episode33 聖 女

 セっちゃんに乗り上空へ上がる。

 かなりの高さまで上がりそのまま飛んで王国の近くの村へ向かった。

 太陽に近い空はセっちゃんの新しい服、白いフワフワをキラキラさせて輝かせていた。


「よっしゃ、村はどっちだ?」


「あちらです!」


 サリーのお付きメイドのメリーさんが村の方向を指した。


「それじゃあ行くぜ!」


 セっちゃんの背に乗っている私達の周りに結界の様な物が形成されそれはすぐ見えなくなった。


「飛ばすからな、落ちない様に結界を張ったからあまり動くなよ?」


 セっちゃんの前に青い大きな魔法陣が何重にも現れた。


「あ、加速の魔法陣… 」


 サリーが呟く。

 次の瞬間周りの景色が高速で流れて行く。

 魔法陣で加速され物凄い速度になっている。

 周りの結界が空気との摩擦なのか光を放っていた。

 明らかに神の都から来た時よりも早い。


「ちょ、セっちゃん!早過ぎない?」


「ああん⁈ いいんだよこれで!」


 結界のお陰か加速による圧力とか風とかは無いけどちょっと怖い…


「直子様、向かう方向に敵意を持った者の反応があります」


 ソニンさんが冷静な口調で言った。


「え、どう言う事?」


「すみません…多分私のせいです」


 サリーが申し訳なさそうに話した。


「王国では私を良く思っていない方がいましてその方が私が王国に行くのを阻止しようとしていると思います」


「サリオン王子ですね…」


 メリーさんが苦虫を噛む様な顔をして言った。


「サリオン王子?」


「はい王国の第一王子です」


「それってサリーのお兄さん⁉︎」


「ええ、母違いの兄なんですが私を良く思ってないらしくて色々ちょっかいを掛けて来るのですよね」


「王国ではサリー様がお世継ぎに相応しいと思う方が多くいますのでそれに対する妬みでしょうね。あわよくば亡き者にしようとしているようです」


 サリーは哀しそうな目をした。


「そこまではさすがに思っていないと思いますよ?メリー」


「ですがこれは村に向うサリー様を襲う者で間違いありません!」


 二人が話しをしていると冷静にソニンさんが言った。


「今、敵意を持った者の所を通り過ぎました」


「「「はい?」」」


 サリーとメリーさん、私も含め皆でハモった。


「セドリック様の速さを捉えられる者はほとんどおりませんので何も出来ずに通り過ぎた様ですね」


「はっはー! どんな奴が居ようがこの速度で飛ぶ俺を狙える訳ねえだろう!」


 ああ、そういう事か。

 だから速度を上げたのねセっちゃん。

 普段は残念チワワなのにやるじゃない…


「おい、今変な事を考えただろう!」


「何のことかしら?」


 それにしてもこの気配、数十人は居たわね。サリーも苦労しているのね…


「直子さんすみません…」


 サリーが申し訳なさそうに謝る。


「何でサリーが謝るのよ、悪いのはそのサリオンとか言う王子でしょ?」


「そうなんですが巻き込んだ形になってしまったので」


 王国は他の国とは比較的に友好的な国と聞いている。でも王国内では次期王の継承を巡って争っているようだ。


 どの世界も自分の欲を通そうとする馬鹿はいるものね…


「そのサリオン王子って国民にはどう思われてるの?」


 … …


 しばらく沈黙の後、サリーが言った。


「サリオン王子は国民に対して利になるかどうかで判断する人なので良い評判もあれば良くない評判もあります」


「メリーさん、サリーの王国での評判はどうなんです?」


 サリー本人では言い難い事もあるだろうからサリー直接ではなくメリーさんに聞いてみた。


「サリー様は王国の民を思い幼い頃から努力して来られました。国民からは次期王にはサリー様の声が多いです」


 そうなんだ、そうね短い時間だったけどこれまで一緒に居てその評価は信じられる。

 でもサリーは第三王女なのよね…

 第一王子がサリオンだから… 他にもいるよね?


