episode12 見てんじゃないわよ!

 私とハクちゃん、サリーとカーシャ、そして猫一匹は村長宅へ向かっていた。

 ハクちゃんもみんなと話せるようになったし、しかも小さくなって私の左腕にくっ付いてる。

 カーシャよりも大人びた上品な白と金淵の盾だが小さいとやっぱりかわいいね。

 しかも背中に背負っていた時よりは目だないでしょ。


「直子さんもお揃いですね~」

 

 サリーはルンルンしながらハクちゃんを見ている。


「おそろい~おそろい~♪」


 サリーの盾、カーシャもご機嫌だ。

 しかし不機嫌な者も居た。

 精霊チワワこと、セっちゃんだ。

 今は使い猫を通じて私たちを見ているが本体は村長の部屋で暇しているらしい。


「見えてきましたね、村長の家」


 村から高台へ続く道を行けばそこに村長の家がある。

 先頭を歩いていた使い猫が道の横に反れる。


「やっとここまで来たかよ、すぐそこだから寄り道しないで来いよな」


 そういうとセっちゃんの気配が使い猫から消えた。

 使い猫はキョロキョロしている。


「あんたもご苦労様、今度会ったらご褒美あげるわね」


「にゃー」


 言葉が通じたのかわからないが一声鳴くと使い猫は村の方へ行ってしまった。


「さて、もう少しだから行こー!」


「おー!」


「おー♪」


 サリーとカーシャが揃って声を上げる。

 ハクちゃんはあまりしゃべるのは得意じゃないのか黙っている。


(さて、着くまでケンちゃんのステータスを見せてもらおうかな)


(了解しました)


 念話で話したらちゃん念話で返してくれるからハクちゃん偉いね。


 【静寂の剣盾けんじゅん

  〔剣の形をした盾〕

  〔鋭き剣は何物も音も無く両断する〕

   物体では無く空間を切断する為この世界のものであれば切れないものは無い。

  〔魔法による非物理の攻撃を反射する〕

  〔堅譲直子と眷属のみ持つ事が出来る〕

  〔自我があり他者と話す事が出来る〕


 やっぱりケンちゃんも話せるようになってた。

 外に出してあげた方がいいよね…

 ハクちゃんの収納に入ってるけど寂しいだろうし。


「ハクちゃん、ケンちゃんを出して」


「了解しました」


 そういうと直子の目の前に一瞬で【静寂の剣盾】、ケンちゃんが現れた。

 そのまま宙に浮いて直子が手に取るのを待っているようだ。

 昨日魔獣を倒した時のよう威圧感は感じられない。

 剣身が青いまでに白く輝いて言葉に出来ない程綺麗な剣だ。

 手を伸ばし剣をしっかりと握る。

 重さを全く感じないが剣を持っている感覚はしっかりと感じられる。


 横でみていたサリーが目をゴシゴシ擦っていた。


「な、直子さん! それ突然出て来ませんでした⁈」


 え、収納魔法は役所で見せたはずだけど何を慌てているんだろう?


