第18話 自宅にご招待

「あっ、こんなところにいたのか」


ルウラたちは校舎中を探し回ってククを探すと、渡り廊下から見える施設のそばで、子供たちと楽しそうに遊んでいるククの姿があった。


「こんなところで何してんだよお前」


「そっちこそ何でここにいるのよ」


こちらに気付いたククは、そっぽを向きながら機嫌の悪そうな声で返事をする。


「めっちゃ探したんだからなー」


「別に頼んでないし」


ククの機嫌は悪いままで、ルウラが話しかけても不貞腐れた子供のような反応ばかりだった。


しつこくククに話しかけるルウラだったが、それを邪魔するように小さな影が間に割って入った。


「ククお姉ちゃんをいじめないで!」


「どっかいけ変態!!」


「俺は変態じゃない、ルウラだ!」


ククを守るようにルウラに立ちはだかった子供たちを相手に、ルウラは全く引けを取らないレベルの低さで対抗した。


「みんなちょっと待っててね、この変態さんとちょっとお話してくるから」


「分かったよククお姉ちゃん、でもこのお年頃の男っていうのは欲に飢えた獣ばかりだから気を付けてね」


「ど、どこでそんな知識身に着けたのよ」


「ライさんに教えてもらったの!」


「あのくそ野郎、、、」


ませすぎた幼児に心配される形で、ククはルウラと共に近くのベンチに座った。


「それで、お父さんとは何か話したの?」


「うん、話の流れで今日はお前の家に泊まることになった」


「全く意味が分かんないんだけど・・・」


「まぁまぁ、お前のことを想ってのことなんだから」


ルウラは詳しい話はせずに、その概要だけをククに伝える。


「またそれ。そんなの全部向こうのエゴでしかないじゃん」


そう言って顔を背けようとするククに、ルウラは鋭く言い放った。



「逃げるなよ」



「・・・ケンカを売ってるの?」


ルウラの短い一言が、どうやらククの導火線に火をつけたらしい。もう一度ルウラの方に顔を向けて、その怒りをあらわにした。


「別にケンカ売ってるわけじゃないだろ。ただちゃんとお父さんと目を合わせて話してやれよって言ってんの」


「向こうがそうしないんだから仕方ないじゃない」


「じゃあお前は今日お父さんの顔を一回でも見たのかよ」


「!?」


それを聞いてハッとしたククは、まともに父の顔を見たのはいつだったか思い出してみる。

しかし自分の記憶にある父の顔は霧がかかっているようにぼやけていてよく見えない。


「お父さんすっげー辛そうな顔してたぞ」


「・・・善処はするわ。向こう次第だけど」


「それに解呪のオーパーツを探してるのだってお父さんの呪いを解くためなんだろ?」


「なんでお父さんに呪いが掛かっていることを知ってるのよ」


「メルクが気付いた」


「ふっ、それくらい朝飯前なんだよ」


得意げな顔をするメルクを見て、ククはなんだかイラっとした。


「別に、あのままだと学校全体に迷惑がかかるから探してあげてるだけだし」



「まじかよ・・・お前結構冷たい奴なんだな」


「いや照れ隠しに決まってんだろ」


すっかりククに騙されるルウラにメルクが突っ込みを入れてると、ククが子供たちのほうを見ながら話し始めた。


「それに早くサンタも助けてあげないといけないし」


「サンタって?」


「お父さんから何も聞いてないの?一週間前くらいにこの学院は襲われたのよ」


ルウラは宿屋で男たちから聞いた話を思い出した。


「あぁ、そういえば襲撃の時に施設の子供が一人攫われたって聞いたな。それがサンタって子なのか?」


「そう、まだ五歳の小さい男の子よ。今頃寂しく寂しくてしょうがないはずなのに」


ククの声は悲壮感に満ちていて、いつもの強気な雰囲気はどこかに飛んで行ってしまったようだ。


「お前のお父さんは探してないのかよ?」


「えぇ、何度聞いてもサンタは無事だから安心しろ、としか言わないの」


「ということは、ますますお前の父親と話し合う必要が出てきたな」


「それは、、、そうね」


メルクの一言で多少気が晴れたのか、ククは先ほどよりも少し表情が明るくなった気がした。


「あっ、そういえばさっきお母さんがどうとか言ってたけど、何のこと?」


「少しはタイミングを考えろよお前は・・・」


ようやく空気が良くなったことなどお構いなしに、ルウラは更にぶっこんだ質問をする。


「別に構わないわよ。お母さんはね、私が物心付く前に病気で亡くなってしまったの」


ククは淡々と、先程のような悲壮感を感じさせない様子で語り始める。それが母親のことを大して想っていないのか、それとも想うが故にもう枯れてしまったのかは本人にしか分からない。


