episode21 異世界恋愛

 チチチ


「ここは…」


「夢でみた様な天井…」


 ここは何処だろう。

 昨日アリーさんと闘ってお風呂入って…

 マッサージ!

 その先から記憶が無い。あのまま寝てしまったのね。

 さすがゴッドハンド…


 コンコン!


「直子様、お目覚めでしょうか?朝食にお呼び致しました」


「は、はい!今行きます」


 うおお、すっぱだかだった!

 周りを見渡すと壁側にある大きな鏡台の上に綺麗に畳まれた服があった。

 その横の壁にはハクちゃんとケンちゃんが立て掛けられている。


「おはよ、ハクちゃんケンちゃん」


「おはようございます主」


「おはようございます、昨夜はお楽しみでしたな主人殿」


 何が⁉︎


「馬鹿な事言ってないで食事に行きましょう」


「了解です」


「は」


 そ言うと左腕にハクちゃん、右腕にケンちゃんが小さな盾になりくっついた。


「それじゃ行きましょ」


 灰色の毛をした可愛いメイドさんに案内されテラスに設置された食事場に来た。

 この城に入った所よりもさらに高い所にあるテニスコートの半分くらいあるテラスで神の都と呼ばれる街並みが一望できる。


「直子さん、おはようございます!」


 サリーだ、どうやら先に来ていたらしい。

 手をブンブン振って呼んでいる。

 白銀の幼女もセッちゃん、アリーさん、ミオさんも席に着いている。


「おはようございます、昨夜は良く休めましたか?」


「え、はい…朝までぐっすりと」


「それはよかった、あの子達のマッサージはこの都一ですからね」


 確かに疲れが無いどころか凄く調子がいい。


「それでは朝食でも食べながらお話し致しましょう」


「はい、お願い致します」


 朝食が運ばれて来る。

 昨日の晩餐ではガッツリ日本食だったけど今朝は色々とあるようだ。


 丸いパンに目玉焼き、スクランブルエッグ、ベーコン、あれは… 納豆⁉︎

 小鉢に分けて置かれている納豆みたいな物を手に取り匂いを嗅いで見る。

 間違いなく納豆だ。

 昨日豆腐料理も出てたから納豆も作れるんだろうけど…


「直子さんそれは食べられるのですか?凄い匂い匂いしてますが…」


 うん、納豆を初めて見た人は腐った豆にしか見えないよね。


「これはね… 」


 納豆があるならあれもあるはずだ味噌もあったんだから。

 

 「こちらをお探しですか?」


 アリーさんが目の前にあった小瓶を渡してくれる。

 中の匂いを確認すると醤油の匂いがした。


「醤油もあるんですね!」


「ええ、この神の都と呼ばれる所では直子さんの故郷の文化が多く取り入れられています」


 醤油を納豆に垂らしてゴネゴネ掻き回しながら白銀の幼女の話を聞く。

 サリーも真似をしてゴネゴネ掻き回している。


「今から600年程前に異世界から来た一人の人間が居ました。その人間はまだ森しかなかったこの地を森で出会った獣神と共に森の魔物や獣を統一し、この都を作り上げたのです」


「その後人間はここを獣の都とし王となりました。獣神は王の腹心となり森の獣達をまとめました。」


「しかしこの地には更に高位の存在があったのです。」


「この森の最奥に聳え立つ霊峰、シャインムルドと呼ばれるこの世で一番高い山には龍神が居たのです」


「龍神はこのイヴァーリースの誕生と同時に生まれこの地を守護して来たと言われていました。人間は龍神にこの地に国を作るを龍神に許しを得に赴きました」


「龍神は言いました」


「この地を統べるは神になるのと等しい、人間よ、その器、覚悟があるか示せ」


「そして龍神は自分の子供と人間を闘わせたです」


「おお、それで異世界チートでその子供に勝ったのね。」


 話しが長くて思わず発言してしまった。


「いえ、人間は龍神の子供に見事なまでに敗北しました」


 負けたんかい!


「ですがその後何度も闘いを挑みました、しかし人間が龍神の子に勝つ事は出来なかった」


 まあ、神様ですからね…


「ですがその直向きな姿勢に龍神の子供は心を奪われました」


 え、そうなの?龍神の子供って女性?

 いやその人間も男とは言ってないし…

 

 二十台後半に差し掛かった心も身も清らかな乙女、直子は恋話が何より大好物であった。


「人間も長い闘いを共にした龍神の子供を愛する様になったのです」


「ある日いつもの闘いの前に人間は龍神に言いました」


「龍神よ、この闘いに勝てたならあなたのお嬢さんを我が妻として頂きたい!」


 おお、闘いの末に恋が芽生えついに告白か!

 国の話なぞ全然出てこなくなったけど恋ってそんなものよね!


