episode19 アリー

「アリーと戦ってくださいませ」


 白銀の幼女はほれんそうのおひたしを頬張りながらお酒を飲み言った。

 アリーさんと戦う?

 なんの為にだろう。

 異世界から来た私の存在を知り呼び寄せて排除するつもりだったのか…

 いや、そんな気配はないわよね。


「私達にあなた方を害する考えはありません」


 こちらを見透かすように白銀の幼女はは説明する。


「これらの直子さんの故郷の料理、そして直子さんについてなぜ我々が知っているかそれを説明するのにアリーと戦って下さいませ」


 白銀の少女はさらにお酒をきゅっと飲んだ。

 ペース早いけど大丈夫かしら…


「アリーさんと戦う事でそれが分かると?」


「はい、少なくとも我々が嘘を言っていない事はわかってもらえると思います」


 何か思惑があるようだが…


(主はこのアリーの能力を大きく上回っていますので戦いでも問題ないと推測します)


(そうなんだ、全然勝てる気がしないけど戦闘だけでなくスタイルとか容姿とかさ!)


(…主は素敵ですよ)


(微妙な間あるけど? まあハクちゃんがそう言うなら大丈夫か)


「わかりましたどうなるかわかりませんが」


「よかった、ではお食事の後の軽い運動という事で」


「あ、一つお願いがあるのですが」


「なんでしょうか?」


「必ずケンちゃんさんで戦って下さいませ」


 ケンちゃんの事も知ってるのか、情報筒抜けですね。

 情報源は一緒にいたセッちゃんかな。

 セッちゃんを見ると箸が苦手らしく煮豆と奮闘している。

 その感じが村長宅の朝食でベーコンと奮闘していたチワワに感じがそっくりだった。

 人化してもセッちゃんはセッちゃんだった。


「なんでもご存じなんですね」


「ええ、直子さん以上に直子さんの事を知っていると思いますよ」


 なんですと! こっちでもストーカーが…

 でも何故か前世で付き纏われた輩とは違い不安や苛立ちは無い、むしろ見守られている感じがする。


 その後もこの都の事や噴水やドアにあった三神について尋ねた。

 殆どの事はアリーさんとの戦いが終わってから話してくれるとのことだった。

 名前もまだ名乗れないらしい。

 うーん、ますますわからなくなって来た。

 鬼っ娘は名前を教えてくれた。


「私はファルシオン・ミオセと言います、ミオとお呼び下さい」


 ミオさんはこの城を守る警備隊の隊長をしていると話してくれた。

 アリーさんは白銀の幼女の相談役兼護衛なのだそうだ。


「ミオさんは強そうでカッコいいですよね」


 サリーが憧れの眼差しでミオさんを見ている。

 たしかに全身赤く、引き締まった体で昔の鬼!というイメージではなく現代風スーパーヒーローみたいなイメージだ。

 Oni とか洋風?の呼び方が似合うかも。


「私など、アリーに比べれば赤子も同然ですよ」


 ミオさんはアリーさんをチラッと見る。

 それにしてもミオさん、赤い鬼で赤子ってしゃれですか?

 何となくツボにハマった直子であった。


「アリーさんの方がお強いのですか?」


 サリーが無邪気に質問する。


「ええ、それはもう鬼神のように強いですよ」


 ミオさんも無邪気に答える。

 直子はツボに入ってるのでプルプル震えていた。

 鬼が鬼神って… くっ!

 もう何を言われてもハマってしまう状態になっている。


「そんな方と直子さん戦うのですね?」


 心配そうなサリー。

 そうだ、今から戦いだった。

 しょうもない事でツボに入ってる場合じゃなかった。


「戦いと言っても私は素人ですからね、戦いになるかどうか…」


 私はただのOLですからね!

