episode15 紳士とは?

 美味しい?マンドラきのこEXを頂き、その夜は村長の邸宅に宿泊した。

 食事の時に聞いた事だが地下牢に入れている帝国の手先であろう者達は王国に搬送され取り調べを受けるらしい。

 帝国か…

 まだカルムン村しか知らない私はどんな所かも想像もできないけど。

 今回の事で帝国への印象は悪い。

 悪いどころか文句の一つでも言ってやりたいところだわ。


「おはようございます、直子さん」


 朝になり朝食の席の呼ばれたので食堂にやって来た。

 息子のホーゲルがテーブルにエスコートしてくれる。

 他のみんなは既に席に着いていた。


「おはようございます遅くなりました」


「よく眠れましたかな?直子殿」


「おはようございます直子さん」


「うっす」


 相変わらず自由な精霊チワワのセっちゃんだ。

 全員が席に着き朝食を食べ始める。


「直子殿はこれからどうされますかな?」


「この後は村の仕立て屋に行って、その後はセっちゃんの大将に会いに行こうかと思っています」


「なんと!精霊殿の大将とお会いになるのですか?」


「すると、神淵の森に入られるのですか?」


「そうなのセっちゃん?神淵の森に入る?」


 セっちゃんは一生懸命カリカリに焼けたベーコンと格闘していた。


「むが… ああ、大将が居る所は森だからな」


「精霊殿が居られるならば森でも安心でしょうな」


 その辺は多分大丈夫だと思うけど… 残念精霊だからね。

 セっちゃんがベーコン振り回しながらこちらを見ている。

 何か言いたそうだ。


「神淵の森奥はいまだ未開の地、無事に戻って来られましたらぜひお話をお聞かせください」


「ええ、わかりました」


 神の都があれば見てみたいなあ、セっちゃんの大将がそこに居れば行けるのだろうけど。

 そこら辺は一切セっちゃんは話さないからな…

 

「私もぜひご一緒したいところなのですが生き返ったばかりで色々とやることがありまして残念ですがお帰りをお待ちしております直子さん」


 ホーゲルも村長の息子としてこれから村を発展させていかなければならないだろうからね。

 がんばれホーゲル。

 昨日見た物は忘れるからね!


「そんじゃーさっさと準備して行こうぜ、お前らもたもたするからな」


「一度村に戻って仕立てた服を取ってくるけど、あんたも行く?」


 首を傾げて何やら考えているセっちゃん。


「そうだな、俺も行って服でも作ってもらうかな」


「服いらないでしょ?あんた」


「いやぁー、この姿で服を着るのちょっと憧れなんだよな~」


 サリーの目がキラーンと光った。


「そうですね、セっちゃんさんのその姿で服を着れば可愛いですよ~」


「いや、可愛くなりたいんじゃなくて…」


「ここはやっぱりあそこのお店がいいかな~」


「おーい、聞いてるかー」


 妄想に耽っているサリーにセっちゃんの声は届かなかった。

 サリーは可愛いものが大好きなのだ。


「まあ、行ってみればわかるでしょうからそろそろ行きましょ」


 一同は村長親子と使用人に見送られ村へ向かった。


「よくがまんしたね、偉かったですよカーシャ」


 サリーが左腕についている小さなピンク色の盾に話かける。

 村長宅へ入る前にサリーや私以外の人が居るところではあまり話さないように伝えていたのだ。


「うん、カーシャがんばったの」


 まあ、ケンちゃんが思いっきりしゃべってたけどね。

 村長も操られてて気が付かなったみたいだね。


「ハクちゃんもケンちゃんもありがとうね」


「主と共にありますので当然です」


 真面目なハクちゃん。


「儂も久しぶりに動けてよかったですぞ」


 うれしそうなケンちゃん。


「そういえばサリー、セっちゃんに良さそうなお店ってあるの?」


「エリーのところでできないかと」


 エリーさんのところか、しかしあそこは女性専門じゃ?

