episode39 盾のお姉さん!

「サリー様ーー!!」


 メリーの悲鳴のような声が辺りに響いた。

 サリーは倒れたまま動かない。

 メリーは自分が動ける事に気が付きサリーの所へ駆け寄る。カーシャがメリーを邪気から守っていた。

 そのカーシャもメリーと共にサリーの元に行く。


「これで王子様の勝ちね〜」


 女は邪気で動けなくなっているサリオン王子を見て言った。


「それにしてもサリー王女の強さは予想外ね〜人族以外も居るみたいだしその影響かしらね〜」


 女は倒れたサリーの腕にある小さな盾を見る。


(サリーお姉ちゃん!何で動かないの⁉︎)


(主に繋がらない!何でなの⁉︎)


(か、カーにゃ…)


 消え入りそうな念話がカーシャに聞こえた。


(大福なの?)


(あの女が…外との念話を遮断する結界を張ってるにゃよ…)


 大福は倒れたサリーの側に同じ様に倒れている。


(主は来てくれないの?)


(カーにゃ、良く聞くにゃ。これから我が結界を壊すにゃよ。カーにゃは女の気を引くにゃ!)


(気を引く… 分かったの!)


 カーシャはそう言うと親指大の小さな盾を作り出した。その盾は周りの色と同化し見え難くなった。

 カーシャはその盾をサリオン王子へ向かわせる。


 ぴょこ


 盾に小さな足が生えちょこちょこと走り始めた。

 女の目の前を移動する。


「ん?」


 女が何かに気が付いた様に盾が移動している方向を見ている。


(見つかったかにゃ?)


「あら〜爪が割れちゃってるじゃない〜」


 女は左薬指のほんの少し割れた爪を見て慌てた。


(ち、違ったにゃ!紛らわしいにゃ。今にゃ)


(はいなの)


 カーシャが放った盾は倒れているサリオン王子に辿り着いた。盾は王子の背中に張り付くと王子を覆う結界を発生させた。

 それにより邪気を弾きまた王子が気が付く様に微弱な雷撃を発生させる。


 ピリピリッ


「ん、ぐぅ」


「あら、変ね〜まだ起きれないはずなんだけど…」


「こ、これは?!」


 サリオン王子は立ち上がり周りを見回し驚愕した。

 前方で倒れて動かないサリーを見つけた。


「なぜサリーが倒れている?!」


「おはようお寝坊さん〜何で起き上がれたかは知らないけど丁度いいわ〜終わったわよ〜これでこの国は〜 あ な た のものよ〜」


 女は胸の前に両手を合わせ全身をクネクネさせながら言った。


「私のものだと…」


「そうよ〜邪魔な者は皆んな消えたわ〜この王国を統べるのはあなたのみ〜よ!」


 女は指をビシッとサリオン王子指した。


「こんな状況で国を統べるもないだろう。ここは人族の国だぞ!」


 サリオン王子は怒りを抑えながら女を睨みつける。


「そのとおーり!!」


 サリーが倒れている方向で叫んだ者が居た。


「そうやってまた国を滅ぼすつもりであろう!邪神の一角よ!」


 そこには全身が真っ白く光る鎧を着た騎士が立っていた。無精髭が渋い中年だった。


「誰⁉︎」


 突然目の前に現れた白い騎士に思わずメリーは言った。


「何で貴様がここに居るんだ?精霊王の近衛、白霊はくれい12士」


 女はこの突然現れた騎士を知っている様だった。


「我は白霊12士が1士、聖猫セイクリット.キャットのプラトメノス!」


「誰⁈」


 メリーは再度言った。


「ふん、お前ら12士全員ならともかく1士でかなうと思うの〜?」


「我らとて昔のままではないぞ!」


 プラトメノスは右手に持った雷撃縄を振りバリバリと電撃を発生させる。


「そんなおもちゃでこの私が倒せると?」


 女は余裕のある笑みを浮かべていた。


「相変わらず邪神は自惚れが激しいものよ!」


「なんだと!」


 女はプラトメノスを睨みつける。


「カーにゃ!」


(はいなの!)


