episode25 すばらしききのこ
大福猫も起きたのでペットショップを出た。
ペットショップの店長? オウガーは店を出る時にセっちゃんに伝えた。
「セドリック様、最近人間らしき者達が街にいる様です」
「おめえも見たのか?」
「ええ、一人は背が高く細身でメガネを掛けていて犬獣人の耳がありましたがあの耳は偽物ですね」
「人間と獣の気配があったんじゃねえか?」
「さすがセドリック様ですね、その通りです。ここでは人間の気配は直ぐわかりますが獣の気配にまぎれて分かり難かったですね」
「一人だったか?」
「ええ、私が見たのは一人でしたね」
「そうか… そいつが何の為にここに来たのかわからねぇが獣の気配もするなら何かしら企んでやがるかもな」
「そうですね、普通の人間なら堂々と入って来るでしょうしね」
「ありがとうよ、また情報があったら教えてくれ」
「了解しました、またお越し下さい」
オウガーはでっかい手をフリフリ見送ってくれた。
「また、怪しい人を見たの?」
「そうらしいな、犬獣人の格好で細身の長身。メガネもしてたらしい」
犬獣人でメガネか… 変装の一部かしら。
「一人だったんだ?」
「そうだな、別のやつか単独行動してたか…」
「まあ、そのうち俺らも見かけるかもな」
「さーて、次はどこ行くかぁ〜」
「そろそろ昼だな〜どっかうまい店にはいっか!」
「さっきドッグフード食べたじゃない⁉︎」
「それはそれだ」
よくあれだけガツガツ食べてまだ入るわね。
「姉さんらはまだ食ってねぇだろ」
そういう事か優しい所もあるじゃ無い。
「あれだな、最近流行りの鍋料理にすっか?」
「鍋⁉︎」
サリーが反応した。
「ああ、何でも近くの人の村で流行ってたのをこっちでも再現したらしいから姉さんらも口に合うんじゃねぇかな」
近くの村〜?
まさかあの鍋じゃ…
「セドリック様はそれを食べた事があるのですか?」
サリーが確かめる。
「いや、ここ最近は街で食ってなかったからなぁ。確か珍しいきのこを使った料理らしいぞ」
近くの村できのこを使った料理…
ますますアレなんじゃ。
「お、ここだ」
食堂らしき店の入り口に盾看板が置いてあり
お食事 銀のフォーク
と書いてある。
看板におすすめ料理だろう絵が描かれていた。
鍋にきのこが入っていてそのきのこが動いている様な絵だ…
「直子さんまさかここでこれに出会うなんて感激しますね!」
サリーの鼻息が荒くなっている。
サリーはこのきのこ好きだからね…
「どうした?入ろうぜ」
「う、うん」
一同は店に入って行った。
「いらっしゃいませ〜、お好きな席にどうぞ!」
窓際の大きなテーブルにみんなで座った。
周りを見ると他の客が美味しそうに鍋を囲んでいる。混雑する感じでは無いがほぼ満席に近く人気のある店に思えた。
「いらっしゃいませ〜 何になさいますか?」
可愛い白いウサ耳をした兎獣人?のウエイトレスが注文を取りに来た。
「わ〜可愛いワンちゃんですね!珍しい…あ!」
「も、もしかしてセドリック様ですか⁈」
チワワ姿のセっちゃんを知っているらしい。
「おう、世話になるぜ」
「やっぱりそうなんですね!ハニーベアーのポスターで見ました。本当にワンちゃんなんですね」
あの店ハニーベアーと言うのね。
もういっそペットショップじゃなくてキャンディ屋さんにすればいいのに…
「ここで最近流行りの鍋があるって聞いたもんだからよ食いに来たぜ」
「そうなんですね、ではきのこ鍋でよろしいですか?」
「ああ、他は適当に合う料理を持って来てくれ」
「姉さんらもそれでいいか?」
「ええ、メニュー見てもわからないし私はそれで」
「私も大丈夫です!」
「かしこまりました〜少々お待ち下さい〜」
さてどんな鍋が出てくるかしら。
大体予想はついているけどね…
サリーもソワソワしているようだ。
「そういや村長とこで食ったきのこも面白かったよな〜」
うん、それと似たようなのが出てくるわよ…
「お待たせしました〜こちらがきのこの根性焼き鍋です」
またすごい名前…
おや、きのこが動いていない?
