episode14 マンドラきのこかな?

 直子の涙から出来た【乙女の雫】にて蘇った村長の息子ホーゲルは父の村長ボーゲルと抱き合い再開を喜んでいる。


「良かったじゃねぇか~ これで俺のツレも浮かばれるってもんだ」


 せっちゃんのツレといえば私がサリーの家で倒した魔獣だよね。


「あの魔獣さんも助けられればよかったけどね」


「ああ、だが死んだもんがそうポンポン生き返ったら世の中おかしくなっちまうからな。あいつの分まで俺が生きるさ」


「それにしても姉さん色々と規格外だな~大将が会いたいというのもわかるぜ…」


「って、おい聞いてるのかよ?」


 直子とサリーは寄り添ってひそひそと話をしている。


「な、直子さんホーゲルさん生き返ってよかったですね!こんな奇跡見たことないですよ」


 興奮して話すサリー、しかし顔が赤いのはなぜ?


「そうね、私もうまく行ってよかったと思ってるわ」


「そ、それと直子さんあれって…」


 サリーがこっそりと指を刺す方向には村長の息子ホーゲルが村長と話をしている姿があった。


「な! あ、あれは…」


 私も見てしまった…


「男の人ってあんなになってるんですね!」


 興味深々でチラ見しているサリー

 そう、村長の息子は生き返ったばかりで生まれたままの姿なのだ。

 それを隠そうともせずに突っ立って村長と話をしているので村長の息子の息子は丸出しになっていた。


「そ、そうね…あんな感じじゃないかしらね」


 サリーよりお姉さんである私はちょっと見得を張り知ったかぶりをしてみる。

 実際には私も直接は見たことがない。

 だって清らかなまま成人を迎えた乙女ですから!


