episode4 もみもみ

 村の外れにある服屋に来た。

 建物が他の家と違い可愛らしい小さな家で外装が凝っている。

 入り口には鉄製の下げ看板が掛けてあった。


 仕立て屋 エレガント


 と書いてある。


「すみま… こんにちは〜」


 今後は入る時にすみませんは使わないようにしよう。


「はい〜」


 パタパタ


 可愛らしい若い女性の声がして誰かが奥から出て来た。

 

「いらっしゃいませ~ あ、もしかしてお忍びの騎士様ですか?」


 ええ、ここでも?


「いえ、そのような者では…」


「あれ~ サリーが言ってた騎士様ですよね?盾背負ってるし」


 サリーシャさん、村中に言って回ってるんじゃないでしょうね…


「サリーシャさんが言っていた旅の者は私ですが騎士ではないですよ」


「そうですよね〜 お忍びですもんね」


 スーツ姿に背中に盾では騎士ではないというのは無理があるらしい。

 なのでここで普通の服を作ってもらいましょう。


「あの…服が欲しいのですが」


「あ、すみませんサリーがあなたの事を熱弁してたので… 服ですね! どのような服をご希望でしょうか?」


「普通の服を何着か… この格好だと色々と目立ってしまうので」


「え〜 素敵ですよ! 仕立具合も…」


 急に真剣な顔をして私の服を見始めた。


「この服、信じられないくらい正確に作られてますね!」


「布も見たことない… こんな物があるなんて…」


 腕が良いというのは本当らしく少し見ただけでこの世界にはないであろう材質や製法にブツブツ言っている。


「この服の様な物じゃなくてもっと気軽に着れるのがいいんですが?」


「は! すみません、あまりに完璧な服だったので」


「気軽にですか… 気軽でこのレベルの服は…」


「いえいえ、皆さんが普段着ているのと同じでいいですから」


「そうですか、それなら作れますね」


「あえて一般の人と同じにしてお忍ぶのですね!」


 なんだろう、サリーシャさんと同じ方向に暴走してる…


「あ、後は下着もお願いします」


「下着ですか? … こんなので良いでしょうか?」


 店の娘がいきなり脱ぎ始めた。

 なかなかのスタイルだ… 

 と言うより痩せてる感じよね。

 他の村の人も皆んな痩せてたから村自体は裕福じゃないようだ。

 下着は意外にも元の世界に有ったのに似ている。


「そ、それで良いので服着ましょうね!」


 若いって大胆で怖いわ〜


「わかりました、では採寸しますので脱いでください」


「え、ここで?」


「はい」


「ついたてとか隠すのはないのかな?」


「大丈夫ですよ、ドアは鍵を掛けますので誰も入って来ませんよ」


 店の娘は下着姿のまま正面のドアを施錠した。


「ささ、お願いします」


 まあ、誰も来ないならいいか…

 スーツを皺にならないように脱いでソファーに掛ける。

 

「わー、さすが下着も一級品ですね」


 いえ、近所のデパートで買ったセール品です…

 あっちの世界のクローゼットには気合い入れて買った勝負下着があるけどね!見せる相手も居なかったけどね!


「下着も店主さんが… えーとお名前は?」


「ああ、失礼しました,私はこの店の店主でエリーと言います」


「私は見分を広げる為に旅をしている者で堅譲直子ケンジョウ ナオコです」


「騎士ではありませんので」


 エリーさんはうんうんと頷いている。


「わかります、お忍びですからね~」


 この村の若い娘は思い込みが激しいのか!いや、サリーシャさんが言って回ってるからよね…

 明日もう一度騎士で無いことを説明しておこう。


「エリーさん、下着もエリーさんと同じようなので良いですからね」


「わかりました、それにしても直子さんスタイルいいですね〜」


「エリーさんだって良いスタイルと思いますよ」


「私は痩せてるだけですから…」


 なんだろう急に元気がなくなった感じがする。


「ではまずはお胸から」


 そう言うとエリーさんは極自然にブラを外し私の胸を鷲掴みにした。


「ちょっ! 何をしてるんですか!」


「え、採寸ですが…」


「道具は使わないんですか?」


「私は採寸にあまり道具を使わないんですよ~」


「直接肌に触れる物ですからね、直に触って図るんです」


 もみもみ


「あの… 揉んでます?」


「いえ、これは硬さとか形を確認してますので我慢してくださいね~」


「大きく過ぎず、小さくもなく、張りもよし!弾力よし!♡」


 なんかエリーさん息が荒くなってきてるんですけどー。


「ま、まだですか?」


 すごいくすぐったい。


「はい、終わりました、ごちそうさまです!」


 おい!


「では次に下の方を・・・♡」


 なんか危ないよこの娘!


「し、下は脱がなくてもこのままでわかるでしょう⁈」


「え~」


 え~ じゃないわ!


「さ、早く採寸してください」


 しぶしぶ下着の上からごそごそ触っている。

 下着の上からと言っても触り方が気持ち悪い。

 中身おっさんじゃないだろうな⁈


「はい、こちらも大丈夫です」


 何が大丈夫なのよ、こっちは大丈夫じゃない。


「ええーと、上から○〇、〇〇、〇〇ですね」


「わーー! 何言ってんの!」


 こっちにもスリーサイズがあるのか…しかも正確に当ておって!