 これまでまともな恋をして来れなかった直子は言い切った。


「これまで闘い挑み既に100年が経過しました」


「え。人間ですよね?100年も経ったらおじいちゃんに…」


「その人間は龍神の側で闘い、神気を身に受けていましたので普通の人間の寿命を大きく超える事ができたのです」


 神気、そんなのがあるんだね。

 若返る事は出来ないのかしら…


「そして今までどうしても突破する事が出来なかった龍神族の龍気壁をその闘いで初めて突破し、竜神の娘に打ち勝ちました」


「龍神もその人間を認め、娘と夫婦になる事が出来ました。人間は龍神の一族として認められ神の都も人間と龍神の娘が収める国となりました」


「壮大な恋話ですね〜 でも闘っていた100年の間は都の方は大丈夫だったんですか?」


「ええ、彼の腹心の獣神が森の獣達を束ねルールを作り守ってくれていました」


 その獣神偉いな〜 私なら3日も待てないわ。


「その獣神も素晴らしいですね」


「はい、その獣神がそこでベーコンと格闘しているセドリック、あなたがセッちゃんと呼ぶ者です」


 セッちゃんは相変わらず長いベーコンをそのまま食べようとして奮闘している。


 な、何ですって!!

 あの残念な精霊のセッちゃんが国を起こした一人だなんて!

 信じられない…


「セッちゃんが話の獣神!」


「ああ、そんな事もあったな」


 長いベーコンを口から垂らしている。


 切ってから食べなさいよ。


「正確には転生前のセッちゃんになりますね、彼らは精霊なので寿命という概念がありませんが高位の精霊は一定の条件で新しい精霊へと生まれ変わる時があるのです」


「記憶も引き継がれるのでほとんど同じ存在と言ってもいいかもしれませんね」


 なるほど、転生すると残念要素も増えるかしら…


 セッちゃんが口をモゴモゴしながらこちらを不快な目で見ている。


「それじゃあ、あなたがその龍神の娘さん?」


「いえ、私は龍神の娘と人間の間に生まれた子になります」


 お孫さんだった!


「ひょっとして白銀の… あー何とお呼びすれば!」


「私の事はイヴァとお呼び下さい」


「イヴァさんはひょっとしてまだお若い?」


「そうですね、まだ500歳を超えたところですね」


 500歳でもまだ若いのか。

 今変化している幼女の姿が龍神からすれば500歳はそれくらい幼く見えるのかしらね。

 だとしたら本当にまだ子供?


「セッちゃんも同じ時期に転生してずっと一緒にいるのですよ」


 なるほど、セッちゃんも転生してイヴァさんと一緒に育ったのね。幼馴染みか。

 するとセッちゃんも500歳位か、でも前世の記憶はあるわけだから…

 もっと落ち着いていてもいいのにね。


「先代の獣神は100年間、良く皆をまとめていましたがその頃の獣達は大型種が多く闘いを終えた父様が都に戻った時には100年間前には有った街並みがほとんど踏み潰されて廃墟になっていたそうです」


「ああ、なので大型侵入禁止なんですね」


「はい、父様はさらに都に住める者を人化出来る者に限定をしました。その方がより発展し易いと考えたのです」


「人化できない者からの反対は無かったのですか?」


「そうですね、都に住みたいと思う者は完璧とは言えないまでも人化できましたから大きな反対は無かったと聞いています」


「ただ、先代の獣神は人化が出来なかったと」


 え、まとめ役が出来ないって…

 さすが前世でもセッちゃんはセっちゃんか。


「なので転生を行い人化できる様にしたのですよ」


「そうだったな〜、あいつが人化出来ないものは都に入れない様にするもんだから参っちまったんだよ」


「でも丁度あいつの子が生まれるってんでそれなら転生して一緒に大きくなればいいとか抜かしやがってな」


「そんで転生したわけだ」


 ベーコンの次は納豆に口を付けたらしく納豆の糸でネバネバした口でガハハと笑っている。


「転生ってそんなに簡単にできるものなんですか」


 納豆の糸と戦っていたサリーが聞く。


「簡単じゃねえさ!膨大な魔力が必要になるからな、でもこいつの親父は人間のくせに魔力だけは桁違いだったからな魔力を供給して貰って転生も成功したんだよ。んで人間の魔力が多く含んだ転生だったから人化も出来る様になってな、今思えばあいつの魔力が無かったら転生しても人化は難しかったかもな」


