episode23 麗しいエルフのお姉さん

 【静寂の剣盾】ケンちゃんの一振りで大福猫と精霊界の繋がりが切断された。


「本当に何でも切れるよねケンちゃん」


「この世の理りは把握しておりますからな、隙間に次元の裂け目を入れてやれば一緒ですな」


 ほ〜 さっぱり分からん。


「あれ?でも精霊界はこの世の物じゃないのでは?」


「大福猫殿の居た精霊界はこのイヴァーリースに存在する精霊界なので問題ないですな」


「見えないけど精霊界もこのイヴァーリースに在ると言う事かしら?」


「その通りですぞ」


 この世界に連なる別の世界って事かしらね、天界や魔界もありそうね。


「なんて事をしてくれるにゃ!このままじゃ依代を維持出来なくて消えてしまうにゃ!」


「消える?精霊界に戻されるんじゃないの?」


「普通はそうにゃ、でも精霊界との繋がりを切ったら戻る事ができずそのままこの地に吸収されてしまうにゃよ〜」


「ああ〜こんな事なら近所のブチ猫にアタックしとくんだったにゃ〜」


 ブチ猫も居るのね。


「ハクちゃんお願い」


「了解しました主。大福猫に触れて下さい」


「どこでもいいの?」


「はい」


「大福!お手!」


「にゃ!」


 タシッ!


 反射的に大福猫は右の手を直子が差し出した手に乗せた。


「眷属契約を行います」


 直子と大福猫の手を上下挟む様に【崇高の白盾】の紋様が浮かび同時に手に吸い込まれる様にして消えた。


「完了しました。眷属契約により主の魔力が大福猫に継続的に譲渡されます」


「にゃんと!」


 大福猫の体が小さくなっていく。


「にゃ〜 擬態が解けて真の姿になるにゃ〜」


 おお、本当にその豊かな体は仮の姿だったのね。


 ポワンッ!


 煙の様なものが上がり真の姿をした大福猫が現れた。


「ちょっと、ほとんど変わってないじゃないのよ!」


 真の姿は先程より若干胴回りが小さくなり少し動き易くなっただけだった。

 相変わらず丸々としていた。


「おかしいにゃ!本当はスタイル抜群のイケニャンにゃ⁉︎」


 どこがよ!

 その場に居た全員が思った。


「主の魔力量が過剰に譲渡されているようです」


「にゃに⁉︎ そんな事が… あんた本当に人間にゃ?」


「失礼な、そりゃー人間離れした可憐さはあると思うけど」


 直子はふふんとポーズを決めた。


「そうです、直子さんは可憐です!」


 サリー、冗談で言ったのにそれは恥ずかしい…


「まあ、これでこっちでも自由に動けるでしょう?」


「そうだけどにゃ…」


「とりあえずは私達と一緒に居ればいいんじゃない」


「毎日モフモフできますね!」


 幸せそうなサリー。


「大福、お爺様もお母様も会えると知ったら喜びますよ」


「じじいはまだ生きてるにゃ⁈」


「ええ、大分お年を召しましたけどね」


「ふう… しょうがないにゃ。おい。鵜!」


「は、はい!」


「召喚担当、しっかりやるのにゃ。見てるにゃよ!」


「はい!大福様、頑張ります!」


 だから語尾に う はどうした?


「まずはキャクター設定を徹底するのにゃ、特徴を出さないと出世できないにゃよ」


 あれは設定だったのか、精霊界はみんなキャラ設定しているのかしらね?


「はいです、う!」


「我は捕まってしまいペットになってしまったにゃ、後は任せたにゃ…」


 捕まえて無いし、解放しただけだから。


「大福様、また魚取りに連れていって下さい、う」


「ふ… 生きて戻れたらにゃ…」


 どこに行くつもりなの?


「だ大福様! ご無事で う」


「さあ、姉さん何処へでも連れていくにゃ」


 よく分からないけど大福猫が仲間になった!