 サリーの腕に居たカーシャはプラトメノスの持つ雷撃縄に小さい盾のまま向かった。

 カーシャが雷撃縄に触れ融合した瞬間、白い光りと共に白い稲妻が鞭全体にほとばしった。

 プラトメノスはそのまま鞭を持った手を真っ直ぐ前に向ける。すると白い稲妻と白い鞭が凝縮され真っ白い大剣の刃となった。


「大層な剣だな、それで私を討つとでも言うのかしら〜」


 プラトメノスはニヤっと笑い白き大剣を真上に向ける。


「これはな、こうするのよ!」


 掲げた大剣の刃がさらに白く光りバリバリと雷撃を纏う。


 ドドーン!!


 凄まじい音と白い光線の様な光が掲げた剣先から上空に放たれた。

 すると放たれた光りを中心に上空のどんよりしたモヤの様なものが消し飛ばされその部分だけ青空が見えた。

 しかしそれはすぐまたモヤで塞がった。


「いかに優れた武器でも私の結界は破れないわよ〜結界じゃなくて私をそれで攻撃した方が良かったと思うわよ〜どちらにしても意味ないでしょうけど〜」


 女は余裕の笑みを浮かべる。


「そうだな、だがこれで良いの…にゃ…」


「にゃ?」


 メリーが驚く。


「時間みたいにゃ…」


 プラトメノスは膝をガクっと着くとその体が薄くなっていった。

 やがてプラトメノスは消えてしまった。


「ふー、相変わらずビアンカ様の鞭はきついのにゃ」


 プラトメノスが消えたその場には丸々とした大福猫が居た。


「あの騎士様は大福様だったのですね?!」


 メリーは何故かガックリした。


「そ・れ・で?今のは何だったのかしら〜?結界に穴を開けただけみたいだけど〜」


 上空の結界はすでに元に戻って青空も見えなくなっている。


「今にわかるにゃ!」


 女は意味がわからないと言う顔と仕草をする。

 すると上空から声が響いた。


「それはこう言う事よ!」


 ・ ・ ・


「ちょっと!セっちゃん空気読みなさいよ!」


「んあ?俺がやるのかよ!?」


 聞いた事がある声だった。メリーは声がした空を探した。


 シュバッ!


 上空のモヤに3本の切り裂いた様な跡が走った。

 するとそこから弾ける様にモヤが霧散し消えてしまった。後には綺麗な青空が広がっている。


「なに!私の結界を消すなんて?!」


 女が慌てて空を見回すと高い所にしなやかな獣の様な姿が見えた。


「あいつは!」


「良くもまあこんな陰険な結界を張れるもんだぜ。爪が汚れちまうじゃねぇか」


「セ、セドリック様!」


 メリーが叫んだ。


「ちょっとセっちゃん!揺らさないでよ、落ちると思ったじゃない?」


「なんだよ人にやらせといて文句言うなよ。それに落ちても姐さんなら問題ねえだろ?」


「あんたね、問題大ありよ!」


 ブチッ!


「いてぇ!毛を抜くな!」


 上空では二人が何やら言い合っている。


「何やってるのにゃあの二人…」


 大福は頭を抱えた。


「直子様ーーー!サリー様が!サリー様がーー!」


 メリーは必死に空に向かって叫んだ。


「サリー!?」


 直子はメリーの側に倒れているサリーを見つけた。


「セっちゃんサリーの所に降りて!」


「ああ!」


 サリーの元へ行こうとすると女の方から邪気を感じた。


「私を無視してどこに行こうと言うのかしら〜」


 女はそう言うと黒い槍の様な物を邪気から作り出し直子達へ投げ飛ばした。


 ガィイーン!


