episode22 精霊界

 案内された部屋には小さな神社があった。

 お参りの鈴に賽銭箱まで。


「神社?」


「やはりご存知なのですね」


「ええ、私の故郷にはいろんな所にありましたから…」


「父様はこの祭壇を使って異世界から召喚していました、先程食べて頂いた米や納豆などもその種を召喚しこちらで育てたものなんですよ」


 違う世界に種とか大丈夫なのかしら?

 他の動物とかも召喚してたり。


「生き物などは召喚しなかったのですか?」


「生き物は召喚出来ないようでしたね種や植物も出来る物と出来ない物があったようです」


「食器や刀などは召喚出来ましたね」


 こちらの世界の生態系に大きく関わるのは無理な感じかしらね。


「召喚はどのようにして?」


「うーん、祭壇の前に立って手を打ち鈴を鳴らしてその箱にお金を入れると召喚されてましたね。ただ父様以外の人は同じ事をしても何も起きませんでした」


 お参りで願いをしてお賽銭を入れると召喚されるのかな?


「ちょっとやってみますね」


 賽銭箱の前に立ち社を見た。小さい社だがちゃんと扉があり中に御神体があるようだ。

 御神体は何かが書かれている封書に見える。


「中を確かめてもいいですか?」


「はい、ただその扉が開かないのです。どうやら封印されているようで」


「封印ですか?それじゃ無理かな…」


 一応開くか確かめてみる。

 扉に手を掛けた。


 ガランガラン!


 鈴が一人でに鳴った。


[ご利用ありがとうございまう]


[堅譲印の萬屋よろずやでございまう]


 明るい声でアナウンス流れた。


 うお!びっくりした。

 いきなり喋らないでよ…


[お客様の確認をさせて頂きまう]


 何で語尾に う?


 そう思ってるとレーザースキャンみたいな光が現れ直子の全身をスキャンしている。


[堅譲直子様、堅譲直之様のご長女、27歳、未婚]


 うっさいわ! 未婚は余計よ!


「あら、直子さん未婚でしたのね」


 イヴァさんが無邪気な顔で確認する。


「え、ええ、良い縁がなくてですね…」


「大丈夫ですよ〜父様も100歳で母様と一緒になりましたしね」


「いや… 100歳はお婆ちゃんになってるというかこの世に居ないかもだし…」


「直子さんは素敵ですからみんなほっとかないですよ!」


 キラキラした笑顔でサリーが励ましてくれた。


「う、うん良い人と出会えればいいね…」


「もう!私の事はいいから、さっさと進めましょう!」


 こんな所で精神的ダメージを負うとは…


[直子様の確認と萬屋を最適化する為に直子様の魔力を登録します。お手をお出し下さい、う]


 言われるがまま右手を前に出した。


「こうでしょうか?」


[はい、そのまま動かないで下さい、う]


 強い白光が社の奥からレーザーのように出した手を貫いた。

 正確には光が手の平を通過している感じだ。

 光が貫いた所に盾の様な紋様が浮かんだ。

 すると白い光が手の平から徐々に赤く染まって行き光が社の中まで伸びて行った。


 ガランガラン!


 鈴がまた一人でに鳴った。

 突然でちょっとびっくりする。


[お疲れ様でした、登録及び最適化が完了しました。これより直子様は堅譲印の萬屋DXがご利用になれます、う]


「DX?」


[登録により直子様が存在していた世界とリンク可能となり直子様が居られた時代の物が召喚出来る様になりました、う]


 え、私が居た日本の物が召喚出来るの?

 DXってもしかしてデラックスか?


「召喚はどうすれば?」


[社に向かい手を差し出して下さい、う]


 こ、こうかしら?

 社の扉に向かった手の平をかざした。


 パッパラパフパフパララ〜


 何とも気の抜けた音がして目の前に透明の画面が現れた。


[堅譲印の萬屋DXをご利用頂きありがとうございまう]


 そして画面の横にアヒル見たいなホログラムが現れた。

 マスコットか何かかしら?


「ほう、前は猫殿が案内だったが今度は鳥か」


 セッちゃんが思い出したように言った。

 前は猫だったの⁈


 ホログラムがしゃべり出す。


「直子様、本日はどのようなご利用でしょうかう」


 妙にリアルな鳥…

 これってあれだ! だ!

