第8話 白の霹靂
「もしかして白の霹靂?」
「こいつらかなり前に拠点を移したんじゃなかったっけか?」
「本物だ、すげー!!」
何やら妙に騒がれている金髪の女性は、ギルドに足を踏み入れるとルウラの方まで近寄り、声をかけた。
「君、大丈夫?」
「お、おう」
ルウラは少し動揺していたのか、その女性に対して煮え切れない返事を返す。
「まぁ私の助けはいらなかったみたいだけど」
ルウラから視線をずらして、近くにいたカラスを興味深そうに見つめる金髪の女性。
「はぁ、懐かしのギルドに帰ってきたと思ったら、さっそく乱闘騒ぎ?ナルシ―」
しかしすぐに視線を戻した女性は、ナルシ―の近くまで足を運んだ。
「ひ、久しぶりだねリーナ。どうして君がここにいるのかな?」
「元々拠点にしていたギルドに帰ってくるのがそんなにおかしいかしら?」
「そ、そんなことないさ、それにこの子とはちょっとじゃれていただけだからさ。そうだよな!?」
ナルシ―は自慢のサラサラヘアーがくしゃくしゃになるのを一切気にせず、迫真の表情でルウラに同調を求めてくる。
「お、おぅ」
そのあまりの迫力に気圧されたルウラは、思わず首を縦に振ってしまった。
「そう?それならいいけどあんまり後輩をいじめちゃだめよ」
そう言って受付のほうに歩を進めるリーナの後ろから、二つの影が迫ってきた。
「リーナのバカ野郎!バレないようにって言われてただろうが!」
「そんなカリカリするな、バレたもんは仕方ないだろう」
リーナに対して強気な言葉を吐く男と、それを咎めるもう一人の男。それぞれがルウラを追いかけるようにギルドの中へ足を踏み入れた。
「うぉぉぉ、マッシュとリキもいるぞ!」
「久しぶりだなお前ら!!」
リーナに文句を言った小柄なキノコ頭の名前はマッシュ、それを咎めた巨漢の男の名前はリキ、この二人はリーナと共に『白の霹靂』というパーティを組んでいる
探索者だ。
「なぁ、なんであいつらはこんなに騒がれてるんだ?」
メルクは先ほどナルシ―のことを教えてくれた探索者のおっさんに、彼らについての詳細を聞く。
「ん?あぁ、お前たちはここ出身じゃないのか?」
そう言って三人についての情報を細かく教えてくれた。
「なるほどな、この街の英雄ってわけか」
「まぁそんな感じだな」
解説おじさんによると、リーナ、マッシュ、リキの三人はここへラブ出身の探索者らしい。『白の霹靂』という名で活動を開始した三人は、駆け出しの頃からその実力は周りの新人と比較しても抜きんでていた。
その培った実力を存分に生かすために、活動範囲を広げて旅立ったらしい。それからはその名を大陸上に広げ、今では探索者の中でも上位に入る実力者たちだ。
そんな話をしていると、横にいるククが急に目を輝かせて飛び出した。
「ひさしぶり、リーナ!!」
「クク、あなたどうしてこんなところにいるの!?」
この道中、常にすました顔をしていたククだったが、リーナの名前を呼ぶときの表情はまるで姉に甘える妹のようであった。
「たまたま用事があって来たのよ。それよりも帰ってきたならすぐに教えてよ!」
「ご、ごめんなさいね。ちょっとバタバタしてて」
どうやら二人は知り合いらしい。彼らがへラブを拠点に活動していたときに出会ったのだろうか。ククは久しぶりの再会に目を輝かせ、思い出話に花を咲かせたい様子だった。
「せっかくだから夕飯一緒に食べましょうよ、旅の話も聞きたいし!」
「そ、それはまた今度ね。あっ、もう行かないと!じゃあねクク!」
「待ってよリーナさん、マッシュとリキも挨拶くらいさせてよ!」
「ま、また今度なクク!」
「すまんなクク、次の機会にまた会おう」
結局何をしに来たのか、ククと話した途端、急に用事を思い出したかのように、マッシュとリキを引き連れたリーナは人ごみの中へと消えていってしまった。
「はぁ、どうして避けられたんだろ」
無事に探索者の登録が済んだルウラは、永遠に溜息を吐き続けるククに案内される形で、今夜泊まる宿に向かっていた。