 え、数字が描いてない? 

 ふ・・・ それは永遠の謎なのよ♡


「言わなくていいので服の作成お願いしますね!」


「お任せください」


「あ、そうだ、次いでなので私のサイズも図ります?♡」


 エリーさんが手を広げて待ち構えている。


「いえ、いいです!」


「残念…」


 この娘そっちなのか!そうなのか⁈可愛いから思わずそっちに行きそうになるのが怖い。


「制作には2,3日かかりますのでその頃にまたお越しください」


「わかりました、お代はどうしますか?今お支払いします?」


「サリーの紹介なので後払いでいいですよ」


「いくら位になりそうですか?」


「そうですね、金貨2枚もあれば全部できると思います」


 服を見ていないので高いか安いかわからない。


「わかりました、用意してきますね」


「さっそく取り掛かりますね!」


 バタバタ…


 慌てて奥に行ってしまった。帰るか…

 店から出てふと思った。

 エリーさんのあの採寸方法は男性にも同じようにするんだろうか?まあ、答えは何となくわかるが今度行った時に聞いてみよう。

 さて、まだ少し時間がある。

 村の様子を見てみるかな。

 エリーさんの痩せていると言った時の表情が気になる。

 他の村の人達も痩せている人が多いしね。

 何かありそう。

 エリーさんのお店から少し先に行くとまた服屋があった。


 仕立て屋 ジェントル


 名前からして男性の服を仕立てる所みたいね。

 という事はエリーさんのお店は女性専用か。

 エリーさんがおっさんの胸を揉んでる想像をしてたけどそういうことね。

 村の外れ、私が入った入口とは逆の入口まで来た。

 こちらがメイン入口なのか私が入って来た入口よりも広く門番も二人立っている。

 門を出る所に立て看板があった。


 『神淵の森の魔物、獣を討伐せし者には

  その成果により特別報酬を与える。

  尚、討伐については事前に役所での登録を

  行う必要がある。

  登録無しでの討伐には特別報酬は

  支払われない。

  討伐は個人の範疇で行い怪我、死傷に

  ついて村は一切の責任は負わない。


          村長 : ボーゲル 』


 なるほどね、私の場合どうなるんだろう… 入村の登録だけしかしてないから特別報酬はないかな。

 まあ、討伐した魔獣が魔獣だからそっちの方が騒ぎになりそうよね… 

 明日になればわかるか。宿に帰ろっと。


◆ ◆ ◆


「うーん、むにゃむにゃ…」


「ここ、どこ…?」


 知らない天井だ…

 寝たら何事もなくいつもの日常に戻れるかと思ったけど。

 昨日と変わらず知らない世界の宿で目が覚めた。

 元の世界は毎日変わらず幸せそうなカップルを見送り、うざいストーカーを排除する日々。

 でもまさか刺されて死んで異世界に来るなんて本当にまさかだよ…

 何時だろう、時計も無いからね。

 下から良い匂いがしてるからもう朝ごはんか。

 昨夜は宿に戻って食事したらすぐ寝ちゃったからやはり疲れていたんだね。


「ハクちゃん、お湯を作ってくれる?」


 ベッドのすぐ横に【純白の盾】ハクちゃんは私を守るように立てかけられている。

 盾にお湯が沸かせる事など出来ないとわかりつつ思わず言ってみた。

 この盾には意思が感じられる、それも私を絶対に守ると言う意思が伝わって来る。

 話しが出来たらいいのにね…


  ヴゥンッ

 

 【崇高の白盾】

  純白の盾と審議の盾が統合されました

  審議の盾の能力により直接意思疎通が

  可能になります


「え?」


( おはようございます、主 )


 頭に直接聴こえてくるような声がした。


「な、なにこれ⁉︎」


( 進化し主と直接話せるようになりました )


「ほえー そんなのできるんだ!」


( はい )


「ハクちゃんと審ちゃんが一緒になったの?」


( そうです )


「そ、そうなんだ… そうするとハク審ちゃんになるのかな?」


( ハクでお願いします )


「うん、わかった、改めてハクちゃんよろしくね」


( よろしくお願いします主 )


 主とか言われると背中が何やらもぞもぞと…


( お湯ができました、主 )


「ええ! 出来たの?」


 水が入っていた桶から湯気が出ている。

 本当に湯を沸かしたらしい。


「凄い、けどどうやってお湯にしたの?」


( 熱を発する盾を召喚しました )


 桶の中を見ると赤い拳大の盾が底に沈んでいる。


「これかー、便利なのがあるのね」


  ヴゥンッ

 

 【灼熱の盾】

  炎の精霊、イフリートの核から作られた

  熱を発する盾

  その熱は巨石も瞬時に溶解させる

  

「なんか危なそうな盾ね…」


( 審議の盾と統合した事により細かな熱の制御が可能になりました、大きさも変更可能です )


「凄いね、これで暖かく洗顔できるよ〜」


 もうなんでもありだね、助かるー。


「ありがとうハクちゃん」


 崇高の白盾となった盾が嬉しいのかブルブル震えた。


「さ、朝ごはん食べてサリーシャさんの所に行きますか」

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