episode20 刀

 アリーさんが前に手を翳すと剣のような物が現れた。

 よく見ると刀によく似ている。

 アリーさんの身長で丁度良い大きさなので普通の人にはかなり大きい刀になるだろう。

 

 アリーさんは目の前に浮かんでいる刀の鞘を左手で掴む。

 そのまま刀を横にして構え、右手で掬を握りゆっくりと鞘から抜いた。

 抜き終わると鞘を左の方へ投げた。

 すると投げられた鞘は空中でスッと消えてしまった。

 そして徐に両手でつかを握り構える。


「やはりこちらでないとお相手できないようですね」


 本当に刀だ、私も本物を見るのは博物館とかでしかないけど一部の揺るぎも無く長尺でありながらスッと切っ先に向かって湾曲して伸びている刃。

 龍の牙のように尖った様な波紋が着いていて根本の腹には何やら紋様が刻まれている。

 何より存在感があり名刀という言葉が思い浮かぶ。

 そして今だからわかるけど魔力を帯びてる。

 日本の刀も名刀と呼ばれる物は魔力を帯びていたのだろうか…


「それでは、2回戦と参りましょう」


 そう言うとアリーさんは刀を左下へ構える。


「直子さんからどうぞ♡」


 アリーさん楽しそうだな〜

 

「アリーがその剣を持っちまったらこの都のは敵う者はいねえよな〜」


 え、そうなの?

 ちょっと行くの嫌になったんですが?

 セッちゃん余計な事言わないで!


「ご冗談を、私の剣などセブルス様の前では赤子も同然でしょう」


 何?そうするとこの都で白銀の龍以外ではセッちゃんが一番強いって事?

 … 少し気が楽になった。

 セッちゃんは巨大な手で顔をグルーミングしている。

 やっぱりあんた猫だわ。

 そんなセッちゃんを見て落ち着いてきた。


 よし行ってみよう!


「アリーさん、行かせて頂きます」


「いらっしゃって下さいませ」


 ケンちゃんをフェンシングのように中央にアリーさんに向けて構えた。

 つついてみよう。

 さっきよりも全身に魔力を貯めるイメージでそれを一気に爆発させる。


 ドン!


鈍い衝撃音が直子が踏み込んだ後からした。


「え」


 サリーには直子が消えた様に見えた。


 アリーさんの体の中心に向かってケンちゃんを突きつけた!

 きっとまた避けられるだろう、でも突く事で避けられても次の攻撃に入りやすいし何度でも行ってみよう。


 ガキィーン!


 激しい金属音が鳴り響いた。


「あれ?」


 思わず声が出てしまった。

 この世の全てを切るケンちゃんを受け止める事は出来ないはずなのにアリーさんはその刀でしっかりとケンちゃんの刃を受け止めていた。


「ケンちゃん!切れないのは乙女心だけじゃなかったの⁈」


 一旦後ろに下がった。


「主殿、儂にこの世ので切れぬ物はありません、しからばその剣はこの世の物ではありませんな」


 まさか本当に日本刀?


【そうですその剣はこの世で作られた物ではありません】


 白銀の龍が答える。


「ちょ、主様それは私が言うはずでしょ?」


【あら〜そうだったかしら〜】


 白銀の龍はフイと横を向いた。


「全くもう!」


 アリーさんはフウとため息を吐いて刀を横一文字に構えて見せた。


「このの名前は姫龍沙夜丸きりゅうさよまる、直子さんあなたが居た日本で作られた刀ですよ」


 本当に日本刀なんだ。

 でもどうして?

 まさか日本に繋がっている?


【残念ですが日本へ行くことはできません…】


 顔に思いが出ていたのか白銀の龍が聞く前に教えてくれた。


 そうだよね… なんとなくわかってはいたけどちょっと残念。

 でもそうしたらなんで日本の刀がここにあるのだろう?


「ではどうして日本刀がここに?」


「それについてはもう少しこのまま私と戦って下さいませ、終わりましたらご説明いたします」


 ものすごく気になるけどアリーさんがそういうなら付き合う他無い。


「わかりました、気になるところですが最後までやりましょう」


 気持ちを切り替えてアリーさんの方向を向いて構える。


「では、行きますよ!」


 そういってアリーさんは右側に残像が残る程の速さで移動したかと思うとそこからこっちに飛び込んできた。


 キィーン!


 ケンちゃんで受け止める。

 どっちかというとケンちゃんが受ける場所に導いてくれてるから受けれてると思う。

 しかし、アリーさんの斬撃がすごい重いし早い。

 異世界特典の身体能力がなければ一撃で剣を飛ばされていただろう。


(主、私を手に持たなくても防御可能です)


(そ、そうなの?そろそろ片手じゃ耐えられない感じだからありがたいわ!)


