盾のお姉さん ~ え?それって盾ですか? ~ 【連節-混沌節】

りるはひら

episode1 うざいのよ!

 私は堅譲直子ケンジョウ ナオコ、普通のOL。仕事は結婚プランナーで毎日それは幸せそうなカップルを相手に営業スマイルを振り撒いてる。

 独身の26才…

 自分で言うのもなんだけどモテるらしい。でも、何というかこれじゃない!というモテ方をする。

 熱狂的というか声をかけてくる人皆タイプじゃなくて断ってもなかなか諦めてくれない。

 挙げ句に大体がストーカーになって付き纏って来るし…


 この前なんてストーカー同士がはちあってあいつは俺の女だ! とか言ってるし。

 何時お前らの女になったんだよ!

 聞くところによると振られたストーカー共でファンクラブが結成されたとか…

 まあ、容姿とスタイルには幾分自信はある方だ。

 自称でなくて周りもそんな感じで見てるからそこそこ良いのだろう。

 だが粘着は要らん!外見じゃなくて私自身を見てくれる優しく守ってくれる人と穏やかな恋をしたいんだよ!


「直子ー!!」


 え? 何?


「どうして俺から離れようとするんだよ!」


 いや、あんた誰よ?


「俺だよ、俺!」


 これが良く聞くオレオレ詐欺ですか?


「あの… どちら様でしょう?」


「俺を忘れたというのかお前につきまとう奴らから守ってやった賢治だよ!」


 … … そういやこの前ストーカー同士が争ってた時の一人だなこれ。


「すみません急ぎますので…」


 なんか目がギラギラして危なそうなやつだ。

 至急離脱しないと。

 その場を離れようと背を向け歩きだした。


「俺を無視するんじゃない!」


「お前は俺のものだー!」


 何を言ってるんだか…


 ドン!


 ん? 何か背中が熱い…それに身体が言う事を聞かな…い…


「ヒィ! お、俺は何を… お、お前が悪いんだからな~」


「おい!刺されたぞ!! 救急車呼べ!」


 ああ、これって刺されたのか。

 いくらなんでも女を後ろから刺すってないわ〜

 こんな事なら護身術でも習っとくんだったな…

 意識がぼんやりして来た。死ぬのか…な?

 素敵な… に守られ… て… 幸せに… な…り…


 救急車のサイレンが聞こえた気がしたがそれ以上は何も聞こえなくなった。


 ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇


 … やあ! 大変だったね! …


 だ、誰? というかここはどこ?


