episode17 大型侵入禁止

 結界を抜け、神の都と思われる所が見えた。

 人がこの都を見つけられない筈だ、結界によって見る事さえできないのだから。

 でもそんなところに人である私をなぜ招き入れるのか…

 それとも私は異世界から来て人じゃ無くなったとか?

 いや、それならサリーも一緒に来れてるし違うよね。

 そりゃー覇気とか強い魔力とか身体能力も凄いけどそれは異世界転移特典な訳で…


 私… 人だよね…


 こっちに来てから自分の力がこの世界でも特殊なのは理解してるけど色々あって考えない様にしてた…

 けどふと思うとそんな不安が胸を騒つかせる。


「おら!街の連中が手振ってんぞ、手振ってやれや」


 そんな事を思ってるうちに町の上まで来たらしい。

 下を見ると人と思われる人達がこっちに向かって手を振ってる。

 良く見ると頭に耳があったり、角や尻尾がある人もいる。

 獣人の街なの?

 いやでかい緑色の人もいたりするからモンスターの街かな?

 一生懸命こっち手を振って居る人?達を見てると自分が人かどうかなんてどうでもよくなってきたわね。


 私は私でいいじゃん!


 死んだと思ったけど異世界だけどこうして生きてる。

 知り合いもできたしこのファンタジーを楽しまないと損だわ。

 そう思うと自然に笑顔になった。

 吹っ切れて街の方向に手を振り返す。

 ん? 町の入口みたいなところになんか書いてある。

 門の上に。


 大型侵入禁止(2.5m)


 どう言う意味だろう。


「ねえ、あの門に書いてある大型侵入禁止ってなに?」


「ああ、あれか。でかい奴が街に入ると街が壊れるからな、制限されてんだよ」


 なるほど、確かに来る途中に見た大型の獣なんか入ったら街はめちゃくちゃだろう。

 でもそれにしてもみんな人の外見をしてる。

 それも規則だろうか?


「セッちゃんみたいな獣の姿をしたのが街にいないみたいだけど?」


「それも規則だな、街では人の姿にならないと入れねえ様になってんだ」


 へー、人を避けてるのに姿は人なんだね。

 利便性を考えるとその方がいいんだろうけど。


「それならセっちゃんは入れないじゃない?」


「おいおい、俺は高位精霊だぜ人化できるに決まってんだろう」


 へー ってだったら最初から人の姿できなさいよ!

 なんでしゃべる犬なのよ!

 あんたの人の姿見たいわよ!

 相変わらず残念な精霊だ。


「そろそろ着くぜ」


 街の上を通り越し、山の麓にある城に向かっている様だ。

 大将と呼ぶセッちゃんの上司はやはりこの都のトップらしい。

 そうだよねセっちゃんの今の姿だとセっちゃんがトップでもおかしくない程だからその上司なら当然か…

 まさか王様とか…

 城に向かってるから十分ありえる。


「ハクちゃん、作ってもらったバトルスーツに着替えられるかな?」


「了解しました」


 体が白い光に包まれあっという間にエリーさんに作ってもらったバトルスーツに着替えた。


「直子さんその服で行くんですか?」


 城に向かってるし多分謁見みたいな事になりそうだしね。


「サリーも一応カーシャに鎧になってもらった方がいいかも」


「わ、わかりました。カーシャお願い」


「はいなの!」


 カーシャはそう言うと白い光と共に桃色の花びらの様なものを舞わせながらサリーの体を包んでいった。

 そしてサリーの家で見た艶やかな桃色の鎧姿になった。

 なにそれ!カーシャ、それアニメヒロインの変身方法じゃん!

 可愛いからいいけど。

 私もやってみたいとか少し思ってしまったわよ。

 もうよい年だけど乙女はいつまでも乙女なのよ…


(主、主の時もそのようにしますか?)


 え、なんか心をハクちゃんに見透かされている…


(あー、うん…控え目でお願い…)


 断らないのが私らしいな…


「おー、いいじゃねぇか!似合ってるぜ二人とも。大将も喜ぶだろうぜ」


 うむ、やはり着替えて正解かな。

 ん?

 なんか今違和感が…


「セっちゃん…」


「お、なんだ気が付きやがったか。さすがだな」


 なにが?