「他の王位継承権を持った人達はどうなんですか?」


 … …


 またしばらく沈黙があり悲しい声でサリーが言う。


「現在王位継承権を持つのはサリオン王子と私のみになります…」


「え、二人だけ?他の人は?」


 メリーさんがサリーに変わって言った。


「サリー様には二人のお兄様と二人のお姉様がいらっしゃいました」


 ました、と言うことは今はいないのか?


「お兄様の一人はサリオン王子ですが他に第二王子のメイヤン様、第一王女メルトワール様、第二王女のエリノセス様です」


 さすが王族子供が多い。


「ですが第二王子のメイヤン様と第二王女のエリノセス様はお亡くなりになっており、第一王女のメルトワール様は聖女で有られる為に教会へ属しておられ現在の王位継承権はサリオン王子とサリー王女のみになっています」


 第一王女は聖女なの⁉︎

 こちらの世界の聖女はどの様な存在なのだろうか?

 やはり魔法で治癒とかするのだろうか。


 ヴゥン!

【聖女】

   神の声を聞く事が出来る

   生まれながら聖なる気を身に纏い

   その気により神聖魔法を使う事が出来る

   人間族の間では神の祝福を受けた聖女と

   呼ばれる存在は三人居ると言われている

   現在確認されているのは太陽の神

   天照より祝福を受けた王国の第一王女のみ

   他二人、混沌の神、夜闇の神に祝福を受けた者は

   見つかっていないが祝福を受けた聖女は

   必ず三名同時期に世に現れるとされこの世のどこかに

   存在していると思われている


 おお、ハクちゃん情報ありがとう。


(因みに主は混沌の神に祝福を受けた聖女になります)


 ふーん… …


「私なの⁈」


「ど、どうしたんですか?直子さん!」


 ハクちゃんがさらっと重大な事を発表‼︎

 私が聖女だってー!


(何で今頃そんな大事な事を言うのよ?)


(申し訳ありません、主。主により召喚されてよりそうではないかと感じてはいたのですが確かめる情報が足りず判断が出来ずにいました)


「直子さーん!大丈夫ですかー?」


 サリーが心配して声を掛けてくれているが全く耳に入って来ない。


(それじゃあ最近わかったって事?)


(はい、混沌の聖女は神の都に現れると神龍より聞きました)


(え、でも私たまたま神の都に行った人なんだけど?)


(主、たまたま行った人がその国の王女になる事はありません。これは混沌の神が定めた運命だったと予想します)


 運命… たしかに出来過ぎてはいるけど。


(じゃ、じゃあこの世界に送ったあの軽いやつが私の運命を定めたって事?)


(そうであると推測します)


 なんてこったい…


「直子さーん! 大丈夫ですかー!」


「ん?ああ、ナンパな混沌が運命を操って…」


「ナンパ?混沌?どうしたんですか!急に!」


 サリーの顔が近いな~

 そうか~サリーのお姉さんも聖女なの~

 聖女!


「サリー!」


「きゃあ!」


 急に声を出したからかサリーが悲鳴を上げた。


「サリーどうしたの?大丈夫!」


「どうしたじゃないですよ!直子さんこそどうしたんですか?」


 ん?ああ、あまりの事に回りが見えてなかったらしい。


「あ、ごめん。なんか衝撃的な情報が入ったから唖然としちゃって」


「ええ!直子さんが唖然とする程の衝撃的な情報ってどんなのデスか⁈」


 流石に私が聖女とか言えないよね…


「そう、サリーのお姉さんは聖女なの?」


「え、あ、はい、そうですが?」


「それって凄い事なんじゃない?」


 なにせ世界に3人しかいないその一人なのだから。


「ええ、なのでお姉さまは聖女として中立の立場である協会で勤めれておられます」


「中立?」


「はい、どの国にも属さない中立的な立場に身を置いて全世界人間族の相談役のような事をやっておられます」


「と言う事はもう王国の王女ではないとか?」


「はいそうですね、立場的には全人間族の頂点になられます」


 全人間族ってすごいな、あ、でも魔族とか神族とか人間以外では違うのか。


「全人間族って事は国とか関係なく一番偉い人になるんだ?」


「そうですね、王国はもちろんあの帝国でさえお姉さまには忠誠を誓っています」


「ですがお姉さまが各国の政治に関わる事はありません、あくまで象徴的存在です」


「国同士の争いを仲介したり、流行り病を治したりもしてますね」


 凄いな聖女…


「なので当然ですが王国の継承権もありません」


 それで継承権を持つのが二人だけになった訳か。


「直子さんも聖女ですよね?」


「うん、そうなのよ… え?!」


「何で分かるの…」

 

