episode38 情熱の強奪

 サリーはビアンカから借りた鞭、雷撃縄らいげきじょうを手に今まさにアレン達を囲もうとしている軍勢の中に突っ込んで行った。


「ぬう!なかなか厳しい状況ですな!」


 ビューイック公爵は馬の上から周りの敵を薙ぎ払いながら言った。


「ここを突破すれば何とかなる!まだまだこれからです!」


 アレン宰相もビューイック宰相の前で鮮やかな剣捌きで次々に立ち塞がる兵を倒している。


 ブウンッ!


 アレン宰相の先に透明な板が現れた。幅は人が一人分高さは人の高さより幾分高い壁が突然何もない空中に浮かんでいる。

 ブウンッブウンッ!

 同じ透明な板は横並びに次々に現れ二人の前に壁を作って行った。


「魔法障壁か⁈」


 アレン宰相は周り兵を倒し透明な壁に向かい剣を振るった。


 ガウゥンッー


 鉄とも木とも違う鈍い音をたてアレン宰相の剣を弾いた。


「ぬおぉぉ!」


 ビューイック公爵も後ろから馬で駆け寄りそのまま大きな槍で思いっきり突いた。


 ガウゥンッー


 アレン宰相と同じように不思議な音を立てて弾かれる。壁の向こうを見ると杖を持った者達が壁と同様に横並びに並んで杖をこちらに向けていた。

 魔法障壁一枚に一人なのだろう。

 その数は五十人はいると思われた。


「報告ー!」


 後ろ側から声が上がった。


「後方の両側より敵多数接近!」


「ぬう、両翼が閉じ始めたか…」


「弓で魔法士を狙え!超えられる者は壁を超えて魔法士を排除せよ!」


 アレン宰相が指示をする。

 後方に居た弓隊が一斉に壁の向こうへ矢を放った。

 矢は綺麗な放物線を描き並んでいる魔法士へ飛んで行く。

 しかし魔法士を守るように盾を持った兵が魔法士の前に並びほとんどの矢は防がれてしまう。

 数名の身が軽い者が屈強な者に補助され上に飛び上り壁を超えた。魔法士を守っている盾兵の間をすり抜け数名の魔法士を倒した。

 綺麗に並んでいた魔法障壁の一部が消える。


「弓!」


 アレン宰相が消えた障壁を指差し指示を出す。

 すぐさま弓が弓が放たれる。


 ガガガウゥンッー


 放たれた矢は開いた障壁の向こうにいる敵兵に当たる直前で魔法障壁が復活し防がれてしまった。


「なかなか対応が早いな…」


 アレン宰相はどうしたものかという顔で思案している。

 障壁の端から消えた中央側の障壁と入れ替えをしたようだ。障壁は短くなったがこれでは中央からは突破は難しい。

 後ろを見ると三日月の陣が両翼の兵を回り込ませ今にも後方で合流するところだった。

 さらにその先に何やら向かって来るものが見えた。


「あれは…アレン殿!何やら淡炎あわほむらの鎧を来た者が一騎こちらに向かっておりますな!」


 アレン宰相も確認する。


「あ、あれは!」


 アレンは驚くと同時に困惑した。


「はーはっはー!あの方も無茶をなさる!」


 ビューイック公爵は何だか嬉しそうだ。


「何やってんだあのひとは、総大将が出てきてどうするんだ… それも一人で!」


「後方へ弓!道を!」


「アレン殿!姫様は何かするつもりですぞ!」


 ここからは良く見えないが姫が右手を天に掲げその先に雷を伴った光の柱が立ち上がるのが見えた。


「カーシャ行きますよ!」


「はいなの!」


 サリーは更に右手上に掲げた鞭に魔力を送る。

 上に真っ直ぐに伸びた鞭の先にも雷撃の柱が出来上がった。

 そして今まさに後方で両翼の兵が合流しようとする時だった。

 サリーが前方に向けその鞭を振り下ろす。


 バリバリバリ、ドーンッ!