「直子さん、大福をよろしくお願いしますね」


「ええ、せっかくのモフモフなのでサリーも喜んでるみたいだし」


「大福ちゃんよろしくね」


「よろしくにゃ」


 大福は差し出されたサリーの手に肉球をぷにゅっと押しつけた。


「これで召喚がまた出来るようになりましたね、ありがとう直子さん」


「いえ、太った猫を出しただけですが。また何か召喚する物があれば言って下さい」


「あ、そうだ、シャンプーとリンスも召喚してね、鵜」


「了解しました、う」


「銀貨2枚になりますう」


 銀貨2枚か妥当な金額だけど…


「大福、あんた銅貨3枚だったわよ」


「にゃんですと! 我が銅貨3枚… 精霊神様それはないにゃよ」


 精霊神なんているのか。


「あら〜 サフィーナちゃんは元気にしてるの?」


「元気にゃよ、イヴァっちの事を聞いたら会いたいとか言い出すにゃ」


「ええ、私も会いたいわ〜」


「あんたら立場を考えるにゃ、精霊神と神龍なんて一緒に居たら世の中大混乱になるにゃよ」


「イヴァさんはその精霊神とお知り合いなんですか?」


「ええ、私が100歳を越えたあたりでここに保護されて来た精霊だったのですが色々あって今では精霊神なんかになっちゃって」


 その色々がとても気になる。


「直子さんならそのうち会えますよ」


 イヴァさんは確信に満ちた目でにっこり微笑んだ。


「是非、会ってみたいですね」


 会って大福猫の召喚がなぜ銅貨3枚か聞いてみたい。


「さて、今日はこれからどうされますか?」


「直子さん、街を見てみたいですね」


 サリーがウキウキしてる。


「街か、いいわね。行ってみましょうか?」


「街に行かれるのであればセドリックも連れて行くといいですよ」


「おう、俺らの街を案内してやるよ」


 セッちゃんが一緒なら色々教えてもらえそうだね。


「あ、大福はどうしましょう?人化出来ないと入れないですよね?」


「大丈夫ですよ、今は大きさ制限を超えていなければ入れますので」


 おう、そうなのね。色々な獣が見れそう。


「もちろん誰でも入れるのではなく検問はしっかりやってますので治安も良い方と思います」


「まあ、気の荒い連中が多いから賑やかではあるわな!」


 ガハハと笑うセドリック。


「それじゃあ、準備して部屋から出て来れば案内が案内が居るからよ。あんまり時間掛けずにとっとと来いよな」


「わかったわよ、あ、鵜、シャンプーとリンスは?」


「う⁉︎ ちゃんと召喚してあるう」


 鵜はシャンプーとリンスを直子に渡した。

 私が転移前に使っていたやつだ…

 どれとは指定しなかったけど私の記憶から選んだのだろう。

 これはこれでありがたいわね。後で色々召喚してみようかしら。


「ありがとう、助かったわ」


「それでは鵜は戻るうよ」


「ご苦労様、またお願いね〜」


「大福様もお元気で、う」


「精霊神様にもよろしく言ってほしいのにゃ」


「はいで、う」


 鵜は羽根をバッサバッサと羽ばたき消えてしまった。


「ほにゃ、さっさといくにゃよ。お腹空いたから街で何か食べるにゃ」


「ダイエットしたら?」


「嫌にゃ!我は十分スリムにゃ」


 どこがじゃ!


 皆がそう思ったようだ。

 セドリック、セっちゃんに導かれ街に向かう。

 城の馬鹿でかい玄関を出る。

 ボゥン!

 セッちゃんがチワワの姿に変身していた。


「こっちの方が動き易いからな」


 パタパタと前を歩きながらセっちゃんが言い訳っぽく言った。


 まあ、私達はチワワのセッちゃんの方が見慣れてるからいいけど。人型の方が威厳が出ると思うけどな…

 チワワのセっちゃんがこちらをチラッと見る。

 

 一同は城の白い大門を通る。

 とても大きい大門だった。門は全開している。

 全体が白く銀色の猛々しい龍が描かれている。


「これってイヴァさんが描かれてるの?」


「いや、この城が出来た時に門も作ってるからあいつだな、イヴァの爺さんだな」


 へー、お爺さんも銀色の龍なんだ。


「爺さんには後で会えるぜ」


「やっぱり会いに行くんだね」


「ああ、もうろく爺さんだが一応は神様だからなあっといて損は無いと思うぞ」


 バッ!