 ハクちゃんとの念話を聞かれた?そんな事はないか…

 何故サリーが私が聖女と知っているのだろう。私でさえ今知ったのに。


「乙女の雫です。あれは神に祝福を受けた者のみが成しえる奇跡で聖女である事を示すものでもありますから」

 ※episode13 乙女の雫 参照


 あれかー! 

 なんであんな物が出るのかと思ったらナンパ神のせいだったのか!


「そうなのね… 実は私もさっきハクちゃんから聞いて知ったのよ」


「それであんなに驚いていたんですね」


「うん… だって誰も私が聖女とか言わないから」


「直子様、聖女と言う名称は人間族が付けた称号に過ぎません。神の都では聖女と言う認識はありませんので誰も聖女と言わなかったのですね」


 ソニンさんが説明してくれた。


「ええ〜そうなの?」


 サリーも頷きながら言った。


「聖女は必ず三人居られるのでその一人は人にとって未知である神の都にいると予想されていましたね」


 もう一人はどうなんだろう?


「後一人は?三人なんでしょ?」


「もう一人は常夜の国に現れるとされますね」


 ほうほうそんな国があるのか。そこにも挨拶に行くのかしら。


「常夜の国は最近王女が現れたそうです」


 ソニンさんは独自の情報を持っている様だ。


「そしてその王女が闇を祓い常夜では無くなったらしいです」


「常夜の国って名前の通りずっと夜なのね?」


「はい、あそこは魔族の国ですから王女もアンデットだったらしいですね」


 おお、アンデットとか居るんだ。


「夜を祓った際に更に高位の何かなったとか」


 ソニンさん良く知ってるな。

 高位の何かというのは気になるけど。


「さすがソニンさん色々知ってるのね」


「ええ、昔あの国にメイド見習いに行きましたので今でも情報は入ってきます」


「メイド見習い?ソニンさんが?」


「はい、常夜の国はメイド教育が有名な国ですので私もしばらく行っておりました」


 メイド教育が有名な国かどんな教育があるんだろうね。


「あの国のお城には300人を超すメイドが居て各国からの研修生も受け入れているのです」


 へ~ 魔族とか言うから他の国とか争っているのかと思ったら違うのね。

 ソニンさんの言い方だと300人は多い数なんだろうな。


「ちなみに神龍様の所では何人のメイドさんが居るのです?」


「私の所では50名程しか居ませんね、イヴァ様の所でも同じ位です」


「サリーの所では?」


「王国の王城でも100名位でしょうか」


 そうすると300人は多いのか。

 300名のメイドさん… ちょっと見てみたいな。


「常夜の国も行ってみたいね」


「直子様の訪問予定に入っておりますから行けますよ」


 おお、いいね。


「って聖女の話だったわね、常夜の国でも聖女って言われてるの?」


「いえ、やはり聖女と呼ばれるのは人間族の中だけみたいですね」


「そうなんだ、聖女というと凄い清らかなイメージがあってどこでも聖女と言われそうだけど…」


 私は清らかなイメージはなさそうだけどね!