 振り下ろされた鞭の沿って青い雷撃が発生した。

 その雷撃に触れた兵はバタバタと倒れていった。


「にゃ〜!容赦ないにゃね⁈」


「大丈夫です、これは痺れて動けなくなるだけですから!」


「ビリビリなのー!」


 今の雷撃で前方に居た兵士が倒れ道が出来た。

 サリーはその道を馬で駆けて行く。

 先にも敵兵は居たが先程の雷撃を見て皆道を開け始めた。


 サリーはそのままアレン宰相が居る所まで駆け抜けた。


「アレン!無事ですか⁈」


「あんた何考えてんだ!大将が出て来てどうすんだ⁈」


「サリー姫様!良い攻撃でしたぞ!」


 ビューイック公爵は嬉しそうだ。


「ですがアレン殿の言う通り、これではこのまま囲まれてしまいますぞ!」


「その為に私が来たんでしょ!」


「た、確かに先程の電撃は凄かったですが囲まれてしまっては長くは持ちません」


 サリーはニコっと笑い言った。


「あの障壁をどうにかすればいいのよね?」


「そうですが一部を無効化しても変わりの者が直ぐに立て直すので厄介なのです」


 サリーはニヤっとして魔法障壁の方を見る。


「今から障壁を無効化します。突入の準備をして下さい!」


「アレン殿、サリー姫には考えがあるようだ。ここはお任せしましょうぞ!」


 アレン宰相はやれやれと疲れた顔をする。


「確かに以前の姫様では在られぬようだ。仕方がないですな!」


「カーシャが居ますからね、任せて下さい!」


「「カーシャ?」」


 アレン宰相とビューイック公爵は二人で返した。


「後で説明しますので皆を下がらせて下さい」


 アレン宰相は前に出ている兵に下がるよう指示を出した。


「それでは、カーシャこの障壁を作り出している魔法士の位置を教えてくれる?」


「わかったの!サリーお姉ちゃんに思念を送るの!」


 カーシャが障壁の魔力を解析しその元となる魔法士を感知する。サリーとカーシャは神の都で二人でこのような訓練をしていた。

 ソニンがカーシャの存在とサリーの魔法の才を見抜き修行を進めたのだ。ソニンに鍛えられた二人は今ではお互いの力を合わせる事で以前とは比べられない程強くなっていた。

 サリーが詠唱を始める。


「天の暴龍、雷光龍よ。その力の一端を慈悲を持って降り下ろせ」


「ターニングライトボルト!」


 鞭を上に振り上空で弧を描いた。

 その奇跡が青い稲妻となって天に昇る。

 しばらく静寂が訪れると思った瞬間に天が光った。


 バリバリバリバリバシーン!!!