 突然セっちゃんが山の方を向いた。

 大方その神様に今のを聞かれてセっちゃんの悪口を言っているのだろう。

 本当に悪口に敏感なチワワだ。


 門を出るとバスの待合所みたいな所が横にあった。セっちゃんそこに向かっているので街までの送迎か何かあるのだろう。


「馬車か何か来るの?」


「ふっ… 待ってりゃわかるぜ」


 なんかすごいマウント取ってる感じでニヤニヤしているチワワだ。


「直子さん、街まで送ってもらえれば楽ですね。どんな馬車でしょうね?」


 サリーがキラキラした目で腕のカーシャとキャッキャしてる。


 フィィィーン!


 な、なんか甲高い電車音が聞こえて来たわ。


「来たぜ」


 街の方から太陽の光を受けてキラキラ大きな物体がやって来る。


「あ、あれは?」


「この街の移動に使われている魔導移動装置、フィンスだ!」


 すごいドヤ顔でチワワが紹介してくれた。


「おお、あれが聞いてた乗り物なのかにゃ!」


 フィィィーン!


 不思議な事にこの電子音は遠くでも近くでも音の大きさが変わらなかった。目の前に来ても遠くから聞いていた音の大きさで不思議に静かだ。

 目の前に謎の乗り物が止まった。

 フィンスと呼ばれるその乗り物は全体が縦長の六角形をしており進行方向とその後ろが尖っている。

 下はカットされたダイヤの様な表面で台になっておりその上のは透明な膜の様な物で乗客を囲っている。ガラスかと思ったが下の方から魔法陣の様な紋様が薄っすら浮かび上がっており結界が張られているのかもしれない。


 シュンッ


 透明部分の横全体が消えて乗り降りする為の透明な階段が現れた。


「白銀の城前です〜 ご用の方は足元の気をつけてお降り下さい〜」


 綺麗な澄んだ声で歌う様にアナウンスがフィンスの中から聞こえて来た。

 数名の乗客がゾロゾロと降りてそれぞれの目的の場所へ去っていった。


「このフィンスは中央道通り南門行きです〜ご用の方はお乗り下さい〜」


「よし、乗ろうぜ」


 セっちゃんがパタパタとチワワの姿でフィンスに飛び乗る。


「あら〜 セドリック様じゃないですか?またペットショップですか〜?」


「今日は街の視察だ」


 淡い水色の制服を着たガイドさんはセっちゃんと顔見知りらしい。

 ペットショップで自分用のアイテムでも買ってるのだろうか。


 それにしてもこのガイドさんはとても綺麗だわ…

 耳が尖ってるからこれがエルフなのかしら?


 整った顔、見事なプロポーションに白く細い脚が丈の短いスカートからこれでもかと見えている。


「オラ、おめえ達もさっさと乗れよ」


 言われるがままフィンスと言う乗り物に乗り込んだ。

 乗り込むと透明壁はガラスよりも外の様子を良く見ることができた。全周が透明なので動く台に乗っている気分になる。

 椅子や捕まる所は無く皆それぞれの場所に立っていた。


「それでは中央通り南門行き出発します〜」


 ファンッ


 乗り込んだ側の結界がまた元に戻った。

 ゆっくり動き出したが全く揺れないし動き出した時の反動も全くない。地面に立っているのと同じ様に安定している。

 しかし外を見ると景色が流れて行く、不思議な感覚だ。


「すごいですねー、さすが神の都と言われる街です!こんなの初めて乗りました!」


 サリーが興奮気味にキャッキャしている。


「今日はお一人じゃないのですね?セドリック様」


「おお、紹介するぜ。こいつらは…」


 セっちゃん、なぜ言葉に詰まる?


