episode8 精霊チワワ

 窓の外から強い白い光が現れ外に出てみるとそこには真っ白な、いや銀色に近いきゅるんとしたチワワがいた。


「あんたが盾の姉さんか?」


 見かけとは全く想像できない渋く深い声でチワワが喋った。


「こっちのチワワはしゃべるんだ…」


 呆れた感じでため息を吐くチワワ。


「喋らねーよ、これは仮の姿だ」


(主、この者は高位の精霊でその姿を小型犬に偽装しています)


 そうだよね、チワワは喋らないよね。


「それで精霊チワワさんがどうしてここに?」


「そ、その前に姉さん、その盾は…?」


 チワワの顔が真面目になって少し怯えている。


「え、ハクちゃんだよ。凄い盾で私を絶対守ってくれるの」


「姉さんそりゃーその盾は…!」


 キュウン…


 急にチワワが耳を垂らして何も言わなくなった。

 ハクちゃんから何やら威圧する気配が感じられる。


「ハクちゃん!動物いじめちゃダメでしょ」


 チワワの姿をした高位の精霊は何か言いたそうだが我慢しているようだ。


「ふー、ここに来たのはうちの者が迷惑かけたんでな…」


 ハクちゃんの気配から解放されたようだ。

 迷惑?さっきの魔獣の事だろうか。

 そうするとこの精霊チワワは村長の関係者なの?


「あんたあの村長の仲間なの?」


 思わず先程の感情が湧き上がりまた覇気が出そうになった。

 周りの気配が振動している。


「ちょ、おいおい!落ち着けよ。俺は村長の仲間じゃねえ、むしろ敵だ」


 違うの?確かにこの精霊チワワからは敵意は感じられないけど。


「まったく、あんたらとんでもないな。ちびるかと思ったぜ」


 精霊チワワはそう言うとブルブルと全身を震わせた。


「さっきの魔獣は俺ん所のやつでな、元は森で静かに暮らしてたんだがあの村長、やつの子を殺しやがって怒りのまま魔獣になっちまったんだ」


 あの村長、本当にやりたい放題だわ…

 また感情が暴走しそうになる。


「だから落ち着けって、それで魔獣になったやつを村長の手下が操って姉さんの所に寄越したっていう事だ。人間には魔獣を操る術を持つやろうが居るみたいでな。」


「それがあいつらだったのね?」


「そう言うこった、魔獣になっていない獣は操られる事はねえが魔獣になっちまうと魔力で我を忘れるからな~そこに漬け込んで操るみてえだな」


 あんな魔獣を操るなんて…

 一人では無理だからあの人数だったのね。


「それで精霊チワワさんはなぜここに?」


「ああ、やつを止めてくれた礼を言いたくてな。あいつはあのままだったらあいつらにいいように利用されるだけだったからな…」


「止めてくれてありがとうよ」


 可愛らしい顔のチワワがキューンとうなだれている。


「礼だなんて、私達も襲われて身を守っただけだしね…」


 あれ?なんか引っ掛かる…

 倒した魔獣は豹みたいなやつだったよね…


「ところであの魔獣さんとはどんな関係か聞いても?」


「ああ、あいつとは親戚みたいなもんだな」


 親戚みたいなものって事は実際に血縁関係ではないのかしら。


「血縁関係とか?」


「変な事聞くな、そらー親戚だから血縁関係という事になるだろうな」


 精霊チワワは小さな頭を傾げている。


「今の姿は仮の姿よね?」


「最初に言っただろう、そうだよ!」


「もしかして本来の姿ってさっきの魔獣さんに近いとか?」


「当たり前だろう!親戚なんだから似たようなもんだぜ」


 え〜

 と言う事は本当の姿は豹みたいな猫タイプ…


「本当の姿は豹みたいな猫タイプ?」


「猫言うなよ、まあ確かに猫に似てるかな」


「それで今なんでチワワなの?」


「おまえ…」


 え、聴いちゃいけない事だった?

 怒らせたかな?


「よく気がついたな!」


 … 誰でもおかしいと思うわよ!


