episode29 伝説のホーリーバニー

「儂がエドルファース・スサノウじゃ!」


 昼食の会場で皆が席に着いた途端に人化した金の神龍が名乗りをあげた。


「そういえばお名前聞いてませんでしたね」


「うむ、直子よ。これからよろしく頼むぞよ」


 何がよろしくなのかわからないけど…


「よろしくお願い致します」


「私は娘のエリシュファン・スサノウ、イヴァーリースの母です」


 イヴァ姉様のお母様、改めて挨拶をしてくれた。


「堅譲直子です、お母様」


 お母様はにっこりと微笑んでくれた。

 お爺様が何やらモジモジしている。

 どうやらお爺様も呼んでほしそう。


「お爺様」


 出来る限りの笑顔で呼んでみた。


「うむうむ!」


 すっごい喜んでる。

 種族豊かなメイドさん達がテキパキと料理を運んでくる。


「こ、これは…」


「せっかくなので直子さんの故郷の料理にしてみましたよ」


 黒い鉄の鍋が台の上に置いてあり下からは火が上がって鍋を温めている。鍋は小さく一人用らしい。

 側には小さな深めの皿に卵が殻のまま入っている。


「もしかしてすき焼き?」


「そう、直子さんの故郷で良く食べられると聞いて用意してみたの」


「すき焼き?」


 サリーが不思議そうな顔でクツクツと煮られている小さな鍋を見ている。

 鉄の蓋があるので中身は見えない。


「そうね、私の故郷を代表する料理かしら」


「わー、そうなんですね。楽しみ」


「ふふ、それでは頂きましょう」


 お母様が軽く手を挙げた。

 するといつの間にか後ろ待機していたメイド達が一斉に鍋の蓋を開ける。

 湯気と共に香ばしくも甘い醤油の匂いが漂う。


「肉鍋?ですか?」


「そう、そしてこの卵をね…」


 カッカッ パカッ!


 迷いなく右手だけで卵を割り中身を皿に落とした。


「さすが慣れてますね〜」


 イヴァ姉様が両手で卵割りながら褒めた。


「な、生のまま卵を食べるのですか⁈」


 そういえばこの卵大丈夫なんだろうか?


「大丈夫ですよ、この卵も召喚した物ですから有害な物は含まれていません」


「そうだにゃ、召喚された食べ物は有害な物は弾かれるにゃ」


 そうなんだ、大丈夫そうね…


 卵の殻を見ると新鮮モード卵とプリントがされていた。日本語を見て懐かしさと安心が込み上げて来た。


「この卵をね、かき混ぜて〜 そしてこの熱々のお肉を卵に絡めて食べる!」


 う〜ん!懐かしい。すき焼きなんて向こうでも久しく食べてなかった。


「ゴクリ…」


 サリーや他の人も釣られて一斉に食べ始める。


「美味しい!」


「そうでしょう〜」


「久しぶりに食ったがやっぱうめぇな!」


「肉食の我にはピッタリな料理なのにゃ」


 大福あんたは野菜を沢山食べなさい…


「うむ、暖かい料理はやはり良いものじゃな」


 みんなあっという間に食べてしまった。


 お母様がまた手少しあげ合図をした。

 メイド達がささっと動き出し残った鍋の中に何かを入れた。


「うどんまであるんだ⁈」


「締めはやはりこれでしょう〜」


 イヴァ姉様が当然と言う様な顔で入れられたうどんをほぐしている。

 みんなも同じ様にうどんをほぐし始めた。


 久しぶりの麺類だわ〜

 こっちの世界にはあまり麺類が無い、あってもボソボソして美味しく無いし…


 残り汁で十分に火が通ったうどんを小皿に引き寄せる。


 ズルズル!


「な、直子さん!」


 え?


「何かな?」


「淑女がそんな音を立てて食べるのははしたないですよ」


 サリーが心配して注意してくれた。

 だが!違うのだよサリー!


「ふっふっふ、サリー。この料理はこうやって音立てて食べるのが作法なのよ!!」


「またまた〜直子さんは冗談がうまいですね」


 ズルズル〜!


