episode9 むにゅむにゅ

「知らない天井だ…」


 サリーの家に泊まり、次の朝を迎えていた。


「ああ、サリーの家か…」


 コンコン


「直子さん、おはようございます。朝食ができますので出て来てくださいね」


「あ、ありがとうサリー直ぐ行くね」


 なかなか良い眠りだったわ。

 村の中心から少し離れた一軒家、サリーとメリーさんの二人で住むにはあきらかに大きい家。

 客室もあるなんてやはり良い所のお嬢さんだよね。

 ハクちゃんのクリーン機能で起きたばかりでもお風呂上がりのような爽やかさだ。

 さっと着替えて部屋を出た。


「おはようございます。直子様」


 メリーさんがテーブルの椅子を引いて待っている。

 メリーさんも上品だよね。


「ありがとうございます、メリーさん」


 椅子に座るとメリーさんはササッと食器や水などを用意してくれた。

 流れるような手際、そのおもてなしに思わず自分が貴族にでもなったような気になる…

 前世はただのプランナーだったけど。

 サリーは目の前に座って優雅にお茶を飲んでいる。

 その様子もまた貴賓がありとても役所の受付とは思えない。


「どうかしましたか?直子さん」


 おっと、思わず見惚れてしまっていた。


「ううん、昨夜はバタバタして落ち着いて見れなかったけど素敵な家ね」


「借家なんですけどね、狭くてすみません」


 いやいや、凄い広いからね。


「お待たせしました、マンドラキノコの香草蒸しでございます」


 ここでもこれかーい!

 どんだけ好きなのよマンドラキノコ。


「新鮮なキノコが手に入ったので香草で蒸して芳醇な味わいにしてみました」


 新鮮…

 確かに新鮮だわ。

 皿に横たわったキノコがこちらに手を振っている。

 さすがに慣れてきたけど…

 そうだ、まだ動いているならあれがあるはず。


「そちらのソースを全身にかけてお召し上がり下さい」


 全身って言ったよ全体じゃなくて…

 もはや山菜としては認識してないのね。


「ささ、どうぞ♡」


「美味しいですよ直子さん♡」


 クッ


 なんなのこの二人の曇りなき純真な笑顔は…

 メリーさんも同類なのか?


「ええ、いただきます…」


 そう言いながら全身にソースをかける。

 あ、私も全身って…

 ソースをかけられたキノコはくったりして動かなくなった。

 その姿は何だか無念そうだ…

 せめて美味しく食べてあげるからね。

 思わず目頭が熱くなり…

 

 って違うわ!

 朝から変な感じになってしまった。

 キノコを容赦なくナイフで切断して口に運ぶ。


「もう、なんでこれがこんなに美味しいのよ!」


 相変わらず味だけは絶品だった。


「マンドラキノコは魔力を含んでいて同じように魔力を持っている者が食べるとその者の魔力が強いほど美味しく感じるのです」


 へー、そうなんだ。

 さすが異世界キノコ、ファンタジーだわ。

 思ってたファンタジーとは全然違うけど。


「なので魔力を持っている獣や魔獣に見つかると直ぐに食べられてしまうのでそれから逃れる為に魔力がある者が近づくと逃げるようになったとか…」


「なるほどね…」


 モグモグ


「一説では魔力がとても強い賢者がこのキノコに心酔してしまってそれ以外を食べなくなり栄養失調でなくなったと聞いています… モグモグ」


「確かにそうなりそうな美味しさだけどさ… パクパク」


(そう言えばハクちゃん、このキノコ私も異常に美味しいけどひょっとして私にも魔力があったりする?)


(主は魔力を持っています、そしてその魔力量は話にあった賢者の魔力量を遥か超える魔力量です)


 はい?


「私にそんな魔力があるわけ⁉︎」


「ど、どうしました?直子さん突然叫んで」


 思わず叫んでしまった。


「あ、ごめんね。キノコが美味しいから私にも魔力があるのかと」


「直子さん、気づいて無いのですか?」


「え、何がかな?」


「直子さんすごい魔力を持ってますよ!魔力を感じられない人でもわかるくらいに」


 おう、そうだったのか。

 私は魔力が強いのか…


(はい、最強です。私を召喚できるのですから)


 確かににこんな凄い盾のハクちゃんを召喚するには凄い魔力が必要そうだ。


「それじゃあ、私も火とか出せちゃう?」


「それは…無理かもですね」


 できんのかーい!