 槍は二人に届く事無く弾かれた。それだけではなく弾かれた槍は反射され投げた女に向かって飛んで行く。


「ちっ!」


 女は槍が反射された事に驚きつつも帰って来た槍を黒いモヤに変えて消した。

 直子とセドリックはそのままサリーの所へ降りる。


「な、直子様!申し訳ございません…」


 メリーは涙を流しながら今までので事を説明した。

 直子はサリーの様子を見たが既に息をしていないようだった。


 ビリ…


 一瞬大気が震えるような気がした。


「あの女がこの戦の原因なのね?」


「はい、サリー様をお守りする事が出来ず… エリノセス様に続いてサリー様まで…うう…」


 ビリビリ…


「直子様…?」


 メリーは空気が震えるのを感じた。そしてそれは直子から発せられている様だった。


「メリーさんはここで待っていて下さい。カーシャ、ここをお願いね」


「はいなの!」


 直子はゆっくりと女の方へ向かう。


 サリーに待つように言われていたとはいえもう少し早く対応出来ていればこんな事にならなかったかもしれない…


 直子は後悔とこの理不尽な状況に自分を抑える事が出来なかった。


 何の為にこの世界に来たのか…

 先祖がこの世界と関わりがあり運命だったのかもしれないけど…

 だけどそんな事は今はどうでもいい。

 ただただ願う!

 私がこの世界で当別な存在というのなら!

 この状況を覆す力を…


 直子は目を閉じ願った。

 戦場というのにとても静かだった。

 何かを感じた…

 それは徐々に大きくなって直子の中で何かが弾けた感じがした。

 周りの音が聞こえなくなりその代わり何か話す声が聞こえて来る。


 何だろう…聞いた事のある声が…


【わ…しの… ひと…】


 段々とはっきり聞こえる様になった。


【私の推しのひと…】


【この世界を救いたいと思ってくれるんだね…】


【こちらに来てもらって間違いではなかった】


【混沌の神、スサノウが許そう!】


【堅譲直子!そなたにこの世界での自由を許そう!】


【その力を持って世界を導くがいい!】


【……君なら大丈夫、私が選んだ推しのひとなのだから…】


 ……… …


「やっぱりスサノウだったんじゃない…」


「やっとはっきりと名前教えてくれたわね…あのチャラ男」


 直子は自分の体から溢れる様な力を感じていた。

 今までも元の世界に比べれば超人的な身体能力だったが今はそれだけではなかった。


 まるで何でも出来てしまいそうな感覚ね…


「お、おい!?姐さん?」


 セっちゃんが直子の雰囲気が変わった事に気づいた。


「大丈夫か?今までと雰囲気も魔力も全然違うぞ?」


 セっちゃんが心配してくれている?

 でも大丈夫よ。今までは持て余していた感じだったけど今はこの状態がすごく自然に感じる。

 そしてスサノウに言われて改めて感じてしまった。


「私…本当に異世界に来てしまったんだね…」


 死んでこっちに来たけどあまり実感はなかった。

 姿も記憶もそのまま、年齢まで…

 心のどこかで元の世界に戻れるのではと思っていたかもしれない。

 でもそうじゃないのね…

 私がこの世界に来たのはこの世界でやらないといけない事があるから…


「もう…戻れないんだね…」


「お、おい?姉さん?」


 横たわっているサリーを見た。

 それを震える手で支えているメリー。


 この世界も私が居た世界もあらゆる意味で強い者、弱い者が居る。そこに平等なんて無い…

 あるのは理不尽な現実だけ…


 真面目に生きても奪われ強いられる。

 そんな世界で生きて行くしかないんだ…

 自分なりの方法で…


 私はこの世界の神に力と自由を与えられた。


 私はどうしたい…


 ……


 決まっている!


 守るんだ!

 理不尽な世界で自分を見失わずしっかり生きている人達を!

 この世界を全部なんて出来ないけど目の前に守れる者が居るのにこの力を使わない選択はない!