「なるほどなぁ、それがなんでお父さんとの言い合いに発展するんだよ」


「最後まで聞きなさい。私が9歳のころだったかしら、まだ学院に通っていないころね。ある時リーナたちに遊んでもらった後、校長室に行ってお父さんに会いに行こうとしたの。そして扉の前に立った時に中から会話が聞こえてきたのよ」



そうしてククは当時のことを思い出す。





(お父さん急に会いに行ったら驚くだろうなぁ)


当時のククは父親のことが大好きだった。普段は忙しくてあまり構ってもらえないけど、たまに時間が空いた時に過ごす父親との時間が本当に幸せだった。





「お前の妻であるに関することはやはり俺にも言えないのか?」


「すまない、言うことはできない」



ククが校長室の扉を開けようとしたその時、中からライの声ともう一人、知らない男の声が聞こえてきた。


「そうか、ククちゃんには病死という風に伝えているんだよな?」


「あぁ、実質私が殺したようなものなのにな」


ククはフレールの衝撃的な発言に数舜の間、頭が真っ白になった。扉にかかっていた手は重力に従うように地面へと引き寄せられ、何かに操られるようにその場から遠ざかっていた。


それからだろうか、ククとフレールの間に溝が生まれ始めたのは。


ククはあの時の発言を耳にしてから、それとなく何度も母に関することをライに問いかけてきた。しかし返ってくる答えは「お母さんは病気で亡くなったんだ」の一点張り。しかし、この質問をするたびに一段と悲しい顔をする父を見て、自分まで悲しい気持ちになってしまっていたククはとうとう聞くに聞けなくなってしまった。


近づくたびに広がる距離、それが今ではもう埋めることは不可能なほど広がってしまった。



「でもあなたが言った通り、もう一度きちんと向き合ってみようと思った。今だったら何か変わるかもしれないし」


ベンチに座るククは、口角を少し上げなら、どこか笑っているようだった。


「おぉー、その表情好きだよ俺」


「は、はっ!?」


横から聞こえた爆弾発言に、ククは素っ頓狂な声を上げた。


「きゅ、急に変なこと言わないでよ、変態!」


そしてその顔をルウラに見られないためか、ベンチから立ち上がったククは目の前で遊んでいた子供たちのほうへ走って行ってしまった。


「ふふふっ、俺いい感じのこと言っちゃったかな?」


空を見上げながら誇らしげに自分の発言に感心しているルウラを見て、メルクは思わず呆れてしまった。


「お前ってやつは罪な男だねぇ」


「なんか言ったかメルク?」


「いんや、別に何も」


そういってメルクは視線をククのほうへ向ける。そこには何故か子供たちにからかわれて、もじもじしているククの姿があった。


しかしその表情は、輝く夕日に照らされていてよく見えなかった。






「子供と遊ぶのってあんな疲れるのかよ・・・」


「付き合ってもらって悪かったわね」


「全然!結構楽しかった」


あの後、ルウラとメルクも子供たちに混ざって遊んでいたが、気が付いたら日が暮れているという事態になっていた。


「お前が一番はしゃいでたけどな」


「あんなに死にそうになってる子供たち見たの初めてよ」


メルク達の言う通り、あの場で誰よりもはしゃぎ周っていたのはルウラだった。日が暮れるまで遊んでたのも、子供たちがルウラに付き合ってあげてたから、といっても過言ではないほど、子供たちの表情は既に息も絶え絶えだった。



「着いたわよ」


そうこうしていると、ルウラたちはククの自宅に着いた。


「これが家なのか?」


「でっけぇ」


村育ちのルウラたちからしたら、初めて見る家、いや豪邸だった。

ルウラに関してはこの街に来てから、でっけぇとしか言ってないんじゃないかと思うほど規格外のものばかりだった。



「おかえりなさいお嬢様。それにルウラ様もメルク様もようこそいらっしゃいました」


「ただいま、遅くなったわね」


「すっげぇ、全員同じ格好してるよこの人たち」


「これがメイドってやつじゃねぇのか。実在したのか。。。」


玄関を開けるとメイドの服を着た人間が、そろってルウラたちを出迎えてくれた。


「けどよ、メイド服って女が着るもんじゃないのか」


「覚えとけよルウラ、これが世界の広さだ」


「はぁ、そりゃこんなの見て驚かない人間はいないわよね」


ルウラたちが驚くのも無理はない、目の前に広がる光景はまさに異世界。

メイドという人種を見るのでさえ、田舎者のルウラたちにとっては初めての経験なのに、がメイド服を着てお出迎えをしてくれるなど、誰が想像できただろうか。


「なぁクク、なんでこの家は全員メイド服なんだよ」


ルウラがククの耳元で話しかけると、ククは苦虫を噛み潰したよう様な表情で答えた。


「私がここで働く男の人たちに恋愛感情を持たせないためとかなんとか」


「やっぱお前のお父さんは親バカだなぁ」


ククの父親らしい理由に、ルウラはなんとなく気が抜けてしまった。






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