第24話 強敵襲来
「んー?何も起きてないのかな」
「おかしいわね、もしかして学院は襲われなかったのかしら」
全速力で魔法学院に向かい、ようやく目の前までたどり着いたルウラとククだったが、その外観はいつもと何ら変わりなく、辺りは静寂に包れていた。
「・・・ちょっと待って、魔力の流れを感じるわ」
「ん?空中に手ついて何やってんだお前」
目の前に壁でもあるのか、ククは空気をなでるように手のひらを空中で滑らせる。
「ほらここ、触ってみなさいよ」
「あれ、ほんとだ!見えない壁があるぞここ」
ククに言われた通りにルウラも同じところを手で触ってみると、そこには見えない何かがルウラたちがこの学院に入ることを拒んでいた。
「でもこれ魔力なんだろ?なんも感じねーや」
「ここは私に任せなさい、魔力の流れをちょっといじるくらいなら朝飯前よ」
「おぉー、やっちゃってくださいよ姉さん!!」
「ね、姉さん?ふふっ、しょうがないわね。あなたはそこで私の活躍を見てなさい!」
お姉さん気質のククにとっては、頼られることはそれなりに気分がいいのだろう。
なんだかうっとりとした表情で壁に手を当てると、この魔力障壁に流れる魔力の操作を始めた。
「・・・よし、これで中に入れるわ」
時間としては1分と掛かっていないだろう、通常の魔力のないルウラにとっては直前と何も変わらない光景だが、誇らしげに鼻の穴を広げて笑みをこぼすククを見ると、先程までとは違うことを察する。
「失礼しまーす・・・ん?人の気配があるな」
「そうね。さっきまで感じなかったけどこの学院の中に強い魔力を持った存在がいるみたい」
壁の外側からは分からなかったが、その内側に一歩足を踏み入れると、どうやらこの学院内にはそれなりの実力者がいるらしい。強い魔力の塊を離れたところから感じる。ルウラが言っていた通り、もしかしたら『白の霹靂』のメンバーや学院の教師がいるのだろか。
二人はその存在の正体を探るため、魔力が強く感じられるところまで歩を進めた。
「あれ?あそこにいるのボーレちゃんじゃない?それに他にもいるな」
「あの二人はリキとマッシュね。けれど隣にいるあの人、、、アイドーンさんよ。どうして彼がここにいるのかしら」
ルウラたちがこの場にあった強い魔力の元へとたどり着くと、予想通りこの学院の実習担当であるボーレ、それと『白の霹靂』のメンバーであるリキとマッシュがいた。
この三人がここにいるのはルウラの情報通りだった。しかし、どうして魔法騎士団団長であるアイドーンがこの場にいるのだろうか。
ククは、父親がアイドーンと既知の間柄であることなど聞いたことがない。
その疑問を抱えたまま、ルウラたちは彼らの元へ向かった。
「おーい、ボーレちゃーん!!」
「ん?あら、ルウラちゃんにククちゃん!どうしてあなた達がここにいるのよ!」
ルウラが手を振りながら近づいてくと、それに気づいたボーレが目をお皿のように大きく見開いて反応する。
「まぁ助っ人ってところかな。ボーレちゃんはククのお父さんに頼まれたんだろ?」
そうボーレに問いかけると、彼の顔はみるみるうちに赤くなっていき、その眉間には大きな谷が出来そうなほど皺が寄っていた。
「頼まれた?私の心はあのクソ学院長に弄ばれたのよ」
「弄ばれた?どういうことですか先生」
『弄ばれた』と言う単語と父が関連していることに何とも言えない気持ち悪さを感じたが、まずは情報を把握することが先決だと思い、どういうことなのかをボーレに問いかける。
「学院長が言ってたのよ。この前襲撃してきた奴らが近々また襲ってくるって。でね、なんでそんなこと分かるの!って聞いても知らんぷりするのよあの人。それでなんて言ったと思う!?」
「な、なんて言ったんですか?」
ちょっと手を伸ばせば届きそうなほど距離を詰めて、言葉の嵐を浴びせてくるボーレにククは気圧されてじりじりと後ずさる。
「『次に襲撃をされたら私一人では対処できないかもしれない。だから君の力が頼りなんだよボーレ。私と一緒にこの学院を守ってほしい。』って言ってきたのよ!ほら、私って頼られると断れないタイプじゃない?だからここ数日は夜遅くまで残って用心してたの。彼は校長室で書類の仕事をこなしているからなにか問題があったらすぐに報告してくれって」
「は、はぁ」
ククは、一気にまくし立ててくるボーレの勢いに、更に飲み込まれそうになる。
「だから今日も残って警戒を続けていたら、急に結界のようなものが学院を覆うように張られてたの。これはまずい!と思って急いで校長室に向かったんだけど、どうなってたと思う!?」
「ど、どうなったんでしょう」
「校長室の机の上にすっごい達筆な文字で『許してにゃん♡』って書いてあったのよ!」
「お前のお父さんそういうところあったんだな」
「お願い、それ以上何も言わないで」
フレールの意外な趣味に若干引き気味のルウラだったが、頭を押さえて一回り小さくなったククを見ると流石のルウラも少し同情をしてしまった。
身体をくねくねとさせながら、「まぁそんなところも好きなんだけど♡」と湿ったような声色で呟くボーレを無視して、ククは立派な鎧に身を包んだアイドーンに向き直った。
「それよりもどうしてアイドーンさんがここにいるんですか?もしかしてあなたも父に?」
ククが自分の予想を口に出すと、アイドーンはククが放った言葉のどれかに反応したのか、一瞬眉をピクっと動かして見せた。
「父?ということはもしかしてククさんはライ=アンセット学院長の娘だったのか?」
ククがこの学院に通っていることは、ブルーダが彼女らを強引に城に連れてきた時に聞いた情報だった。それと今の状況を察するに彼女がこの学院の長であるライ=アンセットの娘だと推測するのは容易なことだった。
「そうです。だから父に頼まれてここに駆けつけてくれたのかと思ったんですけど・・・」
ククは自分よりもはるかに背の高いアイドーンを見上げながら、自身なさげに言葉を吐く。
しかしアイドーンは首を横に振ることでその事実を否定する。
「いや、私は君の父とは一切の関わりがない。私がここに来たのは王の命令なんだ。近いうちにこの学院が襲われるだろうからお前が手を貸してやってくれってな」
「え、ブルーダ様が?どうしてそのことを知っているんだろう」
「ん、なんかおかしいのか?」
「・・・いえ、なんでもないわ」
ククの考えこむ様子にルウラが口をはさむと、なんでもなかったかのように元の様子に戻った。しかしその内は疑問で溢れ返っていた。父ですらその実態をほとんど掴めていない情報をどうしてブルーダが知っているのだろうか。やはり王直属の優秀な諜報機関でもあるのだろうか。
しかし今はそんなこと重要ではない。とりあえずそういうことだと勝手に結論付けたククは話を続ける。
「けれど皆さんの様子を見る限りまだ敵におそわ────」
「いや俺たちのことは!!」
ククが話を進めようと口を開くと、それを邪魔するかのようにサラサラの髪の毛を乱れさせたマッシュが荒々しい口調で水を差してきた。
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