「サリーこのきのこ動かないわよ」
「い、いえ直子さんよく見て下さい!」
よく見ると所狭しと鍋の中に立ててぎっしり入れられたきのこはお互いの腕を絡ませてがっしりとスクラムを組んでいる。
よっぽどがっしり組んでいるのか腕がプルプルと細かく震えていた。
「確かに根性はありそうだけど…」
「それではソースをかけますね〜 危ないので下がっていて下さいね〜」
ウサ耳ウェイトレスが鍋の中のきのこ達にソースを回しかけた。
シュゴー! パチパチッ
すろと途端に真っ赤な炎がきのこ達を包んだ。
ゴワー!
炎の中、きのこ達はスクラムを組んだ腕を決して離さず耐えている。
きのこ達が焼けて狐色に変化しいい匂いが漂ってくる。
「こ、これはまさに根性焼きですね…」
サリーが炎の中のきのこを見つけて言った。
しかしこのきのこはこれくらいでは動きを止めないはずだが…
「焼けてきましたね〜では仕上げを」
そう言うとウサ耳ウェイトレスはもう一つの容器に入った物を燃えているきのこ達にかけた。
ジューッ!
炎が消え白い湯気と共に何とも香ばしい匂いが溢れてくる。
きのこ達は何かを守り抜いたかのようにガッチリ組んだ腕の力ゆっくりと抜いて動かなくなった。
「な、直子さん!この子達は守り抜いたんですね…」
え?何を?
サリーはホロリと涙を流している。
セっちゃんも涙ぐみながらうんうんと頷いている。
いや、鍋だよね?
どんなドラマよ…
「さ、食べましょ」
次の瞬間サリーは何事もなかったように動かなくなったきのこにナイフを突き立て鍋から引き抜いて私とセっちゃんの更に置いていった。
その手際に迷いはなかった。
「サリーあなた…」
最後に自分の皿にきのこを乗せると大胆にきのこを切り裂き口に運ぶのであった。
「むぐむぐ、おいひいですよ。焼きたてが美味しいので皆さんも食べまひょ」
実に美味しそうに次々にきのこの切れ端を口に運ぶサリー。
まあ、味だけはいいものねこのきのこ…
私とセっちゃんも先程のドラマはなかった事にして香ばしいきのこを口に運んだ。
香ばしさと村で食べた時よりも濃厚な味、ソースも似ているがこちらの方がスパイスが効いていて食が進む。
食べ進むと中央に横になった一際大きいきのこが居た…
しかも炎とソースから免れたのかまだ動いてこちらに向かって手を振っている。
「あの子達…この子を守っていたんですね…」
そうなの⁈
「この鍋の特徴で外のきのこは香ばしく、中きのこはしっとりふわふわの二つの味が楽しめるんですよ〜」
「あ、この子腕が4本ありますね!マンドラゴラきのこEXですね!」
「さすがセドリック様のお連れの方ですね、そのきのこは希少なんですよ〜」
そう言うとウサ耳は炎を消す時に掛けたソースをそのマンドラゴラきのこEXに掛けた。
マンドラゴラきのこEXはしばらく腕をプルプルさせていたがやがて静かに動かなくなった。
「あの子達はこのEXを守る為に頑張ったんですね…」
サリーの目にキラリと光ものが見えた。
そ、そんなに感動する事かな…?
そりゃーきのこにもドラマはあるんだろうけどさ。
… あるのか?
そう考えていると。
シュパッ!
サリーが鮮やかなナイフ捌きで動かなくなったEXを切り分けた。
「さーEXですよ〜」
さっきの目に光っていたものは口から垂れるものに変わり再度皆の皿に切り分けたEXを置いて行く。
「うお!こいつぁ前に食ったやつより強烈だな!」
「マンドラゴラきのこEXは魔力が多い場所の方が美味しくなりますからね〜 この街の近くで取れるものは最高ですよ」
「お、美味しいそうね。どれ私も」
んぐっ!