「ははっ、確かに完全に避けられてたな。あのアホみたいに強そうな探索者とお前はどういう関係なんだよ」
ルウラはククの機嫌などお構いなしといった感じで、豪快に笑い飛ばしながらずけずけとククの心をえぐっていく。
「ゔっ、あんた絶対にモテないでしょ。まぁ気を使われるよりはマシだけど」
一瞬ルウラを恨めしそうに睨むククだったが、重たい空気をルウラに笑い飛ばされたのか、ようやく元の表情に戻った。
「私がまだ小さかった頃、彼女たちは今私が通っている魔法学院の生徒だったのよ」
「あぁ、確かにあのおっさんがそんなこと言ってたな」
メルクは解説おじさんが話してくれた内容を思い出す。
「私が小さいころ父に会うためによく学校に遊びに行ってたの。それで学校内で迷子になったところを彼女たちに見つけられて、それから仲良くなったのよ」
「へぇ、お前結構どんくさいんだな」
「ほんっとにデリカシーないのねあなたって」
デリカシーのデの字すら知らないルウラに女心を理解できるのはまだまだ先らしい。
「それ以来、よく遊んでもらったわ。それに彼女たちは当時、学校内で特に優秀な三人だったから魔法や体術のことも教えてもらったの」
「じゃあやっぱりあいつら相当すげぇんだな。特に女のやつの迫力は半端なかったし」
「当たり前でしょ。リーナは『
「なるほどー、多分今の俺じゃ敵わないな」
ルウラはギルドで出会った時の彼女と自分の実力の差を感覚的に把握してしまった。
「そりゃそうよ、探索者の中でも有数の実力者なんだから」
そうこうしているうちに、今日ルウラが泊まる宿である『ほくほく亭』にたどり着いた。
「ここが私のおすすめの宿よ、おかみさんの人柄もいいし、何よりご飯がとっても美味しいの」
「それは楽しみだな、メルク。それとわざわざ案内してくれてありがとな!すっげー助かったわ」
「べ、別に借りを返しただけだから感謝する必要はないわ。それよりもあなた明日からどうするの」
髪の毛と同じように顔を赤らめたククは、そっぽを向きながら今後のルウラの行動を気にするように問いかけた。
「あっ、そういやなんも考えてなかったわ」
とりあえず探索者になろう、それしか頭になかったルウラはボケーっとした表情で空を見上げた。
「ったく、とりあえず明日はゆっくりしようぜ。せっかくの街なんだしよ」
「いいね!なんだかんだ疲れも溜まってる気がするし」
流石のルウラも長旅に加えて色々なハプニングがあったため、少し疲れているのか肩を回しながら体をほぐす。
「つまり二人とも明日の予定はないってことよね。それなら私の通ってる魔法学院に来てみる?少し授業に参加するくらいなら出来ると思うから」
ククの提案はルウラにとって興味が引かれるものだった。村の学び舎は、読み書きやルウラには関係のない魔力の扱いに関することばかり教えられていたから、これだけ大きな都市にある学院ではどんなことを勉強しているのか非常に気になった。
「いいのか!?でもお前が追ってる組織のことはどうするんだよ」
「もちろんそれも継続するつもりよ。でもこのことをお父さんにバレたくないから」
ククは、すでに数日間学院を休んでいる。これ以上は父親に誤魔化すことは難しいため、学院にも顔を出す必要があるのだろう。
「ふーん、まぁ俺も見学できるなら何でもいいや。メルクもそれでいい?」
「お前がいいなら俺も構わないよ」
本当は一日ゆっくりしたかったメルクだが、ルウラがやりたいことをやるのがメルクの望みでもある。まるで保護者のような存在だ。そんな二人の賛同によって、明日はククの学院を見学することに決定した。
「なら決定ね。明日迎えに来るからこの宿で待っていて。」
「はーい」
お互いに手を振って別れた後ルウラは宿に入って、まずはすっからかんの胃の中を満たすために食事を頼んだ。
「この肉うんま!村で食ってたのと全然違うわ」
「そりゃそうだろ、こんだけでっかい街なら流れてくる調味料の種類もたくさんあるだろうしな」