「サリーさん、直子さんの言う通りですよ。これは音も楽しむ料理なのです」


 お母様も派手に音を立ててうどんを啜った。


 ズルズル!


「そうなのよね〜この音がいいのよね〜」


 イヴァ姉様もズルズルしてる。


 ズバババッ!


 ものすごい音でセっちゃんが食べた。


「セっちゃん…それはやり過ぎ」


「な、何でだよ?一番大きい音が出てるじゃねえか」


 音が大きいとかではないのだ!


「違うのよね〜 音が大きければ良いって訳じゃなくて美味しい音かどうかなのよ」


 久しぶりのすき焼きうどんで語ってしまった…


「ナオちゃんが居た世界は面白い考え方をするんですね〜」


 ズルズルと啜りながらイヴァ姉様も関心する。

 サリーも真似をして啜っているが恥ずかしいのか遠慮がちだ。


「はぁ〜美味しかった!まさかまたすき焼きが食べれるなんて思ってなかったから」


「むおっほっほ!直子が来ると言うのでソニンが故郷の料理が良いと頑張っておってな」


 黙々と食べていたお爺様がソニンさんを労った。


「いえ、私は材料の調査と召喚をお手伝いしただけですので」


「ソニンさん、ありがとうございます。とても美味しかったです」


「ナオ姫様にそう言って頂けてメイド冥利に尽きます」


 真面目だな〜


「そういえばその召喚をしたと言う方ですが大福の上司と聞きましたが?」


 黙々とすき焼きを食べていた大福猫がビクッとした。


「はい、代々この神殿の召喚は精霊神様直属の召喚アニマル隊の長が行っております」


 精霊神様かセっちゃんの話だと昔ここに居たみたいだし一度会ってみたいな。


「今代の方はホーリーバニーなんですね?」


 サリーが目を輝かせて聞く。


「ええ、このイヴァーリースの世界では伝説の精霊とされるホーリーバニーですね」


 この世界ではファンタジーな生物が普通に居るけどそんな世界でも伝説の精霊とあればぜひ会いたい。


「ふふ、では食事も終わった事ですし会いに行きますか?」


 お母様がにっこりと優しい笑顔で言った。


「はい!」


 返事をしようとしたらサリーが先に元気に返事をした。


「久しぶりに鷲も行くかの」


「お爺様、また変な物を召喚しようとしないで下さいね」


 どんなのを召喚したんだろう…


「変なのとは何じゃ、貴重な物じゃぞ」


「はいはい、行きますよ〜」


 イヴァ姉様はお爺様を無視し移動を促した。


「イヴァや鷲に冷たくないかい?直子もそう思うじゃろ?」


 ええ~、こっちに振られても孫歴1日の私では何とも言えないです…


「えーと、どんな物を召喚されたのか分からないので何とも…」


「行けば分かりますよ、お爺様が召喚した物が置いてありますから」


「ふぉっほ!直子にも鷲のコレクションを見せてやろうぞ」


 お爺様は子供の様な目をしている。


「た、楽しみにしてますね」


 ちょっと不安になってきた。男の人の自慢のコレクションは大体が女性には興味がない物が多い…


 一同は銀の城と同じ様な謎扉を通り召喚部屋と思われる所に入った。

 そこには…

 白を基調としたオフィスの様な部屋だった。

 中央に先鋭的なディスクが設置してあり未来的な椅子みたいのがが三つある。

 机の上には当然の様に中に浮く透明のモニターがあり椅子のような物に二人座って作業をしている。

 二人ともうさぎのような耳が頭からぴょこっと出ていた。

 奥の席は一層広い机になって座っている人の顔は見えないが白い大きなウサ耳がゆらゆら揺れているのが見える。

 この人達がホーリーバニーなのだろうか?