「素晴らしいですね縮地を使ってもことごとく受けられてしまうとは」


(しゅくちってなーに?)


(離れた所へ瞬間移動するスキルです)


(そんなんあるの⁈ でもアリーさんが移動してるのハッキリ見えてるんだけど?)


 確かに残像みたいになって早いけどどこに移動するかとかはわかるので対処ができている。


(縮地は空間を移動するスキルとも言われ普通は移動している姿は見えません)


 だから変則的な動きなんだ。

 これも特典なのかしらね。

 

「ではこれはいかがでしょうか?」


 アリーさんが大きく後ろに下がったと思ったら直ぐ様突っ込んで来た。

 その際にあちこちに魔力の気配がした。

 アリーさんがいる場所と繋がってるようだ。

 つまりアリーさんはこの魔力が感じられる何処かに移動するという事なのだろう。


 でも私にはどこに向かっているかが見える。

 向かう先と磁石の様に引き合っているみたい。

 こっちの真っ直ぐ向かって来ているが実際は…

 右側の魔力が感じる所と引き合ってる。

 するとそこに引き寄せられるようにアリーさんがその場所へ一瞬で移動した。

 移動が終わると即座にこちらに向かって来る。

 アリーさんは真っ直ぐに突きを放った。


 直子は左手に持ったハクちゃん、盾を手放し剣を両手で構えた。

 アリーさんの突きが届く間際、ハクちゃんが一瞬で直子の前に移動する。

 

 ガキィーン!


 アリーさんの突きがハクちゃんによって防御される。

 

 よし、このままアリーさんの刀を横から切り込む!

 刀は折れやすく横の衝撃に弱いと何かで聞いた事がある。

 両手でケンちゃんを動きが止まっているアリーさんの剣に思いっきり切り込んだ。

 

 キーン!


 あ、アリーさんは刀を手首で回しケンちゃんの斬撃を刀の刃で受け止めてそのまま手を離してしまった。

 刀は遠くに飛ばされそのまま壁に刺さって止まった。


【それまで!】


 白銀の龍が戦いの終了を告げた。


 はぁ〜 やっと終わったぁー。


 直子はその場に座り込んでしまった。

 この世界に来て一番緊張した。

 OLにこんな戦い無茶振り過ぎるわよ。


「直子さん、お疲れ様でした。危うく刀を折られる所でしたよ」


「あ、すみません…」


「ふふ、いえいえ刀ではなく体を狙われたら真っ二つだったでしょうから」


 おう、それは見たくない。


【この闘いを三大神に捧げましょう!】


 白銀の龍は神々しい光を全身から発した。

 同時に直子とアリーの体も同じように光った。

 すると今まであった疲労感、緊張感がスッと消え去った。

 そして闘う前より体が軽く感じた。


「この場所は神聖な場所で闘い認められた者は祝福を与えられるのです」


 神に認められた闘いか…

 壁に思いっきり刀刺さってますけどそれはいいんだね。


【二人ともお疲れ様でした今夜はこの城でゆっくりされて下さい、明日、色々と説明させてもらいますね】


 そう言うと白銀の幼女に戻った。

 闘技場も元の大きさだ。

 セッちゃんもミオさんも元に戻っている。


「直子さんすごかったですよ!さすがお忍び騎士様ですね。あんなの見たので初めてです」


 サリーも興奮して桃色の鎧になっているカーシャとキャッキャしている。


「それにしても日本という所から来られたのですね?私も聞いた事のない国なのできっと遠いとこなんでしょうね」


 さて、どう説明したもんか。


「と、取り敢えず部屋に行きましょう。疲れちゃった」


「あ、そうですよね今日は色々ありすぎですね」


 また知らない扉が出ておりその中から最初に案内してくれた白黒猫の二人が出てきた。


「「お疲れ様でした、こちらへどうぞお部屋へご案内致します」」


 白黒猫は息の合った声で揃って言った。


「それでは皆さまお休みなさいませ」


 白銀の幼女とアリーさん、ミオさんセッちゃんが見送ってくれた。


「でっかい風呂もあるからよ!ゆっくりしろよ」


 お風呂ですと!

