episode28 家 族

「それではお爺様の所に参りましょう」


 純銀の龍、イヴァーリースは皆を案内した。


「あのぅ、私もご一緒しても大丈夫なんでしょうか?」


 王国第三王女、サリーシャが遠慮がちになっている。


「もちろんですよ、サリーさんをお爺様に紹介する事も目的の一つですから」


 今まで他の国との国交はほとんどなかった神の都がこれからは積極的に周りの国と関わっていこうとしている。他国の王女であるサリーは関わりを間に入り後押ししてくれると思ってるのね。


「私なんかがお役に立てるのでしょうか?」


 王国の内情はわからないけど他国から見れば王女が神龍に会うというのは人間の国からすれば一大ニュースでしょ。


「王女ってのはあれだろう、王様の娘って事だ。うちの大将と同じ立場なんだから楽勝だろ!ガッハッハ」


「ま〜セドリック、まるで私がのほほんとしているような言い方ですね〜」


 イヴァさんが幼い顔でほっぺをプクッとさせて怒った。


「すまんすまん後で飴やるからよ」


 飴ちゃんかい!


「絶対ですよ〜」


 あ、機嫌直った…

 サリーも笑っている。緊張が取れた様ね。

 セっちゃんやるじゃない。


 一同は城の謎扉を通りまた知らない部屋に来た。

 今まで見た部屋の中では一番狭く窓も飾りも無く真っ白な部屋だ。


 イヴァさん…イヴァ姉様が中央に立ち奥の壁にてをかざした。


 ガコンッ!


 重い音と共に奥の壁が中央から外側に開いて行く。

 その先は眩しくも優しい光で溢れていた。


「さあ、参りましょう」


 イヴァさんを先頭に光の中に入っていった。

 一瞬真っ白になり直ぐに広い空間に出た。

 そこはイヴァさんが居た白銀の城が可愛く思える程の広さで大きな青白い柱が無数に聳え立って高い天井を支えていた。


「冷たい…」


 冷んやりとした空気と気のせいか息もし難い。

 周りを見ると壁も無く吹き抜けになっておりここからは青い空しか見えなかった。


「ここが霊峰シャインムルドにある神殿です」


 城から遠くに見えていた霊山まで転移して来たらしい。


「ここへはあの部屋からのみ来る事ができます。そしてお爺様、お母様、そして私の三人に認められた者だけが通る事が出来るのです」


 この神殿と呼ばれる場所が協力な結界に包まれているのが感じられた。

 街の結界よりもかなり強力そうだ。ここをそこまでして守る理由は何のためにだろう?


「そこまでここを守る理由があるのですか?」


 イヴァ姉様は少し不安な顔をして答える。


「実はこの霊山と呼ばれる山は活火山なのです。今でもお爺様が火山の活動を制御しているのですがもしそれが出来なくなると大噴火を起こし世界はその噴煙で長い氷河期になるでしょう」


 確かにこんな大きな火山が噴火を起こせば大惨事よね。


「ですのでここを守っているお爺様に問題が起きないように守っているのです」


 イヴァ姉様は話しながらだだっ広いフロアを進みながら色々と話してくれた。


「でも簡単に来れないとなると食べ物とか日用品などはどうしてるの?」


 定期的に買い出しにでも行くのかしら。


「それは大福の方がよく知ってると思いますよ〜」


 え、何で大福猫が…

 そういえばここに来てから大福猫は借りて来た猫の様に静かだ。


「にゃ!我かにゃ?」


「説明してあげて下さい〜」


「しょ、しょうがないのにゃ。あれにゃ、城にあった召喚の祭壇がここにもあるにゃよ」


 ああ、なるほど色々召喚してるのか。

 それにしても大福猫は緊張している様に見える。

 イヴァ姉様のお爺様が怖いのだろうか?