 ものすごい音と共に青い雷撃が魔法障壁を作っていた魔法士達全員に降り注いだ。

 一瞬で雷撃を受けた魔法士達は皆バタバタと倒れていった。

 戦場がその様子を見て静まりかえる。


 ブゥンッ


 術者が倒れた事で魔法障壁も全て消える。

 それを見てアレン宰相が我に帰り指示を出す。


「全軍進めー!」


 ビューイック公爵も唖然としていたがアレン宰相の声を聞き素早く障壁が消えた敵陣に切り込んで行く。それに続き他の者も突撃した。


「何をしておるのだ⁈応戦しろ!」


 本陣の天幕前でこの様子を見ていたノーガスト侯爵が怒鳴る。


「サリーのやついつの間にあれ程の魔法を…」


 天幕から出て来ていたサリオン王子が呟く。

 サリオン王子の兵は障壁が消え敵が傾れ込んで来た事で混乱している。

 アレン宰相達は目の前まで来ていた。


「やるじゃあないかサリー、まさか本当にここまで来るとはな…」


 サリオン王子がノーガスト侯爵の前に出た。


「王子、危険です!お下がり下さい!」


 ノーガスト侯爵がサリオン王子の進みを止めようとする。


「ノーガスト侯爵、ここまでだな」


 サリオン王子は涼やかな顔をして言った。

 前方の今にも突破して来ようとしているサリーの軍を見据えて息を大きく吸った。


「我は王国第二王子!サリオン・ウル・ザールファトミアである!」


「王国の戦士達よ!戦はそこまでである!」


 目の前で戦っていた者達が王子の声に手を止め王子の方を見た。


 サリオン王子はそれを確かめると両手を前に出し、そして両側に退くように手を動かした。


「そこを開くのだ!!」


 サリオン王子の兵士達はそれに従い両側に移動した。皆が移動すると目の前にはアレン宰相やビューイック公爵、サリー側の兵士達が現れた。


「サリー姫様」


 アレン宰相が後ろに待機していたサリーを呼ぶ。

 サリーの兵士達もサリーが前に行く為の道を開ける。

 馬上のままサリーは前に出る。それを護衛するかのように両側にアレン宰相とビューイック公爵が同じ馬で並走した。

 サリオン王子の近くまで来るとサリーは馬を降りた。

 アレン宰相も馬を降りる。

 ビューイック公爵だけはそのまま馬に乗っていた。

 いざという時に馬上から護衛す為だろう。


「サリオン兄様…」


 サリオン王子はサリーの出立ちをじっくりと見てやれやれと言う顔をした。


「サリー、よもやお前に戦況をひっくり返されるとはな。普通は大将は前に出てこないぞ」


「ええ、アレンからも散々言われましたよ」


 サリーはアレン宰相をチラッと見た。


「まったくです。前線で頑張っている我々の立場がないじゃないか」


 アレン宰相はまるで親しい友に語るような口調になった。


「アレン、こいつを嫁にもらうと苦労するぞ!」


「な、何を言うんですか⁈お兄様!」


 慌てて否定するサリー。


「そこがいいんじゃないか!」


 アレン宰相は楽しそうにニヤっとした。


「物好きだなお前も…」


「物好きとは何ですか!これでも淑女として努力しているのですからね!」


「淑女がそんな鎧を来て前線に出るのか?」


 笑いを堪えながらサリオン王子が言った。

 その後しばらく無言のまま時が過ぎた。

 サリオン王子が真面目な顔になった。


「王国第三王女、サリー・ウル・ザールファトミア。私はここに降伏する!そなたの勝ちだ!」


 サリオン王子はさっぱりした顔で潔く声を張った。


「お兄様…」


 サリーが降伏を受け入れようとした時。

 後ろのサリオン王子の天幕から女の声がした。


「そうはいかないのよね〜」


 サリー達が聞いた事が無い声だった。


「ヴィリか⁉︎ 城に居た筈では?」


 ノーガスト侯爵が慌てる。


「あんたってばほんとにダメね〜お使いもちゃんと出来ないのかしら〜」


 そう言いながら天幕から女が出て来た。

 黒いジャケットに真っ白いパンツ、頭にはハットを被っており肌の色が異常なまでに白い。吊り上がった目でサリー達を舐めるように見た。


「お兄様、こちらの方は?」


「侯爵、どう言う事だ?なぜこいつが出てくる?」


「あら〜サリオン王子様、せっかく手を貸そうと来たのに随分な言い方ね〜」


「王子様もノーちゃんも甘々で見てられなくて来ちゃったわよ〜」


「ヴィリ、この状況では我々の負けだ…」


 ノーガスト侯爵は悔しさと恐怖の入り混じった顔で言った。


「あら?そうなの… ならあなたは用済みね」


 ヴィリと呼ばれた女はニヤリとしてノーガスト侯爵に右手を向ける。


「グッな、何を…」


 ノーガスト侯爵が苦しみ出した。


「だいたいあなたが私の夫なんてなれる訳無いじゃない。下僕がお似合いよ〜」


「グォッ、グゥガァー!」


 ノーガスト侯爵を黒いモヤが包み込み見えなくなった。中からは骨が折れる様な音がしている。


 バキッボギッゴキッ


「グアァー!」


 静かになった。


 バサッ!