 はっきり言ってまったく自身はない。

 けど不安もあまりないのはハクちゃんケンちゃんが居るからだろう。

 まあ、なんとかなるわよね。

 勝ち負けではなさそうだし。


 食事も進み、この都の街の話も少し聞けたりと楽しい時間が過ぎた。

 町では最近は人気のスイーツがあるそうでぜひ食べに行ってみたいところだ。


「直子さん、サリーさんお食事は満足して頂けたでしょうか?」


 白銀の幼女がにっこりして聞いた。


「はい、とても美味しかったです」


 いよいよ対決か。


「初めての料理でしたがとても洗練されていて素晴らしかったです!」


 サリーは日本料理が気に入ったようだ。

 確かに日本でもこれ程の料理はそんなに無いだろう。

 日本の物が沢山出て来てちょっと日本に居た頃を思い出してしまった。

 これだけの日本の物があると日本に戻れるのではないかと少し期待してしまう。

 だけど異世界に来た人は殆どが戻れないのがテンプレだろうしあまり期待しないほうがいいわよね。


「楽しんで頂いてよかったです、さあ、では今度は食後の運動に参りましょう」


 いよいよかー。

 ちょっと緊張して来た。

 アリーさんが何も無い壁に手をかざした

 するとまたドアが現れた。


「皆さま、こちらへどうぞ」


「アリーと姉さんのバトルかぁ、良い肴になりそうだ」


 セッちゃんあんまり気楽な事言ってると気絶させるわよ!

 セッちゃんは何かに気がついたようにブルブルと震えた。

 扉を抜けると最初の待合室に似た所に出た。

 正面に中庭が見える。

 どうやら最初の待合室から中庭を挟んで反対側に来たようだ。

 部屋の作りは同じでも床が滑らないようにマットな石が敷き詰められている。

 ここは闘技場なのだろう。

 右の壁を見ると大きな掛け軸のような物が掛けてあった。

 そこには日本語の文字があった。


 ファイト一発!


 絶対面白がって教えた奴がいるでしょう!

 意味わかってんのかしら?


「あれはなんと書いてあるんですか?」


 サリーちゃん、聞いちゃだめ。


「あれは何事も精進せよ、と言う意味が書いてあるそうですよ」


 鬼っ娘、ミオさんが答える。

 確かにそうとも理解出来る言葉だけどさ。

 私は逆に気が抜けて落ち着いて来た。


 アリーさんが部屋の中央にスッと歩いて行く。

 右手にはいつのまにか金色に光を放つ槍を持っていた。

 竜の装飾が先端に向かって顎を構えている。

 刺されたら痛そう。

 アリーさんは槍使いなのだろうか。


「直子さんもこちらへ」


 白銀の幼女がアリーさんの反対側に手を向けた。

 場の雰囲気に圧倒されつつ転ばないようにゆっくりアリーさんと相対する位置まで進んだ。

 そして思った、このバトルスーツを着て来た自分を褒めたい!

 思わずそう思う程に立派過ぎる他の人達を見て思った。


「それでは初めさせて頂きますね」


 白銀の幼女は相応と大きく息を吸い言った。


「これより闘いの舞を行う!」


 今までので優しげな声ではなく凛とした威厳のある声だ。


「ここに二人の神聖な闘舞とうぶ真名まなに誓い見届ける!」


 右側で見ていたセッちゃんが急に光出しあの大きな豹の姿になった。

 しかも体中に青白い紋様な物が浮かんでいる。


「我、獣神、セドリック・フォワランスガードは真名に誓いこの闘舞を見届ける!」


 セッちゃんはそう言うと体の紋様が一瞬強く光った。


「我、鬼神、ファルシオン・ミオセファーリックは真名に誓いこの闘舞を見届ける!」


 そう言うと今度はミオさんの全身が赤く光り倍位の大きさになった。

 黄金の鎧は胸と腰の所のみに変化し軽装になっているが代わりにセッちゃん同様体中の黄金の色の模様が浮かび出ていて何とも神々しい。

 これがミオさんの本当の姿だろうか?


 それにしてもセッちゃん、名前ちゃんとあるじゃない。

 あれか?真名は明かせねえ!とか言うやつですかね?

 厨二病の方が見たら対抗しそうだね。


 そして最後に白銀の幼女が光出した。

 おお、いよいよ大将も本当の姿に。


【我!龍神、イヴァーリース・スサノウはこの闘舞を真名に誓い見届ける!】


 そう言うと白銀の幼女は白銀の鱗と赤い角をした翼龍に姿を変えたのだった。

 全身キラキラとした白銀の体で頭や背中にある角、爪などは真っ赤な色をした見事な龍、そうドラゴンになっていた。

 しかも大きい!