 手前の二人が私達に気がつき席を立って近寄って来る。

 二人とも真っ白いスーツを着ており獣人の女性に見える。

 一人は茶色いの髪と耳で可愛らしい顔立ちで目が丸くきゅるんととしている。もう一人は桃色の髪と耳をしておりキリッとした雰囲気でオフィスレディと言う感じだ。肌は普通の人と同じ肌色だが色白。


「皆様いらっしゃいませ」


 桃色の娘がそう言い。二人でお辞儀をする。

 揺れるウサ耳が可愛い…


 奥に居た白いウサ耳がピクリと動いてデスクから離れこちらに向かって来る。

 奥から出て来た人を見て一瞬息を飲んだ。


 な、何んて綺麗な人だろう⁉︎


 全身すらっとしているが引っ込む所は引っ込んで出るところはドーンと出ている。

 髪が多く腰まで長い。そして白い、髪も肌も透き通る様な白さだ。

 目は大きいがまつ毛が長くピンクの厚い唇で妙に艶っぽい顔立ちをしている。服装がかなり露出が多くレオタードみたいな物を着ており上からへそ下まで大きくV字に開き肌が露出して手には薄手のロンググローブ、足元太腿中央くらいまでのきゅっと締まったロングブーツを履いている。ピンヒールがすごい高さだ。

 その衣装は青いまでに白で金の古代模様みたいな模様が施されており神々しい。


 何より背が高い!

 神龍のお爺様もかなり大きいけどそれよりも高くさらにウサ耳が上にピンと立っているので余計に高く見える。


 一目で伝説のホーリーバニーと解った!


「エドル様、そして皆様。ようこそおいで下さいました。召喚長のビアンカでございます」


 神々しい姿でゆっくりとお辞儀をしている。


「久しぶりじゃの!ビアンカ」


「本当ですよ、エドル様。貴方様専属の召喚士ですのに最近はちっとも来て下さらないのでやる事がありませんでしたよ」


「ビアンカ様、お暇なら私達をお助け頂いても良いのですよ?」


 桃兎の娘がここぞとばかりに要求する。


「お黙り!私は私で忙しいのよ!それとも何かい?後ろに立って気合いを入れてあげようかね?」


 んん? 神々しい見た目と違い性格は結構きつそうね。


「ビアンカ様に気合いを入れられたら仕事どころじゃなくなっちゃいますよ!」


 茶兎の娘が必死に訴える。


「あら、申し訳ございませんね。この二人はアシスタントのウー子とサー子です」


「ちょ、あだ名で紹介しないで下さいよ」


「ウリンダと申します」


 桃兎の娘が挨拶をする。

 続いて茶兎の娘も名乗った。


「私はサバリナと申します」


「「よろしくお願い申し上げます」」


 二人揃綺麗に揃っていて可愛い。


「うー子とサー子で二人揃ってうさ子って、そのまんまなのよね〜」


「あ〜はっは!」


 ビアンカは一人壺に入ったのか近くの机をバンバン叩きながら爆笑している。

 ちょっと変わった人らしい…


「相変わらずですね、ビアンカ?」


 お母様も呆れている。


「ひーっひ」


 笑いが治らないらしい。


「も、申しわ…ふぐ!」


「ごほ!ごほ!」


 何なのこの人?


「ビアンカ、私達に家族が増えたので紹介に来たのですよ〜」


 イヴァ姉様が落ち着かせようと声をかける。


「御家族ですか?」


 今までので笑いや咳き込んでいたのが無かった様に急に真面目な態度になった。

 感情の切り替えが極端だ。


「うむ、新しく孫になった直子じゃ!」


 お爺様、すごい簡単な説明…


「堅譲直子と言います、異世界からこちらの世界に来たのですが縁あって神龍様方と親戚だったらしく新たに家族として向かえて頂きました。よろしくお願い致します」


「あー!貴方が!あの!」


 どうやら私の事を知っている様だけどあの!ってどんな風に伝わっているのだろう。


「失礼しました、エドル様のご家族とあれば私達召喚士の主様となられる方ですね。召喚アニマル隊共々よろしくお願い申し上げます」


 また神々しいモードに入った。さっきのデスクをバンバンして笑い転げていた人と同一人物に見えない。


「それから〜 オラァ!大福!隠れてないで出てこい!」


「ゔゃ!」


 大福猫から今まで聞いたことのない声がした。

 一番後ろで皆の影に隠れていた大福猫はおずおずと前に出て来る。


「ビ、ビアンカ様。お久しぶりにゃ〜」


 すごく怖気付いて借りて来た猫の様になっている。


「何が久しぶりだ!このぬけさくが!」


「ゔゃ!!」


 ビアンカさんは怒鳴り始めた?