「あれってさあ、普通の大きさなのかしらね?」


「ええ!ど、どうなんですかね?」


「この前食べたマンドラきのこ位あるわよ…」


「ちょ、やめてくださいよ!マンドラきのこ食べれなくなっちゃうじゃないですか!」


「でも、手も足も付いてないからやっぱりマンドラきのことは違うわよね」


「当り前じゃないですか、あれで逃げ出したら女の子になっちゃいますよ」


「じゃあ、あの汁を掛ければ動かなくなるんじゃない?」


「ええ、動かなくなったら使い物にならないじゃないですか!」


「な、なんに使うのよ⁈」


「そりゃーあれですよ…」


 真っ赤になってサリーは黙ってしまった。

 前世と違いネットもTVも無いこの世界ではそういう知識はやはり遅れているのだろう。


「何を見てるかと思えば、あんなん小せえよまだまだだな」


 ええ、あれ以上大きいともて余すわよ⁈


「大きけりゃいいってもんじゃないでしょ?」


「いやいや男ならデカい程いいだろう」


「どう思うサリー?」


「あんまり大きいと邪魔になるんじゃ…」


 何が⁈


「何のお話ですかな?」


 遅れてやってきた村長の側近ヤーソルが声を掛けてきた。


「い、いえ!何もありませんよ!」


 村長の息子の息子について話していたなんて言えません。


「いやー村長の息子がよ~背の高さが大きいの小さいのと言ってたんでな」


「「え?」」


 直子とサリーはハモった。


「あん?おまえら背の話してたんじゃないのかよ?普通の大きさとか言ってたじゃねぇか」


「ああ~背ね、そうそうそうなのよ~ ね、サリー?」


「はい、そうです背の話ですよ!マンドラきのこは関係ありません!」


 サリーはテンパっている。


「誰の背と?」


「村長の息子さんです」


「ホーゲル様はお亡くなりになりましたが?」


 ヤーソルは生き返った時に居なかったので話が通じない。


「いえ、ほらあれです」


 村長と真裸まっぱで話しているホーゲルを指さす。


「あれは!ホーゲル様!そんなばかな!」


 死んだ人間が居れば驚くよね。

 ヤーソルは慌てて村長達の所に駆けて行った。


「ホーゲル様!」


「おお、ヤーソルじゃないかお前も元気そうだ」


「お亡くなりになったとばかり…」


 村長はいきさつをヤーソルに説明した。


「そんな奇跡が… なんと素晴らしい日でしょう!」


 物静かだったヤーソルが感情を隠そうともせずに喜んでいる。

 泣いているようにも見える。


「お帰りなさいませ、ホーゲル様」


「ただいま、ホーゲル苦労をかけたな」


「とんでもございません、ささこんな所ではお風邪を引きますので中にまいりしょう」


「うむ、そうだな。ついでに皆で食事でもしようじゃないか」


 村長ボーゲルもうれしそうに言った。


「ホーゲル様、そのようなお姿でこちらをお掛けください」


 ヤーソルは自分の上着をホーゲルに掛けた。

 しかし上着だけだったので村長の息子の息子は解放されたままだった。

 ホーゲルも隠そうともしなかった。


「直子殿、皆様、中でぜひ食事をご一緒してください」


「は、ひゃい!」


 ホーゲルのあまりの堂々とした姿に直子もサリーも直視できないでいた。

 精霊チワワのセっちゃんはホーゲルが歩く度に揺れ動くそれを凝視している。


「セっちゃん、そんなに見たら失礼でしょ!」


 小声で注意するがまるで聞いていない。

 そしてなぜか突撃姿勢を取るセっちゃん。


「あんたまさか!」


 精霊チワワの本当の姿は豹の姿をした猫タイプ。

 猫は動くものに反応し玉を取る習性がある。

 揺れ動く村長の息子の息子を標的にしたんじゃないでしょうね?

 まさか本当にを取るのでは!


「セっちゃんやめなさい!」


 慌ててセっちゃんを抱き抱えて静止した。


「は!俺は何を…」


「あんたやっぱり猫だわ」


「動くもんがあったら追いかけたくなるだろう⁉︎」


「それは猫だけよ…」


「そ、そうなのか⁈」


「うちの大将は猫じゃねぇけど動くもんに目がないぜ」


「俺がこの姿で近くを動くだけでよく吹っ飛ばされたもんよ」


 セっちゃんの大将も猫科なのかしら。


「その大将というのはどんな方なの」


「あーその事については言うなって言われいるんでな、すまねえ」


 会わないとわかんないか。

 何となく予想はできるけど…


 そうこうしてるうちに邸宅の食堂に着いた。


「こちらでゆっくりされて下さい、儂らは少々身を整えて来ますので」


 うん、ホーゲルは早く服着てね。


「はい、お待ちしております」


 村長と真裸のホーゲルは部屋を出て行った。

 あ、上着を掛けていたので真裸じゃないか…

 何も着てないのと変わらないけど。


「直子さん色々ありましたが解決できたみたいでよかったですね」


 客席と思われる椅子に座りながらサリーは一息ついた。

 サリーはこの貴族の食堂みたいの所でも緊張せず自然体で寛いでいる。

 うん、やっぱりこの子は貴族だね。


「そういえば… セっちゃんさんは雄?雌?どっちなんでしょうか?」


 言葉使いからすれば雄だろうけど。

 直子は部屋クンクン嗅ぎ回っているセっちゃんをヒョイと抱え上げてテーブルの上に仰向けに転がした。


「な、なんだよ…?」


「いやちょっと確かめたい事が…」


 仰向けのセっちゃんをよく見る。


「ない!」


「ええ、雌なんですか?」


 サリーも駆け寄って確かめる。


「いや何にも無い!」


「本当だ何にも無いですね」


 言葉通り、仰向けになったセっちゃんのあそこには何も無かった。


「ああん⁉︎ 俺に性別はねえよ」


「精霊だからかしらね…」


 サワサワ


「そうですね不思議な存在ですね」


 モフモフ


 二人はセっちゃんが大人しくしているのでここぞとモフっている。


「お、おい触り過ぎだぞ」


 そう言うセっちゃんは尻尾をパタパタとさせている。

 まんざらでも無いようだ。


 コンコン


 ドアをノックする音がした。


「失礼します」


 メイドさんが食事の準備をしに入って来た。

 女二人してテーブルの上でモフりたおしているのを何も見ていないかのように黙々準備を進める。

 二人と一匹は慌てて席に着いた。


 ガチャッ


 村長と息子も部屋へ入ってきた。


「お待たせしました」


 息子を見ると今度はちゃんと服を着ている。

 しかも髪や髭なども整えさっき見た人とは思えない程だ。

 村長とは似てないな…

 母親似なのかしらね。

 村長と息子が私の方に近寄ってきた。


「直子殿、この度は誠にありがとうございました」


 村長と息子が深々と頭を下げる。


「本来であれば家族全員でお礼をしなければなりませんが生憎妻と娘達は王都に行っておりまして不在なのです、ご無礼をお許し下さい」


 娘さんもいるのね。


「いえいえ、成り行きで成功したようなものなので無事生き返る事ができてよかったですね」


「はい、父より直子さんの武勇をお聞きいたしました。私のような者に涙まで流して頂いたと」


 武勇て、戦ってないんですが…

 村長に色々と増して説明されているようだ。


「おかげで父と共にこの村を守って行けます」

 