「城の周りには害意があるかを感知する結界が貼られてんだよ」


「結界ってつっても感知するだけで誰でも通れるけどな、その代わり余程の奴じゃあなかったらその結界に気が付かないで通り抜ける」


「んで、害意を持った奴ぁ~マークされて撃退されるってぇ事よ」


 ほー、さすがお城だけあって守りが固いのかな。


「見えて来たぜ、あそこに降りるから落ちないように気をつけろよ」


 前方には城壁に囲まれた城の2階に当たる場所だろうか、そこに今のセっちゃんでも降りられそうな広い場所があった。

 ヘリコプターの発着場みたいだね。

 セっちゃんはそこへ、猫のようにしなやかな動作で音もなく降りた。

 全然揺れなかった、さすが猫科。


「着いたぜ、降りれくれ」


 そういうとしっぽを体の横に持ってきた。

 しっぽに乗れという事だろう。

 落ちないようにサリーと支え合いながらしっぽに移動した。

 二人がしっぽに乗ったのを確認するとスーとしっぽを下の方へ下げて地面に着けた。

 背中に上る時もこれでよかったんじゃ?

 次はしっぽで上げてもらおう。


「それじゃー俺ぁー用事があるんで後で行くからよ先にそいつらと一緒に行っててくれや」


 降りた先を見ると二人のケモ耳を付けた女性が待っていた。

 一人は髪も肌も真っ黒で服は真っ白な緩やかなローマ人が着てる布を巻いた様な服を着ている。

 もう一人はその全く逆で全身真っ白で真っ黒な服を着ていた。

 顔は完全に人間そのもので目が猫と同じような細い瞳孔だ。


「おう、おめえら頼んだぜ!」


「「お任せください」」


 二人のケモ耳娘は見事にハモって返事をした。

 語尾ににゃとかは付かないのは残念だがこの二人を見てると異世界に来たな~とつくづく実感する。

 その耳モフモフしたい…


「直子さん、あの耳触らせてくれませんかね?」


 興奮気味に話すサリー。

 サリーは可愛いのには目がないのだ。


「後でお願いしてみましょう」


 私も触りたい!


「そんじゃな!」


 フッ


 そう言うとセっちゃんは一瞬でその場から居なくなった。

 瞬間移動か何かかしら?


「「では、お二人ともこちらへお越しください」」


 もしかしてずっとハモってしゃべるのかこの子達…


 二人の猫娘に着いて行く。

 セっちゃんが着地した場所からそのまま建物の中へ続く回廊がありそこを進む。

 城の建物は壁も屋根も白かと思ったが屋根は銀色の瓦屋根だった。

 外壁や内壁は白で中世の貴族宅みたいな立派な装飾がされているが屋根が瓦屋根なのでどことなく違和感がある。

 50m位真っ直ぐ進むと右に直角に曲がり少し進むと左に曲がりまた50m位進むとまた左にそしてまた50m位進んでまた右に…

 要するに左右に蛇行した回廊になっている。

 所々に城に入る時の違和感と同じものを感じるので何か所かに同じような害意を感知する結界が設置されているようだ。

 そして壁の向こうに魔力を複数感じるのは有事に対応する兵かなんかが隠れているのではないだろうか。

 かなり厳重な作りだ…

 普通の王城でもここまではしないのではないだろうか?

 ここまで警戒をしなければならない敵が存在するという事だろうけど。

 何回か折り返した後に左に曲がったらそこからは少し長い直線になりその先は開けてた空間になっているようだった。

 暫く歩き開けた空間に出た。

 余談だがここまで案内してくれた猫娘達は前を先導してくれていたが歩く度に二人の黒と白の細く長いしっぽが右に左にとまったく同じリズム同じ感覚で揺れ動き、見ているうちに長い回廊もあっという間だった。

 双子なのかしらね、すごい息ぴったり。


「「こちらでしばらくお待ちくださいませ」」


 開けた空間の真ん中に白を基調に銀で装飾された豪華なソファーとテーブルがあった。

 思わずこれ座っていいの?

 とサリーと目を合わせてしまった。

 立っているのもあれなので二人でソファーに腰掛ける。

 何かの皮だけどすごいフワフワなのにヒンヤリして不思議な感触なソファーだ。

 これも貴重な何かの素材からできているのだろうなと想像させる。


「冷たい物」 顔が白い猫娘


「暖かい物」 顔が黒い猫娘


「「どちらにしますか?」」


 うおー、なんなのこの子達絶妙な言い方で普段からそれ練習してるんかい!