 大福の事だから何かやらかしているとは思うけど…


「精霊界との繋がりを簡単に切られやがってそんなに私の所が嫌だったのかい⁈」


「ち、違うにゃよ!」


「何が違うんだい?」


「そ、それは…」


「あ〜ん?はっきりしない子だね!」


 ビアンカが右手を右空間に突き出した。

 するとその先に何か現れた。


「ゔゃーー!そ、それだけは!!」


 大福が現れた物を見て取り乱している。

 あんなに慌てるなんて何だろう?


「お前はもっと素直になるべきだね〜」


 そう言って現れた物を選んでいる。

 良く見ると縄状の物や紐を束ねた様な物が並んでいる。どれも白を基調に金色や宝石がふんだんに使われておりゴージャスにデコレーションされている。

 でも…


 あれって全部鞭じゃないのよ!


「はにゃはにゃ!その多教鞭だけは…」


「ほう、こいつがいいってのかい?」


「ち、違うにゃよ!!」


 ビアンカは幾つもの鞭が束ねられている多数鞭を手に取った。無数の鞭には宝石のラメが散りばめられているらしくとてもキラキラしている。

 ビアンカはジリジリと大福に近づく。

 その姿は一見するとSの付く女王様の格好だがビアンカ自身の神々しいオーラによって教会で大司教が聖杖を振るうかの如く清らかで尊くさえ感じた。

 ギャップで脳が混乱しそうだ。


「ひ、ひにゃー!」


 あまりの清らかさのオーラで見入ってしまったがこのままでは大福が鞭に打たれてしまう。


「ちょ、待って…」


 そう言いかけた時、お爺様がスッと前に来て止めた。


「大丈夫じゃ見ておるが良い」


 神龍であるお爺様が大丈夫と言うのだから大事にはならないと思うけど…

 あれで打たれたら痛そうだ。


 スパパーン!!


 あ、打たれた。


「はにゃー!」


 大福猫の悲鳴が部屋に広がった。

 それと同時に大福猫の体が神々しく光り出した。


「あ、あれは?」


「ビアンカは聖属性精霊じゃ、あやつが手にする物は神聖属性が付与されてまさに神の奇跡のごとき力が宿る」


 おお、さすがホーリーバニー!

 でもなぜ鞭なのか…


「ビアンカはさまざまな神の奇跡を発現できる様じゃな。儂も全部は知らんが回復はもちろん状態異常無効やその者のカルマまで浄化できると聞く。死者さえ生き返らせるらしいぞ」


「そんなすごい方がお爺様の専属召喚士なのですね」


「ふぉっふぉ!伊達に長くは生きてはおらんでな。ビアンカの主神、精霊神も鷲の孫の様なもんじゃ」


「はうー!」


 悲鳴と共に大福猫から出ていた光が落ち着いて来た。

 すると大福猫の様子が明らかに変わっていた。


「ビアンカ様、お久しゅうございます。この大福猫、ビアンカ様はもちろん精霊神様への忠義も全く持って変わっておりません」


 あれ?喋り方とか雰囲気も大福猫じゃないみたいになってる。


「な、なんか大福の様子が全然違うのですが?」


「うむ、あれぞ清浄の鞭!ホーリーウィップじゃ!」


 何それ!!