 最初に見た白銀の女性も大きかったがそれを軽く超えて頭が天井に着きそうな大きさだ。

 そして今気が付いたが部屋は先ほどの広さよりも倍以上に広くなっており天井も同じように倍以上高くなっていた。

 その部屋でも天井に届きそうな大きさだった。


「ど、ドラゴン⁈」


 セっちゃんの大将というから猫系の親分と思ってたのに違うじゃないのよ!

 それに龍神とか鬼神とか獣神とか、みんな神な訳?

 物凄い展開に頭が付いていかない。

 サリーを見ると同じく展開に付いて行けないのか既にボーとした顔をしている。

 パニックになりそうなその時、白銀の龍の横にある壁に先ほどの掛け軸がプラプラ揺れているのが見えた。


 ファイト一発!


 それを見た直子は落ち着きを取り戻した。

 そう、ここは異世界!私の常識なんてまったく通じないのよ。

 そう思うと冷静になれた。

 サリーはボーとしたまま戻って来ない。

 しばらく放っておこう…


【直子さん、アリーはあなたとの闘いが終わるまで真名は明かせません】


【闘いが終われば教えてくれる事でしょう】


 白銀の龍の声は他の者と違い精神に直接話してくる感じだ。

 アリーさんはそれを聞きコクリと頷いた。


【我が父、スサノウへこの闘舞を捧げる!まいい踊る二人へ祝福開始を!】


 

 ええ!スサノウってあのスナノウの命の事ですか?

 我が父ってお子様なの⁈

 いや… ここは異世界、きっと違う人だ…

 とりあえず、スサノウの事は置いておいて今はこちらに集中しましょう。


「ハクちゃん、ケンちゃんお願い!」


「了解です主」


「心得ましたぞ主殿」


 もうハクちゃんとケンちゃんの事はみんな知ってるみたいだし堂々と準備させてもらいましょう。

 ハクちゃんは左腕から、ケンちゃんは右腕から光と共に私の目の前に盾と剣になり現れた。

 私が手に取るのをそれぞれ待ち換えている。

 左手で【崇高の白盾ハクちゃん】、右手で【静寂の剣盾ケンちゃん】を手に取る。


 今着ている白いバトルスーツに盾と剣は結構カッコいいのではと思ってしまう。


「それが召喚されし盾と剣ですか…」


 アリーの気配が張り詰めた鋭い気配に変わって行く。

 

(ハクちゃん範囲防御は物理反射無しでお願いね)


(了解しました、ですがおそらくこの者には物理反射は効果が無いと推測します)


(そうなの?)


(はい、攻撃力が強大と予測される為に全てを反射出来ないでしょう)


 強大ですか、ハクちゃんにそこまで言わせるとはすごいなアリーさん。


(ケンちゃん、まずはアリーさんの攻撃を受けて見るので受ける事が出来たらアリーさんの武器を切ってくれる?)


(なるほど、主殿の思うままに!)


 アリーさんに盾を向け剣を右側に迎撃出来る位置に構えた。


「まずは様子見ですか、いいでしょう。参りましょう!」


 アリーさんはそう言うと一足飛びに間合いを詰め黄金の槍を上段から思いっきり振り下ろした。


 ガイィィーン!


 激しい音が鳴り槍はハクちゃんの防御壁で止まり僅かに弾かれた。


(ハクちゃん今の反射無し?)


(いえ、こうなる事はわかっていましたので反射は無効にしていません)


 攻撃の威力が反射の威力を相殺してるのね。


「思ったより堅かったですね、しかし…」


 パキーン!


(防御壁が破られます)


 あう、それやばいのでは?


 パァーン!


 弾ける音と共に不可視の防御壁が砕け散った。


(絶対防御へ移行します)


 え、そんなのあったっけ?