「聖女と呼ばれる方は確かに清らかな気を常に纏っており普通の人とは違いますね」


 サリーが自分の姉を思い浮かべているような表情で言った。


「それって神から祝福を受ける前は普通の人なの?」


「いえ、神から祝福を得る者は生まれながらにして清らかな気を放っていると聞きます」


「確かにお姉さまは小さい頃から他の人とは違ってましたね、優しく神々しい雰囲気に包まれていました。ただその光に当てられるのか熱狂的な方が良く求婚してましたけど」


 ん? 熱狂的な方からの求婚…


「サリーもしかしてお姉さんって祝福を受ける前から色んな男の人が寄って来てた?」


「ええ、身分も関係なくお姉さまに心酔する人が多かったですね」


「その人達ってしつこかったり思い込みが強かったりする?」


「良くご存じですね、そういう方が多かったのでお姉さまには常に護衛が付いてましたね」


 あれ~ こっちに来る前の私の状況に似てるぞ~

 私には護衛とか居なかったけど。

 そうか、そういう事なのか!私が聖女だから私の気に釣られて変なのが寄って来ていたのか…


「それって将来的に結婚とか難しそうよね?」


「そうですね~ 過去に結婚した聖女も居ましたがお相手は勇者と呼ばれる方だったそうです」


「勇者か~ つまり聖女と同等の存在でないと務まらないと…」


「そうかもしれませんね、イヴァ様も未だに良い方が居ないですし…」


 え、ということはイヴァ姉様も聖女ってこと?


「イヴァ姉様も聖女って事?」


「人間族からすればそうですね」


「え、それじゃ私もそうだったら4人居る事になりますよね?」


「世界に三人と言うのも人間族が言って来た事なので…」


「そ、そうなんですね!」


 サリーを見るとサリーも驚いている。


「ま、まあこの際は聖女とかは忘れましょう」


「直子さんは神の都の王女候補として訪問するのですからもうそれだけで聖女と同等以上の立場になると思いますけど」


 そうなの?一国の王女とかそんなに偉くない気もするけど。


「今まで交流が無かった神の都ですからねそこの女王候補となれば人族からしてみればもう聖女級です!実際に聖女ですし!」


「直子様は普通に神の都の王女として訪問されればよろしいかと」


 ソニンさん、普通にって全然普通じゃない気がします。

 それにしても聖女はともかく王国の亡くなった二人は何で亡くなったのだろう。


「王国の亡くなられたお二人は病気か何かですか?」


 メリーさんが答える。


「いえ、第二王子のメイヤン様は魔法の修練中に魔法が暴走しそのままお亡くなりになりました。第二王女エリノセス様は何者かに毒を盛られ…」


 メリーさんの目が潤んで来た。


「メリーはエリノセス姉様の次女だったのです」


「そうなんですね、すみません辛い事を思い出させてしまって」


「いいえ、とんでもございません。今はこうしてエリノセス様と仲の良かったサリー様とご一緒させて頂いておりますのでエリノセス様の分までお側でお力になればと思っております」


「メリーさんあなたさえ良ければ一度メイド修行に来ませんか?」


 静かに話を聞いていたソニンさんが言った。


「メイド修行ですか?」


「はい、私もまだまだですがこれでも神龍様のお側でメイド長を仰せつかっていますのでそこでしばらく一緒にメイド修行をしましょう」


「私の所で頑張れば戦闘メイドとしてサリー様をお守り出来るようになると思いますよ」


 戦闘メイドって… でもこっちの世界のメイドさんを見ると皆強そうだけど。


「いいじゃない、メリーぜひやりましょう!」


 サリーが食い付いた。


「ですがサリー様、その間サリー様から離れる事になります」


「大丈夫よ、その時は私もまたお世話になるから」


 サリーはソニンさんをチラっと見る。


「神龍様にお聞きしておきますね、大丈夫だと思いますが」


「それじゃ、決まりね。メリー頑張って!」


 戦闘メイドか、私も一緒に修行しようかな…


 ◆   ◇   ◇   ◇   ◆


 どうも~ ナンパ神です!

 って、誰がナンパ神じゃ!

 私は混沌を司る神様ですよ。ナンパ神はひどい・・・


 たしかに昔色々やらかしてはいますけどね。

 姉上の眷属にちょっかい出したり、姉上が作ったこの世界で好き勝手やったり…


 あれ? 私結構ひどいやつだった?


 いやいやそれは昔の話、今では姉上とも和解しこの世界の為にがんばっていますよ。


 だからね、直子には頑張ってもらわないとね!

 直子のファンとしても応援してるよ~

 

 直子: な、なんかすごい無責任な悪寒を感じるわ…




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