「あの多数鞭は打たれた者の邪気や業を浄化すると聞くのう、打たれた者は聖者の如く今までので己を悔い改め何事も隠す事なく本来の自分をさらけ出し懺悔をするらしい」


「ま、まるで自白剤の様ですね…」


 横で聞いていたサリーが顔を青くして言った。

 確かに何でも隠し事無く懺悔って自白剤と変わらない…

 恐ろしい鞭だ。


「本来の自分という事はあの話し方が本来の大福!猫語でも無くまるで騎士の様な立ち振る舞い…」


 本来は騎士なのだろうか…


「大福、本来精霊界との繋がりは例え切れてもお互いが望めば必ず復活する。しかしお前はそれを拒否しているな?」


「ビアンカ様のおっしゃる通りでございます」


「精霊神様に忠義を尽くすお前が何故拒否したのかを懺悔せよ」


「ははー!私は以前この街を作った謙譲大樹と専属契約しておりました。その際にその者に大きな恩義を受けたのです」


「ほう…」


「この恩を返せぬままその者は天に昇りました。そしてこの度その親族である直子様が私の前に現れその絶大な力により精霊界との繋がりを除されました。それは決して直子様の欲などでは無く私の心残りを察し諦めていた恩を返す機会をお与えになったのです!」


 いや… そんな大層な理由じゃないんだけど…


「かくして精霊界からの支援が無くなった私に膨大な魔力まで頂きこの方に尽くす事を誓ったのです」


「ほんとめんどくせぇ奴だなお前、私が鞭を使わなきゃ本心も語らねえし…まあ、精霊騎士だった時に比べれば丸くなってきたが…丸くなりすぎかもな…」


 ビアンカはしげしげとまんまるとした大福を見つめる。


「しかし、言葉にしないと分からない事あると知れ。いいだろうお前の意思は受け取った!」


「ははー!ありがたき幸せにゃー」


 あ、元に戻って来た。


「大福、これを渡しておく。精霊神様と私からだ」


 ビアンカは大福の首に鈴の様な物が付いた首輪を付けた。


「こ、これは?」


「それがあれば精霊界との繋がりは保たれる、何かあれば連絡して来い」


「あ、ありがとうございますにゃ〜こんな我にここまでしてもらえるなんてにゃ〜」


 なんかとんでもない人と思ったけどちゃんと大福の事を考えてくれてたのね。


「ふん、お前をモフれなくなると精霊神様も悲しまれるからな」


 そいうとビアンカは大福をモフり始めた。


「にゃ!ビアンカ様!こんなところで!」


 何が始まるんだ⁉︎


「はにゃ〜そこはダメにゃー!」


「はう!サ、サリーまで二人がかりはダメにゃ〜」


 え?サリーいつのまに…


 いつのまにかサリーもビアンカと一緒に大福をモフりまくっている。


「よし、今日はこれくらいにしてやろう」


 ビアンカはモフりに満足したのかすごいスッキリした顔をしていた。サリーも同じく満足した顔をしている。

 私も混ざればよかったか。


「はぁはぁ、ひどいのにゃ…」


 大福はモフり尽くされぐったりしている。

 しかし、大福が私にそんな気持ちを抱いていたとは全く思ってなかった。

 先代の恩を私に返すなんてね…

 確かに実際に聞かないと分からなかったわ。


 ビアンカがこちらを見てウインクをした。

 全て見透かされている様だ。


「皆様、お騒がせしました」


 ビアンカが神モードに戻り神々しく挨拶をする。


「うむ、久しぶりにホーリースウィップを見れたぞ!ふぁっはっは!」


 お爺様は嬉しそうだ。


「そうだ、ビアンカよこの直子もここで召喚ができる様にしてくれるかの?」


「エドル様のご家族になられた直子様ですから、もちろんでございます」


 ここでも召喚できるのね。ありがたい…けどあんまりここには来ない気もするけど…


「直子様、不器用なデブ猫ですが必ずお役に立ちますのでよろしくお願い致しますね」


 ビアンカは神モードでも変態モードでもない可愛らしい顔でにっこり笑い深くお辞儀をした。


「はい、こちらこそよろしくお願い致しますね」


 大福を見ると離れた所で頭を下げていた。


「直子やここでの召喚はいつでも自由にして良いからの、好きなのを呼びなさい」


 孫におもちゃを買って上げるお爺ちゃんみたいだ。

