episode18 大 将

 声がした部屋に入ると入って来た大扉と白黒猫娘は消えて白い壁になっていた。

 不思議な作りだ。


「こちらへどうぞ」


 うお!

 また何の気配も無く直ぐそばに人が居た。

 だからいきなり来ないでよ。

 驚くじゃない。

 声を掛けて来た人物は先ほどの猫娘ではなかった。

 全身が青く銀色の服を着ている。

 上半身は布を両肩からVに掛けたような服でその豊かな胸がはみ出しそうにしている。下半身は膝上まではタイトなドレススカートみたいで膝下から布がヒラヒラと舞っている。

 見るだけで思わず顔が赤くなりそうな妖艶な格好だが顔立ちは少し丸くお目目もパッチリで可愛い。

 頭に耳は無く代わりに角と思われるものが横に付いて後ろに流れるように尖っている。

 目は猫娘と同じような猫目だけど…

 猫と言うか爬虫類の方が近い?

 金色の目で青色の肌に映えている。

 かなりスタイルが良く大きな豊かな胸に細い腰。

 シュッとしまったお尻をしている。

 尻尾があり細く先端が三つに鋭く分かれている。

 爬虫類っ娘に案内され奥に進む。

 その部屋は物凄く広く遥か前方まで赤く広い絨毯が続いていた。

 その絨毯を進む事5分くらい、先に王座の様なものがぽつんとありそこに誰か座って居るのが見える。

 すごい遠い、部屋も広い。

 段々と王座がはっきりと見えて来る。

 王座は銀色を基調に下側には7色に彩られた花や鳥、猫見たいな動物、人の様な様々な生き物が意匠になっておりみんな上を見ている。

 そして背もたれの上は銀色から白に変わって行き上には白く輝く大きな宝石が足られていた。

 その椅子には全身白、いや銀に近く白い輝きを放つ女性?が座って居る。

 赤い絨毯はその女性の30mくらい手前で終わっておりそこで止まる様に爬虫類っ娘に促された。


 爬虫類っ娘は私達から見て左前に王座と中間位の位置に立った。

 反対側を見ると同じような位置に全身赤く金色の長い髪、眩しいくらいな金色の鎧と金色の柄で刃は自身と同じ様な真っ赤な槍を持って立って居る人がいた。

 こちらも鎧を着ていてもわかる程スタイルが良い。

 鎧も体の線が出るような作りでサリーの鎧に引けを取らないからだろう。

 当然だけど護衛よね。

 こちらは尻尾は無く頭に上に向かって生える鬼の様な角が2本あった。

 鬼っ娘だ。

 

 正面の王座に座る女性に向かって軽く右足を引き会釈をして見た。

 サリーも慌てて真似をする。


「ようこそおいで下さいました、直子さん、サリーさん」


 澄んだ綺麗な声、先程聞こえた声だ。

 するとその女性は王座から立ち上がるとゆっくりこちらに向かい始めた。


「な、なりません!おやめ下さい!」


 両側に立って居た二人が王座から降りる女性を止めようとした。


「本来であれば私が出向きお二人に会わねばならぬ立場、こうして来て頂いたのです。礼を尽くさずどうするのですか、弁えなさい」


「も、申し訳ございません!」


 左の爬虫類っ娘は申し訳なく萎縮した。


「主様、誠に申し訳ございませんでした…」


「ですが、せめて私もお側に寄る事をお許し下さい」


 白銀に光女性は はぁ とため息を吐きこちらを向いた。


「申し訳ございません、この子は言い出すと聞かないものですから大変ご無礼とは思いますがこの子もお二人もお側に寄る事をお許し頂けますか?」


 うん、なんか偉い人って面倒なのね。

 毎日こんな感じで自由には出来ないのでしょう。

 私達が襲われる訳じゃないから全然いいですよ。

 むしろ鬼っ娘を近くで見たい。


「ご丁寧にありがとうございます、もちろん構いませんどうぞお近くへ来て下さいませ」


 右足を大きく下げ左手を頭と同時に下げた。

 こんなお辞儀やった事ないから合ってるか知らないけど何となくやってみた。


「直子さん… 手逆かも」


 サリーが小声で教えてくれた。

 小声でもここは声が響くので他の人にもダダ漏れだけど。


 やっちまった!