 … うーん、大分混乱してるね。まあ、あんな目に会えば驚くよね〜 …


 ここがどこだがわからない、上も下も無い暗い空間を漂って居る感じだ。

 声の主は見当たらず声だけが響いて来る。


「私は死んだの?」


… そうだね、死んじゃったね …


 軽い感じだなこいつ…


「それで?あなたは?死神かなんか?」


… いやいや、僕はそんな者じゃないさ …


… 何かといえば・・・君のファンかな …


「はい?」


「そういうのはもういいので」


… ちょ、ちょっとだけ話を聞かないかい? …


 死んだというのは間違いないようね。意識だけはここあるけど体を感じられない。


「わかりました、どうぞ」


… よかった、君の事を見ててさ~あんまり可愛そうだったんでつい声かけちゃってさ …


 喋り方がうざいなこいつ…


… 仲間内でも君は人気が高くてこうして話ができるなんてドキドキしちゃうよね! …


「やっぱり帰っていいですか?」


… も、もうちょっとだから落ち着いて …


 まあ、もう帰れないみたいだし聞くしかないか…


… それでね、ぜひ君に僕の世界に来てほしいんだよ! …


「僕の世界?」


… 変な意味じゃないよ、僕が管理する世界に来てみないかい? …


「他に選択肢があるんですか?」


… 他はこのまま消えちゃうくらいかな〜 …


「つまり行くしかないと…」


… そうとも言うね …


「どんな所なんですか?」


… ほら、よくある冒険と魔法がある世界だよ …


「無理ですね」


… 即答!? …


「私はしがないOLなのでそんなところでは生きて行けない気がします」


… そこは、ちゃんとフォロ~するよ~ …


… 何か希望はあるかな? …


「…私を優しく守ってくれて幸せになりたいです!」


… 普通はチート能力とか望むものじゃ? …


「チート能力もらっても色んな事に巻きまれて幸せになるとは限らないじゃないですか!」


… 随分現実的な人なんだね …


… そうしたら君を守ってくれる能力を増し増しでつけとくね …


「え、能力じゃなくて守ってもらえれば」


… おっと、そろそろ時間のようだね …


「いや、ちょっと⁉︎」


… あら、これはちょっと偏り過ぎたかな? …


「人の話しを聞け〜!」


… 君の幸せを祈ってるよ …


 ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆


 チチチ… 鳥が鳴いてる。

 森だろうか?綺麗な湖のほとりで私は気がついた。

 本当に異世界に来てしまったのか…? 

 澄んだ湖の水面で自分の顔を確かめる。

 全く何の変化もなかった… 服まで同じだった。

 本当にここ異世界なの? 

 何か無いかとポケットに手を入れると何やら紙が入っている。

 メッセージカードのようだ。


 拝啓、直子様


 あなたは私が管理する世界イヴァーリースに転移されました。この世界は元居た所とは違い自然溢れる素晴らしい世界です。ちょっと危険だけど魔法や胸躍る冒険などもできますよ。

 魔物とかも居るのでお気をつけて下さい。ご希望されました守られる能力を進呈致しますのでうまく使って幸せになって下さい。


            貴方のファンより♡


「ファンって何なのよ…♡ってうざいわ!」


「なにより異世界転生ならもう少し若くしなさいよ!元のままなんて… 直ぐおばさんになっちゃうじゃない…」


 ガァオオー!


 聞いた事の無い猛獣のような声が聞こえた。


「魔物?どっどうすれば…」


「そういえば」


 メッセージの裏を見た。


 ギフト【創世の盾】

 使用者の思う盾を作り出せる


「… これだけ?」


「説明が一言ってアバウトすぎるでしょ?」


 ガサッ!


 奥の林から何かが近づく音がする。

 さっき聞いた声のやつだろうか?


 ズシン… ズシン…


 明らかにデカイのが来てる!


 バキバキッ!


 木々を薙ぎ倒してそれは現れた。


 ズシン!


 熊? 見かけは熊だが手が4本ある…しかもなんか棍棒のような武器まで持ってるし。

 もしかして頭良いのか?話が出来るとか?


「こ、こんにちは〜」


 熊もどきはキョトンとしてこちらを見ている。

 

 話しが通じた?


 ガァアー!


「ぎゃー! やっぱり通じてないー!」


 熊もどきは持っていた棍棒を思いっきり振り下ろしてきた。


「いきなりなんでこんな危険な所に飛ばすのよ!」


「盾、そう盾が出せるはず!」


「頑丈でどんな攻撃も跳ね返す盾出て!」


 … だめか!


 ガキィーン!


 グギャー!!


 ズズンッ!