「あんたなんか緊張してない?」


「そ、そんな事はないにゃ!我は通常運転なのにゃ」


 通常運転って何よ?やはりちょっと様子がおかしい。


「ガッハッハ!そりゃーここにはこいつの上司がいるからな。柄にも無く緊張してんだよ」


「上司って召喚アニマル隊の人?」


「そ、そうにゃ!アニマル隊の隊長、ホーリーバニーのファニー様にゃ」


 ホーリーバニー?バニーというから兎よね。

 なんか可愛いイメージ。


「ホーリーバニー!あの神の使徒と呼ばれる幻の兎ですか⁈」


 お、サリーが何か知ってるらしい。


「ホーリーバニーって有名なの?」


「有名も何もこの世界では伝説の生き物ですよ!その姿を見た木こりが大司祭になったとか瀕死だった者がホーリーバニーを触るだけで傷が回復し長年悩んでいた水虫まで完全回復したとか!」


 こっちにも水虫はあるのね…


(ハクちゃんは何か知ってる?)


(私の情報はこの様な感じです)


【ホーリーバニー】

  神の使徒と呼ばれる伝説上の生き物

  その姿は白い兎や可憐な乙女などと

  言われている。

  あらゆる傷、病を一瞬で治し

  アンデットなども浄化する聖属性生物

  時を長く生きた兎が神の啓示を受け

  精霊に変化した生物。


「ホーリーバニーも精霊なのね」


「そうにゃ、召喚アニマル隊は全員精霊にゃよ。そしてそれを管理する隊長がファニー様にゃ!」


 聖属性生物って清楚な大人しいイメージだけど何で大福猫がここまで緊張するのかしら…


「そのファニー様は怖い人なの?」


「にゃ⁈ なんて事を言うのにゃ!ファニー様はすごい方なのにゃ」


 怖いかを聞いたのにすごい方だなんてかなり混乱してるね大福猫。


「それでそのファニー様がここの召喚を担当してるのよね?」


「そうにゃ、ここの専属召喚担当にゃよ。まさかこっちの世界でファニー様に会う事になるとは…」


 大福猫はそのまま静かになってしまった。


「召喚で大体の物は揃いますからね」


 確かにシャンプーも出してもらったしね。

 それにしてもそのファニー様にも会ってみたい。

 サリーも目をキラキラさせて私を見ている。


「ぜひファニー様にもお会いしたいですね」


「にゃんと⁉︎」


 大福猫はよっぽど会いたくない様だ。


「いいですよ、お爺様に会ったら召喚の間に行ってみましょう〜」


「ふふ、楽しみ」


「ですね〜伝説の兎に会えるんですよ!」


 サリー、レア度からいったら神龍の方が遥かにレアなのよ?あれねモフりたいのね…


「さあ、もう直ぐお爺様の所に着きますよ〜」


 いつの間にかフロアの奥まで来ていた。

 しかし目の前は何も無く吹き抜けで外が見えている。かなり下に街が一望できた。本当にこの山は高いだと改めて感じる。


 イヴァ姉様が何も無い空間に手をかざす。


「お爺様、お母様、参りました」


 …


「合言葉を…」


 重厚な声が聞こえた。先ほど聞こえた声と同じだからイヴァ姉様のお爺様だろう。

 ええ!これだけ強力な結界を展開しておいて最後は合言葉なの?


 ふう…


 イヴァ姉様がため息を吐いた。


「もう!合言葉なんてないでしょう!馬鹿な事言ってないで早く開けて下さい!」


 合言葉ないのかい!


 ブウンッ!


 空気が震えると目の前の空間に白く光る魔法陣が現れた。


「まったく、さあ行きましょう」


 イヴァ姉様はそういうと魔法陣の中に入って行った。私達もそれに続いて魔法陣の中に入った。

 しばらく真っ白になったが徐々に見えてきた。


 先程のフロアと同じくらいの広さだろうか。奥の方に何かが見える。

 イヴァ姉様を先頭に煽るそれに向かって進む。


「ポーン!」


 な、何?


「無限結界第3層承認、イヴァ様いらっしゃませ」


 また結界?厳重過ぎるでしょ?


「ポポーン!」


「無限結界第2層承認、イヴァ様おかえりさないませ」


 このまま行くともう一層あるのか…


 ん?


 何か前の方にヤモリみたいに結界らしきものにべったりくっついてる黄色いのが見える。

 結界の内側だし… 何だろう?