なんて食感と香り…そして噛む度にに溢れるうまさのエキスが信じられないくらい濃厚に感じられる。
そして濃厚ではあるが喉を過ぎるとその余韻がスッと消えて美味しいと言う記憶だけが脳裏に残った…
「こんなの初めてでしゅ、むぐむぐ」
サリーは涙を流しながらそれ以上何も言わず無心で食べた。
「いやー、美味かったなぁ!ドッグフードに迫る旨さだぜ!」
ええ、ドッグフードってこれより美味しいの⁈
今度私もつまみ食いしてみようかしら。
超絶美味しいきのこを堪能していると他の客の声が聞こえてきた。
「こ、こりゃ〜うめえ!」
「お、おい!静かに食えよ…」
テーブルを一つ挟んだ席で同じ鍋だろう物を食べていた客が美味しさのあまり騒いでいるようだった。
(おう、姉さんあれが例の奴らじゃねえか?)
むぐっ
突然セっちゃんが念話を送って来てきのこを喉に詰まらせそうになった。
(なによ突然?例の奴らって人と獣の気配がする人達の事?)
(ああ、その奴らがそこのテーブルで飯食ってやがる)
確かに細身の長身と背の低い小太りの二人組だ。
(ハクちゃんは何かわかる?)
(はい、確かに人と獣の反応があります。人の気配は本人から、獣の気配は着ている外套から発せられています)
(外套から… 何かの獣の皮かしらね?)
(フォーアームベアーの皮が使用されています)
獣の皮だからその気配がするのだろうか…
でも私の服もホワイトファングの皮で作った物があるけどそんな気配はしないしね。
(獣の皮だけじゃこれだけの獣の気配はしないぜ、普通のやつなら奴らを人間じゃなく獣人と思うぐらいだ)
(ハクたま、あのおじちゃんの背中からなんか出てるの)
(背中から…? 確かに何か呪術らしき紋が外套の裏に刻まれているようです)
(わーカーシャそんなのわかるんだ、すごいね!)
サリーがカーシャを誉める。
(だってやな感じがするもん)
カーシャは感覚が鋭いみたいね。
(そこまで人間である事を隠して何の目的があるんだろうな?ここしばらく人間は街に来なかったが来れなかっただけで街に人間が入る事を禁じてはいねぇしな)
うーん、このまま接触しても誤魔化されるだけだろうし…
……… あ
(ハクちゃん、相手を監視する盾って出来るかな?)
(了解しました、主。あの二人を監視するのですね)
(うん、お願いね)
左腕に付いているハクちゃんがブルブルと震えて目の前に親指ほどの透明な盾が二つ現れた。
(お〜これをあの人達にに付けるのね?)
(はい、目標を告げて監視せよと命じて下さい)
ふむふむ、それじゃ早速…
(あ、命令は念話でもいいのかしら?)
(大丈夫です)
(おっけー)
(盾達よあの背の高い痩せた人と側にいる小柄で小太りの人間を監視せよ!)
小さな透明な盾達は一瞬こちらにプルプルと震えて見せて目標に飛んで行った。
そのまま二人の右首で肌が見えている所に入り込み首に貼り付いたと思ったらスッと消えてしまった。
なるほどあれなら見つからないわね。
(あの者がこの街に対して悪感情を持った会話は自動的に転送され確認する事ができます。それ以外の会話は「盗聴」と念じる事で聞く事ができます。他、位置の検索、捕縛が可能です)
(え、捕縛まで?すごいわね)
捕獲までできるなら何かやろうとしても大きな事にはならないかな。
(それじゃあ取り敢えず、盗聴してみるね)
二人に意識を置いて盗聴と念じて見た。
… めぇ!…
… うめえ!こんなの食ったら他の鍋食えねえぞ…
… おいもう少し静かに食えって、美味いがそこまでじゃないだろうが!…
どうやら背の高い者が騒いでおり小さい方がそれを静止しているようだ。
… 何言ってんだよ!この美味さが分からないなんて異常だぞ!…
… そうかー?お前みたいに泣くほどじゃないぞ…
二人に味覚の違いがあるようだ…
私も間違いなく泣くほど美味しいと思うのだけど…
(直子さん、このきのこは魔力が強い者程美味しい感じられます。小さい人はあまり魔力が高くないのかもしれません)
一緒に盗聴を聞いていたサリーが自らの経験から推測する。
(そういえばそうだったわね、道理で他のお客さんにも料理の感情に差があるわけね)
… 俺は料理よりもあそこに座ってる女達の方が気になるぜ…
ん?