 お母様とイヴァ姉様もやれやれと諦めている。


「ありがとうございます、お爺様。そういえばお爺様のコレクションはどの様な物なんですか?」


「おお!そうじゃったな」


 イヴァ姉様が首を振っていた。

 どうやら聞いてはいけない事だったらしい。


「よし、直子こっちじゃ!早よ来い」


「は、はい」


「ビアンカ様、ウリンダ様、サバリナ様またお会いしましょう」


 三人はお爺様に連れて行かれる直子を心配そうに見送った。


◆   ◇   ◇   ◇   ◆


 私はイヴァーリース・スサノウ。

 その昔、異世界より来たお父様(謙譲大樹)と神龍の娘を親とするドラゴンハーフです。


 ハーフだからなのか人化すると子供の姿にしかなれないみたいです。

 おかげでセドリックや他の人達には子供扱いされる事が多くてちょっと悔しい事もあります。

 でもそのうちお母様みたいにボンキュッボン!な素敵なレディになれるのです。


 ナオちゃんという妹もできて私もお姉さんなのです〜


「イヴァ様、鏡の前でクネクネしてないで早く寝ないと明日起きれませんよ!」


 ナオちゃんの女王戴冠について打合せに来ていたアリーが後片付けをしながら言った。


「そういえアリーはそろそろいい人はいないのですか?」


「な、何ですか突然。毎日この国の為に忙しくしているのですから居ませんよそんな人」


 そうね…アリーもミオセもセドリック…は置いといて皆んな毎日忙しそうですからね。


「そろそろお相手を見つけないと貰い手がなくなりますよ」


「いいんですよ貰ってもらわなくてもどっちにしてもそうなったらここに来てもらうのですから」


「という事はお婿さんですか?」


「そうですよ、私はここを出ていく気は全くありませんから」


 もう、この子ったら私達にべったりでは良い出会いもないでしょうに…


「ああそうだ、ナオちゃんの隣国訪問に着いて行けばいいのですよ。きっと良い出会いがありますよ?」


「私としてはぜひ行きたいのですけど、メイド長が一緒でしょ?」


「ええ、ナオちゃんのお世話と護衛を兼ねて行ってもらいます」


「ここだけの話しですがメイド長はその手の話しが大好きなんですよ」


「へ〜あのメイド長がですか?」


「はい、何でもそういう噂のある知り合いは徹底的に調査され相手に気に入られるように特訓までしてしまうとか」


「いいじゃないですか、恋までお世話してくれるなんて」


「でもその特訓に誰もついていけず実った恋は無かったとか…」


「ダメじゃないですか!何ですかそれ」


「多分ですけどメイド長はお世話するのは良いのですが自身はそういう事の経験がないのではないかと…」


 なるほど、メイド長も仕事の鬼ですからね十分にあり得ますね。


「それじゃ、メイド長に先にそういう人を見つけてあげなきゃですね」


 コンコン!


「こんな時間になんでしょうか私が出ますね」


 アリーはそう言うと音がした扉を開けた。

 扉の向こうには白黒猫メイドが立っていた。


「あら、あなた達。イヴァ様にご用ですか?」


 二人でスッと手紙をアリーに差し出した。


「私に?」


 二人でコクコクとうなずいている。


「明日でも良かったのではないですか?」


 そう言おうとしたらそそくさと二人は去って行った。


 もう、なんなの?


「なんでしたの?」


 イヴァが気になったのか部屋から出てきた。


「いえ、あの子達がこれを私に」


「あら、これ私の名前も書いてありますよ?」


「え、あ、ほんとだ」


「それじゃ二人で見ましょう」


 部屋に戻り手紙を開けてみた。



 イヴァ様、アリー様、わたくしの事は良いですからご自身の事をご心配されて下さいませ!


                             メイド長 ソニン


「こ、これって・・・」


 二人で慌てて部屋を見渡して誰かいないか確かめたが誰も居なかった。


「いったいどこから・・・」


 二人して背中がヒンヤリとした夜だった。



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