「もう… お爺様!大人しく待ってられないのですか⁉︎」


 あれが神龍? あ、消えた⁉︎


「ピンポーン!」


 玄関のチャイムそのままの音がした。


「無限結界最終層です。承認しますか?」


 イヴァ姉様が結界に手の平を置いた。


「イヴァーリース様と確認しました。通過可能です」


 やっと結界を全部通過出来るらしい。異常なまでに厳重だ。


 最後の結界を通り奥に進む、奥に金色に光る龍が鎮座しているのが見える。そんなに大きくはなさそうだ。


 それから歩く事5分…


 遠いわよ!どんだけ広いのよここ。


 金色の龍はその間も段々と大きさを増していき今では見上げても全体が見えない…


 なんかこれと同じ事が前にもあったわね…

 確かにイヴァ姉様のお爺様様だわ、登場の仕方が同じ!


 金色に光る龍が居る50m位前でイヴァ姉様が止まった。そしてスッと右手を開き軽く膝を折って頭を下げた。


「お爺様、ご機嫌麗しく。イヴァーリース御身の前に」


〔うむ、よく来た。愛しき我が孫よ〕


 広大な部屋全体に響きわたる重々しい声で神龍が答えた。空気がビリビリと振動する程の魔力を感じる。


「はい、そしてこちらが王国のサリーシャ王女です」


 サリーもスッと膝を折り右手を胸に置き挨拶をする。


「王国、第三王女。サリーシャ・ウル・ザールファトミアと申します。この度はお目通り頂きまして王国を代表してお礼を申し上げます」


 さすが王女、圧倒的存在の神龍を前にしても堂々とした態度だ。


〔よくおいでくださった。殺風景な所ではあるがゆっくりされていかれよ〕


「ありがとうございます。伝説である神龍様のお側に寄る事をお許し頂き幸福の極みでございます」


〔して、その者が…〕


「はい、お爺様。こちらがお父様の親族であリ異世界より絶対神スサノウ様より使わされました、堅譲直子。この神の都、次期王女でございます」


 来たー!どうしよう皆んなみたいに挨拶なんてできないよ〜

 一応作法は教えてもらったがどうも上手くできないのよね… だからここは私のありのままを見てもらうしかないわね。


「初めまして堅譲直子と申します。異界からこの世界に来たばかりでこちらの作法を知りません。失礼を承知で私なりのご挨拶をさせて頂ければと思います」


〔何?自分なりの挨拶とな〕


 神龍からの圧力が更に上がった。


 ありゃ?これは怒らせたかな?


〔ほう、これでも涼しい顔をするか…〕


 え?何が?


 隣のサリーシャを見ると汗いっぱいでブルブル震えている。何とか取り乱さない様精一杯の様だ。

 大福猫は倒れて完全に気を失っている。

 イヴァ姉様達は何事も無い様に立っていた。


 私も圧が増した事は分かったが特に気にするほどではなかったけど…

 サリーが今にも倒れそうだ。


(カーシャ、サリーを守ってあげて)


(はいなの!)