 黒いモヤの中から黒い大きな羽が現れた。


「グオー!」


 凄まじい雄叫びと共に黒いモヤが弾け消える。

 中からはノーガスト侯爵ではなく全身黒く大きな羽を持つ怪物が出て来た。


「あ、あれは… ガーゴイル?しかしこんな黒く邪気を放つ奴は見た事が無い!」


 アレン宰相が慌ててサリーを後ろに下がらせる。


「あらやだ、こんな雑魚にしかならないなんて…これじゃあサリー王女にも敵わないじゃない〜」


「これが雑魚だと…?」


 ビューイック公爵はその大きな体がガーゴイルの放つ邪気で動かなかった。

 アレン宰相も苦しそうだ。近くに居た兵士達は多くがその場に座り込む。


「は〜ん、雑魚でも今の時代の兵士には十分なのね〜。でも、やっぱりあなたには効かない見たいね」


 女はサリーを見た。

 サリーはカーシャの守りで邪気の影響を受けていなかった。

 サリーは女にニッコリとしてガーゴイルの方は向かった。

 向かいながら詠唱する。


「荒ぶる雷鳴のビスタンテよ、かの者を裁きの矢でその真意を問え!」


 鞭を天に振るとガーゴイルの上方で黄色い電撃がバリバリと発生した。

 鞭を振り下ろす。


 ズガーンッ!


 鋭い黄色い稲妻がガーゴイルの左羽にあたり吹き飛ばしてしまった。


「あらあら、大変〜 姫様にやられそうね。青き雷撃は行動を制し、黄色の雷撃は敵を討つ魔法か〜」


「人族がここまで強力な魔法を使うなんて…その鎧のおかげかしらね?」


 女はサリーの鎧、カーシャを見てニタリとした。


(あのおばさん気持ち悪いの!)


(カーシャの存在を分かっているようですねあのおばさん!)


「ちょっと、何か失礼な事を考えてない?」


(意外と鋭いですね、セドリック様みたいです)


「もうしょうがないわ~ 準備して来てよかったわ〜」


 女はそう言うと右手の指を鳴らした。


 パチンッ!


「それで?」


 サリーが聞く。


「良く見なさいよ、失礼なだけでなく目も悪いのかしら?」


 女には変わりはなかった。ガーゴイルを見ると右手で何かを掴んでいる。


「メリー!?」


 ガーゴイルが掴んでいるのは王城に向かった筈のサリーの次女、メリーだった。


「なぜあなたがここに?」


「クッ、も、申し訳ございませんサリー様」


 メリーは掴まれて身動きが出来ない様だ。


「ま、待て!その者をどうするつもりだ!」


 邪気で動けなくなっていたサリオン王子が力を振り絞って声を出す。


「あら、王子様。何かしら?」


「戦で…関係無い者を巻き込むなど…恥を…知れ…」


 サリオン王子は苦しそうに言った。


「恥〜?」


「何言ってんだお前?」


「こんな身内の醜い争いをしておいて今更いい子ずらしてるんじゃねえぞ」


 女は人とは思えない声で邪気を放ちながら言った。


「グ、クゥ… やはり人では無かったか…」


 サリオン王子はその邪気に耐えきれずその場に倒れてしまった。


「サリー様、お逃げ下さい!この者は人ではございません!」


 メリーがガーゴイルの拘束に苦しみながら言う。


「うるさいぞ、使用人風情が吠えるな」


 女はガーゴイルに左手を向け手の平を払う様な仕草をする。

 ガーゴイルはメリーの左腕を手で弾いた。


 ザシュッ!