「あ〜あれだ!城の客人だ!」


 それは見ればわかるよね。

 確かに私達の素性を他の人に話すのは難しいかもしれないけど…


「イヴァさんの親戚で直子と言います」


「こちらは友達のサリーです」


「サリー  と言います。よろしくお願いします」


「ふふ、訳ありそうですねセドリック様」


「そ、そんな事はねえぞ!あ、こいつはこのフィンスで案内をしているリューシィだ」


 少し落ち着こうか、セっちゃん…


「フィンスのガイドをしているリューシィです。この度はフィンスをご利用頂きありがとうございます」


 そう言うとガイドのリューシィは膝付けて深々とお辞儀をした。


 ちょ、そんな短いスカートでしゃがんだら見えちゃうわよ!


 慌てて静止しようとしたが絶妙に脚を斜めにして見える事はなかった。

 その動きが優雅で同性でもため息が出そうだ。


「綺麗な方ですね、直子さん!」


「まあ、そう言って頂くと嬉しいですわ」


 キラキラした笑顔で微笑むリューシィが眩しかった。


「それで… こちらのお猫さんもお連れの方ですか?」


 大福はこっちの事は全く気にせず透明の結界にへばり付く様に外を見ていた。


「ああ、私のペットの大福です」


「誰がペットにゃ!」


 外を見ていた大福がこっちを振り抜き抗議する。

 自分でペットになったと言ってたのに気まぐれな猫だ。


「失礼しました。精霊様、ゆっくりされて下さいね」


「大福が精霊とわかるんですね」


「ええ、もちろんです。精霊様の気配は全く違いますので… それにこの様なお姿のお猫は居りませんから」


 たしかにこんな丸々した猫はいないわよね。

 でもさすがエルフ、精霊とかの気配に敏感なのね。


「ふふん」


 何故かドヤ顔の大福。


「皆様はどちらまで行かれるですか?」


「ああ、とりあえず中央街で降りて見学だな」


「中央街ですね、近くなりましたらお知らせ致しますのでそれまで景色をお楽しみ下さい」


 そう言うとリューシィは後方の全体を見渡せる位置に移動して待機した。

 まるで美しい彫像の様に気配無く立っている。

 見つめているとニコッと返してくれた。

 慌てて外を見る。


 足元以外は透明の結界で360°上も全て見渡せる。

 大門からしばらくのどかな草原が続いていたが民家らしい建物が多くなって来た。建物は城と同じ感じで壁などは洋風だが屋根は瓦屋根で先進的でもあり懐かしさも感じる。壁は銀色に近い白で屋根は同じ白か薄い水色やピンクなど色々なパステル色で可愛い街並みだった。


 素敵な街ね… 歩いている人は見たことも無い様々な獣人の姿をしてるけど皆んな明るい表情で幸せそう。


 直子は見たこともない街だったが都会的な街並みに感じた、そして以前の住んでいた街を懐かしく思うのだった。



◆   ◇   ◇   ◇   ◆


「そういえば精霊って飛べるんだよね?」


「ああ、精霊は実体が無いからな地上の重力には縛られねえんだ」


「ということは大福猫も飛べるんだ?」


「もちろんにゃ!ちゃんと飛べるにゃよ!」


「はい、直子さん私ちゃんと大福ちゃんが飛んでる所見ました!」


「本当⁈ いつ見たの?」


「フィンスに乗る時に透明な階段があったんですが」


「あったわね」


「最初、大福ちゃんはがんばって登ろうとしてたんですけどお腹がつかえて登れなくて…」


「お手伝いしようと思ったら突然、フワッと浮いた感じでフィンスに吸い込まれる様に入ってました」


 フワッと浮いて吸い込まれる…


 直子はその姿を想像した。

 丸々とした体で一所懸命毛繕いをしている大福を見て思った。


「ああ、風船か~」


「だれが風船にゃ!」


「そうですよ、直子さん。とっても可愛かったですよ」


「サリーよ、なかなか見込みがあるやつにゃ」


「ええ、こうモフモフしたくなります~」


「ヴャ!よ、よすのにゃ!」


「あ、ずるい。私もモフる!」


「にゃー!せっかく毛繕いしたのに台無しにゃ~!」



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