の都の王女として堂々と参りましょう」


ソニンが後押しする。

一応ソニンから立ち居振る舞いは教わっている。


重圧で重くなっていた右足を前に出し謁見室に入った。

両側に立っている貴族達の視線が痛い。

王座に近い位置に宰相のアレンと公爵のビューイックが立っており少し緊張が緩んだ。


二人とも目を丸くしている。何か変だったのかしら?


王座に近くなると絨毯に境目が有りそこで止まれば良さそうだ。


境目で止まる。

すかさずソニンが横に立った。


「神龍様の親族、神の都、次期女王陛下で在られます」


ソニンがこちらを見て合図をする。


「堅譲直子と申します」


普通であればここで頭を下げるところだが事前にソニンから絶対に公式の場では頭を下げない様に言われている。


名乗りを上げたが王座側の反応が無い…


何?何か不味かったかしら!?


すると突然王座に座っていた王様が立ち上がる。

王妃様も一緒に立ち上がった。

そしてサリーも一緒に王座を降り始めこちらに歩いて来た。

三人とも目線を下げ直子の顔を見ない様に直子に近づきそのまま通り過ぎて行った。


(え!王様帰っちゃうの私だめだった?)


思わず念話で助けを求めた。


(大丈夫ですぞ主、これはその様な事ではありますまい)


(主、その通りです。そのまま堂々として下さい)


ケンちゃんハクちゃんは王達の行動が理解出来ているらしい。


王達は姿勢を低めに直子の横を通り過ぎ直子の後ろへ回り王を中心に並んだ。

すると傍に並んでいた貴族達も我先のと王達の後ろに並び始めた。

全て貴族、護衛の衛兵までもが直子の後ろに並んだ。


何が始まるの?


直子は後ろを振り返りたい気持ちだったがソニンや他の皆んなもそのまま王座の方を向いていたので我慢した。


「この度は!」


うお!


思わず声を上げそうになった。真後ろに居る王様がかなりの大声で話しかけて来たのである。


「我が国をお救い頂き誠にありがとうございました」


「国民を代表しお礼を申し上げます!」


王、王女、サリーが頭を下げる。

その後ろの者全ても頭を下げた。


ここでソニンが後ろを向いた。


あ、もう後ろ向いていいのね。


ゆっくり後ろを向いてズラーと並んだ王国を代表する人達を見た。

全員が頭を下げたまま待っている。


(主、皆に頭を上げるように発言をしなければこのままの状況が続くと思われます)


(そうなの!?何で!?)


(国を救った主に感謝を示していますのでそれに答える必要があると推測します)


どうやって答えれば良いかわからないが…


「皆さん…」


直子がそう声を発するとその場の空気が緊張に包まれた。

貴族衛兵はもとより王達でさえ直子次の言葉を待つ緊張が伝わって来てその場が張り詰める。


「ど、どうか頭を上げて下さい…」


直子がその言葉を言った瞬間、緊張した空気が弾け飛んだ様に和らいだ。


王が頭をゆっくり上げこちらを見る。

それに続き王妃、サリーと王妃同じ様に頭を上げて直子を見つめる。

後ろに並んでいた者達も王に近い者から次々に頭を上げて行く。

まるで練習でもしていたかの様に乱れも無く順番に頭を上げていった。


「寛大なお言葉!感謝致します!」


王が声を高く話す。


「私はこの国を治めております。サリノス・ウル・ザールファトミアと申します」


「私はサリノスの妻、リーン・ウル・ザールファトミアと申します」


王妃様が優雅に頭を下げる。


「第三王女のサリーシャ・ウル・ザールファトミアです」


サリーも優雅に挨拶をした。


「神龍様の親族で在らせられる神の都、次期女王陛下。堅譲直子様!」


「はひ!」


見事に噛んでしまった。


「不躾な事では有りますがお教え頂きたい事が御座います!」


ええ、何だろう?こんな所でスリーサイズ聞かれても答えられませんが!?


王達の突然の行動にかなりテンパっている。


「貴方様は混沌の聖女様でも在られると言う事ですが誠でありましょうか?」


ああ、その事か。

そうよね私のサイズなんて聞かないわよね。


スリーサイズの事ではなかったので直子は少し落ち着いた。


「ええと… 混沌の聖女かどうかはわかりませんがどうやら聖女ではあるようです…」


すかさずソニンが付け加える。


「神の都には聖女と言う習慣がありませんがあなた方人族の習慣で言うのであれば直子様は間違い無く混沌の聖女様で在らせられます」


ソニンがそう言うだからそうなのだろう…

自覚は全く無いけど。


「何か、そうのようですね…」


「やはりそうですか!まさか太陽の聖女だけでなく長らくお目通出来なかった混沌の聖女様にこうしてお会い出来るとは!」


サリノス王は被っていた王冠を降ろして直子の前に置いた。


「え?」


何で王冠を私の前に置くのかな?


