第33話 占いおばあさん
「はぁー、同じ街でもこんなに違うもんなのかーー」
「えぇ、誰もが皆同じような生活を送れるわけじゃないから」
学院から北の方へ走って20分ほど。人の活気は段々と薄れていき、見るからに廃れている住宅街のようなところに足を踏み入れた。そこでは割れた窓ガラスからぎらついた眼でこちらを睨む者。道端に段ボールを敷いて、その上から薄い毛布を被った者。この街の生活水準とは大きくかけ離れているであろう人たちが、暗い雰囲気を漂わせながら死んだように生きている。
「そういうもんか。それよりどうする?ハイドに連絡しても全く反応ないし」
この
仕方なくこの寂れた住宅街でハイドの魔力残滓を探そうと試みるが、ハイドが伏魔のローブを着て気配を殺していること、そしてこの場所にはたくさんの人間の魔力が入り混じっていて、それらが魔力感知の邪魔をしてくることで未だに発見するに至らない。
もしかしたら他の場所に移ってしまったのかもしれない、という不安が頭によぎる二人だったが、子供を抱えた怪しい集団が身を潜めるにはこれ以上最適な場所を他に知らない。そうであってほしいという願望を胸に抱きながら二人は捜索を続ける。
ルウラたちの街路を擦る足音が浮浪者たちの生活音に紛れる中、二人は突き刺さるような視線を後方から感じた。
「そこの若いお二人さん。あんたたちみたいなのがどうしてこんな物騒なところにいるんだね?」
何も感じなかった。突然その場に現れたかのように、その人物は自分たちの背後にいた。
後ろを振り返ると、道の端っこで台のような物の上に一つの水晶を乗せた、如何にも占い師のような見た目をしている、暗い紫色のフードを被ったおばあさんがいた。
「ちょっと人探しをしてるんです」
ククがそう答えると、占い師のおばあさんは肩を上下させながら奇妙な笑い声を上げた。
「フォッフォッフォふぉげふぉ、ゔぇ・・・ふぅ、そうかいそうかい。ちなみにどんな奴らを探しているんだね?」
「ばーさん笑うの下手くそだなぁ」
見た目に合わせているのか、慣れない笑い方をしているおばあさんを心配しながら、二人は情報を得るために距離を縮める。
「小さい子供たちを連れた黒いローブの集団を探しているの。どこかで見なかったかしら」
「5000ルビー」
「え?」
ククがおばあさんに何か情報を持っていないかと聞くと、皺だらけの五つの指を立てて対抗してきた。
「情報が欲しいなら5000ルビー頂こうか。こっちは日々の生活がかかっているのさ。タダじゃ渡せんよ」
「5000ルビー!?なぁクク、このばーさんぼったくりじゃないのか?」
ルウラが耳打ちでククにそう告げると、ククはポケットに手を入れて何かを取り出した。
「5000ルビー。これでいいでしょ?」
ククが取り出したのはちょうど5000ルビーのお札だった。そのお金を嬉々とした表情で受け取ると、おばあさんは水晶に手をかざして呪文のようなものを唱えだした。
「いいのかよクク、こんな胡散臭いばーさんにお金渡しちゃって」
そのやり取りを傍で見ていたルウラは、再度ククに耳打ちをした。
「別にいいわよ。今はそんなこと言ってられる場合じゃないでしょ?少しでも何か情報を得られるなら出し惜しみはしないわ」
ククのその言葉で会話は途切れ、二人はおばあさんの占いが終わるのを静かに待っていた。
それから三十秒ほど経ち、おばあさんが出し抜けに目を見開いて、大きな声で叫んだ。
「んん!!分かったぞ!!!」
「おっ、それで!何が分かったんだ?」
ルウラが、待ってましたと言わんばかりの表情で食って掛かると、おばあさんは手のひらをこちらに向けて落ち着くよう諭してきた。
「まぁまぁ、落ち着け少年よ。少し前に手前の道をこちらから見て左に曲がった、怪しげな奴らを見たのを思い出したぞ」
「思い出した??────ってそれ占い全く関係ねーじゃん!!」
あれだけ水晶に向かって念じていたのは一体何のためだったのだろうか。占いと全く関係のない情報にルウラが声を荒げるが、ククによってそれは制止された。
「それでおばあさん。その人たちはどんな様子だったの?」
ククがそう尋ねると、おばあさんは指を顎に当てて、首をかしげならその時の光景を思い出そうと頭を働かせる。
「確かぁ、子供たちを担いだ奴らの後を、同じ格好をした変な奴が間を開けて追っかけていたねぇ」
「おぉ、当たってる・・・」
ついさっきまであれだけ胡散臭いと思っていたおばあさんだったが、ハイドから聞いたことと合わせても、その情報の正確さは確かなものだった。
「フォッフォッおぇっ...ぐぇ・・・フォッフォッ。どうだね、5000ルビーの価値はあったろ?」
相変らず慣れない笑い方をするおばあさんは、片方の眉を吊り上げてフードの中から得意げな目でこちらを覗き込んできた。
情報を受け取ったルウラたちは、その情報通りに手前の道を左に曲がった。すると百メートルほど進んだ先は壁によって塞がれていて、それ以上先へと進むことを拒まれいる。
「つまりあのばーさんの情報が本当なら、この通りのどこかにハイドたちはいるってことなのか」
「そうなるわね・・・でも一体どこにいるのかしら」
街路の横には廃れた家屋が所狭しと並んでいて、ここには浮浪者の気配すらない。しかしハイドに連絡が付かない今、この情報だけが頼りなのだ。一縷の望みにかけて、二人はこの道をまっすぐ進んだ。
「ほんとにこんなところにいるのかしっ────、これはハイドの。。。」
「あぁ、なんか荒い息遣いみたいなのが聞こえるような。それに血の匂いもするな」
壁にたどり着くまであと30メートルというところ。人の気配が全くしないこの通りで、ククはうっすらとだが魔力の残滓のようなものを。ルウラは近くから人が浅く呼吸を繰り返す音、そして生臭い血のような匂いが鼻を刺激したのを感じた。
気配の正体はどうやら建物の中からだったようだ。街路沿いにあるその二階建ての建物に、ルウラたちは躊躇せずに足を踏み入れる。
しかし中に入った瞬間、その光景に二人は目を見開いた。
「おい、ハイド!!大丈夫かお前!!」
「落ち着いてルウラ!!息はあるから!!」
外からは想像できない、惨たらしい惨状がルウラたちの視界を埋め尽くした。
壁や天井、そして床にぶちまけられた血はハイドのものなのか、それとも別の誰かのものなのかは判別ができない。ただ一つ分かるのはハイドが瀕死の状態だということだ。
壁に寄り掛かる形でしりもちをついているハイドは、ルウラたちは見つけてほっと息をついた。
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