episode27 二人の王女

「ど、どうしよう!」


「どうしたんですか?直子さん?」


 ニャー、ニャ⁉︎


 ソニアさんが猫語で念話をしてる。


「あの二人、転送のアイテムを持っている様で逃げられそうです!」


 ソニアも慌てている。


(落ち着いて下さい、主。あの者達は転送を行う事は出来ません)


(そ、そうなの?)


(監視の盾には魔法の行使を阻害する能力があります。強力な転送魔法だとしても転送出来るのは着ている服くらいです)


 監視の盾、なんでもありね…


 監視している二人のイメージが再び見えた。


… よし、転送アイテムを使うぞ …


 小柄な方の男が懐から像を取り出して叫んだ。


… 転送! …


 次の瞬間二人の体が光る。


… … …


… 行けたか? …


 二人は周りを見回している。

 しかし周りの景色に変化はなかった。


… おい、転送されてないぞ⁉︎ …


… ん?お前何で裸なんだ? …


 背の高い男が小柄な男を見て驚いている。


… いや、お前だって外套しかねえじゃねえか⁉︎ …


 どうやらハクちゃんが言ったように強力な転送アイテムだったらしい。二人の服だけが転送されたようだ。しかし例の獣の気配を出す外套は転送されなかったようだ。


「男達がアイテムで転送魔法を使ったみたいですが転送されなかったようですね。慌てました、まさかこの街で転送魔法を使うなんて、しかし失敗したようですね。何やら連絡くれた子がきのこがどうのとか言ってますが問題ないみたいです」


 きのこ?何できのこの話に…

 はっ!

 まさかきのこって…


 直子の顔が赤くなる。


「直子さん顔赤いですよ?大丈夫ですか?」


 サリーが心配そうに見ている。


「だ、大丈夫よ!」


 裏返った声が出た。


「そ、それより男達の所に行きましょう。ここからそう遠くないみたい」


 一同は直子とソニアの案内で男達がいる所に向かった。

 現場に行くと男達が裸に外套のみ着て騒いでいる。


「こいつらがどうなってもいいのか!近寄るんじゃねえ!」


 攫って行こうとしたソニアさんの一族であろう獣人を盾にしている裸の男達。

 それを取り押さえようと構えるソニアさんの一族を男達が牽制しているのが見えた。


「姉さん、例のアレをあいつらだけに放ってやってくれ」


「あれって覇気の事?あれってまだそんなにコントロール出来ないからセっちゃんにも行くかもよ?」


 チワワの耳と尻尾が垂れた。


「そなのかよ、それはきついな…」


「大丈夫よ監視の盾があるから」


 騒いでいる男達を見ると確かに裸だった。

 外套は丈が腰までしか無く何とも情けない姿をしている。

 そしてそこにきのこが二つあった…


「もう!そんなもんブラブラさせて騒いでんじゃないわよ!」


「監視の盾、あの二人を捕縛!」


 次の瞬間に二人の男の首に付いていた監視の盾が白く光った。

 そして二人は突然棒立ちになり動かなくなった。

 いや、動けないのだ。


「おお、さすがだな姉さん!おめえら今だ、取り押さえろ!」


 セっちゃんの声に呆然と見ていたソニアさんの一族は一斉に棒立ちになっている男に駆け寄り縄で縛った。捉えられていた猫獣人も無事に保護した。

獣人二人も転送の影響で服を着ていない。


「堅譲様、ありがとうございました」


 ソニアさんがお礼の言葉と共に頭を下げた。

 周りに居たソニアさんの一族だろう数十名も膝を折り、祈る様な姿勢で頭を下げている。


「え、いや!捕まえただけだから大丈夫です!」


 何が大丈夫なのか自分で言っていて分からなくなった。


「いえ、堅譲様が居なければ被害を受けていた事でしょう。我々一同お礼を申し上げますわ」


 ソニアさんの真っ白で艶やかな体が夕焼けの光に照らされて幻想的にキラキラしていた。

 