「そこは普通、本来の姿に近い猫になった方が突っ込まれ… 自然じゃない?」


「… き なんだよ!」


「ごめんよく聞こえなかった、もっかいおねがい」


「クッ」


 凄いモジモジしてる精霊チワワ。


「好きなんだよ!犬が!悪いか!」


 猫が犬に憧れるか…

 なんか可愛いのう。

 照れまくってる精霊チワワに近づき頭と言わず全身をモフった。


「な、何をする…!気安く触るんじゃねえ〜…」


 そう言う割には尻尾をパタパタ振って気持ち良さそうだ。

 そのまま数分モフり倒した。

 表情ではわからないが身内を無くした悲しみはあるのだろう。

 こんな事で慰めになるかわからないが精一杯モフった。


「はぁはぁ、何してくれやがる…」


「それで?来たのはお礼の為だけ?」


「おう、大事な用事を忘れる所だった」


「俺んとこの大将が姉さんに会いたいらしくてな、一度俺らの所へ来てもらいたいんだよ」


 大将… このチワワは高位精霊と言っていたからそのさらに高位、精霊王とかかしらね。

 でも私に何の用だろう。


「私に?」


 精霊チワワは小さな頭を傾げながらこっちを見る。


「大将は姉さんが森に現れた時から姉さんの存在を感知していてずっと見ていたんだそうだ」


 こっちに来てもストーカーが…


「そんで見てるうちに興味を持ったみたいでな、悪いようにはしないしねえからうちの大将と会ってくれねえか?」


 きゅるんとしたあざとい顔で目うるうるさせながらこっちを見てる。

 まあ、特にこれからの目標とか無いしね。


「いいわよ、すぐって言うわけにはいかないけど」


「村長をどうにかしないといけないし、仕立てた服も取りに行かないといけないから」


 精霊チワワは再度頭を可愛い傾げる。


「服はしらねぇが村長なら俺が落とし前つけるから姉さんは手を出さねえでくれ」


 村長の勝手で身内を無くしたからね復讐したい気持ちはわかるけど…


「村長を殺すの?」


 精霊チワワは目ゆっくり閉じて動かなくなった。

 そして自分の気持ちを落ち着かせたような様子でゆっくり話す。


「俺たち明確な意識がある高位精霊は人を殺さねぇ、殺しちまったらその感情に耐えきれず魔獣になっちまう」


「魔獣になると意識は無くなりただ襲う存在になり元に戻るのは難しい…」


 本当は村長に復讐したい気持ちなんだろうね。

 精霊チワワ、本当に高位で高貴な存在だね。


「じゃあどうするの?」


「なーに、少々痛めつけて奥歯ガタガタ言わせて俺らの存在を魂に刻んでやるのよ」


 … おい、尊敬した気持ちを返せ!


 村長が今までやってきた事を思えば命で償うには軽すぎる。

 生かして一生この村の為に償えばいい。


「わかったわ、それじゃこちらの用事は明日には終わると思うけどそっちは?」


「ああ、こっちも明日までには終わらせるさ」


「その後の処理あるだろう村長の件が終わったら知らせるから村長の所まで来てくれねえか?」


「了解、この村の為にこき使ってやるわよ」


「頼もしいな、それじゃその後に大将に会いに行くでいいか?」


「ええ、それでお願い」


 精霊チワワが小さい足で村長宅へ向かって走り出す。

 次の瞬間体が白く光り出し大きくなっていく。

 それは大きな白い豹の獣だった。


「綺麗な精霊ね… てかやっぱり本体は猫じゃないのよ、猫に変身しなさいよ紛らわしい! あ!あんた名前は⁈」


「俺に名前なんてねえよ!」


 そう吐き捨てるように去ってしまった。

 そっか、名前ないのか…

 それじゃ… 「セチワ!」 と呼ぼう。

 略して「セっちゃん」!


 ズドーン!


 セっちゃんが走り去った先で何やら派手な音がした…

 直子のネーミングセンスは壊滅的だった。


「さて、サリーシャさん達も心配しているだろうし戻りましょ」


 あの精霊チワワはハクちゃんに怯えていたけど高位精霊が怯えるのだからそれ以上の存在なんだろうけど…

 ハクちゃんはハクちゃんか。

 私を守ってくれる存在、私が望んだ結果なんだし。

 この何も知らない世界で頼りになる相棒だね。

 そんな事を思いながらサリーシャさん達が待つ家に戻った。


「直子さん! あの可愛い生き物は何だったのですか?」


 どうやら全て窓から見ていたようだ。


「なんか高位精霊のチワワみたいな…」


「高位精霊⁉︎チワワ⁈ 確かに小さいのに貴賓溢れる高貴な感じでしたね!」


 窓からそこまで見えないと思うけどチワワはサリーシャさんの好みだったらしい。


「それであの毛玉は何をしに来たのでしょうか?」


 打って変わってメリーさんは辛辣な表情だ。

 犬が嫌いなのかな?

 襲ってきた魔獣との関係、精霊チワワに村長の事を任せた事などを話した。


「そうなんですか… あの村長なのかやるかと思いましたがそのような酷い事を。」


「制裁はあの精霊チワワに任せればいいから私達はその後の村長やその取り巻きを村の為にコキ使わないとね」


 村人の反感もあるだろうし直ぐには難しいだろうけどこの村の本来の姿に戻れるようにしないと。


「明日中には村長の制裁は終わってると思うからそれまで私は仕立てた服を取りに行ってくるね」


「サリーシャさんはどうする?」


「村長の事は心配ですがそう言う事でしたら私も行きますね」


 うん、ぜひ一緒に来てほしい。

 あの店長、二人きりで会うには危険だ。


「それと、直子さん。私の事はサリーと呼び捨てして下さい」


 おお、サリーシャさん。

 いや、サリーの好感度が上がったよ!

 サリーも秘密を抱えている見たいだけどそのうちもっと打ち解けて話してくれるようになればいいな。


「わかったわ、ありがとうサリー」


「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」


 その日は夜も遅かったので軽く食事をして休んだ。

 明日も色々とありそうだ…



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここまでお読み頂きありがとうございます。

 現世でモテモテ(変なのに)だった直子、異世界に来てもモテモテなようで。

 この先どんな事をやらかしてくれるのか書いてる本人も楽しみにしています。

 毎日通勤時間を利用して執筆しておりますので進みは遅いですが。

 この後もお読みいただければうれしいです。


 りるはひら

 

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