「収納魔法だよ」


「普通の収納魔法はカバンや袋で使用するものであんな風に空間で出せるものではないですよ!」


 あーそうなのね。


「これもハクちゃんの能力なのよ」


「ハクちゃんさん何でもありですね、でも他の人の前ではあまりやらない方がいいですよそれ」


 そ、そうなのね。

 異世界基準がわからないから気をつけないとね。


「わかったわ、ありがとう」


 サリーはニッコリ微笑み返してくれている。

 さて、ケンちゃんだけど…


「ケンちゃん聞こえてる?」


「聞こえておりますぞ、主殿」


 サリーが今度は口をあんぐりさせている。

 感情豊かな娘だ。

 ケンちゃんの声は中年のイケメンを思わせるイケオジボイスだ。


「ケンちゃんも話せる様になってたんだね」


「そうでございますな、こうして主殿と言葉を交わせる日が来るとは嬉しい限りですな!」


 ハクちゃんと違い会話に慣れている感じだね。

 話し方もイケオジだね。

 私はどちらかと言うと年下の子の方が…

 いやいや、私の好みはどうでもいいけどさ。


「ごめんね、収納したままで」


「問題ございませんぞ、中に居ても外の様子はわかりますゆえ」


 そうなんだ、それじゃカーシャの事とかも知ってるか。


「それならよかった、こちらがサリーシャと盾のカーシャよ」


 サリーはまだ口をあんぐりさせている。


「サリー?」


「は、え?剣がしゃべった!」


 まあ、普通剣は話さないよね。


「あたちカーシャ!ケンたま、はじめましてなの!」


「うむ、カーシャ良く言えたな。成長しておるのう、よろしくな」


 カーシャが召喚されたのを見てたんだね。


「サリー殿もよろしくお願い致します」


「儂は主殿とハク殿により召喚されし【静寂の剣盾】、主殿より頂いた名はケンちゃんと申します」


「この世の万物を切り、主殿をお守りする剣盾でございます」


 あたふたしていたサリーもケンちゃんの落ち着いた紹介で持ち直したようだ。


「あ、はい!こちらこそよろしくお願い致します。サリーシャと言います」


「こんな凄い剣をお持ちとは、やはり直子さんは名のある騎士様なのですね」


 確かにこんな立派な盾と剣を持っていればこの世界では騎士以外に無いのだろう。

 盾と剣がしゃべる事は別にして…


「ケンちゃんも盾なんだよね?」


 どっから見ても剣だが名前にも盾とあるしね。


「そうですぞ儂は切る事で主をお守りする盾ですぞ」


「そうするとハクちゃんやカーシャみたいに私の右腕にこれるかな?」


 私に腕にくっ付いていれば外の様子も良く分かるだろうしね。


「ふむ、主殿が望まれるのであれば可能ですが…」


 ん?なんか左腕のハクちゃんを気にしてる感じがする。


「ハクちゃん、ケンちゃんに右腕に来てもらっていいかな?」


「もちろん問題ありません、ケン殿は眷属ではありますがこの世界では私よりも長く存在する先輩に当たりますので主の右腕を任せるのにこれ以上ないでしょう」


 ほほう、存在的はハクちゃんが上だけど経験的にはケンちゃんが先輩なのね。

 わかったようなわからない感じだけどハクちゃんが認めるなら。


「ケンちゃん、ハクちゃんもこう言ってるのから」


「了解しましたぞ、主殿の右腕にてしっかりとお守り致します」


 そう言うと剣ちゃんは白い光になり私の右腕にその光が集まってきた。

 そして左のハクちゃんと同じ大きさの盾が現れて左腕腕にくっ付いていた。

 真っ白い盾で中央に剣の時の姿の意匠が付いている。


「直子さんカッコイイですね!」


「ケンたますごーい!」


 サリーとカーシャがはしゃいでいる。

 両腕に小さな盾の意匠でバランスがいい。

 これで騎士には見えないだろう。


「よし、では村長の家に突撃しますか」


 既に村長宅の入口門近くまで来ていた。

 門の前に誰か立っている。


「精霊様がお呼びになられた方々でしょうか?」


 村長の側近、ヤーソルが私達を迎えた。

 最初に来た時には見なかった顔だ。


「そうです、精霊はどこでしょうか?」


「ご案内いたします。こちらへ」


 そう言うとヤーソルは邸宅の中の村長の部屋へ案内してくれた。


 コンコン


「ボーゲル様、精霊様のお客様をお連れしました」


「入れ」


 中から村長の声がし、ヤーソルは扉を開けた。

 中に入るように促される。

 私、サリーの順で中に入った。

 部屋に入って直ぐ、正面の立派な机に疲れた顔をした村長ボーゲルが座っていた。


「また会ったな、やはりお前達だったか…」


 ボーゲルは声を荒げる事もなく諦めた様子でため息をつく。


「ここに精霊がいるはずなんだけど?」


 入って直ぐには見当たらなかった。


「そこだ…」


 すぴー すぴー


 机の前に置いてある一人掛け用の立派な椅子の上に気持ちよさそうに仰向けに犬とは思えない恰好で寝ているチワワが居た。

 ソファーの上で散々動き回ったのか毛がびっしり付いている…


「さんざん、早く来いとか言っといてこの残念精霊が!」


 ソファーの上に水差しが置いてあったのでそれを掴み気持ちよさそうに口を上に開けて寝ているチワワの口に水をゆっくり注いであげた。


 すぴー すぼー

 ぐぁ、がが

 ごばぁー!


