第40話 Let's go 研究所!
「そしてジーナは死んださ。お前に見捨てられてな」
寂れた遺跡が風に吹かれながら、ネミコはライに対して憎悪の炎を揺らめかせる。確かにそうかもしれない。見たものだけを受け取るのならば、確かにライはジーナを見捨てたのかもしれない。
けれど、ネミコの中でぐつぐつと沸き立つ怒りをライは真っ向から否定した。
「私は彼女を見捨ててなどいない」
「ふざけるなよ…お前があそこで逃げなければ!あいつを必死で説得していれば!ジーナは死ななかったかもしれねぇ!」
「そうだな、正直何度も思ったよ。あの時あそこにいた全員をねじ伏せるだけの力があれば、ジーナを説得して何とか命だけは助けてもらっていれば、とな」
「そうさ・・・けれどお前は逃げた。惨めにも俺たちに背中を晒して逃げたんだよ。それなのに見捨ててないだと?ふざけたことを抜かすんじゃねぇ!!」
鋭利な刃物と化した十本のネミコの爪がライを襲う。それを極限まで強化された動体視力をもって何とか躱していく。そして反撃とばかりに身体を反転させたライが裏拳を横腹に叩き込んだ。
がはっ、という呻き声と共に地面を削りながらネミコが転がっていく。拳を受けた部分を手のひらで覆いながら、なんとかその場に立ち上がるネミコ。囲むようにして残された遺跡がネミコのことを冷めた目で見つめる。
「くそがぁ…なんで今になってこんなに強くなってんだよ」
「だからこそだよ。彼女が選んだ選択を、私が間違ったものにするわけにはいかないんだ」
「だったら最初っから見殺しにすんじゃねぇよ!!俺がお前だったら絶対にそんなことはしなかった!」
「それも知ってるさ。お前がジーナのことを好きだったことも。だからそこまで私に怒っているんだろ?」
「なっ・・・そ、そんなこと言ってねぇだろ!」
視界の外からの一撃にネミコは思わずたじろいでしまった。若干頬を赤く染めて全面的に否定しようとするが、上手く呂律が回らないことに若干の苛立ちを覚える。
一人で勝手に盛り上がって勝手に怒っているネミコを視界に捉えたライは、少し表情を緩め、そして構えた。
「────ま、まぁいい。なら証明してみろよ。お前の歩んできた道が正しかったのかどうかをな」
一人で盛り上がっていたネミコも、静かに構えるライを見て心が落ち着いていくのを感じる。ネミコも心のどこかでは分かっていた。自分が抱いている醜い感情がただの逆恨みであることを。あの時何もできなかったのは自分だって同じなはずなのに。
だからこそ自責の念から逃れるためにライを恨んだ。けれど面倒なことを考えるのはこれで終わりにしよう。組織のことなど一旦忘れて、一人の男としてあの男を見定めてやろう。
「行くぞネミコ!!」
「来やがれくそ野郎!!」
ライとネミコが火花を散らす一方、伏魔のローブを身に纏ったルウラたちはどこに繋がっているのか分からない、謎の扉をくぐっていた。
「森の、、、中か?」
扉の先はどうやら屋外だったらしい。冷たい夜風によって揺れる木々の存在がルウラの耳を響かせた。暗くて周りはよく見えないが、月明かりが照らす視界には、ルウラたちを上から見下ろすように高い木々が彼らを囲んでいる光景が映る。
「そうみたいね、どうやらただ森の中ってわけじゃなさそうだけど」
「だな。とりあえずあそこに向かうしかないよな」
ルウラたちの視線の先にある一つの建物。細長い長方形の形に、全体が白で覆われた何かの研究所のように見える。
一見何の変哲もないもない建物に見えるが、こんな人気のない森の中にポツンと存在していることが、その異様さを醸し出している。
しかしルウラたちは確信めいた何かを胸の中に抱きながら、不安定な地面を歩き、確実にその建物へと近づいていく。
「クク、あいつらの肩見てみろよ」
「ん?・・・あっ!黒丸の印があるわ。どうやらここが奴らのアジトなのは間違いなさそうね」
ルウラたちは木の陰に隠れながら建物の様子をうかがう。すると入口らしき扉の前に、黒丸の印を肩に刻んだ二人の屈強な男が、仁王立ちをしていた。
バキッ
「あっ、やべ」
「そこにいるのは誰だ!!!」
「今すぐ出てこい!」
「はぁ・・・何かやらかすだろうとは思っていたけど」
目の前の男たちに気を取られていたせいで、どうやら足元がお留守になっていたらしい。ルウラが不用意に足を動かしてしまったせいで、地面に散らばっていた木の枝を踏んでしまった。
その音に素早く反応した男たちがこちらの方を向きながら怒号を飛ばす。
覚悟を決めたルウラとククは、伏魔のローブを身に纏っていることを今一度確認したうえで、お互いに頷き合う。
言われた通りに木の陰から恐る恐る出てきたルウラとククは、自分たちは組織の一員だと強い自己暗示をかけて彼らの目の前までたどり着く。
「え、えっとぉ、なんか子供たちを攫おうとしたんですけど、なんか俺たちだけ置いていかれちゃってぇ、それで...あのぉ・・・とりあえず入ってもいい?」
お互い手を伸ばせば触れるほどの距離まで縮まったところで、ルウラが鋼鉄の気持ちをもって釈明をした。
「・・・」
「・・・」
「駄目に決まってるだr────ッ!!ゔぅぇ」
「お、おい!貴様ら急に何を────ぶひっ!」
「ふ、ふぅ…何とかなったな」
「なってないわよ!!」
一仕事してやったぜ、みたいな顔をするルウラの頭に拳骨をくらわしたククは、ルウラに命令して、気絶させてしまった門番の二人を森の中へと運んでいった。
「なぁクク。なんかこの中めちゃくちゃ広くねーか」
「そうね、おそらく空間拡張魔法を使っているんでしょう」
門番を騙して?中に侵入することに成功した二人は、外壁と同じく白い壁に囲まれた通路を右へ左へと進みながら、この建物の広さを実感していた。
ククの言う通り、この建物にも空間拡張魔法が付与されているのだろう。明らかに外観からは想像できない空間がこの中には広がっていた。
通路を歩いている最中、ルウラたちと同じく伏魔のローブを身に着ける者や、そうでない者など、様々な風貌をした人間とすれ違ったが、今のところ疑われていないのか、誰もが素通りをしてくれている。
「ねぇ、なんかこの扉気になんない?」
「そうね、魔力感知を遮断する障壁が施されているのかしら。なんだかここだけ違和感を感じるわ」
ルウラたちが立ち止まったところには、いままで目に入ってきた扉とは少し違うものを感じさせる扉があった。見た目自体は他のものと何ら変わりないのだが、どうも意識が引っ張られてしまう。
「開けていいよな?」
「えっ!ちょ、ゆっくりよ。そっと、そーーーっと開けてよね」
ルウラが扉のノブの部分に手を掛けると、ククが怯えたようにルウラのローブにしがみつきながら眉間にしわを寄せている。
若干その指がルウラの肉に食い込んでいるが、ルウラも眉間にしわを寄せながらそれに耐える。
周りに誰もいないことを確認した二人は、そーっと扉を開けてその隙間から中を覗き込んだ。
「うっっっわぁ」
「なによこれ・・・」
二人は扉の中の光景に悲鳴を上げることすらなかった。
ご報告があります。三月末が期限である「MF文庫Jライトノベル新人賞」に応募する作品に集中するため、それまでの期間更新ができない可能性が非常に高いです。まじでごめんなさい。
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