 砕けた防御壁の破片が光りを放ち直子の体に集まる。

 キラキラしたエフェクトが直子を包み白い羽根が舞い散りながら直子の体を覆って行く。

 最後の羽一枚が直子の足元にヒラヒラと落ちて床に付いた瞬間。

 強い光りと共に白い鎧で包まれた直子が現れた。

 

「おお!」


 見ていた一同から驚きの声が漏れる。


「直子さん綺麗!」


 サリーが絶賛する。


 あ、これってあれかな?サリーの時のように変身方法を派手にするってやつ…


(はい、頑張りました)


 はは… まさに変身エフェクトだわ。

 綺麗だけどすっごい恥ずかしい…


「なるほど、防御壁はいまいちと思いましたがそれが直子さんの本当の戦闘形態なのですね」


 アリーさんがキラキラした目で言った。


【まー!なんて素敵な闘衣とうえでしょう!私もあのようなのを着てみたいわ〜】


 白銀の龍もキラキラした目で言った。


「主様は着ても直ぐに壊すのでダメです!」


 アリーさんはバッサリ言った。


「も〜この子は細かい事を気にするのですから」


 白銀の龍はプンプンしている。


 その立派な鱗が有れば鎧はいらないと思います…


「それでは再度参りますよ」


 アリーさんは槍を構えた。


(ケンちゃん、アリーさんに向けて振り抜いても武器だけを切る事は出来る?)


(勿論、可能でずぞ主殿)


 それなら武器だけを狙うなんて事はしなくていいわね、素人の私じゃ離れた所から武器だけ狙うなんてできないしね。


 アリーさんが動いた。

 先程と同じように一気に間合いを詰めて同じように槍を振り下ろす、しかしその速度と気迫が先程とは全く違った。


 キィーン!


 何が起きたか直子にもわからなかったが振り下ろされた槍は澄んだ音と共に大きく弾き返されていた。

 アリーさんは元立っていた所まで飛ばされている。


「さすがにその盾は別格ですね」


 槍が損傷していないか確かめている。

 大丈夫らしい、再び構える。

 今度は直子が剣を右から左へ剣を振った。

 その瞬間、いや、それよりも早くアリーさんはしなやかな体で身を伏せて避けていた。

 その姿も絵になる、動きが洗練されていて達人!と思ってしまう。

 素人とはいえ身体強化された私とケンちゃんの空間切断を瞬時に察知し避けるなんて予知能力でもあるのだろうか?


 それから続いて剣を振るったが全て避けられてしまう。

 このまま続けても当たる感じがしないわね…

 そうだ、突っ込んでみよう!

 そう思った直子は盾を前にして思いっきりアリーさんの方向へダッシュした。

 そのダッシュはアリーさんにも負けない程の速さだったがやはりヒラリと交わされる。

 そして交わされた方向へ向きを変えようとする隙をアリーさんが攻めて来た。

 直子はそれを盾で防ぐ動きをする。


 カシャーン!


 アリーさんの槍が上の方で綺麗に切断され、先端が床に落ちた。


「盾で受けるフリをして剣で受けるとはしてやられましたね」


 やったー、うまく行ったよ!

 ケンちゃんに切れない物はない、であればアリーさんの槍を剣で受ける事ができればその際に槍を切断できると考えた。

 

「儂に切れぬものは純心な乙女心のみ…」


 ケンちゃんがまた決めセリフを言った。

 

 け、ケンちゃん前回と少しセリフ変わってる…

 乙女心って…


「それが空間を切るとされる剣ですがセリフはともかく、素晴らしいですねこの槍を両断してしまうとは…」


「この槍はオリハルコン製でしたのに…」


 ケンちゃんのセリフはどうでもいいとしてアリーさんの武器を無効化できたしこれで終了かな?

 白銀の龍を見上げる。


「アリーの槍を切ってしまうとはその槍高かったんですよ~」


 え、弁償とかできないからね!

 白銀の龍はアリーさんを見て行った。


「ですが、アリーはまだ諦めていないようですよ?」


 ええ、もう終わりでいいでしょう~

 さっき食事食べ過ぎてお腹苦しいのよ~


「この槍でダメならやはりこれしかないですね」


 ガシャーン!


 切断されたオリハルコンの槍を投げ捨てた。

 そして左手を前に突き出した。

 すると光と共に剣のような物が現れてきた。

 いや、あれは…


 刀?


 

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