… あんな美人は人間の街でもなかなかいねえな…
こちらをチラチラ見ながら背の小さい男が話しているので私達の事だろう。
この街に他の人間が居ないと思っているのか私達を獣人と思っているようだ。
… どっちもいいが好みは若い方だな。もう一人は綺麗だが性格がキツそうだ…
誰が性格がキツそうなのよ!
見る目がないわね。
(よし!捕獲しよう!)
(ちょ、姉さん早まるなよ!何者かもまだわかってねぇんだからよ)
… それにちょっと歳くってるしな、やっぱり若いやつがいいよな〜 …
(ハクちゃん捕獲して目的を吐かせましょ!)
(な、直子さん落ち着いて下さい、ほら次の料理が来ましたよ!)
サリーも慌てて直子を静止する。
… バカだな、ああいうのが実は優しくしてくれるんだぜ …
長身の男はきのこを食べながらチラッとこちらを見る。
ゾクっと悪寒が走った。
以前のストーカーを思い出し冷静になった。
(どちらにしてもちょっと嫌な感じの人達ね)
(そうだぜー、姉さんはすごいぜ!覇気とか人間じゃねえもんな〜)
セっちゃんなりに気をつかってくれてるのだろうけど… もう少しこのチワワには教育が必要ね。
ブルブルッ
この国を作った大精霊は小さなチワワの体を震わせてこっちを見ている…
◆ ◇ ◇ ◇ ◆
「ハクたま! 今回は少し出番あった〜」
「よかったですねカーシャ」
「お二人とも良いですな〜儂は全然ですぞ」
「大丈夫!ケンたまにもうすぐ出番あるの!」
「おお、本当ですかな⁉︎」
「そうですねあの怪しい二人はどう見ても招かざる客という感じなのでそろそろ主も動き出すでしょう」
「そうなの、あの人達を真っ二つにするの!」
「それは腕がなりますな!切られた事も分からぬうちに切って捨てて見せましょうぞ!」
「いや、いや、二人とも早まってはいけませんよ」
出番がなくてストレスが溜まっているようだ。
「そうですね今度主にお願いしてみんなで修行に行きましょう」
「修行?」
「主もまだ私達の能力を把握されていない様子ですし我々を使って頂く修行です」
「わ〜 面白そうなの! カーシャはこの前覚えたビリビリするの〜」
「ビリビリとはどのような技ですかな?」
「うーん、なんか空から落ちてくる光みたいなの」
「ほう!雷系の技か、それは素晴らしい今度受けてみたいですな」
「カーシャもその光を受けると元気になるの!」
「カーシャは雷を受けた事があるのですか?」
「うん、こっちに来る時にサリーお姉ちゃんと遊んでたら空から降って来てビリビリしたけど元気になったの」
「雷を魔力に変換しているのですね、カーシャは雷と相性が良いのでしょう」
「カーシャ殿は自分でも雷を出せるのですかな?」
「できるの!兎に当てたら兎消えちゃったの」
「それは… 受けるはよして置いた方がいいですな」
「カーシャ、サリーに装着している時に雷はあまり強く発生させないようにしないとサリーが痺れてしまいますよ」
「うん、この前そうなってサリーお姉ちゃん、アババババッってなったの」
「それは… アババババッで済んでよかったですのう」
「そうですね、サリーにも雷属性があるのかもしれませんね。耐性が無いとアババババッだけでは済みませんから」
「カーシャ、主や他の人の近くでも気を付けて使わないとアババババッ以上になりますよ」
「わかったの、アババババッになるように気をつけるの」
なんとなく分かっていないカーシャであった…
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