 転送を防げないかと焦ったけど上手く行ってよかった…


「よっしゃ!そんじゃ城に戻るか!」


 考えてみればセっちゃんは今回何もしてない様な…


 目の前のチワワはガハハと笑いながらソニアと話している。


 全く残念なチワワなんだから。

 でも皆んなには慕われているのね…


「直子さんぼんやりしてどうしたんですか?」


「ん?なんでもなーい」


「戻ろっか?」


「はい、またこの街に来たいですね!」


 ニコッと綺麗な顔でサリーが笑いかける。


「それでにゃ、我がおかみさんを紹介したわけにゃよ〜」


 大福猫がソニアさんの一族に何やら自慢している。


「おお〜今回の事件解決は大福様のご指導だったんですか⁉︎さすがですな!」


 ある事ない事をふんぞりかえって言いふらしている。


「大福!馬鹿な事を言ってないで帰るわよ!」


「わ、わかったにゃ〜」


 ソニアさんがトコトコと近くに寄って来る。


「直子様は神殿に行かれるのですか?」


 神殿ってどこだろう?

 セっちゃんを見るつめる。


「んぁ?神殿つったらジジイのいる所だよ。ちょうどいい明日行ってみるか?」


 お爺ちゃん龍に会えるのか。


「そうね、イヴァさんのお爺ちゃんに会ってみたいわね」


「ああ、ジジイも会いたがってるみたいだからな」


「それで、もし娘に会いましたら直子様からもこの国を守るよう伝えて頂けますか?」


 私が言うのも違うと思うけど…


「わかりました、お願いしてみますね」


「いえいえ、はっきりと命令して頂ければ良いですので」


 私が?命令出来る立場じゃないんだけど。ソニアさん何か勘違いしているようね。


「私はソニンさんに命令出来る立場ではないですよ?」


 何故かセっちゃんが慌てて口を出す。


「ま、まあ俺からも良く言っとくからよ。任せてくれ!」


 ソニアは慌てるチワワを見て察した様な顔をした。


「わかりました、直子様ぜひまた街に来て下さいね。一族一同お待ちしています」


 なんか分からない会話だったけど、この街にはまた来たいわね。


「はい、ソニアさんも皆さんお元気で。何かあったらこのハクちゃんに連絡して下さいね」


 左腕に付いている【崇高の白盾】を見せる。

 ハクちゃんは腕から離れ本来の盾の姿に戻りソニアの前で宙に浮いた。


「ソニア殿よろしくお願いします。私が主を守護する【崇高の白盾】です」


 今まで落ち着いていたソニアが口をあんぐり開けて目をまんまるとしている。


「主、これをソニア殿に」


 ハクちゃんはそう言うと鎖の付いたペンダントみたいな小さな盾を出現させた。

 プラチナよりももっと白く輝く綺麗なペンダントだった。ペンダントトップの小さな盾も同じ様にキラキラと輝いている。意匠はハクちゃんに似ておりハクちゃんのミニチュアの様だった。


「ソニアさんこれをどうぞ」


 ソニアの首に白く輝くペンダントを掛けた。

 長かった鎖がソニアの首に合わせて小さくなって丁度良い感じになった。


「まあ!こんな素敵な物を頂いてよろしいのでしょうか?」


 ハクちゃんの出現に驚いていたソニアさんはペンダントを見ると正気に戻って喜んでいる様だった。


「なるほどあの男達が動かなくなったのは盾様のお力だったのですね」


「それを身に付けていればいつでも主と連絡が出来ます」


「こんなに素敵なのに通信まで…」


 多分だけどある程度ソニアさんを守る機能も付いている筈だ。


(その通りです主、鎧化はありませんがサリーの時と同様に外部攻撃を一時的に守護します)