 そうなると近くの男性専門の所かしらね。


「それか近くのジェントルですがあそこは私も行ったことがないので」


 女性専門の仕立て屋エリーも変わってたけど男性専門のお店も変わってそうな雰囲気なのよね。


「とりあえずエリーさんの所へ行きましょう」


 さすがにこのスーツ姿のままで森に入りたくない。

 まあ、この姿で森から来たけどね。

 サリー達とセっちゃんの服についてあれこれ話をしながら向かった。


「おはようございます、エリーさん居ますか?」


 仕立て屋エレガントに入って店主を呼ぶ。


「はあー!直子さんお待ちしてましたよ〜」


 朝からテンション高いな。


「あら?可愛いワンコちゃんですね〜」


「ワンコ言うなや」


 セっちゃんは深みのある渋い声で喋った。


「… ワンコがしゃべったー!」


「な、なんですか~!直子さんの周りしゃべる動物ばっかりじゃないですか~」


 うん、普通の反応はこうなんだろうな。

 私は異世界ってことで何があっても納得してしますけど。


「この前しゃべってた猫はこのセっちゃんが猫を通してしゃべってたのよ」


「え、犬が猫を通して…??」


 余計混乱させたようだ。


「ええと、こんな姿だけど変身してるだけで高位精霊のセっちゃんです」


「精霊なんですか?それも高位の?」


 納得いかないような顔をするエリーさん。


「どっから見ても犬にしか見えませんが、しゃべってるからやっぱり精霊なんですね~」


「それより、用事が住んだので服を取りに来たのだけど?」


 何やらセっちゃんを見てぶつぶつ言っている。


「あ、はい!お待ちしてましたよ。こちらにまとめておきましたので」


 バトルスーツはハクちゃんに収納してもらって、普段着の服はここで着替えて行こう。


「普段着の方はここで着替えて行きたいけど大丈夫かしら?」


 宿に戻っている時間はなさそうだしね。

 ちょっと不安だけどここで着替えよう。


「もちろんですよ、お手伝いしますね!」


 エリーさんの手が服を脱がそうと迫ってくる。


「ちょ、手伝いはいいから自分でできるから」


 エリーさんに任せると余計な所とか触られるからね。

 さっと着替えてセっちゃんの服を相談しよう。

 衝立の後ろに行き着替えた。

 エリーさんが付いて来るので追い返した。


「ふう、ずっとスーツだったからこれなら少し楽だわ」


「わー似合いますね直子さん、タイトなスカートもいいですがパンツ姿も足が細くてカッコいい!」


 ふふん、スタイルには自信があるのだよ。

 まあ、胸の大きさは二人に負けるが…

 この普段着もエンジェルホワイトスネークという魔物の皮を使っているらしいが皮という感じの肌触りではなかった。

 どちらかというとシルクのようにサラサラしてて柔らかい。

 表は少しレザー感があるけど白いのであまり皮って感じでもない。

 下も足にフィットするパンツで心地よい。


「これ気持ちいいわね、さすがサリーさんの家宝だわ」


「そう言ってもらえると作った甲斐がありますね」


 残りの下着も受け取りハクちゃんに渡した。


「それじゃこれはお代ね」


「ありがとうござ… 直子さんこれじゃ多過ぎですよ!」


 とりえず10倍の金額を渡してみた。

 家宝の素材であればそんなもんじゃ全然足りないだろうけど。


「ううん、これじゃ全然足りないけど気持ちだからもらっておいてね」


「でもこれじゃあ…むぐっ」


 エリーさんの唇を左の人差し指で押さえて言った。


「お姉さんのいう事は聞いておくものよ」


 そして左目で軽くウインクをした。


「はひ!」


 すっごい恥ずかしいけどエリーさんには効果的でしょう。


「はわわ…」


 サリーも驚いている。


「なんだおまえ片目閉じたりしてゴミでも入ったか?」


 せっかく恥ずかしいの我慢してやったのにこいつは…


「せっちゃん、後で全身水洗いの刑ね!」


「な、俺が何したってんだよ?」


 ともかくエリーさんには受け取ってもらえたようだ。


「それじゃ今度はセっちゃんの服だね」


「その犬…精霊の服を作るんですか?」


 エリーさんが目をキラキラさせてる。


「ごめんね、この子は男物が欲しいみたいなのよ」


 エリーさんの顔が驚愕の表情になる。


「ま、まさかあそこの行くつもりでは?」


 あそことはどこだろう?