 そういうと息子ホーゲルは膝を付き頭を垂れ言った。


「私ホーゲルは直子さんに助けられた身、今後如何なる事があろうと直子さんの力になると誓います」


 おお、男性にこんな風に真摯な気持ちで言われるとは前世では無かった事だ。

 ちょっと恥ずかしいぞ。


「頭を上げてください、私の事はいいですのでこれからは村の為に尽くしてください」


「はい、元よりその覚悟ですので直子さんも何かあれば何なりと言ってください」


 なかなかの好青年ですな。


「さあ、では食事を致しましょう」


 村長が皆をテーブルに案内する。

 それぞれの席に着き食事を始めた。

 セっちゃんはテーブルに着けるように高い椅子を用意してもらい人の様に起用に食べていた。


「そろそろメインが参りますので」


 ほう、メインとな?

 この世界に来てこれほど豪華な食事は初めてだ。

 今までも素晴らしかったがメインがあるとは…

 どんな料理でしょうね!


「新鮮な山菜が手に入りましてな、魔力を含むと言われる食材でこの度の直子殿も膨大な魔力を使って頂いたので少しでも回復して頂こうと用意しました」


 魔力を含んだ新鮮な山菜?…

 まさかあれじゃないよね?

 さすがにあれはこの食卓には出ないでしょう~

 目の前に大きな覆いで隠された料理が置かれる。


「さあ、これが本日のメイン!マンドラきのこの串揚げです!」


 料理を覆っていた物をメイドが勢いよく取り除く。


 キター!


 やっぱりこれか…


 ゴホ!ゴホ!


 サリーは飲みかけのワインで盛大に咽ていた。

 何を考えたかが分かった…


「な、直子さん!この調理方法は初めてですよ!」


 気を取り直して料理方法に注目するサリー。

 しかしちょっと顔が赤い。

 息子の息子の事を思い出しているのだろうか?

 私も思い出しそうだ。


「はは、これはなきのこですね、わー手が4本もあって元気に動いてるぅ~」


 串に丸ごと刺されたマンドラきのこが放射上に立ててズラリと並べられている。

 どれも油で揚げられたのか狐色で香ばしい匂いが漂ってくる。

 そしてその姿のまま手足のような物でバタバタと動いているのだ。


「直子さん、これはめずらしい手が4本あるきのこですよ!」


「ほう、さすがサリー殿お目が高い」


 いや、手が4本だからなんなのさ!

 きのこに手足は要らないでしょ!


「これは捕まえるのが困難なきのこでしてな、普通のマンドラきのこも走って逃げるので厄介なんですがこれは手が多く付いておりますので走るどころか木も登って逃げてしまうのです」


 木を登るきのこってもう魔物だよね魔物。


「さあ、どうぞ!お召し上がりください!」


 満面の笑みで村長はマンドラきのこEXを進めた。

 直子は区別するために頭の中でEXを付けた。


「こ、これはどうやって頂けば?」


「おお、忘れるところでした。これにですな…」


 村長は四角い入れ物に入った液体を用意する。


「これにきのこを浸すとおとなしくなりソースの味も付いてより美味しくなりますぞ」


「そうそう、マナーとしてソースの2度漬けは禁止ですぞ」


 まんま串揚げじゃん…

 こっちにも同じ文化があったのね。

 まあ、普通の串揚げは動ないけどね。


「では…」


 皆直子が最初に食べるのを見守っている。

 直子は串の一つを手に取りソースへ持っていく。

 マンドラきのこEXは食べられまいとしてか更に激しく手足を動かしている。

 た、たしかにこの前食べたのより生きがいいわね。

 しかしそんなマンドラきのこEXもソースに漬けられると最後の動きのまま動かなくなった。

 ソースの中できのこを回転させ全体にソースがからむようにする。


「では、いただきます…」


 な!この鮮烈香り!油で揚げた事で香りが中に閉じ込められ噛むとその香りと芳醇な味が舌に広がる。

 先日食べたマンドラきのこも美味しいと思ったけどこれはとんでもない美味さだ。

 直子が夢中になって食べるのを見て他の人も食べはじめた。


「美味しいですね!こんなマンドラきのこ食べたの初めてですよ!」


 サリーも絶賛している。

 その後は皆、無言で食べて続けた。

 この村に居る限りマンドラきのこは今後も出てくるだろうな…

 踊り食い的な演出が無ければ絶品なんだけど…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る