 慣れない事するものじゃないわね。


「はは、慣れない事するものではありませんね」


 笑って誤魔化そう。


「そうですよ〜直子さん、ふふ」


 サリーも一緒に笑ってくれた。


「では失礼してお近くに行かせて頂きます」


 鬼っ子は何もなかったのようにこちらの近いて来た。

 スルーされるとさらに恥ずかしのですけど?

 白銀の女性はニッコリ微笑んでいる。

 爬虫類っ娘は下を向いているが肩が少し震えている。

 笑ってるな、あれは…

 もう、恥ずかしいー。


 ガシャ!


 鬼っ娘が直ぐ近くまで来てまた真っ直ぐ立ち槍を立てて警護の体制に入った。

 金色の鎧からは重厚だがすんだ音がした。

 なんて豪華そうな鎧なんでしょ。

 見惚れていると正面の白銀の女性もこちらにゆっくり向かってきた。

 普通に歩いてるのになかなか近づかない?

 しばらくすると理由がわかった。

 この人大きい!

 赤い絨毯から王座まで30m位と思っていたら錯覚だった。

 多分100m位離れてる…

 部屋が横にも広いので小さく見えていたのだ。

 どんどん近く、大きくなっていく。

 目の前直ぐまで来てくれた。

 私の頭の位置は彼女の膝くらいしかなかった。

 私の4倍は大きいだろう、6m位?

 近くに来た鬼っ子も私の2倍くらい大きかったがさらに大きい。


「あら、直子さんこんなに小さくなって」


 できる限り小さくかがんでくれた。


「ごめんなさいね、こんな上から見下ろしてしまって」


「ですから、おやめくださいともうしあげましたのに」


 爬虫類っ娘があきれた顔で言った。

 なるほど、二人はこちらの方が失礼になると思ったのね。


「え~ でもでも~やっぱり近くでお話したいじゃない」


 さっきの威厳のある様子とはまるで違うね。

 多分この人、天然だね。


「私もこちらの方がお近くでお会いできてうれしいですよ」


「ほらー、そうでしょう」


 鬼っ娘はやれやれとあきらめた顔をした。


「今日は遠い所を来ていただいてありがとうございました」


 白銀の女性はほとんど寝転んで話をしている。

 大きな顔が目の前にあるがとても綺麗な人だ。

 目はやはり人間のものでなく爬虫類ッ娘と同じような縦長の瞳孔だった。

 澄んだクリヤブルーの瞳。

 顔立ちは幼くも大人びているとも見える不思議な顔立ちをしている。

 大きすぎてしっぽとか確認できないけど何系の人なんだろう。

 そしてなにより良い香りがした。

 動く度にフワッと良い香りが漂って来る。

 サリーも鼻をヒクヒクさせている。

 ヒクヒクはやめなさいよ。


「お会いできるのをお待ちしていたのですよ」


「あの子ったらお連れすると言って出て行ったきりなかなか帰って来ないので来て頂けないのかと思ってました」


 あの子というのはセっちゃんの事だろう、しかしセっちゃんどこが大将よ!

 女性に失礼でしょ!


「さあ、主様、直子様、サリー様、お食事を用意しておりますのでそろそろ食堂へ」


 爬虫類っ娘に案内され食堂へ移動する。

 食堂へは一瞬だった。

 爬虫類っ娘が手かざすと目の前に扉が現れてそこを通ると食堂だった。

 まるであのアニメに出てくるどこにでも行けるドアだ。

 謁見の間に入った時もそうだったがここはこの世界でも特殊な場所という感じがする。

 まさに神の都。

 本当にそうなのか後で聞いてみよう。


 食堂に通された私達は中央の大きなテーブル、ではなくその先に設置された接客場所のような所に案内された。

 ここで皆が揃うまで待つようだ。

 重厚なガンメタル色のソファとテーブル所々に龍の意匠が施されている。

 その低い接客用のテーブルを囲むように長椅子、一人掛けの椅子が4つ置かれている。

 