 仕立て屋ジェントルの事だろうか?

 この村に仕立て屋はこことジェントルしかないからそうなんだろうけど、この驚き様はなんだろう。


「直子さん!あそこは若い女の子だけで行くような所ではありませんよ!」


 仕立て屋でしょ?

 そんな危ない所なのか?


「なんか危ないの?」


「危ないと言うか…」


 エリーさんは考え込んでいる。

 そして意を決した様に。


「わかりました、私も一緒に行きます!」


「え、ええエリーさんが紹介してもらえれば助かるけど」


 確かに前を通った時に妙な気配はしてたけどさここまで警戒するとは。


「では、行きましょう!」


 気合を入れたエリーさんに先導され仕立て屋ジェントルに向かった。

 すぐそこなので直ぐに着いた。


「ここです!」


 ええ、見ればわかります…

 なんだこの緊張感。


「では入りますよ」


「ええ」


 店のドアを開け中に入る。


 カランカラン


 ドアベルが鳴る。


「いらっしゃいませ、仕立て屋ジェントルへようこそ」


 中年の紳士な声が出迎えてくれた。


「えーと、この子の服を見立てて…」


「きゃー」


 サリーが私の後ろに隠れる。

 私も前世で色んな特殊な男を見たがさすがにここまでの人は居なかったな。

 年は30後半か、短髪で立派な顎髭を生やしている。

 身長は私より少し高い180cm位の痩せマッチョ。

 全身褐色に日焼けしてその肌はテカテカと光っている。

 なんで肌がテカテカしてるかわかるって?

 だって、その男はパンツとサンダルしか身に着けていないのだから。

 私も思わずサリーの様に悲鳴を上げるところだったわ。


「ご婦人方、如何いたしましたでしょうか?」


「は!申し訳ありません大変失礼しました」


 そうでしょうその格好は失礼そのものよ?


「ご挨拶がまだでしたな、私はこの仕立て屋ジェントルの店主をしております。シン、ハルフォードと申します」


 右足を後ろに引き右手と頭を下げてとても紳士的な挨拶をする店主。

 違う、違うぞ!失礼なのはそこじゃないから!


 サリーはすっかり怯えている。

 セっちゃんは店主に向かってキャンキャンと吠えまくっていた。


「て、丁寧なご挨拶ありがとうございます…」


 なんとか平静を装って話をする。


「あんたはもうー、またそんな格好して!」


 エリーさんは見慣れているのか平然とパンイチの褐色髭面店主に注意した。

 店主はしばらく考え込んでいたが何かを思いついた様に言った。


「これはこれは新規のお客様に対してこの格好は失礼でしたな」


 そう言うとカウンターの置いてあった赤い蝶ネクタイを首にキュッと着けた。

 エリーさんは大きなため息をついた。


「ね?女の子だけで来る所じゃないでしょう?」


 確かに、エリーさんが居なかったらパニクっていただろう。

 最悪覇気で処理してしまったかもしれない。


「この人はいつもこの格好なんですか?」


 エリーさんが答えるよりも先に褐色パンイチ店主は答える。


「当然ですぞ、このサブリガは私の家に伝わる家宝なのです」


 また家宝だよ…

 じつはすごい村なんじゃないかここ?


「両親の遺言はこのサブリガは我が家の最高傑作!この素晴らしさを後世に伝えよ、でした」


「故にこうしてサブリガが一番目立つこの正装をしているのでございます」


 その格好に対する物凄い信念を感じる。

 そしてそのサブリガから魔力も感じられる。

 魔法のパンツ?

 それ、正装なの⁈

 突っ込み処がありすぎて混乱してきたわ…


「そうか~それが正装ってやつなのか~いいじゃねぇか!」


 セっちゃんが食い付いた!

 あんたもパンイチになるつもり?


「な~にが正装よ!!」


 ぱか~ん!


 突然パンイチ店主が前方に吹っ飛んだ。

 後ろから誰かに殴られたらしい。


「ふぐぅおー!」


 ガッシャーンッ


「その恰好のせいで一緒に出歩く事もできやしない!」


 え、なに?だれ?