 サリーの腕に付いていたカーシャがサリーを覆う形で結界を展開した。


「はぁはぁ、ありがとう。カーシャ」


 どうやら耐えた様だ。大福猫は… まあいっか。

 倒れてピクピクしてるけど。


「いや〜、これを耐えるかよ!ぬあっはっは!」


 黄金の神龍は急に話し方が変わり大きな前足で自分の頭をペシペシ叩いている。


「すまぬな、少し遊びが過ぎたようだ。しかし顔色も変えないとはまさしくあやつの生まれ変わりのようだの」


 あいつとはイヴァ姉様のお父様よね…

 生まれ変わりかはわからないけど認めてはくれたようだ。


「では、神龍様。お手をお貸し下さい」


「お、おい!手ってジジイのデカい手かよ?つぶされっぞ!」


「そんな訳ないでしょ。神龍様、先程の人化をして下さいませ」


 さっき最後の結界にへばり付いていた時は人の姿だった。人化出来るはずよ。


「ふっふ、面白いお嬢さんだ。おふざけはここまでしようかの」


 そう言うと黄金の神龍の体が小さくなっていき段々と人の姿になっていった。

 見かけは痩せマッチョで見事な金髪、金の髭を生やしている初老の男が現れた。

 白生地に金の装飾が施された立派なローブを着ている。


「まったく最初からその姿で会えば良いものを見栄を張りやがって」


「うっさいぞ、セドリック!初めて会うんじゃぞ最初が肝心じゃ!」


 龍の時の威圧感は全く無く気さくなお爺ちゃんに見えた。


「さあ、人化したぞ。どの様にしてくれるのかな?」


 そっと黄金爺様に左手を差し出した。


「お手を…」


「お、おう」


 言われるがまま黄金爺様は右手を直子の手に乗せた。


 その手に右手を上から優しく乗せて大きく年季の入った手を両手で包み込んだ。


「とても大きなそして暖かく優しい…」


 そう感じた。

 包んだ手を少し強く握る。そして神龍様の目を真っ直ぐ見た。

 金色の瞳で瞳孔は龍らしく縦なっているが怖くは無く穏やかな顔をしていた。


「私は元居た世界で生まれ育ちました。そこでは正直幸せではなかったかもしれません…」


 ストーカーや妬み、恨み、そして理不尽に刺された事を思い出した。


 本当に酷い人生だったと思う…

 でも…


「私はこの世界に来て良かったと思っています。とても厳しい世界だけどそれだけに皆んな強く生きてる。自分にも他の人にも厳しく、そして優しく出来る人達…」


 サリーやセっちゃん、イヴァ姉様、大福、皆をゆっくり見た。


「なぜ私がこの世界に来たのかは分かりません。ですが二度目の人生を貰ったと思い私に出来る事で皆んなが幸せになるお手伝いが出来ればと思っています…」


「ほっほ、何とも優しい娘じゃのう、そなたの思いその手の温もり。老輩にも十分に伝わったぞい」


「はい、世界を超えて皆んなが優しく笑えます様に…」


 その時、握った手から白い光と金色の光が溢れ出した。

 光は優しく広がり続ける。


「こ、これは…神聖光か!」


 神龍の驚いている顔も光で見えなくなった。


 ……


 …


「やあ!久しぶり!」


 真っ白い空間の中で聞き覚えのある声がした。


「こっちの世界はどうだい?なかなか凄い事になってるみたいだけど?」


 こいつか…

 相変わらず軽い感じだ…


「まったくね… でも最初から知ってたんでしょう?」


「ふふ、そりゃーこっちの世界に連れて来たのは僕だからね。でも予想以上に上手くやってるみたいじゃない?」


「あなたってスサノウだったのね?」


「… なぜそう思うの?」


「なぜって⁈異世界に転生してその世界でスサノウの眷属達の国に導かれれば分かるわよ。そんな事できるのは神様位のものでしょう?」


「ものって… 一応神様なんだからもう少し尊敬してくれても」


「はい!神様確定ね!」


「あ、しまった…」


「まあ、いずれバレただろうからいいけどね」


「う〜ん…」


「な、何さ?」


「まだ何か隠してるわね」


「へー、鋭いね?まあそれこそ神のみぞ知る。さ」


「せっかくこの世界に来てもらったんだこっちでは幸せになってほしいと思ってるよ」


「随分優しいのね、後が怖そうな予感しかしないけど。今は素直に感謝させてもらうわね」


「いいねぇ、その笑顔… おっと、そろそろ爺さんが気付きそうだね。あれはもうほとんど神になってるからね、こちらの事も感じるらしい」


「それじゃあ、この辺にしとこう。いつでも、一番近くで君の幸せを願っているよ」