 さすがハクちゃん抜かりないね。


「まだ帝国の動きが分かりませんので何かあれば連絡くださいね」


「わかりました!何かあればお伝えしますね」


 少し興奮気味で答えるソニアさん。

 周りで見ていた一族もペンダントを付けたソニアさんを羨ましくザワザワしている。


「そんじゃそろそろ行こうぜ、腹減った」

 

 さっき鍋食べたじゃない、あいかわらずセっちゃんはマイペースだ。


「ソニアさん、皆さんそれではまたお会いしましょう」


 サリーが見事に貴族風の挨拶を決めている。

 慌てて私も真似をしたがサリーの様にはいかなかった。

 今度作法を教えてもらおう。


 一同は城へ向かった。

 城での夕食時、街であった事をイヴァさん達に話した。


「そうですか、帝国が密偵を…」


 幼い容姿に変化した白銀の龍、イヴァさんは何やら考えて込んでいる。


「直子さんには明日お祖父様にお会いして頂きましょう」


 例のごとく食べ物と格闘しているセっちゃんも賛同した。今日はスペアリブみたいな骨つき肉と格闘している。


「おう、俺もそう言ってたんだよ早くジジイに会った方がいいだろう!例の事もあるしな」


 イヴァさんを見ると余計な事は言うなと渋い顔をセっちゃんに向けていた。


 何かあるのだろうか?


「そう言えばソニアと会ったんですね?」


 イヴァさんまでソニアさんを知ってるんだすごいなソニアさん。


「ええ、素敵なお猫でした」


「ふふ、あの子をセドリックが連れて来た時はびっくりしましたよ。食べるんじゃないかって」


「むぐ!食うかよ!」


 まだ骨つき肉をむぐむぐしている。


「「お婆達にお会いしたのでですか?」」


 側に立って居た白黒の猫獣人  が聞いて来た。


「あなた達の活躍を凄く喜んでましたよ」


「本当に素敵なお婆さまと親族ですね!」


 サリーも同意する。


「イヴァさんの所にもソニンさんと言う娘さんが居るのですね?」


「ソニンの事も聞いたのですね、明日会えますよ」


「この国で一番強い方と聞きました」


 イヴァさんが料理を捌くフォークとナイフの手をピタっと止めた。


「ええ、確かにあの子は強いですね…ですが頑固でしてね〜 もちろんそのおかげで城がいつも綺麗でなんですけど…」


 イヴァさんまで… そんなにソニアさんと言う人は頑固なのだろうか。


「頑固ではありますがこの国を思う心も誰よりも強いですから頼りになりますよ」


「「灰姉様はすごいのです」」


 白黒姉妹はソニンを尊敬しているのね。


「それでですね~直子さん。あなたにはこの国の女王になってもらいます~」


 へー私がこの国の女王ね…


 ブバーッ!


 飲みかけのオレンジジュースを思いっきり目の前のセっちゃんに吹きかけた。


 ゴホッゴッホッ


「おいおい、きたねえな~」


 せっちゃんの顔がジュースでびっしょりだった。


「だ、大丈夫ですか?女王がそんな盛大に吹き出してはいけませんよ」


 白猫が私を黒猫がせっちゃんをサッと吹いて処理してくれた。


「ゴホッ、あ、ありがとう…」


 ようやく喋れる様になった。


「私が女王?なんで突然そうなるのですか⁉︎」


 私は普通の人間だ、しかも異世界からやって来た余所者。それを女王になんてなれる訳がない。


「直子さん、あなただからこそなのです」


 いつもホワホワとしたイヴァさんが真剣な顔をしている。冗談で言っているわけではないみたい。


「この国は私のお父様とセドリックがつくりました、しかし初代国王のお父様が居なくなってから随分経ちます」


「お父様は人の身でありながら神龍であるお祖父様に認められこの神の都と呼ばれる国を守って来ました、もちろんここにいるセドリックも一緒に…」


 イヴァさんは遠い目をして天井を見上げる。


「私はその二人を見て育ちました。二人が頑張って国民の為に努力いる姿はとても美しく安心する気持ちになりました…」


「よく俺らの後を着いて来てたよな!」


 せっちゃんが懐かしそうにガハハと笑う。


「その思いはこの国に住む者も同じです。人間でありましたがその偉大さに皆んな憧れを持っていました。なので国民は人間に対して悪い感情は持っていません、むしろ親身さを持っているくらいです」