「魔法はその属性を持つ人しか発現しないじゃないですか?」


「そうなの?」


 サリーは何で知らないの? と言う顔をしている。

 メリーさんも目を丸くしている。


「だ、だって私が居た所では魔法を使える人がいなかったから…」


「あ!」


 急に思い出したように声をあげるサリー。


「そいうえばお忍びでしたね、その辺の情報も隠されているのですね」


 一人納得したようで、うんうんとうなづいている。

 続いてメリーさんもハッとして。


「お忍びですものね〜」


 違うよ〜 そこは違うぞ〜

 これ以上話すと余計にややこしくなりそうなので魔法については後でハクちゃんに聞こう…

 あれ?

 私が魔力が強いと言う事はこのキノコ危ないのでは?


(キノコの魅了については私が抑えていますので問題ありません)


(おおう、この美味しさは魅了なのね…)


 サリーとメリーさんは大丈夫なのだろうか。

 この二人もう三食これ食べてる気がする。


(サリーが持っている盾【純愛の加護】も魅了を抑えますので問題ありません、身近に居る者にも効果があります)


 さすがどこまでも優秀なハクちゃん。


「ご馳走様、美味しかったです」


「お粗末様です」


「気に入ってもらえて嬉しいですわ」


 二人してすごく喜んでいる。

 これは今後もキノコが出てくるな…


「さて、準備して仕立て屋に行きたいけどサリーは大丈夫?」


「はい、問題ありません。役所もお休みなので」


 そうか、今日はお休みの日なのか。

 こちらの休みとか知らないな。

 店に行きながら聞いてみよう。

 準備を整え二人で家を出た。

 ここから仕立て屋まではゆっくり歩いて20分位の所にある。

 昨日の襲撃が嘘のようにポカポカ陽気で自然がすらしい。


「役所のお休みって定期的にあるの?」


 二人で店に向かいながら聞いてみた。


「はい、7日間の内2日間がお休みになります」


 こちらも1週間7日か、しかも週休2日だと!

 前世も異世界もお役所勤めはよさそうね。


「そう言えば昨日捕まえたやつらはどうするの?」


「あの人達は王都に送り取り調べを受けてもらいます」


「魔獣を操るなんて普通はできませんからそんな人達を村長だけで集める事はできないと思います、他にも協力者がいる筈です」


「そうね、あの手の人は上との繋がりあるでしょうね」


 そんな話しをしていたら仕立て屋に着いた。


 仕立て屋 エレガント


 入口に向かうと中からバタバタと慌てた音がしてる。


 ガチャ!


 扉が開かれ中から誰かが飛び出して来た。

 

「直子さーん♡お待ちしてましたよ〜」


 店主のエリーさんがいき良いよく突っ込んで来る。

 家の中からよく私と分かったわね…

 前世に比べ飛躍的身体能力が高くなっている今、エリーさんの突進も余裕で避ける事ができた。

 横にさっと身をかわす。


「わわ!」


 突進を避けられたエリーさんはそのまま地面に突っ込みそうになっていた。


「おっと!」


 横に動いてそのままエリーさんの背後に回り後ろから体に手を回して突進を止めた。

 咄嗟だったので彼女の胸を思いっきり掴んでしまった。

 そしてその時、大変な事に気がついた!


 こやつ私よりも!!


 見かけから同じ位か少し小さいと思っていたが実際に触るとボリュームがあり触りごごちも申し分ない。

 しかも体も華奢なのでかなりスタイルがいいだろう…

 しっかり食べられないで痩せてこれだからちゃんと食べればさらに…

 くぅ、スタイルには自信があったのにこんな変な娘に負けるなんて。


 むにゅむにゅ


「あ、もっと…♡」


 思わず揉んでいた。


「うわ! ご、ごめん!」


 慌てて胸を掴んで支えていた手を離しす。


 ドシャー


 エリーさんはそのまま倒れてしまった。


「大丈夫?いきなり突っ込んでくるから…」


「は、はい大丈夫ですー」


 エリーの手を取り引き起こす。


「ありがとうございます♡」


 エリーはそのまま手を離してくれない…

 耳元に近づき囁いて来た。


「この続きは後で♡」


 続きって何さ⁉︎


 バシッ!


「あいた!!」


 横で見ていたサリーがエリーさんの頭を叩いて私から引き剥がしてくれた。


「エリーあなた私の直子さんに何言ってるのよ!」


 …私、サリーのものでもないからね。


「サリー…」


「あ、いえ、私ったら…」


 顔を真っ赤にして慌てている。

 店に入る前から色々あるな〜

 空を見上げると午前中の太陽が優しく見守ってくれていた…


 私は ノーマル ですからー …


 心の中で叫んでいた。


「二人ともそろそろ何に入りましょ?」


 牽制しあってる二人に割って入った。


「あ、すみません。どうぞお入り下さい」


 やっと店に入った。

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