 やはり異世界人チート魔力だったんだね。


「今のセッちゃんの姿はイヴァさんのお父様に似てたりする?」


「よしてくれよ!あいつに似てるなんて気持ち悪くて人化が解けちまうよ」


 そうは言ってるがそんなに嫌な顔はしてないみたい。

 きっとイヴァさんのお父様と仲が良かったのね。


「ふふ、面影はそっくりですよ父様に」


「うへ!」


 照れている様だ。


「それでよう、あいつこの都を発展させるとか言いやがって自分のいた世界からの召喚術を完成させちまったんだよ」


 え、それって逆に言えば戻れるんじゃ⁈


 白銀の幼女は直子の顔を見て言った。


「残念ながらあちらの世界へいく事は出来ませんでした」


「そう、なんですね…」


 まあ、戻ってもあっちの世界で幸せになれるとは限らないしね。


「父様が完成させたのはあちらの世界の物をこちらで購入できるというものでした」


「なるほどそれで日本の物がここに有ったもですね?」


「そうです、ただ父様にしかその召喚はできず今は継承する者も居りません」


 そうか、人間だものねさすがにお亡くなりなっているのか。


「イヴァさんのお父様は何歳まで生きられたのですか?」


「確か300歳は超えてましたね、人族がそこまで長く生きたのは父様が初めてでしょう」


 確かに長生きというどころではない歳だ。

 ん?お母様は龍神の子よね…


「イヴァさんのお母様は?」


「母様は元気ですよ、お爺様と一緒に霊山に居ります」


 おう、お爺様も元気だった。

 さすが龍神。

 

「お爺様も最近はボケて… ゴホンッお年を召して母様が側でお世話をしているのです」


 龍神もボケるのか… おじいちゃん龍ちょっと見てみたいかも。


「ですので都の方は私達が守護しているのです」


「そうだったのですね」


「あの…」


 食事を終えたサリーが聞きにくそうに声をあげた。


「直子さんはもしかしてイヴァさんのお父様の血縁の方なのでしょうか?」


 いやいや、サリーそれは無いでしょ。

 私は何かわからない神様?にこっちに連れて来られただけだし。

 その神様?はちょっと引っかかるところがあるけどさ…


「おや、サリーさんよくお分かりになりましたね」


 は?


「え、それどういう事でしょう?私は普通の日本人なんですが?」


「あら〜直子さんご存知無かったのですね?」


「ご存知も何も妙に軽い変な奴にこっちに連れて来られただけで…」


「まあ、あの方は相変わらずですね」


「イヴァさんあの変なのに会ったことあるんですか?」


「ええ、たまにお爺様に会いに来られるので確かにあの方は変な方ですね、それにイタズラ好きと来てるし… 全くもう…」


「あの方はこのイヴァリースを作った三大神の一人でスサノウ之命です。そして我ら龍神を生み出したお方なのです」


 スサノウ之命ってあのスサノウ?

 三大神という事はあれか?

 まさか…


「あの三大神って他はアマテラスとかツクヨミとか出てきます?」


「直子さん良くご存知ですねその通りですよ、元々はアマテラス様がスサノウ様と喧嘩して身をお隠しになる為にお作りなられた世界なのですがツクヨミ様や他の神々が仲裁の入り和解したのです。それでスサノウ様もこの世界の為に協力する事になりお目付役のツクヨミ様も加えて三大神としてこの世界を守護されております」


 あの変な奴がスサノウだったの?

 そりゃ神様でもなければ異世界転移なんて出来ないだろうけど。

 それはまあいいわ、それより私がイヴァさんのお父さんと血縁があるなんてどういう事なんだろう。

 普通に日本で生まれて普通に暮らしてたのに…

 まあストーカーとかは異常だったけど。


「それで私がイヴァさんのお父様の血縁というのは?」


「ああ、そうでしたね。父様には年の離れた弟がいたそうです。その名は堅譲直樹と…」


 その名は!

 誰?


「すみません知らない人ですね…」


「そ、そんなはずは⁉︎ あなたからは確かに父様と同じ気配がしますのに」


 そう言われても、直樹なんて人知らないな…

 イヴァさんのお父様の弟よね。

 ん?イヴァさんは500歳、当然お父様はそれよりも前から居る訳で100年は闘ってたんだから…

 最低でも600年前の人!

 親戚だったとしてもそんな昔の人は知らないわよ!


「おそらくですがその直樹さんという方は私が生まれる600年以上前に存在していた人ですね。そうすると私が知らないだけかもしれません…」


「ああ、そうでしたね人族の方は普通は100年程しか世に居られないのでしたね。」


「ですが確かに直子さんは父様の一族です!」


 凄い自信だ。


「だって今こうしてここに居るのですから…」


 確かにいくら向こうの世界で死んだからって異世界に連れて来られるなんて何か関係がなければ難しい気もしないでもない。


「それではこうしましょう、父様が使っていた召喚術を行っていただきましょう」


「直子さんならきっと使う事できると思います、そしてそれが父様の血縁である証拠となるでしょう」


 そんな召喚術なんて私にできるのかしら…


「どうやってやれば?」


「では、儀式のできる場所へ移動いたしましょう」


 そういうとイヴァさんはアリーさんを見た。

 アリーさんはゆっくり立ち上がり何もない壁の方へ歩いて行った。

 そして壁に手を壁に着けるとドアが現れた。


「さあ、参りましょう」


 皆でそのドアの奥へ移動した。

 中に入るとわりと狭い部屋で中央に何か見慣れた建物が立っていた。


「あ、あれは!」


「やはりご存じなんですね、あれは父様が召喚術を行っていた祭壇になります」


 祭壇というか、神社と言える物がそこにはあった。


 

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