「で、ですが突然来た私なんかが女王なんて」


 イヴァさんはほっこり穏やか笑みを浮かべて私を見る。


「直子さんはお父様と同じ世界の人であり正統なお父様の血を継承しています。戦ったアリーも感じた事でしょう?」


「ええ、その通りです。間違いなく大樹様の血筋!」


 静かに食事を一緒にいしていたアリーさんが自身あり気に話している。

 そして今初めてイヴァさんのお父さん、私の叔父さん?の名前を聞いた。

 堅譲大樹だった。


「そうだよな、こんな怖い人間はいねえな」


「怖いって…」


 セっちゃんがサッと視線を逸らした。


「女王…」


 サリーは突然の状況に唖然としている。


「神龍であるお祖父様は本来寿命はありません。ですが後継である者が誕生し新たな神龍になる時その存在は神界へ行きます」


 その言い方だとイヴァさんのお爺ちゃんも神界に行く時が近いのだろう。


「そして時期神龍はお母様なのです…」


「ああ、それでお母様はお祖父様の所にいるのですね」


 時期神龍になる為の準備をしているのね。


「はい、お祖父様の元でお祖父様から神力を受け継いでいます」


「神力?」


「神龍となるための力ですね」


 全然わからないけどそう言うものと思っておこう。

 セっちゃんがこちらを呆れた顔で見ている。


「神力については理解するのは難しいですね、神の力として理解するしかないです」


「イヴァさんも分からないんですか?」


「はい、私はまだ神力を授かっていませんので具体的はわからないですね。過去にこの山が大噴火した時にお祖父様が神力で収めたと聞いています」


 あれだけ高い山の大噴火を収めるとはまさに神の力。


「それでお母様が神龍になれば私はお母様の元に行きたいと思います」


「という事はイヴァさんがその次の神龍になるのですか?」


「それはわかりませんね。ただ、母を山に一人にしたくありませんから…」


 うーん、そこに私が来たのか。


「直子さんがこうしてこの時にここに居るというのは偶然でもあり得ません。やはり運命なのでしょう」


 女王になる運命… 以前の私からは全く思い浮かばない状況だわ。

 でも…向こうでは既に死んでいるだろうし。

 こっちの世界は大変そうだけど皆んないい人達だしね。それにこの世界で行く所なんてない。


「直子さんが女王に…なったら私は…」


 サリーは何やら悩んでいる様だ。

 この子も一緒に来たけど王国に貴族みたいだからね。ここに一緒に居るわけには行かないでしょうね。


「サリーさんには人間の代表としてこの国との架け橋をお願いしたいのですが?」


「ええ、私がですか⁈」


「はい、この場で直子さんを除いて純粋な人間はサリーさんだけですし王国での立場的にも適任だと思いますよ」


 サリーがいつにない真剣な顔になった。


「ご存知だったんですね?」


「はい、王国第三王女、サリーシャ・ウル・ザールファトミア様」


 はい?

 王女?


「サリー!お姫様だったの⁉︎ いえ、だったのですか?」


 サリーが直子の手をガッと掴んで言った。


「直子さん、私は今まで一緒に居たサリーです!それ以上でも以下でもありません。だから今までと同じ態度で接してもらえませんか?」


 サリーの目が潤んでいた。

 高貴な所の娘さんと思っていたけどまさか王女様なんて…

 でも今まで一緒に居たサリーは信用できるし信用したいわね。


「わかったわよ、元々王女様とかそんな人に会う機会なんてほとんど無い所から来てるからね。こっちの方がいいわ」


「ありがとう直子さん」


「あら〜私も一応王族なのですがね〜私もサリーさんと同様にお願いしますよ、それに家族でもあるのだし」


 イヴァさんがニヤニヤしている。

 言われてみればイヴァさんは私の叔母さん?