「こちらでゆっくりされて下さい」


 案内してくれた爬虫類っ娘が一番奥の長椅子に座って下さいと手を向けた。


「あ、はいありがとうございます」


「ありがとうございます」


 私とサリーはそう言うとガンメタルの黒光するソファに腰掛けた。

 ふわ〜 と思わず声が出そうになるほど柔らかだった。

 見た目と全然違う。

 このまま寝てしまいそうだ。

 サリーも目がとろーんとしている。


「申し遅れました、私は主様の側近でソメイク・アリーと申します」


「アリーと呼んで下さいませ」


 しなやかで細く出る所は出ている超絶的なスタイルでしゃなりとお辞儀をする。

 この人はあの3人の中で一番小さかった。

 それでも2mはあるかも。


「えっと、堅譲直子と言います」


「サリーシャと申します」


 二人とも立ち上がり会釈する。


「どうぞお座り下さい、お茶を用意しますので」


 言われるがまま二人ともストンと柔らかなソファに座り直した。

 アリーさんはそばに用意してあるお茶を準備している。


「直子さん、私もう現実と思えないんですがこれ夢ですかね?」


 サリーがそう言いたくなるのもわかる。

 異世界とはいえカルムン村の様子とあまりに違うのだから。


「しっかり、現実よたぶん…」


「お茶をどうぞ」


 青く細い手でお茶を差し出してくれた。

 木製の蓋を取り手慣れた仕草でお茶を飲んだ。

 

 はぁ〜 やっぱり緑茶はさっぱりするわ〜

 ん?緑茶⁈


「このお茶さっぱりしますね~ほのかに甘味も感じますよ~」


 さりーはほんわかしている。


「アリーさん、このお茶って…」


「特別なお茶ですよ、直子さんはご存じでしょうけど」


 おおう、なんか私の情報は把握されているっぽいですよ。

 サリーを連れてきたのはまずかったかしら。

 でも、サリーなら受け入れてくれる気もするし今考えてもしょうがないか。

 それよりも久しぶりの緑茶を楽しもう。


「う~ん、美味しい~ 茶葉貰って帰れないかしらね」


「主様にお願いされてみてくださいな」


 ほむほむ、他にも聞きたい事あるしお願いしてみましょう。

 しばらくお茶を楽しんでいると反対側の扉が開く音がした。


「お待たせしました~」


 白銀の女性の声はするが…

 そういえばここは随分狭い、彼女はぜったい入れないだろう。

 鬼っ娘もあやしいくらいだ。


「こちらですよ~」


 声のする方向、下を見たら私の背の半分位の女の子が立っていた。

 そう、幼い顔、恰好をしているが先ほどの白銀の女性に良く似ている。


「先ほどの方のお子様ですか?」


「プフ!」


 アリーさんが噴出した。


「もうー本人ですよ~、あのままじゃここに入れませんからね!」


 幼女がぷりぷりと説明している。

 これがあの大きな白銀の女性なの⁈

 縮み過ぎじゃあ…


「ず、随分小さくなれるのですね?」


「ブファ!」


 アリーさんがさらに噴き出す。

 

「アリー、笑い過ぎですよ」


 幼女は凛とした声でアリーさんに抗議する。


「主様は魔力が大き過ぎるのか人と同じ大きさになるとなぜかそのようなお姿になるのです」


「色々と試したのですが結局これが一番人に近い姿でした、同じくらいの大きさになれればよかったのですがごめんなさいね」


 幼女はぺこりと頭を下げた。

 その可愛さは見る者をホンワリさせた。

 サリーは何かブツブツ言いながら必死に耐えていた。

 サリーは可愛いのに目が無く頭を撫で撫でしたいとか思ってるに違いない。

 私もしたい!