 直子は深く息を吐くと胸を張って言った。


「しょーがないから守ってあげるわよ!」


「盾のお姉さん! がね!!」


 そう言うと左の頬に熱く流れる物を感じた。

 それは頬から流れ落ちると輝き出した。

 そして雫状の宝石になった。


「乙女の雫…」


 セっちゃんが思わず発した。

 直子は雫を手で受け止めるとそれを倒れているサリーの胸にそっと置いた。


 雫の輝きはいっそう強くなりながらサリーの体に入って行く。

 サリーの体が輝き出す。そしてその輝きはサリーの体を飛び出し一気に周りへと広がった。

 やがてこの全ての戦場を輝きで満たした。


「ん… 」


 サリーの声が聞こえた。


「サリー様!?」


 抱き抱えていたメリーは思わずサリーを落としそうになった。


「メリー?」


「私は…?」


「サリー様ー!」


 メリーは生き返ったサリーを強く抱きしめた。


「サリー、おはよう?」


 直子はスッキリとした笑顔でサリーの復帰を迎えた。


「直子さん…私…どうして?」


「奇跡ですよ、サリー様。聖女の奇跡です!」


「聖女の奇跡… ああ…直子さんの」


 サリーはまだ少し意識がおぼつかないが村長の息子を生き返らせた時の事を思い出していた。


「サリー達はここで待っていてね、ちょっと行ってくる」


 直子は膝をついて苦しそうにしている女の方へ向かった。


「グゥ… 何なんだお前は!?私の邪魔をするんじゃ無い!」


 先程の広がった光によって邪気が全て消され苦しそうな様子だった。


「ふぅ」


 直子は頭の中がスッキリしていた。

 何でこの世界に来たのか。

 なぜ自分だったのか…

 神龍おじいさまに聞かされた祖先の事やスサノウの言葉。


「私はこの世界で守れる者を守ると決めたわ」


「何を言ってる!」


 女が直子に向けて黒い邪気を放った。


(白ちゃんお願い)


(主、お任せください)


 ブォンッ


 直子の前に白ちゃんの盾が宙を舞って止まった。

 ヴィラインが放った邪気はその盾に届く事もなく手前で消えてしまった。


「く、くそう!」


 ざわざわ…


 周りが騒ぎ始めている。


「おい!生き返ったぞ!」


「切られた腕が生えて来た!」


「お前、首を切られて死んだんじゃ!?」


 雫の光を受けた者全てが生き返り、癒やされていた。


「すごい… 直子さん…」


 サリーは周りを見て驚いた。

 メリーは驚きのあまり呆然としている。


「奇跡だ!!」


 一人の兵士が叫んだ。


「聖女様の奇跡だ!」


「聞いた事があるぞ!混沌の聖女はいにしえの戦場で全ての者を救ったと!」


「混沌の聖女… まだ誰も見た事のない第三の聖女か!」


 兵士達は益々騒ぎ始める。


「うぉおおおー!!」


 そしてその騒ぎは直子を称える歓声に変わった。


「聖女様ー!」


「ありがとうございます!」


 直子を拝む者も多く居た。


 女は生き返った兵士達を見て言った。


「本当に聖女だったのか!?」


 混乱している様子の女に直子は尋ねた。


「ねえ?あなたはなぜ王国を混乱させようとするの?何が目的なの?」


「目的だと?この反吐が出る様な世界を正してやろうと思っているだけよ!この世界は三大神の物ではない。その思い上がった思想を思い知らせる為に大国を掌握して争わせるのよ」


 直子は念話で呟いた。


(この世界はこんな人もいるのね…)


(こいつは太古より存在する邪神の一角だな、数千年前だったか見た事があるぜ)


 セっちゃんが念話で答えた。


(セっちゃん知ってるんだ?数千年前ってそんな前から存在してるんだ?)


(ああ、名前は…なんだったか?)


(じゃあ、聞いてみるわ)


「私は堅譲直子、神の都から来た神龍の親戚…みたいなものよ」


 女は嫌そうな顔をして答えた。


「あの忌々しい三大神の加護を受けた龍、その親戚だと!」


「あら?私は名乗ったんだけど貴方は名乗ってくれないのかしら?」


 ヴィラインは不満そうに答えた。


「… 私はヴィライン、この世を統べる邪神が一柱よ」


 本当に邪神なのね。それに一柱という事は他にも居そう。


「ああ、ヴィラインかそんな名前だったな」


 セっちゃんが思い出した様に言った。


「お前も覚えているぞ!散々私の邪魔をしてくれた猫だろう!」


「猫言うんじゃねえよ!俺はチワワが好きなんだ!」


 いや、そこはどうでもいいでしょう?セっちゃん。


 ヴィラインは何を言っているのかわからない顔をしている。


「なめるなよ!あの時の私と思うな!」


 ヴィランは奮い立ち黒い霧を矢状にすると直子の後ろに居たセドリックに向けて飛ばした。黒い矢は物凄い速さと衝撃を伴い向かって来た。


 ヒョイ、パシッ!