「まるでストーカーね?」


 …言ったろ?君のファンだって…


 ……


 チャラくてストーカーなのに何故か身近に感じるわね。この感じ… ごく最近、いえいつもそばで感じる気がする…


「…ちゃん!」


「ナオちゃん⁉︎」


 聞いた事のある呼び方…


「大丈夫ですか?」


 イヴァ姉様、サリー…


「ふぁっふぁ!そんなにおいぼれの手が良いかの?」


 あら、ずっと手を握り締めていたらしい。


「し、失礼しました」


 慌てて手を離した。


「びっくりしましたよ、手から光が溢れてそのまま動かないものだから」


 心配そうな顔をしているイヴァ姉様。


「そうさのう、じゃがお主の気持ちは伝わったぞい、そしてあの方が過分に加護を与えられた事もな」


 あの方ってあいつと会っていた事を知っているようね。でも加護って何だろう。


「何やら分からんと言う顔をしておるのう、ほれ、左手の甲を見てみなさい」


 いつのまにか左手の甲に紋様の様なものが浮かび上がっている。月と太陽、そして龍…それらを模した様な紋様が金色にうっすら刻まれていた。


「それが絶対神、スサノウ様の加護の証じゃよ」


 なんですと⁉︎

 あいつ乙女の肌にこんなものを…


 セっちゃんが私の感情を察知したのか何言ってんのこいつ?みたいな顔をしている。


「その紋様はスサノウ様に加護を受け、またこの国を束ねる者の証」


 そう言うと神龍の額にも同じ紋様が現れた。

 私のよりはっきりとそして強く光を放っている。


「私達にもありますよ」


 そう言う人はずっと神龍の側に居た女性で肌は透き通るまでに白く銀色の煌めく髪、体型は細身でスッキリしており和服の様な着物を着ていた。

 プラチナと言っていい様なキラキラな生地に赤や桃色の知らない花模様があしらわれていた。


 来た時からそうだと思っていたけどこの人がイヴァ姉様のお母様だわきっと。


「申し遅れました、イヴァーリースの母でエリシュファンです」


 うーむ、非の打ち所がないの無い美女!私も自身はあったけどこの人には負ける…

 親子だけあってイヴァ姉様の面影もある。

 イヴァ姉様も大きなるとこうなるのかしら…

 イヴァ姉様をじっと見つめた。


「な、何ですか?ナオちゃん?」


「いえいえ、何でも無いですよ〜」


「あ、失礼しました。堅譲直子と言います。よろしくお願いします」


「直子さんの事は色々聞いていますよ」


 え?色々?どんな事だろう…


「イヴァも嬉しそうでね、これからもよろしくお願いしますね」


「はい、色々とわからない事ばかりですが頑張りますね」


 イヴァ姉様のお母様は綺麗なだけでなく優しそう。


「それで紋様については私やイヴァにもあるのよ」


 お母様には左肩の所にイヴァ姉様は首の右横にあるらしく見せてくれた。

 皆んなの紋様は共鳴するかの様に光っている。


「そう言う事だ、つまりお主は正当なこの国の王族という事じゃな」


 この紋様が決定的な証拠になるのか…

 あのチャラ男はわかってやったな。


「それでのう〜 ぜひ儂の事はおじちゃんと呼んでおくれ」


「まあ、お父様!まだ会ったばかりですよ。直子さんも戸惑ってしまうでしょう」


「いやエリよずっと孫一人だけでそれもなかなか会えないんじゃよ?こうして新たな孫ができたのだ、いいじゃろう〜」


 金色の頭をシュンと項垂れて訴える様な目をしている。お茶目なお爺様ね。


「もう、言い出したら聞かないんだから…」


「直子さん、突然で申し訳ないけどこの人をお爺ちゃんとして認めてもらえないかしら?」


 今更断る理由もない、天涯孤独でこの世界に来たと思っていたのがこんな素敵な家族が居たのだ。


「ええ、もちろんです。お爺様!」


「おお!おお!今日からうちの子じゃ!困ったことがあれば何でも言ってくるんじゃよ。用が無くても遊びに来なさい、イヴァはぜーぜん来てくれないからのう」


 あはは、よっぽど寂しかったのね。


「お爺様!国を守るのも忙しいのですよ」


「お、おおう。そうじゃのう…イヴァは頑張ってるのう…」


「でも確かに御沙汰でしたからね、これからはナオちゃんと沢山来ますよ」


「ああ、そうしておくれ!」


「直子さん私の事はお母さんと呼んでいいですからね!」


 お母様も実は寂しかったらしい。

 何だか照れ臭いけどいいわよね。

 せっかくあいつのお膳立てなんだろうから。