 だから語尾が う なのか…


「どうかされましたでしょうかう」


「あ、召喚が出来ると聞いたのですが?」


「はい直子様が居られた世界の物を召喚する事ができまう、ただし召喚出来ない物もあります、う」


 無理に う を付けてないか?


「このイヴァリースを創造された三大神様がお認めになられた物に限ります、う」


「なるほど、神が認めた物が召喚出来るのね。例えばシャンプーとリンスは召喚出来るかしら?」


「直子様がご登録されてこの萬屋もバージョンアップし直子様が居られた時代の物を召喚出来ますのでおそらく可能と思いまう」


「少々お待ち下さいう、上司に確認致します、う」


 案内の鵜はブツブツと誰かと交信しているようだ。


「ええ、はいそれです。はい…はい」


 おい、語尾に う はどうした?


「え!そ、そうですか… あ、はい… にゃー」


 何で にゃー⁉︎


「確認しました、大丈夫だそうです」


「語尾に う がついてないわよ…」


「え、あ、な、何のことでうか?ちゃんとついてます、う!」


 これ本当にホログラムかしら?

 そっと鵜の長い首を掴んでみた。


「グア! な、なにをするでうか⁈」


 本物だった!


「あんた本物だったのね」


「な、何だと思ってたのでうか?」


「光の中から現れたからホログラム… 幻影か何かと思って」


「鵜はちゃんと生きてるうです、鵜生を謳歌してるうですよ」


 いや、鵜生の事は聞いてないけど…


「上司もよく川に遊びに連れて行ってくれるうです!」


 それってあんた鵜飼うかいでは…


「その時に首に何か付けられなかった?」


「よくご存知うね、鵜が水を飲んで溺れない様にいつも付けてくれますう」


「その後に魚を食べたりするとか?」


「何でわかりますう?そうですいつも鵜が飲み込んだで詰まった魚を取ってくれて上司が焼いてくれるですう」


 うん、それは鵜飼だね。


「まあ、あんたが楽しいならいいと思うよ」


「楽しいですう、上司は猫なのに鳥の鵜と仲良くしてくれるですう」


 ああ、上司は猫なのか。それでさっきにゃーと。


「おい、おめえその猫ってまさか大福殿じゃねえか?」


「よくご存知でうですね、大福様ですう」


「大福?」


「ああ、大福殿は先代が召喚してた時の案内役でよ。色んな事を教えてもらったっけかな〜」


 ほーう、つまりこの鵜と同じ事を猫がやっていたと。

 私も猫の方がよかったな…


「は!何か不満の思念を感じるう」


 こいつも精霊なのか?セッちゃんの様に妙に悪口に敏感だ。


「大福殿は健在なのか、さすがだな〜」


「ええとつまり貴方達はこの召喚装置の案内役で装置を使う時はあんたも召喚されると?」


「そうですう」


 どこから召喚されるかよね。日本から召喚されているなら…


「あんた達はどこから召喚されているの?」


「聖霊界ですう」


 精霊界… やはり精霊なのね。


「という事はあんたはセッちゃんと同じ精霊なの?」


「セッちゃん? ちょっと直子様のこちらでの記録を調べるう」


 え、そんな事できんの?


 鵜は目を閉じてぶつぶつ言っている。


「わかりましたう、セッちゃん様はセドリック様の事でうね」


「セッちゃん様はこちらの世界で存在を認められた精霊王ですう、鵜も聖霊界ではエリートでうが普通の精霊でう。精霊王は神に等しい存在でう」


「よせやい、俺はぁそんな高尚なもんじゃねえさ」


 珍しく謙遜している。

 あのセッちゃんが精霊王、しかも神か…

 あのチワワがね…


「俺だって自分を神様なんて思ったこたぁねえよ」


 セッちゃんがこちらを向いて言った。

 精霊に悪口は隠せないらしい。


「大福殿には色々教わったなぁ〜魚は川より海の方がデカくて美味いとかなぁ」


 また魚か…


「ひょっとしてその大福さんに取った魚をあげたりした?」


「おう、大福殿の言う通りにすると簡単に魚が取れるんだよ、それで半分は大福殿に持って行ったなぁ」


 鵜といいセッちゃんといい完全に利用されてる…

 大福猫は他の精霊を使うのがうまいらしい。


「なあ、大福殿はもうこっちには来れねぇのか?」


「大福様は毎日忙しいみたいでう、いつも机の上でゴロゴロ鳴いてるでう」


 それって寝てるだけでは…


「そりゃーしょうがねえな」


 セッちゃん…

 精霊は素直なのだろうか?