 矢はセドリックまで届かなかった。

 直子が右手で汚れたテッシュをつまむように指3本で槍を捕まえたのだ。


「うわ、触っちゃった。なんか気持ち悪い!」


「おいおい、嫌いな虫をつまむみたいに…」


 後ろに居たセっちゃんが呆れている。

 矢はそのまま直子が触れた指先から消えて無くなってしまった。


「思わず掴んじゃったのよ」


 直子は掴んだ指を見て大丈夫か確かめた。


「なんなんだお前は!聖女にそんな力は無いはずだ!?」


 ヴィラインは驚愕し怒鳴った。


「え?どう言う事?」


 直子はセっちゃんの方を見る。


「聖女ってのは浄化や癒しの存在で戦闘は出来ないんだよ。ましてやあの矢を掴むなんて歴戦の戦士でも出来ねぇな」


「そうなの!?」


「ああ、聖女は勇者や騎士達に守られる存在だな。そうじゃ無いと簡単にやられちまう。過去には邪神にやられた聖女も少なくねぇな」


「そうだ!聖女は脆弱な存在だ。お前はいったいなんなんだ!?」


「私?」


 直子はにっこりして答えた。


「私はみんなを守る為に来た」


 直子の前に浮かぶ【崇高の白盾】白ちゃんを手に取ると構えて言った。


「盾のお姉さん!!!」


「よ!」


 直子はビシッっとポーズ決め言ったが後になり恥ずかしくなり少し顔が赤くなった。

 ヴィラインは何を言っているのかわからないという顔をしている。


「ふざけるなぁー!」


 ヴィラインは激怒し手を組み合わせ何か呪文の様な事を呟き出した。


 ビリビリビリ…


 ヴィラインの目の前に黒い塊が現れる。

 そしてその塊から黒い炎が立ち上った。

 サリー達はヴィラインからはかなり離れた場所に居たがそれでも黒い炎の熱は焼けそうに熱く感じた。

 それ程の熱を黒い炎は発していた。


「聖女の結界も焼き尽くす黒炎だ!」


「私の邪魔をする奴は全て消えてしまえ!!」


 直子はヴィラインに一番近い所に居たが黒炎の熱さはまるで感じなかった。


「前の世界にもあなたのような人が居たわね…」


「自分以外の人はどうでもいいと思っている人…」


「それなのに他の人にはそれを許さない…」


「自分の想い通りにならないと気が済まない人…」


「自分の気分次第で回りに混乱を振り撒く人…」


 直子はさらにヴィラインへ近づく


「グッ… なんだこの覇気は…なぜ焼かれない!?」


「どうやらあなたは私を害する事は出来ない見たい…」


 盾を構えたまま右手をヴィラインに向ける。


「さようなら… 邪神の輪廻から解放してあげる」


「今度は呪う為ではなく愛する為に生まれて来てね…」


 直子はそう言うとヴィラインに向けた手に意識を集中した。


 ドッバファーーー!!!


 ヴィラインを中心に真下から円状に白と金色が混ざった覇気が天に向かい立ち上った。


「きさ……」


 ヴィラインは何かを言う間も無く覇気に包まれその姿は見えなくなった。

 覇気は天高くまで登り青く綺麗な空に浮かぶ厚く真っ白い雲に吸い込まれて行った。


 戦場には穏やかな日差しがポカポカと降り注ぎ先程まで戦が行われていたとは思えない程にのどかな高原が広がっていた。


「ワァアアアー」


 直子達を見ていた兵士から歓声が上がる。


「聖女様!!」


「混沌の聖女様!」


「いや!盾のお姉さん!!ありがとうー!!!」


 その歓声を聞いた直子は恥ずかしさで顔が真っ赤になってモジモジしていた。


「しまったな〜もう!調子に乗ってあんな事言うんじゃなかったわよ!」


 サリーとメリーは恥ずかしがる直子を見てクスクスと笑っていた。

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