 こっちに来てからずっとハクちゃんのクリーンで済ませて来たからお風呂はありがたい。

 部屋までのみちのりを幾つかのドアを通り私達の部屋と思われる所に着いた。


「直子様はこちら」


 白い猫娘が正面右側のドアに手を向ける。


「サリー様はこちら」


 黒い猫娘が正面左側のドアに手を向ける。


「「ごゆっくりどうぞ、御用の際はベルを鳴らして下さいませ」」


 相変わらず息ピッタリで素晴らしい。


「あ、先にお風呂に入りたいのですが?」


「サリーもどう?」


「お風呂!入りたいです!」


 こっちの世界だとお風呂は基調みたいだしね。


「「ではご案内致します」」


 ♨️ ♨️ ♨️


 カポーン


「はぁ〜、生き返るわね〜」


「そうですね〜、このまま天国に逝っちゃいそうです〜」


「まさか露天風呂があるとはね…」


「これろてんぶろと言うのですか?、初めて見ました」


「「ここはローテン式風呂となっています」」


 カポーン


「って何であなた達も一緒に入ってるのよ⁈」


 しかもローテン式風呂ってなによ。

 本当に名前付けた人と一度話さないといけないわね。


「「お背中をお流し致します」」


「え、お構いなく…」


「ローテンルール1、入る前には体を湯で流して入りましょう」 黒猫


「ローテンルール2、湯船に布などを漬けないようにしましょう」 白猫


「「ローテンルール3、お客様は神様です。必ずお背中ををお流し致しましょう」」


「「と言うのがありますので」」


 ああ、そうですか…

 1と2はわかるけど3は要らなくないか?


「「お背中をお流し致しますのでこちらへ」」


 小さな木で出来た椅子が二つ並んでいるところに連れて行かれた。

 そこにサリーと向かい合う形で座らされる。

 なにも着けてないから恥ずかしいんですが!

 

 私の後ろに白猫、サリーの後ろに黒猫が立った。

 紅い花の形をした石鹸でわしゃわしゃと手に泡を作っている。

 当然猫娘達も何も付けていないので丸見えである。

 大きくはないが形の良い胸がぷるぷるしていた。

 猫娘達は堂々としているのでこっちが恥ずかしくなる。

 向かい側に座っているサリーも顔を赤くして必死に前を隠していた。

 猫娘達が泡を背中につけて広げる。

 十分に泡が広がったら今度は自分達の体に泡をつけ始めた。


 まさか…


「「お背中をお流し致します」」


 そ言うと体を背中に擦り付けて来た。


「ちょ!そういうのはいいから!」


「「お背中はこうやってお流しするのがルール」」


 ええ〜 このルール作ったやつ誰だー!


 辞めようとしないので仕方がなく身を任せる。


「はわはわ…」


 サリーも戸惑っている。

 これって男性客にも同じ様にするのかしら?


「これは男性客も同じ様にするの?」


「「ルールは性別に関係無く守られます」」


「それじゃ男性客もこうやってあなた達が⁉︎」


「「男性客は男性客担当がいます」」


「その担当も女性とか?」


「「猿獣の男性が担当します」」


 男性がこれと同じサービスを!

 しかも猿獣って…

 思わず想像してしまう直子だった。


「どうされましたか?肌が羽を剥いた鳥の様になってます!」


「ちょっと気持ち悪い想像をしただけですので大丈夫」


 猫達の手が段々と前に来ている。

 前も洗うとかないよね?


「ま、前は自分で洗えますから!」


「私も大丈夫です!」


「「それは残念…」」


 白猫黒猫共に手をわきわきして残念がった。


「「それではあちらでマッサージをどうぞ」」


 向こうを見るとマッサージによく見かける台が置いてあった。

 断るか迷ったけどこっちに来てマッサージが受けれるなんてそうはないだろうから。


「直子さんあんな闘いをしたんですものぜひやってもらいましょうよ」


 サリーは目をキラキラさせている。

 マッサージは好きなのね。


「それじゃあ、ちょっとだけ」


 実はマッサージは嫌いじゃないけどくすぐったくなるので苦手なんだよね。

 台の上にうつ伏せに寝転ぶ。


「「それではゆっくりされて下さい」」


 そういうと両手をうつ伏せになっている肩と腰の所に差し込んで一瞬で仰向けにひっくり返された。

 まるで中に浮いているかの様にクルッと。

 いきなり前からですか!


「きゃー!」


 サリーもひっくり返さたらしい。

 そして猫娘達は手に怪しげな赤いねばねばしたものを広げている。


「そ、それは⁈」


「「秘伝の美容液でございます」」


 怪しすぎる…


「「大丈夫でございます、私達は神龍式揉しんりゅうしきも療治神手りょうじしんしょうの称号を持っております」」


 揉みって何それ! ゴッドハンド?


「「参ります!」」


 容赦なくゴッドハンドが披露された。


「あ~れー…」

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