「イヴァ姉様、よろしいですか?」


「もちろんよ、私も嬉しいわ」


「それではお母様、よろしくお願いします」


「まあ!娘が増えていいですわね!」


「そうじゃろうそうじゃろう」


「うう…よゔぁったでずね、なおごさぁん!」


 サリーは号泣して喜んでくれてる。

 綺麗な顔が台無しだ。


「ありがとう、サリーもこれからよろしくね」


「ゔぁい!」


「もうその辺でいいだろう〜そろそろ腹減ってきたぜ」


「そうにゃ、死にかけてお腹ぺこぺこにゃ!」


 いつの間にか復活していた大福猫が丸いお腹をさすりながら空腹アピールしている。


「おう、そうじゃのう。後は昼飯でも食いながらじゃな!」


「そうですね、では用意させますね」


 お母様はどこから出したのか金色の小さなベルを持っている。


 チリンチリン…


 広いフロアに澄んだベルの音が響いた。


「お呼びでしょうか奥様」


 うお!突然後ろから声がした。

 振り向くとそこにはメイド服を着た猫耳の女性が立っていた。

 髪と尻尾の色が灰色だ、その他は普通の人間と代わりがない様に見えた。


 この人が最強のメイド長、灰色のソニンさんだろうか?


「ソニン、こちらは王国第三王女のサリーさん。そして今日から家族になった堅譲直子さんです。」


 こちらを冷静な顔で見ている。

 時折猫耳がピコピコしている。


「メイド長のソニンと申します」


「よろしくお願いします」


「家族になられたという事でどの様にお呼びすれば良いかお選び下さい」


 へ?


「直子姫様、堅譲殿下、ナオ姫様、ナヒ様」


 どれも嫌だ… 最後のは特に。


「ナオちゃんばかり、姫様って呼ぶのね私も姫様って付けてよ」


 イヴァ姉様が抗議を始めた。


「イヴァ様はイヴァ様です」


「もう、頑固なんだから」


 イヴァ姉様はプリプリとほっぺを膨らませた。

 二人は仲が良いのだろう。楽しそうだ。


「どう致しますか?私のお勧めはナヒ様です」


 え〜それはやめて。


「わ、私も直子で大丈夫ですよ」


「いえ、こういう事は最初が肝心ですので。それではナヒ様で」


「ナオ姫でお願いします!」


 ソニンは残念そうな顔をしている。


「そうですか…それではナオ姫様、よろしくお願い致します」


 聞いてた様に頑固そうだ。

 でも嫌な感じもしないし母親のソニンさんに雰囲気が似て好感が持てる。


「サリーナ王女様、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。ようこそおいで下さいました。ごゆっくりされて行ってください」


「あ、ありがとうございます。」


 サリーはスッと前に出て優雅に挨拶をする。


「王国第三王女、サリーナ・ウル・ザールファトミアです。異国の者で無作法などありましたらご容赦くださいね」


 おお!サリーから王族のオーラが!!


「これは私の様な使用人にまでその様な振る舞いをありがとうございます、さすが王女様であられますね」


 ソニンがこちらを見ている。

 な、何かな?


「ナオ姫様はこの国の王族としての礼儀作法をお教え致します」


「おお、それはいいな!ソニンにかかればどこに行っても問題ない、いやそれ以上の作法が身につくじゃろ」


「お爺様!そうすればナオちゃんがここに来ないといけなくなるからと無責任な事は言わないで下さい」


「い、いや儂はじゃな…純粋に直子の為を思ってじゃな… ソニン優しーくするのじゃぞ」


「……」


「こ、これ!何で返事をせんのじゃ⁉︎」


 お母様を見ると心配そうに私を見ていた。

 そんなに厳しいのソニンさん?

 家族ができて浮かれてる場合じゃなかった…


◆   ◇   ◇   ◇   ◆


 俺はセドリック・フォワランスガード、異世界から突然来たあいつと共にこの国を作って来たナイスなチワワだ。


 だがチワワは仮の姿!!!

 本当の俺は!!!


 ゴゴゴッ(効果音)


「あ、セドリック、前回枠を使い過ぎてもう文字数余裕無いみたいですよ?」


「なにぃぃー!そりゃーねえぜ大将!(イヴァの事)」


「知りませんよ、次は私何だから早くしてくださいね」


「お、俺の正体はぁー!」


 フッ


「あ、文字数限界なのにゃ!」


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