 … 静かになった。そっと音のした方を見てみると熊もどきが仰向けに倒れている。

 そしてその前方に白く光る盾が浮かんでいた。


「本当に出た!」


「でもなんで熊が倒れてるんだろう?」


 熊もどきの頭は何か大きい棒で殴られたように潰れていた。

 浮かんでいる盾はよく映画とかで見る騎士が持っているような盾で中央が綺麗な白色をしており金色の淵になっている。

 裏を見ると中央上側にプレートがあった。


 【純白の盾】

  清らかな者のみが持つ事が出来る盾

  盾を持つ者へのあらゆる攻撃は攻撃を

  行った者へ反射される


「なるほどね攻撃を反射されて倒されたと…」


「清らかな者のみがこの盾を持てるって」


 そっと盾の握りを持って見た。

 何の抵抗もなく重さもほとんど感じない程軽く持つ事ができた。


「… ええ、そうでしょうとも! 未だに清らかだよ私は!」


「言い寄って来るのは変な奴ばかりだし忙しくて出会いも無かったから…」


 言ってて虚しくなってきたわ。


「今はこんな盾でも無いと生き抜けない気がするからありがたいけどね!」


 開き直って誰もが居ない森で叫んでいた。


「でも軽いけど割と大きくて持ち歩くには邪魔だな〜」


 そう言うと盾が手から離れ背中にピタっとくっ付いた。


「おーこれなら両手が使えるね、やるじゃん」


「しかし何もわからない状況はまずいわね…」


「ラノベとかじゃ鑑定とかあるじゃない?」


 ………


「あ、そうだ!ひょっとして…」


「鑑定が出来る盾出て来い!」


 ヴゥンッ


 目の前に透明な四角い盾が現れた。


「出た! 便利だなこれ」


 出てきた盾を見ると中央に文字が浮かんでいる。


 【審議の盾】

  対象を指定する事で情報を確認出来る

  この盾は堅譲直子のみ見る事が出来る


「私だけが見えるのか」


「どれどれ」


 倒れている熊もどきを盾を通して見た。


 【フォーアームベアー】

  神淵の森に生息する魔物

  4本の腕を持ち武器を使用して獲物を狩る

  自分で武器や道具を作れる程の知能はあるが

  意思疎通は出来ない

  その肉は大変美味で美味しくいただける

  毛皮や牙、使用している武器など高値で

  取引されている


  性別 男

  年齢 12歳

  好感度 脅威

  状態 死亡


「美味しいんだこれ…」

  

 急にお腹が空いてきた。

 さすがにこれを捌くのは無理だけど。


「ここは神淵の森というのね、神淵ね…」


「ここに転生させた奴はやはりこの世界の神だよね… うざかったけど…」


「さて、これからどうするかな」


「まずは森を出て人がいる所を探さないとまた魔物に襲われそう」


「と言ってもどっちに行けばいいのかしらね」


 ヴゥンッ


 熊もどきの情報が地図に変わった。


「お、めっちゃ便利じゃん、審ちゃんやるじゃん」


 どうやら南の川沿いに村があるようだ。

 そこに向かってみることにした。


「その前にこの熊そのままは勿体ないわね」


「持って行ければ高く売れそうだし、ここはあれでしょう!」


「どんな物も吸収し、保管、取出せる盾出て!」


 …… …… ……


「出ないな…」


 ヴゥンッ


 鑑定用の【審議の盾】が現れた。

 何やらメッセージが表示されている。


 〈機能の拡張〉

  あらゆる物を吸引、保管、取出せる盾は

  【純白の盾】に機能を拡張する事が可能です

  拡張しますか?


    YES / NO

 

「ふーん、新たな盾じゃなくて機能が追加されるのね」


「いいわね、YES で!」


 ブルブル


 背中にある【純白の盾】が振動した。


  拡張が成功しました

  あらゆる物を吸収 (制限なし)

  保管 (制限なし)

  取出しは【審議の盾】のリストを参照

  もしくは音声・思念による指定


 【審議の盾】に表示されている。


「凄いわね、なんでもありって感じだわ」


「それじゃ早速この熊もどきを回収しましょう」


 そう言った瞬間、倒れていた熊もどきが吸い込まれるように消えてしまった。


 【審議の盾】に新たな表示が出た。

  吸収を行いました。

  

  フォーアームベアー × 1

              [解体]


「解体? なんだろうこれ」


  解体は保管している物を中で解体

  区分けが出来ます


 【審議の盾】が説明を表示している。


「これはいいわね、自分でやらなくてもいいんだ」


「それじゃフォーアームベアーを解体してみて?」


  解体を行います

  成功しました

  

  フォーアームベアーの牙  × 2

  フォーアームベアーの爪  × 12

  フォーアームベアーの肉  × 6

  フォーアームベアーの毛皮 × 1


「わー、本当に解体されてる〜」


「色々と足りない気もするけど多分使えないのは表示されないのかもね」


 肉の文字をみて益々お腹が空いてきた。


「急いで村に行こう…」


 OLスーツに真っ白い盾を背負い一人村を目指した。

  

 【純白の盾】は、ハクちゃんだね!


 直子にネーミングセンスはなかった…

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