「ねえ、もう私も召喚が出来るのよね?」


「そうでう、鵜がサポートするので大体の物は召喚出来ます、う」


「それじゃあ、召喚、大福猫!」


「了解でう!」


 何の疑いも迷いも無く鵜は召喚を始めた。

 この鵜に疑うという言葉は無いらしい。


「う!」


 そう言うと鵜の目の前に透明なコンソールが現れた。

 そのコンソールをくちばしで素早く突いている。

 残像が見える程の速さだ。


「この度は堅譲印の萬屋をご利用頂きありがとうございます、う。ご依頼の大福猫を召喚しますう、お賽銭として銅貨3枚を収めて下さいう。」


 安! 大福猫安いな…


 銅貨3枚をハクちゃんに出してもらい賽銭箱に投げ入れた。


「それでは最終段階に入ります、鈴を鳴らして下さい、う」


 鈴に繋がっている縄を振り鈴を鳴らす。


 ガランガラン


 社の中から強い光が溢れしばらくすると光は収まっていった。


 にゃー!


 ガチャッ


 社の扉を開き中からミケ猫が二足歩行で出て来た。

 ハムスターかと思う程ぽっちゃりしている。


「なんなのにゃー、気持ちよく寝てたのに…」


 辺りをキョロキョロしている。


「こ、ここはまさか⁈」


 左側に居た鵜を見つけた様だ。


「鵜! これはどういう事にゃ!シャンプーとリンスを召喚するんじゃにゃかったのか?」


「大福様は直子様の願いにより召喚されましたう」


「にゃ、ニャンだと!」


「大福殿、久しいなぁ!」


 セッちゃんが嬉しそうに大福猫を迎える。


「あ、セドッっち! するとここはやはりイヴァーリースかにゃ?」


「ああ、そうだぜ。また会えるとは思ってなかったが随分貫禄がついたじゃねえぇか」


「セドッちは全然変わらないにゃ〜、元気にしてたかにゃ? って何でまたわれがイヴァーリースに召喚されたのにゃ?」


「おう、そこの姉さんが呼んでくれたんだよ。あいつの後継者だ」


 大福猫がこちらをじっと見る。


「た、確かに魔力の色が一緒にゃ懐かしいにゃ…」


「堅譲直子です。大福猫さん」


「こちらはサリー」


「サ、サリーです!」


 サリーは今にも大福猫に飛びかかりそうに興奮している。

 確かにモフモフしたい魅惑ボディだ。


「あ、どうもですにゃ」


「それでなぜ我は呼ばれたのにゃ?」


「え」 直子


「にゃ?」


「モフモフだからですよね!」


 いや違うからサリー。


「セッちゃんが会いたいと言ってたので召喚出来るかな〜と」


「それだけにゃ?」


「ええ、まさか出来るとは思ってなかったけど」


 大福猫はがっくりして崩れ落ち両手を床に付けようとしたがお腹が邪魔をして届かないでいる。


「せっかく犬どもから巻き上げたジャーキーを食べるところだったにょに…」


 犬も利用しているらしい。


「大福〜!」


「ん?なにか聞き覚えのある声にゃ」


 後ろで見ていたイヴァさんが幼女の格好で大福猫に向かって駆け寄って来た。


「イヴァっちじゃにゃーか!すっかり大きくなって… ないにゃ!」


「あの時のままじゃにゃーか、神龍属は成長しにゃいのか?」


「酷いですよ、少しは大きくなってますから!」


「今は都の長なんですよ」


「おお、そうかにゃ〜あの泣き虫イヴァっちがにょ〜」


「大福は一段と大きくなりましたね…横に…」


「ほっとくにゃ、これは仮の姿にゃ!」


「食っちゃ寝してただけでは?」


「な、なぜそれを知ってるにゃ」


 やはりか。


「直子さん、大福を召喚して頂いてありがとうございます。もう会えないのかと思っておりましたので」


 ただ、ずる賢い猫を見てみたかっただけですけど。

 イヴァは大福猫をモフリながら言った。


「ですが、聖霊界から召喚された精霊は長くその場に居られないのです。大福もこんなですが精霊ですから時が来れば聖霊界に戻されるでしょう」