 精霊ちわわが苦しさのあまりソファーから転げ落ちた。


「ぐぅほ! がぁほ! な、なにしやが… ごほ!」


 精霊チワワが苦しみながら回りと見ると…

 水差しをもって立っている直子が見えた。


「直子さん、容赦ないですね…」


 サリーがドン引きしている。


「お、おまえら来たのかよ。はぁはぁ」


 何が起きたのかわかっていない様子の精霊チワワ。


「あんたね、早く来いとか言っときながら呑気に寝てんじゃないわよ!」


「しょ、しょうがねえだろーやることねぇんだから寝ちまったんだよ!」


 口と鼻から盛大に水だか鼻水だかを垂らし渋きを飛ばしながら言い返す。

 

「ちょ、汚ったないわね!」


 水差しがあったところにお手拭きのような布があったので鼻と口、顔を拭いてやる。

 よくまあ、ここで熟睡できるもんね…


「ふごふぐ… おう、すまねぇな…」


 まあ、もたもたしてた私達も悪かったしね。


「それで?」


「ああ、話した通りだが何とかできるか?」


 監視魔法で会話は筒抜けであろう、余計な事は言わないらしい。

 ろくに話もできなければそりゃー暇でしょね。


「やってみるわ」


(ハクちゃんどう?監視魔法を停止できる?)


(可能ですがこれであれば主の方が効果的に排除出来ます)


(私が⁈)


 魔法も使えない私に出来るとは思えないけど。


(先日行った主の【純命の覇気】の覇気を利用し特定の魔法を打ち消す事が可能です)


 あ、あれか…。


(あれって魔法にも効くんだ?)


(はい、しかも特定の対象のものだけに発動出来ますので効果的です)


(あれってさあ、感情に任せて威圧するみたいな痛い人みたいで嫌なんですけど…)


 よく近所のおばさんがあんな風に怒鳴り散らしてたんだよね些細な事で自分の都合が悪くなるとさ…


(主の覇気は純真な愛による覇気です邪気の無い者には祝福に感じるでしょう)


 それはそれで小っ恥ずかしいけど…

 

(わかったわよ、それでどうすればいいの?)


(この監視魔法は魔力源を村長から供給され維持されています。その繋がりを断ち切れば魔法は霧散し消す事が出来ます)


(え、と言う事は魔法掛けたのも村長という事?)


(いえ、魔法を掛けた者はここには居ません魔法を掛けた後に持続させるために魔力供給を村長にさせています)


 村長の仕業ではないのか。

 最初見た時は普通に嫌な感じだったけど…

 今は疲れているのか何かに怯えている様に見える。


(それじゃ村長をどうにかすればいいって事?まさか殺す⁉︎)


(いえ、魔法の繋がり自体を断ち切ります)


 ああ、びっくりした。


(主が覇気を監視魔法に限定し発動させて下さい、それにより魔力の流れが一旦遮断されますのでその間にケンちゃんにて村長との繋がりを断ち切ります)


 おお、さすが何でも切れるケンちゃん!


(うむ!任されよう、魔法といえどもこの世の断りである限り切れぬものはありませんぞ)


(すごいね、どっかの残念精霊とは全然違うわね!)


「あ!また悪口を考えやがったな?」


 黙って待っていた精霊チワワ、セっちゃんは突然こっちを向いて言った。

 ほんとに悪口に関しては鋭いわね!

 無視して話を進める。


「それじゃあ、やってみるね」


 えーと、監視魔法ということは監視されてるって事なんだから前世で散々感じたストーカー共の気配に似てるよね…

 うう~ん。

 あ、これか?

 どこだかわからないが見られている気配がする…

 目を閉じてさらに集中した。


「うわ~なにこれ?この家の敷地全体まで、そして村にも何か所か嫌な感じがする」


 てっきり村長宅だけだと思ったら村のあちこちにも気配が感じられた。

 考えてみれば村長を監視するなら村の方も監視するよね…


「なんだと?村の方は見逃したな…」


 残念精霊セっちゃんは悪口はすごく敏感なのに監視魔法には鈍感らしい。

 相性が悪いのかしら?


「そんじゃー行くわよ~」


 時間が経つにつれ監視魔法と思われる気配の場所ははっきりしてくる。

 空間全体というより何かを中心に広がっているようだ。

 その中心は至る所に存在している。

 感じた中心に向かいかつてストーカーをされてそれに気が付いた時の嫌悪感と怒りを思い出しそれを一気にぶつけるイメージを放った。


【【こそこそ、見てんじゃ! ないわよー!!】】


 あら、思わず声が出てしまったわ。



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