「さあ、皆さまお食事にしましょう」


 幼女は食事の宣言をした。

 それぞれ席に着く、幼女はテーブルのトップに子供椅子を用意してもらいちょこんと座る。

 私とサリーは幼女の右側に案内された。反対側にはアリーさんとさっきの鬼っ娘がいる。

 鬼っ娘もアリーさんくらいに小さくなっていた。

 鬼っ娘は普通サイズになれるらしい。

 それでも2m近くはあるけど。


「今日は、お二人が来て下さったお礼に特別なお食事を用意させました」


「直子さんにとっては特別ではないかもしれませんがね」


 なんだろう?

 これだけのお城だし貴族のお食事でしょうかね?


 カチャカチャ


 どこからともなく入ってきたメイド達が料理を運んでくる。

 そして私の前に置かれた料理は…

 黒い立派なお膳に日本料理?が並んでいた。


「え、あ、これ?」


「直子さんの故郷のお食事でしょう?」


 故郷というか高級日本食店で食べるような食材が並んでいる。

 前世でもこんなのあんまり食べないんですが!

 それにしても異世界で日本料理とは…


 バン!


 急にドアが開かれ、見知らない男性?が入ってきた。


「いや~遅くなっちったよ、すまねえ」


 その声は… セっちゃん⁈


「ほんとに、お食事を始めるところでしたよまったくこの子は」


「すまねえ、久しぶりにこの恰好になったもんでうまくいかなくて」


 セっちゃんの声をしたその人は白い肌に白い髪、そして猫耳でスラリとした体形に高級そうな黒いスーツをだらしなく着ていた。

 30前後の渋めな顔をしており目はセっちゃんと同じ縦の瞳孔。

 そしてなぜかしっぽだけが犬のしっぽのようになっていた。

 チワワの時のしっぽを大きくしたようだった。


「せっちゃんさんなんですか!」


 サリーも驚いて確かめる。


「お、おう俺だぜ?待たせたな」


「そうじゃなくてその恰好だれだかわからないじゃない初めてみるわよ!」


「おお、そいうえば見せるのは初めてだったな!ははは!」


 ははは!じゃないわよ、どこに行ったかと思ったらイケオジになってくるとは。

 とてもあの残念精霊ちわわのセっちゃんには見えない。


「さ、あなたも早く座りなさい」


「おう!」


 そういうとイケオジセっちゃんはどっかと白銀の女性の反対側へ座った。


「おーこの料理が出たか、久しぶりじゃねぇか」


 セっちゃんはこの料理を食べた事があるようだ。


「それでは揃いましたので頂きましょうか」


 そういうと私とサリー以外全員が両手を合わせ言った。


【【いただきまうす!】】


 おい!


 だれだ、間違った言葉教えたの…

 そして何事もなかったように皆箸を進めた。


「直子さんはお酒はいかがですか?」


「あ、それじゃあ頂きます」


 強くはないが飲まない方ではない。


「サリーさんはまだ駄目みたいなので何かご希望のお飲み物はありますか?」


 サリーは残念そうな顔をしている、これはお酒結構いける口みたいね。


「それでは先ほど直子さんが頂いていた冷たい飲み物を頂くことはできますか?」


「オーレンジですね、大丈夫ですよ。おねがいします!」


 白銀の幼女はメイドの一人に指示をした。

 しばらくするとメイドが持ってきたのは徳利だった。

 ほんとにお酒ですか!

 しかも熱燗ぽい。

 うーん、冷酒の方が好きなんだけど…

 って、日本料理詳しすぎませんか?

 メイドは白銀の幼女にも熱燗を注いでいる。

 幼女にお酒か…

 まあ、本体は大きい人だから大丈夫と思うけど。

 違和感が半端ない。


「あの、この料理や先ほどの飲み物とかどうやって?」


「気になりますか?」


 ほろ酔いなのかほっぺが赤くなってきている白銀の幼女。

 お酒はそんなに強くなさそうだ。


「ええ、そりゃー」


「ですよね~」


「うーん、普通に教えて差し上げてもいいのですが…」


 幼女は少し考えて思いついたような顔をした。


「そうですね、アリーと戦ってもらいましょう!」


 はい⁈ なんでですか?

 もう酔っぱらってるのかしらこの子!


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