「ではよろしくね、叔母さん!」


「その呼び方は嫌ですよ〜」


 何やら考えているイヴァさん。


「こうしましょう、お姉さんと呼んで下さい」


 いや明らかに見た目は私より幼いんだけど…


「イヴァお姉様!いいですね!」


 サリーどう見てもおかしいでしょ!反対して!


「お姉様… 良い響きですね」


「では直子さんはナオちゃんですね〜」


 ええ〜 この年でちゃん呼びは凄く痛い…


「ささ、ナオちゃんお姉様ですよ〜」


 イヴァさんはそれは嬉しそうに両手を思いっきり広げ待ち構えている。

 

 そんな顔されると断れない…


「イ、イヴァ姉様…」


「まあ!」


 イヴァさんは泣いて喜んでいる。


「これからよろしくねナオちゃん!」


「ナオちゃんさん私もよろしくお願いします!」


 いや、サリーもその呼び方?


「はっはー!いつも変な名を付けてる姉さんが可愛いじゃねぇか」


 転げ回って喜んでいるセっちゃん。


 ギロッ!


「はう!」


 セっちゃんに向けて覇気混じりの視線を送ってやった。


「は、覇気はやめろって…」


 ブルブルして苦しそうだ。


「ハア、ハア…それにしても俺にだけ覇気を飛ばすたぁ〜使い方は良くねえがコントロールはできて来てるじゃねえか」


「あら、そういえばそうね。それじゃこれからはセっちゃんにバシバシ飛ばせるね」


「や、やめろよ〜」


 人化しているがしょげた犬の様になっていた。


「さて、これからですがまずはお爺様に会ってもらうのですがナオちゃんが女王になる為に他にも色々やってもらう事が盛り沢山です~」


 そりゃ女王だからね色々あるだろうけど…

 というかまだやるとは言ってないんだけど。


「国民のほとんどはナオちゃんが女王になるのを歓迎してくれるでしょう、ですがやはり反対や関心を持たない者もいるのです」


 当然だと思う。私も突然他所から来た者が女王になると言われたら戸惑うものね。


「そこで先程話した人間の国との国交を持つ件でナオちゃんには特使として周りの国に行ってもらいます」


「特使⁉︎」


「はい、特使として周りの国へこの神の都を人間と一緒に在るものとして認識させてもらいたいのです」


 なるほど、こちらから持ち掛ける事で今までの閉塞的な印象を払拭するのね。


「その実績を持って女王の戴冠式をしましょう」


「すごく大変そうですね?」


 周りにどれくらいの国があるのかわからないけど半目する国もあるだろうしね…


「大丈夫ですよ、アリーも一緒に行かせますしメイド長も付けましょう!」


 メイド長と言えば…

 ソニアさんの娘で最強のソニンさん!


「最強の人が来てくれるなら心強いですね」


「それではお爺様に会いに行きましょう〜」


 いよいよ神龍と会うのね。

 私が女王候補というのは当然知ってるだろうから粗相のない様にしないとね。


「不安な顔だな、大丈夫だって。もうボケてんだから適当にあしらえばよ〜」


… この馬鹿猫犬がぁ!抜けた事言っとらんでさっさと来い‼︎ …


 うお!

 突然威厳のある深い声が怒号の様に頭に響いた。


「これって…?」


「ふう… はいお爺様です。全く行くまで待てないんでしょうかね〜」


「ちっ、クソジジイめ元気じゃねえか。今行くから食いもん用意しとけよ!」


… し〜ん …


 念話じゃ伝わらないからって声でし〜んって。

 どうやらお茶目な神龍様のようで緊張が取れた。


「な⁉︎ ボケジジイだろ!」


◆   ◇   ◇   ◇   ◆


 吾輩は精霊である!