そして膝を折り頭を直子に向けて深く下げたのであった。

それを見た王妃、サリーも同じ様に跪く。

続いて後ろの貴族達、衛兵と全ての者が跪いていく。

横を見るとソニンも大福猫もセっちゃんでさえいつの間にか人型になり跪いていた。


この場の立って居るのは直子のみとなった。


「混沌の聖女、堅譲直子様。我ら王国は今より貴方様へ忠誠を誓います」


サリノス王が頭を垂れたまま宣言した。


「はい?」


何でそうなるの?


(ソニン!どう言う事?)


跪いているソニンに念話を送る。


(見ての通りでございます)


わかりません!


(何で私なの?この国の王女が聖女でしょ、そちらに忠誠を立てるべきだと思うけど?)


(人族では三聖女は姉妹という認識の様です。三大神が姉弟であるので聖女達も同様に姉妹で忠誠は一人の聖女ではなく三人の聖女全てに尽くす様です)


つまり三人の聖女は全ての人族の忠誠を受けると言う事かしらね。三聖女が人族の象徴なのか…


(それで、私はどうすれば?)


(聖女の奇跡をお見せ下さい)


いやそんなの出来ないからね!


(奇跡って何をすれば?)


(それは私にもわかりませんが人族の話ですと聖女は人族の忠誠に奇跡を持って答えたとあります)


何それ〜 曖昧過ぎるわよ。

どうしようかな、乙女の雫は…簡単に出ないしな。


(主、混沌の聖女は戦女神と呼ばれているようです。害の無い範囲で主の覇気を放てば良いと思われます)


(覇気か、大分コントロール出来る様になったしハクちゃんも手伝ってくれるならできるかな)


(もちろんです主)


(そう言う事であれば私もお手伝いしますぞ)


(ケンちゃんもありがとう)


それじゃあ頑張ってみようかな。


「皆さんの忠誠ありがとうございます、その忠誠に応えられる様出来る限りの事をしましょう」


直子の左手にハクちゃん【崇高の白盾】が現れた。

右手にはケンちゃん【静寂の剣盾】を持った。

盾を掲げ剣を天に向けて上げた。


「おお!何と神々しい!」


皆その白く光る盾と鋭く一目で名剣とわかる剣が突然出現した事に驚き、それを持つ直子の姿に人では無い神々しさを感じ騒めいた。


「皆さんの平和を願う思いがある限り神の都、神龍の名代として混沌の聖女の勤めを果たしましょう」


そう言うと直子は皆の国を人を思う心を浮かべその思いを広げるようイメージした。


直子の体が白い光に包まれて行く。

そしてその光は周りに優しく広がり皆を包んで行った。

やがて光はそれぞれの中に吸収される様に収まった。


「これは、まさしく聖女様の加護!」


「ありがたき幸せ!」


王がさらに深く頭を下げる。他の者も同じ様に感動し頭を下げる。中には泣き出している者もいた。


しかし直子はずっと気になっている事があった…

王様は忠誠を誓う際に王冠を頭から降ろしたのだが、その王冠が乗っていた頭はとても眩しくあのドレーク村の村長ほどではないがそれは綺麗に光を反射していたのである。


この世界… 禿げが多いわね…

いや、神の都では禿はあまり居なかった。人族に多いのか。

人族の方がストレスが多いのかもしれない。


などと考えていたら覇気が消えてしまった。


(主?どうしましたか?)


(いや、王様の頭があまりにも眩しくて私の覇気が打ち消されて…)


(まさか!?人族に主の覇気を打ち消す者が居るとはさすが一国の王ですね)


冗談が通じないハクちゃん。


「皆さん頭を上げて下さい」


王を筆頭に一斉に顔を上げ直子を崇拝した様子で見ている。


「皆さんの忠誠を受けるとは言いましたが私は自分が聖女という自覚がありませんので色々と教えて頂ければと助かります」


「ここへは聖女としてではなく神の都の次期女王としてご挨拶に参りましたのでその様な扱いをして頂ければと思います」


王と王妃がこしょこしょと何かを話し合っている。


「では、恐れながら堅譲直子様を神の都女王として。そして我が国をお救いくださった、盾のお姉さんとしてお越しを歓迎致します!」


「まずは場所を変えお話を聞かせて下さい」


王はそう言うと立ち上がり出口の方向を向いた。

後ろに並んでいた貴族達は一斉に出口までの道を開ける。


「ささ、こちらでございます。堅譲女王!」


王様が自らエスコートしてくれるようだ。


「直子で構いませんので」


「おお、ありがたき。では直子女王行きましょう!」


直子女王…自分でも思うけどまったくしっくりこない。

さんか殿で読んでもらおうかしらね。


一同は王を先頭に謁見室を出て会談室の様な所に入った。


大きな高さの低いテーブルを挟み長ての左手方向に置いてある一人掛けソファーに王様が座りその反対側の一人掛けソファーに私が、窓側の長いソファーにセっちゃんやソニン、大福猫が座り出口側のソファーに王妃様、サリーが座った。