 店主が居た所に大きなハリセンを持った女性が立っていた。


「皆様方、いらっしゃいませこの変態の妻でマグです」


 おおう、奥さん居たのね。

 まだ20代半ばに見える細見で色の白い凛とした顔立ちが綺麗な奥さんだ。

 よくこんな人と一緒になれたな店主。

 しかし、あの吹っ飛びようは店主は大丈夫だろうか?パンイチなのに…

                                              

「お、おまえ… いきなりは辞めてね…」


 ガラガラ


 突っ込んだ木箱から店主が出てきた。

 派手に突っ込んだわりには無傷だ。


「おめえのそれいい感じの魔力だと思ったら鈍亀どんがめの心臓じゃねえか」


「よ、よくお分かりでこの素材を言い当てたのはあなたが初めてですよ!」


「ほんとね、この素材がわかる人間なんていないと思ってたわ」


 奥さんのマグさんも関心している。

 その辺は流石に高位精霊だ。


「…」


「…」


「「犬がしゃべったー!」」


 夫婦そろって今頃驚いている。

 やっぱり夫婦って似るもんなのね…

 驚き方が同じだわ。


「あ~、こちらは高位精霊のセっちゃんです」


 一応紹介してみる。


「なんと!精霊ですと、それも高位な!」


「まあ、こんなに可愛らしいのに精霊様なのですね!」


「それでこのサブリガの良さがおわかりになったのですね」


「ふ… 俺の目はごまかせないぜ」


 セっちゃんが偉そうに言い放つ。


「このサブリガのどこがいいのよ?」


「ああーん、わからねえか?こいつぁ~鈍亀といって森の奥に住む魔獣の心臓から作られてんだよ」


「この鈍亀っていうのが正式には鈍感亀といってな、熱さも冷たさも感じず襲われても甲羅の硬さ以上の硬さで弾き返す亀でな~ その秘密は強い魔力持ってて自身を強化してるんだよ」


「その魔力を帯びた亀の素材でつくった装備は熱や冷たさに強くなり身体能力も向上すると言わてる、しかしその素材の加工の難しさからほとんどのやつが加工の段階で素材をダメにしちまうんだよ」


 そんなすごいパンツだったのか…

 たしかにあの勢いで突っ込んでも傷一つない。


「その素材をしかも加工がもっとも難しいと言われる心臓を加工しちまってるんだから腕は足しかだよな~自慢もしたくなるってもんよ」


 店主はうんうんと頷いている。

 いやいや、いくら性能がよくてもパンイチはどうかと思うよ。


「まったくその通りです!」


 店主はセっちゃんの前足をぎゅっと掴み見つめている。

 せっちゃんもさすがに逃げたそうだけどがっちり掴まれて逃げられないようだ。


「お、おう、それで俺の服を作ってもらいたいんだが?」


 店主の目が輝きだした。


「そうでございましたか!精霊様の服を仕立てられるとは幸せの限りでございます」


「ぜひ、私とお揃いのサブリガを…」


 スパーン!


 ハリセンが店主の顔面を捉えた。


「はう!」


「何を言ってるのよ、この子には素敵なスーツが似合うわよ」


 店主は倒れて起きてこない。

 もしかして死んだのか?

 いや、どうせあのサブリガのお陰で身体強化され無事なんでしょう。

 ムクリと立ち上がりハリセンを見ている。


「いやはやそれで叩くのは辞めておくれよ、死んじゃうよ~」


 よく見ると口から血を垂らしてしっかりダメージを追っていた。


「そのサブリガで身体強化されてるんじゃ?」


「妻が持っているハリセンも鈍亀の素材からできているのです」


「同じ鈍亀から作られた武器は魔力も同じなので能力が通用しないのですよ」


 魔力で強化されてるからそれと同じ魔力で無効化されるんだ。

 でもハリセンってあれは奥さんが旦那の教育用に作ったのねきっと。

 そういう奥さんは旦那を気にもせずにセっちゃんをサイズ測定と称してモフっている。

 この程度は日常茶飯事なのね。

 しかし、この村は濃い人が多いな~

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