カラスと人間が会話をしながらとんでもない量の食べ物を胃の中へ流し込んでいる光景は極めて珍しかったのだろう。ほとんどの人たちがぽかーんとしながらその一部始終を眺めている。
そんな時、何やら怪しげな会話が近くの席から聞こえてきた。
「おい、昨日変な格好をしたやつらが夜中にこの辺をうろついてたらしいぜ」
「らしいな。しかも一週間くらい前にどっかの学院を襲ったやつらの格好と似てるとか聞いたぞ」
「ったく、この前はガキが一人攫われただけだからよかったけど、今度は何をしでかすか分かったもんじゃねぇ」
「まぁその時は俺がボコボコにしてやるから安心しとけよ」
はははっ、と下種な笑い声を上げながら酒を飲んでいる男たちの会話に、ルウラたちは会話の内容が少し気になった。
「なぁメルク、ククが追ってる組織の人間ってのも孤児を攫ってるとかなんとか言ってたよな」
ルウラはククが追っているという組織のアジトで、ククとそのボスが交わしていた会話を記憶の中から呼び起こす。
「ああ、ルウラのくせによく覚えてたな」
「うるせーな、俺は猿じゃねぇんだよ」
「じゃあ、あのおっさん達に聞いてみるか?」
ルウラたちは今の会話をもう少し詳しく聞くため、男たちの席に近づいた。
「なぁなぁ、今の話もうちょっと詳しく教えてくれよ」
ルウラに話しかけられた二人は、酒が回っているのかニヤニヤした顔でこちらを見上げてきた。
「おうおう、なんだよ兄ちゃん。まさかタダで聞こうってんじゃねぇだろうな」
「え、金かかんの!?」
「あったりめぇだろ!いついかなる時も情報ってのは金になるもんよ」
なるほどぉ、と男の言い分になんとなく納得したルウラは再度話を持ち掛ける。
「それで?いくら払えばいいの」
「そうだなぁ、1000ルビーでどうだ?」
「はぁ?ここの料理よりも高いじゃん!」
飯よりも情報量が高いという衝撃の事実に、ルウラは思わず腰が抜けそうになった。
「嫌ってんなら払わなくてもいいぜ?まぁ情報は教えてやんねぇけど」
「ぬぐぐ、、、」
男たちに弄ばれているルウラに見かねたのか、今度はメルクが男たちに話しかけた。
「じゃあこういうのはどうだ。腕相撲をしてこいつが勝ったらタダで情報を教える。その代わりあんたたちが勝ったらこっちは情報量の二倍の金額を払う」
「おぉ、喋るカラスとは初めて見たな。まぁいいぜ、その話乗ってやるよ」
まさかこんなガキに負けるとは思っていなかったのだろう、いいカモだと言わんばかりの余裕の表情でメルクの提案に賛成した。
「お前ってどこまで天才なんだよ・・・」
その時のメルクに向けるルウラのまなざしは、尊敬というよりもはや崇拝に近いものがあった。
「勝負は一回きりな。あまりにもこっちに好条件すぎて何か罠があるかとも思ったが、まさかそんなことしねーよな?」
「ふふんっ、やれば分かるって」
店の中では既に賭け事すら始まっていた。
「俺はおっさんのほうに3000ルビー!」
「俺もおっさんに4000ルビー賭けるぜ!」
「可愛いから男の子のほうに5000ルビー賭けちゃうわぁん」
圧倒的にルウラのほうがオッズは高かったが、同情や可愛いといった理由でルウラに賭ける人、他にも一発逆転を狙った生粋のギャンブラーのような人もいた。
「一応言っておくけどずるをするんじゃないよ。それとくれぐれも台を壊さないように」
意外にも女将さんが乗り気だったため、公平を期すために彼女が審判を務めることになった。
「じゃあ行くよ、レディィィイイ・ゴォォォオオオオーーー!!!!!」
女将さんの気合の入りすぎた掛け声が合図となり、戦いの火ぶたが切って落とされた。
バゴォォオン
「「「え・・・?」」」
「俺の勝ちだな」
ルウラは台に打ち付けられた自分の拳を呆然と見つめる対戦相手に対して、勝ち誇った笑みを浮かべて見せた。
「は、はい、参りました」
「しょ、勝者 ルウラ=スティング!」
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