 と言いたくなってしまうほど完璧な言い回しだ。


「あ、じゃあ私は冷たいので」


「私は暖かいのを…」


 私とサリーも同時に言ったがバラバラでなんか恥ずかしかった。

 サリーも顔を赤くしている。


「「ゆっくりされてお待ちくださいませ」」


 お辞儀の風習は無いのか、変わりに二人とも両目を一瞬深く閉じて奥に移動して行った。

 サリーと二人だけになり改めて周りをよく見る。

 まあ、壁の向こうに気配があるからあちこちに人?が居るみたいだけどね。

 ソファーに座って前を見ると正面は壁はなくその先には中庭のような所があった。

 噴水と美しい花達が差し込む柔らかな光にキラキラして穏やかな空間になっていた。

 噴水には三つの人?の像が立っており真ん中が女神、右側が細マッチョな男神?左が男性ぽいが女性にも見える像が噴水から流れ出て溜まった池を見下ろしている。

 まるで天から神様が世界を見ているように…

 私をここに転移させた神様だろうか?

 男性ぽい女性にも見える像がきっとそれだろうなとか思った。


「お待たせしました冷たいお飲み物をお持ちいたしました」


「お待たせしました暖かいお飲み物をお持ちいたしました」


 うお! びっくり!


 庭を見とれていたら何の気配もなく両方からあの猫娘達が立っていた。

 急に音もなく出てこないで!

 心臓バクバクしますよ。


「ありがとうございます」


 顔が白い猫娘から飲み物を受け取る。


「ありがとうございます」


 さりーは顔が黒い猫娘から飲み物を受け取る。

 一応ハクちゃんサーチにより安全な飲み物であることは教えてもらった。

 サリーのも大丈夫らしい、サリーに頷いて見せる。

 私のは透明度の高いまん丸いガラスの上を切ったような器に半分位オレンジ色の飲み物が入っている。

 色からすると前世では柑橘系なんだけど。

 器を両手で持って口に持って行き一口飲んでみた。

 あ!これオレンジだ… しかも炭酸⁈

 この世界にも炭酸飲料あるの?

 よく冷えていて美味しいし、前世で良く飲んだ味そのもので涙出てきそうだ…

 サリーのは…


 サリーのは一見するとまんまコーヒーカップだ。

 ちゃんと下皿にカップが置いてあり中身も黒い。

 まさか本当にコーヒーとか?

 サリーが熱そうにその飲み物を飲んだ。

 瞬間、サリーの顔が渋くなったがその後は鼻をカップに近づけて香りを楽しんでいるように見えた。

 その匂いがこちらに漂ってきた。

 やっぱりコーヒーだった!


「これらの飲み物は…?」


「オーレンジといいます」 顔が白い猫娘が答える。


「コーシーといいます」 顔が黒い猫娘が答える。


 微妙に違うけどやっぱり前世の飲み物だ。

 この世界に私の前世の文化があるの?

 なんだか背中がざわざわしてきた。


「直子さん、この飲み物黒くて苦いけど香りがすごくいいですね」


 サリーは飲む度に渋い顔をするが美味しそうに飲んでいる。


「この飲み物はこの世界の物ですか?」


 私は単刀直入に二人の猫娘に聞いてみた。


 ガコーン!


『その解答は私からお話致しましょう』


 扉が開く音がすると同時に聞いた事ない声が響いた。


「「準備が整いましたのでこちらへお越しください」」


 二人の猫娘は質問に答える事なく開いた扉の方へ行くよう私達を案内する。

 案内された方向はたしか入って来た方向だったはずだが今はそこに大きな銀でできた扉があった。

 扉は巨大で乗せて来てもらったセっちゃんでも余裕で通れる位だ。

 左側には噴水にあった三神のレリーフ、右にはそれを崇めるように様々な生き物が描かれていた。

 その中に一人の少女の様なレリーフがありなんだか見覚えがある気がした。


「この少女、直子さんにどこか似てますね…」


 ああ、まだ学生の頃の私に似てるのか。


「そうね…」


 他人の空似だろう、中に入ろう。

 サリーと二人並んで扉の前に立つと扉は二人が十分通れる幅まで開いた。

 二人で中へゆっくり入る。 


「「行ってらっしゃいませ」」


 二人の猫娘の声がしたかと思うと背後の扉は猫娘と共に消え白い壁になっていた。

 

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