 そうなんだね、できればこのまま一緒に居てほしいけど。


「こんなは余計にゃ〜 ゴロゴロ」


 イヴァさんにお腹をさわさわされて気持ちよさそうだ。


「わ、私も!」


 サリーも我慢出来なくなったのか大福猫に駆け寄りイヴァさんと一緒にモフリ始めた。


「や、止めるのにゃ〜」


「この地に留まれないのはなぜなんでしょう?」


 直子もモフリに加わりながら言った。


 うにゃぁ~


「精霊は精神体ですので肉体を持ちませんのでこの様に触れる様にするのに魔力で依代を作っているのです。」

 

 ゴロゴロ


「その魔力は大きく長く保つ事ができませんが召喚された場合は聖霊界と繋がっており魔力も聖霊界から得られます」


 ゴロゴロゴロ


「聖霊界では召喚された精霊を管理しており召喚者との契約が終了すると魔力の供給もされなくなるので存在を維持出来ないのです」


 ふむふむ、聖霊界は精神世界で現実のこちらに存在するには聖霊界のサポートが必要という事ね。

 魔力か…


「にゃ~そこはだめにゃ~」


「セッちゃんの魔力とかで維持できないの?」


 この世界の精霊王なんだからなんとか出来そうな気がする。


「あ〜俺だけじゃあちっとキツイなぁ… !」


「姉さんの魔力なら全然余裕だと思うぜ」


「そうなの?」


 イヴァさんとサリーにモフられてる大福猫はジタバタしながら何やら言っている。


「我はもうこっちの世界は十分なのにゃ、お構いなく契約が切れたらちゃんと戻るにゃよぉ〜」


 魔力が問題ないなら聖霊界との繋がりだけよね…


 シュパ!


「儂にこの世で切れぬもの無し。切れぬは真愛なる心のみ…」


 相変わらず何か言わなければ済まないケンちゃんであった。


「な、何を危ないにゃ⁉︎ え? まさか…」


 そう、ケンちゃんに聖霊界との繋がりを切ってもらったのだ。


「これで貴方はこの世界で自由よ」


「にゃ!にゃんですとぉ〜!」



◆   ◇   ◇   ◇   ◆


「直子さん異世界人だったんですね〜」


「そうなのよ、サリー黙っててごめんね」


「いえいえ、色々変でしたから異世界人なら納得ですね」


「わ、私って変だった?」


「ええ、そんなに綺麗なのに独り身だなんてあり得ないですよね」


 グハッ!


 直子は心に大きなダメージを負った。


「い、色々あったのよ、変なのしか寄って来ないし…」


「サリーも可愛いからいい人いるんじゃないの?」


「私はいないですよ~ まあ、婚約者は居るんですけど…」


 おお、婚約者!


「だた、親が勝手に決めただけですけどね。まったく今どき親が結婚相手を決めるなんて迷惑ですよね」


「ああ、そうなのね。サリーって良い家の出よね?」


「え、そうでもないですよ」


「だってメイドさんも居るし」


「メイド位みんな居ますよ~」


 そうなのか?


「ところで村の仕事はほっといてよかったの?」


「ああ、村のお仕事は辞めてきましたから」


「はい⁈」


「直子さんに着いて行って色々と勉強しようかと」


「いやいや、大丈夫なの?」


「ええ、生活には困ってませんしこんな機会はありませんからね」


「カーシャも居ますしね」


「サリーお姉ちゃん寝ないのぅ~」


「うん、明日も色々あるだろうし寝ましょう、直子さんも」


「う、うん…」


 サリー絶対いいところの出だろうし後で揉めそうだな~


 フッ


 サリーが明かりのスイッチに魔力を流し明かりを消した。


 明日は神の都について確認だ。


「直子さんに良い縁がありますようーに、おやすみなさい~」


 そっか~ サリーには婚約者が居たのか~

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