「あぐ!」


 メリーさんの左腕が切り離され下に落ちる。


「メリー!」


 サリーが思わず叫んだ。


「あっ!ちょっとやにやってんのよ!切っちゃったらすぐ死んじゃうじゃ無い~ 折るだけでよかったのよ!」


「全く最後までダメな奴ね…」


 女はブツブツ言いながらガーゴイルの方へ近寄り切り落とされたメリーの腕を拾った。


「ちょっとじっとしてなさいよ?」


 そう言うとメリーの腕を無造作に切れた所に当てると何かを振りかけた。


「上位ポーション持って来て正解だったわ」


 女はポーションを少し合わせた傷に振りかけるとメリーの切られた腕が繋がった。


「あなた何がしたいの?」


 サリーが混乱して尋ねる。


「ふう、人質と言ったでしょ?直ぐに死なれたら困るのよ〜 協力してもらう様にじっくりやらなきゃ意味がないの」


 女はサリーを見てニタリとする。

 サリーは背筋がゾッとした。


「さて、それじゃあ始めましょうかね」


 女はメリーの繋いだ腕を持ち上げ人差し指を掴んだ。


「ではサリー姫様、その鎧を脱いでくださるかしら?その鎧、あいつの嫌な匂いがプンプンするのよね〜」


「サリー様!いけません。私の事は構わずこの女を排除して下さい!」


 ボギッ


 女は掴んだ指を躊躇なく曲がらない方向へ曲げた。


「アグッ!」


「私が話しているんだ、黙ってろ」


「メリー!」


 メリーが苦悶の表情をして言った。


「さ、サリー様。貴方は王女です!何が大事なのかをお考え下さい」


「だ、だけど…」


「なかなかいい感じね〜もう一本行っとく?」


 女はそう言うとメリーの中指を掴む。


「ま、待って!」


「ん〜?何かしら〜」


 女は素知らぬ顔でメリーの中指を捻じ上げた。


「アアゥッ!」


「わ、分かったからそれ以上はやめて!」


 サリーは女を睨みつけ言った。


「あら、もう言うことを聞いてくれるの〜?」


 女は歪んだ笑い顔でニタリとする。


「サ、サリー様申し訳ございません… こんな事になるなんて… 私は姫様方のお役に立ちたかったのに」


 女は更に醜悪な笑い顔をして言う。


「十分役に立ってるわよ〜この感情、心地よいわ〜」


「サリー様、深淵しんえんの花束を貴方へ捧げます…」


「メリー!ダメよ!」


 女はメリーが何を言っているのかわからないと言う顔をしていたが突然何かに気がついた様に素早くメリーの顔に左手を当て何かを呟いた。

 するとメリーは気を失ってしまった。


「あっぶないわね〜勝手に死のうとしないでよね〜」


 サリーは安堵した。

 しかし状況は変わっていない。


「毒かなんか口に仕込んでいるわね… 主人の為に死のうとするなんて馬鹿じゃないの?」


 サリーが女を睨む。


「それで?お姫様はどうするのかしら?」


「わかりました…」


(カーシャ、鎧を解いて腕に戻って)


(いやなの!サリーお姉ちゃんが危なくなるの!)


(カーシャ、お願いよ。鎧を解いてあの女が油断したところをカーシャはメリーを助けて)


(わ、分かったの… でもカーシャが離れたら攻撃反射も無くなるの、防壁も弱くなるから気をつけるの)


(分かったわ、行くわよ)


 サリーの鎧が消えカーシャはサリーの左腕に小さな盾となって戻った。


「へ〜 アーティファクトか何かかしら?私の知らない魔道具だわ」


 サリーは左腕のカーシャを右手で外してガーゴイルの前にに投げた。


「潔く良い子は嫌いじゃないわ〜」


「あなたの目的は何なのですか?」


 サリーは時間を稼ぐ為に女に話しかける。


「目的?」


「そうね… 神への挑戦かしらね」


「神への挑戦?三大神へのですか?」


「三大神ね… この世を統べる神は一人でいいのよ。そしてそれはあなたが言う三大神じゃないって事~」


「あなたがその唯一の神になるとでも?」


「神になるのもいいわね。でもそれは私じゃないわ〜」


「それは誰なのですか?」


 バシーン!


「グウアー!」


 メリーを掴んでいたガーゴイルの右腕が黄色い雷の刃で切断されメリーと共に地面に落ちた。


「あらあらちょっとおしゃべりが過ぎた見たい〜」


(カーシャ偉い!そのままメリーを守って!)


天翔あまかける雷龍よ、眩しき咆哮をかの者に振り下せ!」


 バリバリ!ビシャーン!


 サリーは素早く詠唱し女に雷撃魔法を放った。

 しかし凄まじい雷撃による熱で地面が溶けガラスの様になっていたがその中心に居た女は何事無かった様に立っていた。


「雷属性上位の雷撃魔法じゃない〜 この時代にも使える人族がいるのね〜」


「だけど残念、私に魔法は通じないのよ〜」


 女は邪気を纏いサリーを見下したように微笑んだ。

 そして歌う様に唱える。


「情熱の強奪〜 粉砕する心~」


「クラスヴハート!」


 女はサリーに右の手の平を向けそしてそれを何かを握り潰すような仕草をした。

 するとサリーは一瞬時が止まった様に感じた。そして急に胸が苦しくなりその場に倒れてしまった。


「な、直子さ…」


 ドサッ


「サリー様ー!!」


 メリーが叫んだ。

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