周りにはアレン宰相、ビューイック公爵、衛兵が立っている。


数人の綺麗なメイドさん達がお茶やお菓子を並べる。


王との会談室だけあり広く豪華ではあるが貴賓に満ちた部屋だ。


「直子女王、改めてこの度の内乱を解決して頂きありがとうございました」


そう言う王様は外した王冠をまだそのままで下げた頭は窓から入ってくる光を一身に集めキラキラしていた。


直子はその反射具合に王様の禿をペチペチしたい欲望を抑えるのが大変だった。

もしなりふり構わずペチペチしてしまったら国交も危なくなるだろう。我慢、我慢。


「いえ、まさか邪神が関わっているとは思いませんでしたが何とかなって本当に良かったです」


「ところで王様、そろそろ王冠を戻してもよろしいのでは?この場では同等の立場、普段の王様で接して下さい」


その禿は目に毒だ…


王様は はて? という顔をした。


「いえいえ、同等などありえませぬ!我々は忠誠を誓った身。主と崇める方を前に王冠など掲げる事はできません」


「そ、そうですか…」


仕方がない、まさか頭が眩しいから隠せなど言えないし。気にしない様にしよう。


「そう言えばドレーク村の村長も大変お世話になったと聞いております。あやつの顔をまともに見られる様になりました。禿衆も捉えられておりましたが無事でした。ここへ呼びましょう」


メリーさんだけ戦場に連れて来られてたから禿衆の皆さんはどうなった心配だったけど無事でよかった。

しかし、今ここに来るという事は…

また禿率が爆上がりである。


「禿衆をここに」


王様は衛兵の一人に伝えた。


「は!」


しばらくすると禿衆の皆さんが部屋に入って来た。

そしていきなり全員その場に土下座する。


「サリー王女!メリー殿をお守り出来ず誠に申し訳ありませんでした!」


全員が見事に禿げ上がった頭を床に付け謝罪する。


「こうして無事だったのですから大丈夫ですよ。相手は邪神、直子様以外にはどうにも出来なかったでしょう」


王様が席を立ち禿衆に近寄り手を添える。


「うむ、サリーの言う通りじゃ良く生きていてくれた」


ああ!王様!そんな!

そこに居ては大変な事になりますよ!


直子は心の中で目の前に写っている光景に覚悟した。

禿衆に王様のキラ禿まで加わったのだ!


今夜はうなされそうだわ…


「直子様!皆さんをお救い頂いたと聞きました。村長だけでなくあの邪神までも倒してしまわれるとはさすが混沌の聖女、そして盾のお姉さんですな!」


王様を筆頭に六つの禿が尊敬の眼差しでこちらを見ている。


そんなに六人で禿散らかさなくても…


「いえ、サリーを助ける為でしたので…」


だめだ悪夢の様に禿が迫ってくる。


「どうか落ち着いて下さい」


「む!そうであった、この方は神の都の次期女王様でも在られる。禿衆よそなた達も感謝しきれないであろうが今は部屋に戻りゆっくり休め」


「はは!いずれこの恩は必ずお返しいたします!」


そう言って禿衆は去って行った。


「ずっと捉えられていたのに元気な奴らじゃ。直子様、それでは国交についての話をさせて頂きましょう」


ここでようやく王様は王冠を頭に戻した。

ここからは国同士の話しと言う事なのだろう。

これでようやくまともに王様の顔が見れる。


今更だが王様は背が低く先程の禿衆のご老体と変わらない位で王様自体もかなり年をとっている様子だった。髪も立派な髭も真っ白で威厳がある。

顔はサリーに似ておりなかなか整っている。


直子達は神の都と王国との今後について話を行った。

まあほとんどがソニンがまとめてくれたのだけど。


神の都と王国は友好を結びお互い不可侵の契約を交わした。また国交として双方の国民がお互いの国に入れる様に約束した。

しかし問題は神の都に行くまでの深い森で人族はこの森を越えるは難しいらしい。


「森については問題ありません。神龍様より直子様が解決する様におっしゃっておられましたので」


それね〜 あんな森どうにか出来るのかしら。


(主、問題ありません。今の主であれば余裕で解決出来るでしょう)


(ハクちゃんがそう言うなら大丈夫なんでしょうけど)


王国を心配させない為にも頑張るか。

方法については後でみんなで考えよう。


それにしても色々あったな〜

まだ一つの国にしか来ていないのに色々ありすぎるわよね。これから他の国も行かないといけないし長い旅になりそうだわ…

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盾のお姉さん ~ え?それって盾ですか? ~ 【連節-混沌節】 りるはひら @riruha-hira

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