 姿は威厳のある猫の姿をしているにゃけど猫ではにゃいので間違えないように。

 あいつの親戚とかいう堅譲直子という女に無理やり現地に引っ張り出された可哀想な可愛い精霊猫にゃ。

 あいつ、堅譲大樹は本当にあれ出せ、これ出せとわがままなやつだったにゃ~


「全くエリートの我を召喚アニマル隊から連れ出すとはとんでもないにゃ、全世界の損失にゃよ」


「それにしても、精霊神様から何も言って来ないにゃよ」


 こんなに愛くるしい我を黙って手放す精霊神様じゃ無いのにゃ、きっと我を連れ戻す為に色々準備してるのにゃ。


 ピンポーン!


「ん?何なのにゃこの玄関のチャイムのような音は?」


… ふ、だい、様。大福猫様!…


 この間の抜けた声は後輩の鵜かにゃ?


… 鵜かにゃ?どうしたにゃ? …


… ああ、やっと繋がったう …


 そういえば以前は精霊界と繋がっていたので何もしないでも連絡はできたにゃが今は意識しないと繋がらないにゃ。

 さっきのピンポンは緊急通信コールだったにゃ。

 はっ!まさか精霊神様からも連絡はあったのに我に繋がらなかったのかにゃ⁉︎


… 大福猫様、そちらはどうですう?元気にしてますかう? …


… うにゃ、まあまあにゃよ。さっきも我の大活躍で賊を捕まえてやったにゃ …


… さすが大福猫様ですう! …


… それで?何のかあったにゃ?精霊神様が心配してるにゃか? …


… いえ、そのような事は全く無く召喚アニマル隊も以前より平穏ですう …


 え、どういう事にゃ⁉︎ 我が居なくなって皆んな心配で仕事も手につかない程なはずにゃ。

 わかったにゃ!我に心配させまいとして嘘を付いてるにゃね。


… 鵜も大福猫様の代わりに頑張っているですう …


 鵜も立派になったにゃ、我も思わず目から汁が出そうにゃ。我を心配させまいと気の利いた嘘までついて…

 しかし我が居なくなって精霊神様は落ち込んでいるはずにゃ!


… 精霊神様は何か言ってなかったにゃ? …


… そうだったですう、精霊神様からメッセージがあったですう …


 やはりそうかにゃ、精霊神様は我に連絡がしたけど届かなかったので鵜にメッセージを伝えたのにゃ。


… 精霊神様のメッセージをそのままお伝えするでう …


… 大福猫よ、おまえを精霊界より切り離した人物は私の大恩人の親族に当たる人。心して仕えるようお願いします。決して今までのようにさぼって魚とりや雌猫を追いかけたりして迷惑を掛けてはいけませんよ。今までの事はこれからの良い働きをすることで大目にみましょう、いいですね必ずお役に立つのですよ …


… 以上が精霊神様からのメッセージですう …


… な、なんと!それほどまでに我に期待をして頂いているのにゃ!これは我もがんばらねばならないのにゃ! …


… 大福猫様、すごいですう!精霊神様からこんなにも激励の言葉を頂けるなんてさすがですう! …


… そーにゃろ、そーにゃろ。にゃーはっは! …


【召喚アニマル隊】

 構成人数 12(内1は現地にて行動中)

 12種類のアニマル型精霊で構成されている(一部例外あり)


 主要任務

  精霊召喚に合わせて問題のある召喚主に対応すべく精霊神がかわいい動物の姿で誤魔化す為に結成された部隊


 トピック

  召喚アニマル隊は召喚部でも癖のあるアニマル型精霊が集められておりその言動は精霊神でも制御不可能といわれる特殊な部隊である。

  無理難題を言う召喚主などを担当し本人たちは至ってまじめに仕事に当たっているが結果、その予測付かない言動でどんなわがままな召喚主も大人しくなる。謎多き問題処理班であると同時に問題発生原でもある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る